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王妃侍女ルリーンの一日
しおりを挟むルリーンの仕事はショコラを持って王妃の部屋へ行きラブラブ新婚夫婦の目覚めのひと時を邪魔するところから始まる。
決して邪魔をしたいわけではないが、ルリーンが入って行かなければこの夫婦、特に旦那の方が嫁から離れたがらないのだ。
朝の陽ざしが差し込む寝室で昨夜無茶をして疲れさせただろう嫁に再び盛るので、嫁の方は体力がいくらあっても足りないのでたまったものじゃない。
ちなみに。旦那はこのヒューブレイン王国の国王アスランで、嫁は王妃ミシェルのことだ。
新婚夫婦なのはわかっているしアスランのミシェルへの溺愛が凄まじいので、裸でふたりでいちゃいちゃしていたりなんてことも何度かあった。
そんな時は侍女の心得として見て見ぬふりでショコラを置いてそっと寝室を出る。
しかしそんなことが続き恥ずかしいミシェルが朝からはやめて欲しいとアスランに訴えたので、最近は裸はなくなり夜着だけは辛うじて着ている。
たまに、『明日の朝は寝坊する予定だ』とアスランから告げられることがある。
それはつまり『休みの朝ぐらいゆっくり妻といちゃいちゃさせろ』ということだと理解して、ルリーンはいつもより二~三時間遅れてショコラを持っていくようにしている。
このふたりがこうして思う存分互いの愛情を伝えあえるまでの道のりは簡単ではなかった。
グルシスタ王国の王女で人質としてこの国に来たミシェルの側で常に支え続けこうなるために尽くしてきたルリーンだったが、ふと思い出して感慨深くなる。
もしミシェルの痣がまったく手に負えず薄くもならなかったら。
もしアスランが謁見でミシェルに興味を持たずベールを上げさせなかったら。
もしミシェルの心が育つ前に帰国となってしまったら。
もしミシェルがどうしても勇気を持つことが出来なかったら。
思い出しても『もし』の要素は沢山ある。
それが奇跡のように歯車がゆっくりと噛み合い、運命が動いた。
アスランが一途に想い、ミシェルが諦めなかったから叶ったのだ。
あんなにも辛く苦しいなかにいても、互いを愛する気持ちがここまで導いた。
正に愛は勝ったのだ。
だからといって。結婚後のアスランは少しやりすぎている。幸せに浮かれまくってミシェルを困らせすぎだ。
湯浴みの手伝いを嫌がるので何かと思えば、身体のあちこちにアスランが跡を残していたりするのだ。
侍女の心得として見て見ぬふりをするのだが、ミシェルは風呂に入りながら顔を真っ赤にしているので気の毒だ。
更にアスランは仕事の合間に時間が出来るとミシェルの私室に来てはルリーンを退室させる。
そんなことは何でもないのだがアスランが出た後ミシェルの元へ戻ると、毎回口紅が落ちて化粧が崩れている。
あー、そうでしょうね。していらしたのね。
それもルリーンは気にしないがミシェルはやはり照れて、ルリーンが化粧を直す度に居た堪れないような顔をする。
ミシェルを愛しているなら少しは察して加減してやれと思うのだが、どうにもアスランはのぼせ上がりすぎていて自分をコントロール出来ていない。
アスランの侍従テイラーに『ミシェル様にあまり無体をなさらないよう陛下に言ってください』と頼んだのだが、言っても無駄だったようだ。ひとつも抑える気はないらしい。
ごくたまにミシェルの声が嗄れて足腰が覚束ないことがあり、その時はさすがにルリーンもアスランに直接苦言を呈した。
平民の侍女の立場でしていいことではないが、あそこまではやりすぎだと言わずにはいられなかった。
「恐れながら申し上げます。ミシェル様が壊れてしまってもよろしいのですか?」
「いや、本当に昨夜はあまりにもミシェルがかわいくて抑えられなかったのだ。反省している」
「していらっしゃいません。ニヤけていらっしゃいます」
「いや、反省は、一応している」
