マイグレーション ~現実世界に入れ替え現象を設定してみた~

気の言

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SS1 スカートとジャージ

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 朝晩の気温が一桁台になってきた12月。
 古い言葉で言えば、師走。
 二学期の期末テストも終わり、これから先に大きなイベントがあるわけでもない。
 修了式を迎えて冬休みが始まるのを今か今かと待ちわびている、そんな時期。

 え?
 修了式の日はクリスマスというビックイベントがあるだろうって?
 知らないね、クリスマスなんていうイベントは。
 少なくとも、俺には関係ない。
 誘う相手も、誘う勇気もない俺にとっては……

 チラリと俺は隣に座っている奴を見る。
 中学で出会ってから、高校となった今も一緒にいるという気が合う腐れ縁みたいな関係である姫石を。
 そんな姫石は、最近の冷たい北風による寒さに耐えきれなかったのか、スカートの下にジャージを履くという恰好を教室内でもしていた。
 ちなみに、この教室には俺と姫石の二人しかいない。
 俺と姫石の返却されたテストに採点ミスがあったため、空き教室で担当の先生に直してもらっていたのだ。
 テストの修正が終わった先生はさっさと職員室へ戻ってしまい、今は二人っきりというわけである。

 それにしても、と俺は思う。
 ずいぶんと前から、俺は寒い時期になると女子に思うところがあった。
 姫石だけではなく、割と多くの女子がスカートの下にジャージを履くという恰好をしている。
 俺はこの恰好にどうも納得がいかない。

「何で玉宮はさっきから、こっちを見てるの?」

 考え過ぎていたのか、見つめ過ぎていたのか、俺は違和感を持たれるほど姫石を凝視していたらしい。

「……実は、ずっと前から気になっていたんだが――」

 俺はこの機を逃がしまいと姫石に聞いてみることにした。

「何で、そんな恰好をしているんだ?」

 姫石のスカートの裾とジャージの境目の辺りを俺はゆびで指し示す。

「何でって……寒いからに決まってるじゃん」

 姫石は何を当たり前なことをという顔をする。

「もちろん、それはわかってる。そうじゃなくて、どうしてスカートの下にジャージを履くんだ? 寒いならジャージだけ履けばいいだろう。どうしてわざわざスカートまで履く必要があるんだ? その頑としてもスカートを脱がない姿勢は一体、何の抵抗なんだ?」

「はぁ~~~」

 姫石はなぜか長いため息をつく。

「まったく、玉宮は乙女心がわかってないな~」

 やれやれと姫石は両手を広げる。

「どういうことだ?」

「ジャージだけで履くなんてダサいからだよ。女の子は少しでもオシャレして、可愛くいたいの!」

 これだから男子は、と姫石は言いたげだ。

「いや、悪いがスカートの下にジャージというのも十分にダサいぞ。なんなら、まだジャージだけで履いている方が見栄えはいい。どうしてもオシャレがしたいのなら、寒いのを我慢してジャージは履かずにスカートを履けばいい。スカートの下にジャージっていう中途半端な恰好じゃなくて、どっちなのかはっきりしろ! 俺は寒いのを我慢してスカート履くより、少しダサくても風邪ひかないでジャージを履いた方がいいと思うけどな」

 女子は体を冷やさない方が良いようだし、と俺は付け加える。

「……本当は、薄々わかってはいたんだよね。こっちの方がダサいんじゃないかって。けど、皆なんだかんだ言ってやってるし、どっちかに振り切ることもできなかったんだよね」

 てっきり、反論されると思っていたので姫石が素直に納得したことに俺は驚いた。

「そうだよね。よしっ、潔くジャージだけにしよっ! ちょっとダサいけど、さすがに今の寒さには耐えられそうにないしね」

 そう言って姫石はスカートのホックを外して脱ごうとする。

「ッ! バカっ、お前! 何で俺がいる前で脱ごうとするんだよ!」

 俺は慌てて姫石から目をそらす。

「別に、大丈夫だよ。スカートの下にジャージ履いてるんだから、下着が見えるわけでもないんだし」

「それはそうだが……そういう問題じゃないんだよ!」

 何が問題って、その仕草だよ!
 こちとら健全な男子高校生なんだよ!
 男子高校生の妄想力を舐めるなよ!
 いや、俺はお前に対してそういう妄想は断じてしないぞ!
 だが……理性で押さえるにも限度がある。
 これは俺のキャパシティーを超える!

「へぇ~なるほどねぇ~そうなんだ。ふ~ん」

 姫石のその声と目の端で捉えた顔から俺は、姫石がろくでもないことを考え付いたと瞬時に察した。

「お前、今とんでもなく、くだらないことを考えているだろ?」

「え~? そんなことないよ~」

 俺の質問に姫石は新しいおもちゃを見つけた子供のようにニヤニヤしている。

「あ~でも~、温かい教室にいるのにスカートを脱ぐ必要はないかな~って思ってるよ。ジャージは寒い外で履けばいいから、せめて教室の中では脱いでいようかな~って」

 姫石はスカートの下に手を入れて、ジャージをずるずると下ろそうとする。
 やっぱり、ろくなことを考えていなかった!
 俺は再び姫石から目をそらす。

「見てても大丈夫だよ、玉宮。女子は皆、見えないように脱ぐ技術を習得しているから。それとも、初心な玉宮君は恥ずかしくて見ていられないのかな?」

 姫石は楽しそうに俺を煽ってくる。
 だが、俺もこのまま終わる気は毛頭ない。

「そうか? なら、安心だな。俺は姫石のことだからドジ踏んで見せてきそうだったから気を遣ったんだが、余計な気遣いだったみたいだな」

「当たり前でしょ! 玉宮がどんなに見たいと思っても、絶対に見えないから……あれ? もしかして、玉宮があたしにスカートとジャージの話をしたのって、このため? 確かに、ここ最近ずっとジャージ履いてたから玉宮が見る機会はなかったっけ? そんなに、あたしの生足が見れなくて寂しかったの?」

