マイグレーション ~現実世界に入れ替え現象を設定してみた~

気の言

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Tier9 信頼関係

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「入れ替わりがですか?」

 榊原大臣は他者と入れ替わることが最も危惧することだと言った。
 入れ替わりも危険だとは思うけど、最も危惧するまでのことなのだろうか?

「あぁ、人間社会とは他者との信頼関係によって成り立っている面が多い。その信頼関係をいとも簡単に崩壊させるのがマイグレーターという存在だ。初対面同士がいきなり信頼関係を築き上げることは不可能だ。時間を掛けて少しずつ互いを理解し合うことで信頼関係は築かれる。だが、もしも信頼関係を築き上げてきた相手がある日突然マイグレーターに入れ替わっていたら? それは初対面同士と何も変わらないことになる」

「……たしかにそうかもしれませんが、マイグレーターが入れ替わったりしたら身近にいる人は違和感を覚えるはずじゃないですか? 見た目は信頼関係を築いた相手でも中身は全くの別人なわけですし」

 信頼関係を築き上げていたからこそ、相手の異変に気付けるはずだ。

「いくら身近な人間だったとしても相手がマイグレーターに入れ替わったと気付けることはあり得ません」

「え!? どうしてですか?」

 早乙女さんの言葉に僕は聞き返した。
 だって、身近にいた人ならば相手の行動や言動がいつもと何か違うと違和感ぐらいは持つはずなのでは?

「マイグレーターは入れ替わった相手の全ての記憶、思考、行動あらゆることを完璧にトレースします。意識には人それぞれ唯一無二のパターンがあるそうです。それを完全に再現することが出来る能力がマイグレーターにはあるのです。これは使用練度に関わらず全てのマイグレーターが扱うことが出来ます。ですから、腹を痛めて産んだ実の母親だろうと子どもがマイグレーターに入れ替わったとしても気付くことは出来ないのです」

「そんな……」

 榊原大臣の言う通りだった。
 僕は築き上げたはずの信頼関係が崩れていくのが音を立てて聞こえるような心境だった。

「このことが世間に明るみになれば信頼関係は機能しなくなる。今まで信じていた友人が明日には友人そっくりの別人になっているかもしれない。そんな悪魔の証明のような疑心暗鬼が常に付きまとうことになる。そうなれば信用や信頼といった言葉はこの世界から消えて無くなるだろう。君はそんな世界を望むかね?」

 隣にいる友達はもう自分が知っている友達では無いかもしれない。
 隣にいる愛する人はもう自分が愛した人ではないかもしれない。
 友達や愛する人に入れ替わった人は、もしかすると殺人鬼で虎視眈々と自分を殺す機会を狙っているのかもしれない。
 そんな恐怖が付きまとう世界なんてこっちから願い下げだ。

「僕はそんな世界は絶対に望みません」

 そう強い意思を持って僕はそう言った。

「同感だね」

 榊原大臣はゆっくりと頷いた。

「それでも、やっぱり僕はマイグレーターだからという理由だけで殺すしかないというのは納得いきません」

 マイグレーターだからと言って、皆が皆マイグレーションを使って人を殺しているとは思えない。
 仮に殺していたとしても真実を明らかにせず、罪も償わせないまま殺すのは間違っているように僕は感じる。

「それも同感だね」

「え? けど榊原大臣は殺すしかないって……」

 そうマイグレーターを殺すしかないと言ったのは榊原大臣だ。

「それが政府の基本方針だというだけだ。マイグレーターだからという理由でマイグレーターをむやみやたらに殺していたら何の解決にもならないだろう。マイグレーションやマイグレーターについては数年経った今でも解明されていないことが多々ある。それらを解明するためであればマイグレーターであろうが何であろうが利用出来るものは何でも利用する。実際に、我々政府は一部のマイグレーターを協力者として受け入れている。彼らの命と生活の保障を約束にね」

 榊原大臣の言葉を聞いて僕はほんの少しだけ安心した。

「その内の何人かには警視庁公安部第六課突発性脳死現象対策室に所属してもらっています。伊瀬さんの同僚となる方々です。近々お会いすることになると思います」

 マイグレーターをどこか遠い存在に感じていた僕だったが、近々会えると聞いて急に身近な存在になったような気がした。
 それでもやっぱりマイグレーションだとかマイグレーターだとかに現実味を感じられないのもまた事実だった。

「現状、マイグレーターに対抗する上で最も有効な手立てはマイグレーターによってマイグレーターの意識を消滅させることだ。加えて、マイグレーターであれば相手の意識を消滅させようと情報はいくらでも引き出すことが出来る。要するに、目には目を歯には歯をマイグレーターにはマイグレーターをということだ。ハムラビ法典様々というわけだ」

 どことなくマイグレーターではない僕らには対抗出来ないという無力さを感じさせながら榊原大臣は言った。
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