「いいえ、していらっしゃいません。声があがれば女性が喜んでいると思い込んでいる男性もいらっしゃるようですが、そんなのは勘違いです。ヘタクソの自己満足です。そういう行為は思いやりを持ってなさらならければならないものだと思います。もしまたミシェル様の喉が壊れて足腰が立たないようなことがあれば、わたしは医者の娘として健康管理を預かる者としてミシェル様に一週間の安静を進言します。はっきり申し上げます、行為の禁止ということです」
アスランがヘタクソだと直接言っているわけではないが、遠回りには言っている。
国王に向かってこんなことは絶対に言ってはいけない。侮辱罪でギロチンだってありうることだ。
しかしルリーンは言う。ミシェルのためにならそんなものは怖くもない。
それにルリーンはわかっている。アスランがそんなことはしないと。
「ちゃんと、労わって優しくする。いや、優しくはしているがミシェルも喜んでいるはずで……」
「陛下。わたしは本気です。一週間我慢なさりたいのでしたらご自由に。しかしミシェル様のお声とお身体の調子次第では二週間に伸びることもご承知ください」
「わかった……。抑える努力はしよう……」
ルリーンが本気でミシェルに身体の為だと言って禁止すれば、本当にその期間を我慢しなくてはならなくなるのだ。
アスランがミシェルに一週間も触れられないなど堪えられるはずもない。
「よろしくお願い申し上げます」
ミシェルのことでルリーンに勝てる者などこの国には存在しないのだ。
アスランの気持ちもわかるし、ミシェルもアスランにこれほど求められていることが幸せなはずだ。が、いかんせんやりすぎは良くない。声が嗄れ足腰が立たないようでは日常生活が送れないのだから。
さて。話を本日に戻して。
部屋に入るとミシェルもアスランも起きていた。なにやらアスランがミシェルにあれをしたりこれをしたりしていたが、ルリーンは見ないようにしながら部屋のカーテンを開ける。
「お、おはようルリーン」
布団のなかでごそごそと、おそらく夜着を直しながらミシェルはルリーンに声を掛けた。
侍女の心得として、ここで始めて起きていたことに気が付いたという体でミシェルを向き持ってきたショコラを差し出す。
「おはようございますミシェル様。本日も天気がよく気持ちの良い朝です」
ミシェルの隣ではまったく隠す気もないのかアスランが乱れたままの夜着で起き上がる。
「おはようルリーン」
「おはようございますアスラン陛下。本日もご機嫌よろしいようで」
アスランが部屋を出てから朝食を運び、ミシェルが食べ終わる間に入浴の支度をする。
痣が完全に消えたわけではないので、現在も朝夕のマッサージは必須だ。
本日もミシェルの身体にはいくつかのアスランが残した跡があり、ミシェルは必死に隠そうとするのだが無駄なことだ。背中に幾つもあるものは隠しようがない。
もちろんルリーンはそんなことをミシェルに報告したりはしないが、心の中では『またやりやがったなあの盛り陛下め』と悪態を吐いていたりする。
マッサージをしているとバスタブの縁に頭を預けて見上げるミシェルがルリーンに聞いた。
「ルリーン、また最近、痣が薄くなった気がするのは気のせいかしら?」
完全には消えないだろうが、ルリーンが新たに作ったマッサージクリームの効果が出ているようだ。
「いいえ、気のせいではありませんよ。確実に薄くなってきています」
ルリーンが言ってやると、ミシェルが嬉しそうに微笑む。
本当は完全に消えるようにしてあげたいが、そこまではかなり難しい。
だが少しでも薄くなるよう、医者の父と一緒に新しいクリームの開発は続いている。
効果が表れるのはルリーンにとっても嬉しいことだ。
ミシェルが喜べば尚一層ルリーンも嬉しいのだ。
「今日はアスラン様が議会に出席するので昼間はお戻りにならないというの。だから緑の離宮に行こうと思うのよ」
「それはクロウさんが喜びますねー。馬車の準備をしておきます」
「お願いね」
緑の離宮は人質として来たミシェルが結婚するまで過ごした場所だ。