「誰がお前の生足なんか見たいって言った?」

「顔に書いてあるよ」

「書いてねぇよ!」

 くそっ、このままでは一方的に姫石に攻められるだけだぞ!
 しかし、反撃する要素が少な過ぎる。
 何が厄介かって、姫石の脚が自他共に認めるほどの美脚だってことだ。
 胸の方は遥か銀河彼方まで望める地平線で反撃の余地はいくらでもあるが、今回は脚だ。
 反撃の余地がない。
 どう反撃すればいい?
 そうこう考えているうちに姫石は膝の上辺りまで既にジャージを下していた。
 陶器のようにスベスベとした色白い太ももが顔を覗かせる。
 くっ、何を官能小説のようなことを考えているんだ俺は!

「ねぇ、さすがにそんなじっと見られるのはちょっと恥ずかしいんだけど」

 姫石が頬を僅かに赤くさせていた。

「わ、悪い」

 俺はなるべく自然に視線の位置を変える。

「エッチ」

 姫石のその言葉を聞いて俺はいろんな意味で死にたくなったが、なんとか理性でその衝動を抑えつけることができた。
 というか、こいつ絶対わざと言っているだろ!
 確信犯だろ!
 このまま一方的に姫石に攻められたまま終わっていいのか?
 何か反撃の手立てはないのか?

 俺は反撃の手立てを探そうと、ふと姫石に視線を戻すとそこには衝撃の光景が広がっていた……

「おい、待て。何してる?」

「何って、ジャージを脱いでるんだよ」

「それは理解できる。理解できないのは、脱いでいるもう一つの方についてだ。どうして靴下まで脱ぐ必要があるんだ?」

 俺は震えそうになる声をどうにか抑えて姫石に問う。

「え~っと、足が疲れたからリラックスしたくて?」

 語尾のイントネーションが疑問形だったことから、これは姫石が突貫工事で考えた張りぼての理由だということは小学生でもわかる。

「よいしょっと」

 姫石はとうとうジャージを脱ぎ終わる。
 脱ぎ捨てられたジャージの上にはもれなく靴下も乗かっていた。

「ほら~玉宮の見たがっていた生足だよ~しっかりと堪能したまえ~」

 裸足になった姫石の足が座っている俺の膝の上にドンっと乗っかる。
 今の姫石は裸足の足を男の膝の上に置く羞恥心よりも、俺をからかって楽しいという気持ちの方が勝っているようだ。

「姫石……お前、本当に何やってんだよ!」

「脚を伸ばして、リラックスしてるんだよ」

「人の膝の上でか?」

「嬉しいくせに」

「嬉しいわけないだろ!」

 姫石は足の指を折り曲げたり、伸ばしたりしてグーパーと俺を煽るような仕草をする。

「……」

 ッ!
 俺はその仕草を黙って見つめていたことで、姫石への反撃の一手を閃いた。
 反撃どころか、一発逆転の一手と言った方が正しいかもしれない。

「なぁ、姫石」

「何? 初心な玉宮君はあたしの生足に耐えきれなくなって、観念したくなっちゃった?」

「安心しろ。俺が姫石に観念することはない」

「じゃあ、何よ?」

 姫石はつまらなそうに聞く。

「今から、めちゃくちゃ最低なことを言っていいか?」

「最低なこと?」

「あぁ、実際にそうだってわけじゃないからな。そこは、勘違いしないでくれ。怒るのも無しな」

「実際にそうじゃないって、どういうこと? 言ってみてよ」

「言っても、怒るなよ?」

「怒んないから、早く言ってよ」

 姫石はじれったそうにする。

「わかった」

 俺は自分の膝の上に置かれている姫石の裸足の両足に目を落とす。
 そして――

くさっ」

 そう一言、俺は呟いた。

 姫石の顔を見ると何を言われたのか理解できていないというようで、まさに鳩が豆鉄砲を食ったようだった。
 そこから数秒後、みるみるうちに顔を茹でたタコのように顔を赤くして、俺の腹をドスドスと蹴り始めた。

「バカッ! 最低ッ! あり得ない!」

「お、おい! 蹴るな! やめろ! 怒らないって言っただろ!」

 俺は手で軽くガードを試みるも、姫石は意も介さずに蹴り続ける。

「こんなの怒るに決まってるでしょ! ねぇ、本当に臭いの!? あたしの足って、臭うの!?」

「さっき、実際にそうじゃないって、本当に臭いわけじゃないってった、言っただろう!」

「本当に!? 本当に臭くない!?」

 姫石は必死に、若干涙目になりながら聞いて来る。
 やっべ、やり過ぎたか?

「本当だ! 本当だから蹴るのをやめてくれ!」

 姫石の蹴る足は次第に高くなっていく。
 蹴り上げるごとに、ひらひらと揺れるスカートから見えてはいけない物が見えそうになるくらいに。

「お、おい! それ以上は足を上げるな! そんな上げたら、見え……あ……」

「え!?」

 俺の制止は間に合わず、姫石のスカートから見えてはいけない中身が見えてしまう。
 その瞬間、俺も姫石も時が止まったようにフリーズする。

「……見えた?」

 姫石はかろうじて聞こえるぐらいの小さな小さな声で聞いてくる。

「姫石……お前、高校生のくせしてそんなパ――ぐふッ!」

 言い切る前に、姫石の足の裏が俺の顎にクリーンヒットした。
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