マイグレーション ~現実世界に入れ替え現象を設定してみた~

気の言

文字の大きさ
92 / 169

Tier38.02-2 /9163059133

しおりを挟む
「後悔って……もしかして、ヤギを連れた農夫と少年は本当は民間人じゃなくてタリバンの仲間だったってことっスか?」

 四つん這いだった男が的外れなことを言う。

「それは違うかな。二人はただの民間人だったよ」

「あ、やっぱそうっスよね」

「何寝ぼけたこと言ってるんですか? 話の説明で民間人だってちゃんと言ってましたよね。説明で嘘を言っていたら質問として成立しませんよ。そうじゃなくて、ヤギ飼いの二人がタリバン指導者にラトレルさん達のことを知らせてしまったということですよね?」

 女がかみ砕くように説明した上で男に確認を促した。

「ええ、まさにその通りです。ヤギを連れた二人を解放してから一時間半ほど経った頃、ラトレル達は武装した100人ぐらいのタリバン兵に包囲されてしまったんです。その結果、ラトレル以外の他のメンバー三人は全員戦死してしまいました。しかも、ラトレル達を助けようとした仲間のヘリコプターも撃墜されてしまい16人の兵士が亡くなってしましました。重傷を負いながらも唯一生き残ったラトレルはその後、ヤギを連れた二人を解放したことをひどく後悔したそうです」

 男は事の顛末を告げた。

「そんな、せっかく解放して助けてあげたのにひどいっスよ」

「確かに、解放してもらった二人がやったことは恩を仇で返す行為となってしまったわけだから、ひどいと言えばひどいですよね。けど、もしかしたらその二人は解放された後にタリバンの兵士達に見つかり脅されて仕方なくラトレル達のことを話してしまったのかもしれない。それか、二人は過去に米軍の攻撃によって大切な人を亡くした経験からラトレル達米軍に強い恨みを持っていたかもしれない。実際のところ、二人がどうしてラトレル達の存在をタリバン側に伝えてしまったのかは分からないけどね」

「一概にひどいとは言えないってことっスね」

 四つん這いだった男は自分の軽率な発言を反省した。

「それが戦争の現実なんですね」

「そうかもしれないね」

 女の他人事とは言えない言葉に男は相槌を打った。
 男は一度ゆっくりとまばたきをする。

「2人を救ったことで16人が亡くなった。これはトロッコ問題で1人を救うために5人を犠牲にするという選択を取ったことと同義になる。だが、君達はトロッコ問題では5人を救うために1人を犠牲にする選択を選び、民間人を解放すべきかどうかの問題では解放すべきという2人を救うために16人を犠牲にする選択を選んだ。つまり、ここに矛盾が生じている。トロッコ問題での選択のように数が多い方が重要だと考えるのであれば、君達はどうして次の質問で民間人を解放する選択を選んだのか? どちらの質問の内容は本質的には同じだ。にもかかわらず、正反対の選択をしてしまうのはなぜだろうか?」

「それは……」

 四つん這いだった男と介抱していた女は共に言葉に詰まる。

「トロッコの行先をレバーひとつで切り替える行為よりも目の前の民間人に向けて直接手にした銃の引き金を引く行為の方が罪の意識が強く感じるからなのだろうか? この矛盾は私達には理解出来ないな」

 男は言葉に詰まった二人を他所に話を進める。

「そういえば、は『科学技術は進歩はすれど決して後退することはないため、行き過ぎた科学技術を抑制する』というお題目を掲げていたな。それは全くの誤りというわけではないが、科学技術は回り道のような後退をすることはある。例えば、このモノレール」

 男は自分達が立っているモノレールの駅を指さした。

「正確にはジャイロモノレールだが、これは100年以上前にルイス・ブレナンが発明した一本のレールの上を走行するモノレールだ。ジャイロスコープという技術によってバランスを保ち、カーブの際の安定性は通常の鉄道車両よりも優れていた。また、現在の主流である二本のレールの場合では国や鉄道の規模によって規格が異なり多くの時間や費用が消費されるが、一本のレールしか使わないジャイロモノレールであればその心配はない。それどことろか、建設費や工事期間を大幅に削減し短縮することが可能だ。車両に費用が掛かってしまう欠点があるが、全体的に見ればそれは些細な問題だ。しかし、現在ではこの技術は忘れさられている。なぜだか分かるか?」

 男の話を聞いていた二人は訝しげな表情を浮かべている。

「一本のレールの上を今にも倒れそうな車両が走るという斬新な見た目が人々の安全性に対する疑念などがジャイロモノレールの実用化を阻んだからだ。試験走行にも成功しており、科学的な安全性も確かめられているというのに人々は実用化に踏み切れなかった。論理よりも非合理的な感情が上回ったためだ。ジャイロモノレールの他にも地動説などもあるな。元々は地動説だったはずが、いつからか天動説に捻じ曲げられていたらしい。時には、科学技術の進歩を政治や宗教が阻害する。だが、根本的にはやはり非合理的な人間の感情が科学技術の進歩を阻害している。それが人間の限界だ。そして、に掲げられているお題目は建前でしかないということだ」

 女は男の最後の発言に目を見開いて驚いた。

「あなたは一体、何者なんですか!?」

 女は臨戦態勢を取り、釣られて四つん這いだった男も臨戦態勢を取る。

「君達がよく知っている者であり、君達がよく知っておかなければならない者だ」

 男は答えだとも答えとも取れないことを言った。
 だが、女にはそれで見当がついた。

「まさか、あなたは!? ……でも、どうやってここへ?」

 そう言った女がはっと我に返った時には、男は忽然と姿を消していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

学校1のイケメン♀️から逃げ出した先には地獄しかありませんでした

山田空
ライト文芸
ハーレムを目指していた主人公は転校してきたイケメンによってその計画を壊される。 そして、イケメンが実は女の子でありヤンデレであったことを知り逃げる。 逃げた途中でむかし付き合った彼女たちとの過去を思い出していく。 それは忘れたくても忘れられない悲しき記憶 この物語はヒロインと出会いそして別れるを繰り返す出会いと別れの物語だ。 そして、旅の最後に見つける大切で当たり前なものとは

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...