結婚してからはアスランにプレゼントされミシェルの個人のものとなり、管理をミシェルが住んでいた時から執事として働いていたクロウがしている。
ミシェルがひとりになりたいときや宮廷の喧噪から逃れたいときに使えるように、元の使用人たちが宮廷での仕事の合間を縫っては通いいつでも準備万端としてあるのだが。
なにせ盛り陛下……いやアスランがミシェルを離さないので思いのほか行けていない。
久々に逢えるとなればクロウもきっと喜ぶであろう。ルリーン同様、クロウもミシェルに尽くしてきたひとりだ。
馬車の手配をして宮廷で働く元緑の離宮の使用人たちに声を掛けると、コックを含め勢揃いでミシェルを迎えるために緑の離宮へ向かった。
使用人たちがいることは秘密にしてミシェルと馬車で離宮へ向かうと、すでに到着していた使用人がクロウを先頭に玄関の前で並んで到着を待っていた。
ミシェルの顔が輝き微笑みが溢れたので、ルリーンまで目尻が下がる。
「ミシェル様、おかえりなさいませ」
クロウが出迎えの挨拶をすると、ミシェルは駆け寄ってクロウの手を取った。
この離宮に住んでいた頃は『殿下』と皆が呼んでいたが、王妃となったミシェルは『陛下』となった。しかしミシェルが『陛下』と呼ばず名前で呼んで欲しいと言ったので、ここにいた者たちは敬愛を込めて『ミシェル様』と呼ぶようになった。
先に到着していたコックがミシェルの好きだった菓子を作ってあり、お茶の時間はミシェルの希望もあって使用人全員でダイニングに座ってお喋りをした。
一般的にはこんなことは許されないが、ミシェルにとってここの者たちは家族のようなものなのだ。
使用人たちもミシェルは特別だ。自分たちがミシェルを支えたという誇りがある。
「こうしていると時間を忘れてしまうわね」
ミシェルが言うと、使用人たちの目尻は下がりっぱなしになってしまう。
「アスラン陛下とは仲良くしていらっしゃるようで、安心いたしました」
クロウの言葉にミシェルが照れる。
そりゃ仲良くしていらっしゃいますよ。朝から晩まで仲良すぎなほどですよ。
「仲良すぎていい加減になさいませと陛下に頼んだくらいですよクロウさん」
ルリーンが言うと、ミシェルが驚いた顔で見た。ルリーンが国王陛下に対して平気でため息吐けることを知っているからだ。
「ルリーン! アスラン様に何を言ったの?」
「ミシェル様が体調を崩されるようであれば一週間ほど接近禁止にいたしますと申しました。仲が良いことは悪いことではありませんが……」
「ルリーン!」
ミシェルが顔を真っ赤にして立ち上がった。
恥ずかしいやら怒りたいやら。でもルリーンに口で敵う人間はこの国にはいない。
一般的にはいけないがここの者は許されているので、顔を青くしたり赤くしたりしているミシェルを微笑ましく笑った。
黄昏時までゆっくりと緑の離宮で過ごしミシェルが宮廷の私室に戻ると、アスランが部屋で待っていた。
「久しぶりの離宮は楽しめたか?」
「はい。とても」
アスランが手を伸ばすと、自然な流れでミシェルは腕の中に納まりに行く。
ギュっと抱きしめて額に唇を落とすとミシェルが本当に幸せそうに瞳を蕩けさせるので、後ろについて来ていたルリーンはやれやれこのラブラブふたりだけの世界夫婦は……とため息を吐きそっと部屋を出た。
お幸せならいいんですけどね。それが一番ですけどね。
夕食までのアスランとミシェルのいちゃいちゃ時間を、ルリーンは使用人食堂で過ごす。
この使用人食堂はルリーンにとってはくつろぎの場ではない。
使用人たちだって人間だ、ここは愚痴と噂話の吹き溜まり。貴族の本当の姿を知りたければ地下食堂へ来いってくらいに様々な宮廷の情報をここで聞くことが出来る。
ルリーンはここでミシェルの為に必要な情報を集めコツコツと手帳に書き留めている。
ミシェルが派閥争いに巻き込まれないよう。取り入ろうとするハイエナを近づけぬよう。
宮廷を支配するのは情報だ!
腹の探り合いなら大得意と自負するルリーンは、そういった策略や嫉妬渦巻く世界からミシェルを守るために必要なことをしている。
ミシェルの為……と言いながら、ゴシップ大好き策略大好きなルリーンなのでこんなことは楽しいので苦ではない。
この布張りの手帳ひとつで何組かの貴族を没落させられるな……と考えると、大好きなミシェルには見せられない顔でニヤリとしてしまう。
はっ!いけない!悪いルリーンが出てしまった。
いかんいかん、と頭を振って悪い顔を追い出す。このままミシェルの前に出れば『ルリーン、良くない考えは追い出しなさい』と怒られてしまうところだ。
それよりも本日はバルモア公爵夫人シャーロット様のメイドと楽しくお喋りだ。
このシャーロットの機嫌を損ねると彼女のサロンで何を言われるか分かったものじゃないという、この宮廷での最大派閥を持つ要注意人物だ。取り込むつもりはないが、関係は拗らせない方がいい。
逆にシャーロットも以前アスランに他の女性を宛がおうとしたことがあり、ミシェルには少しでも取り入っておきたい気持ちがあるようだ。王妃と公爵夫人なので立場はミシェルの方が上なので当たり前だ。
宮廷ででかい顔でいたいなら、王妃と近しくすることは必須だ。シャーロットは最大派閥を率いてミシェル陥落を目論んでいる様子。
ミシェルには戦う気などさらさらないのでルリーンはミシェルのお茶会、シャーロットの夜会と線引きをして上手く均衡を保って敵対しないよう関係を作っていくのが良いのではないかと考えていた。
メイドからはシャーロットの有意義な情報をいくつか聞き出し、そろそろアスランとミシェルの夕食の時間になってしまう。
夕食の前に着替えを手伝って、食事の間に湯浴みの支度をして。
この後の仕事の手順を考えながらルリーンがミシェルの部屋に戻る。
クローゼットから今夜の夕食に着るドレスを持って部屋に入ると、ソファーの上に横たわるミシェルと、ミシェルの足を持ち上げて撫でているアスラン。
ミシェルの上がった息とアスランの満足気な様子で事後であることは簡単に想像出来た。
夕食後まで待てないものなのだろうか?あと数時間なのに。しかも朝もいちゃいちゃしていたのに……。
未だ乙女のルリーンだから理解出来ないのかとも思うのだが、きっとそのせいではない。
アスランがミシェルに浮かれてのぼせて溺れすぎているせいだ。
ルリーンの入って来た音にミシェルが気怠そうな身体を急いで持ち上げ乱れたドレスを直す。
対してアスランは満足気に座り直しただけで、顔を赤らめるミシェルがかわいくて仕方がないという感じで見ている。
「ルリーン、ミシェルの着替えか?」
「はい。そろそろお仕度をいたしませんと」
「そうか。ではオレも着替えてこよう」
悠々と部屋を出て行くアスランを恨めしく見送るミシェル。
ルリーンはその後ろ姿に舌打ちしないように細心の注意を払った。
「あの、昼間顔が見られなかったからって……」
ミシェルは居住まいを正しながらルリーンに言い訳めいた事を言う。
ルリーンにミシェルを責める気は全くない。
しかし今日は出かけて沢山お喋りしながら笑ったミシェルの疲れを思いやらないアスランには、実際には口にしないが『あのすけべえ』と言うのが正しい。
「ミシェル様、お着替え出来ますか? 少し休憩しますか?」
「あの……大丈夫よ……」
ミシェルは恥ずかしそうにまだ気怠い身体を立ち上がらせ、ルリーンはミシェルを労るようにコルセットを緩く締め直した。
夕食を済ましたミシェルの風呂を手伝い、マッサージをして寝支度をしてから部屋を出たルリーンがテイラーに呼び止められた。
「ルリーン。ちょっといいかい? 陛下が君に話があるって言うんだ」
「はい。では伺います」
ルリーンはそのままミシェルの隣の部屋であるアスランの部屋をノックした。
返事があってから中へ入ると、すでに夜着にガウンのアスランがソファーに座っていた。
呼び出された理由はわからないが、ミシェルのこと以外にはないことはわかっている。
もしかして夕食前のルリーンの心の舌打ちが聞こえて怒られるのかな?とも思ったが、アスランがその手のことに聡いとは思わない。
「ルリーン。オレから言わなくともわかることだが、お前の給料が上がることになった」
「え? 給料ですか?」
紙を渡され、書かれている金額を見てルリーンは仰天した。
離宮から宮廷に来た時も給料は上がったのだ。しかもミシェルの痣を薄くした功績なのか破格の金額だった。
それが更に。普通の侍女ではありえない金額だ。
「こんな大金……」
「お前のミシェルへの献身を考えれば安いものだ。オレはミシェルの離宮に通っていた時からお前の給料は上げると決めていた。それと今回再び上げたのは、研究費が含まれている。ミシェルから痣が更に薄くなったと聞いた。実はオレもそうかもしれないと思っていた。お前のおかげでミシェルが喜んでいた。これからも研究を続けてくれ」
ミシェルが今朝の風呂でのやり取りをアスランに話していたのだ。
給料が上がるのは嬉しいし、仕事を評価してもらえるのなら謙遜も遠慮もしない。
しかし、研究費はありがたいが……。
「陛下、もしかして希望をお持ちになっていらっしゃいますか?」
ミシェルの痣が消えると思い込んでしまっているのならそれは違う。
言い訳ではないが、医療にも限界はあるのだ。
「安心していい。オレはミシェルの痣が消えなくてもかまわない。痣があってもミシェルに変わりはない。ただ、あんなに喜んでいいるのならもう少し薄くなればもっと喜ぶだろうと思っているだけだ。研究費と言ったが、ミシェルへの献身の対価だと思ってもいい」
アスランならばミシェルの痣を気にしないことはわかっている。
消せというのではなく、これからも研究を続け薄くなったらいいくらいに考えてくれるのであればそれはありがたい。
「ミシェル様の為に自分がしたいことをしているので、それに対価は必要ございません。が……、せっかくの陛下からのお心遣いに感謝をし、ありがたく今後の研究費用に充てさせていただきます」
ルリーンはアスランに頭を下げ、感謝を伝え。
「しかしながら、給料を上げていただいたからといってミシェル様への無体は無視できません。本日はお出かけになられて大変はしゃいでいらっしゃいました。更に帰って来てからは間髪入れずに更にお疲れになるようなことがソファーの上で繰り広げられたようなので、今夜はなるべくゆっくりお休みいただけるようお願い申し上げます」
ルリーンの言葉にアスランの口が真一文字に結ばれた。大人だから尖らすのを我慢したのだろうか?不貞腐れているのはバレているぞ盛り陛下。
二十八歳の男が自分本位に妻を疲れさせるなよ……と言いたいところだがなんとか飲み、ルリーンは一礼してアスランの部屋を後にした。
部屋を出て自室に戻ろうとすると、ブロンソン伯爵と行き逢った。
ブロンソン伯爵はルリーンやクロウにとっては直属の上司のような方だ。
「ルリーン、給料があがったな」
「はい。陛下の広いお心と、わたしの実力のおかげかと」
笑顔でブロンソンに答えると、ブロンソンは無表情を崩さず頷いた。
ルリーンならミシェルを助けられると侍女にしたのはブロンソンなのだ。ミシェルの痣を薄くしアスランとの結婚までたどり着いたのはルリーンの功績が大きいと考えているブロンソンなので、ルリーンの言葉には異論はない。
一礼をしてブロンソンと別れると、一日の疲れがルリーンの中に心地よく広がる。
今日もよく仕事をし、楽しいこともあり、嬉しいこともあり。いいい一日だった。
ぐっすり眠って、明日の仕事に備えよう。
ルリーンは明日のミシェルが着るドレスを考えながらベッドに入り、疲れを癒すようにぐっすりと眠りについた。
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