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邂逅の旅
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「話に来た。話の内容は、夢物語だと思って聞いて欲しい」
黒神は、コーヒーを飲んで落ち着くと言った。
湯気が立ち上るカップを見つめながら、山吹には到底信じられるものではない話を聞く覚悟を迫られているように感じられた。
「つまり、兄さんは、あのゲームの中で生きてると言うの?」
山吹は不愉快な顔をした。眉が寄り、唇をかみしめる。
「そう思い込んでる。と言うのが正しいかな」
「黒神さんも、そう思ってるの?」
「……まあ、そうだ」
山吹には到底理解できなかった。胸の奥がざわつく。
「信じろって言われても……」
「そんなこと言ってないよ。信じる信じないは、自由だ。少なくとも、俺たちは、俺は信じている」
黒神の声には迷いがなく、確固たる信念が宿っていた。山吹はその言葉に、少しだけ心を揺さぶられたが、納得するには程遠かった。
「どうして? きっと赤目さんが、兄の性格や行動パターンをトレースしたんだわ」
「……山吹は、魂の存在は信じるか?」
黒神から、そんな言葉が投げかけられるのは驚きだった。
「まさか、信じてるの?」
彼は静かに頷いた。
「もうじき、アキラに会うことになるだろう。そこで、俺の言ったことがわかる」
彼らは兄を尊敬し、慕っているから騙されてしまっているのか……。山吹はため息をつき、覚悟を決め、尋ねなければならないことを口にした。
「それで、翠さんはどうしたの?」
「何も……」
「何もって、病気で動けない彼女が、一人でいなくなったとでも言うの?」
「そうだ」
「ふざけないで!」
思わず、大きな声を山吹は張り上げ、席を立った。感情が溢れ出るのを抑えられなかった。
「山吹」時雨に宥められ、彼女は座った。
「何もと言うのは、間違いかもしれない。彼女の遺言に従って行動をした」
「やっぱり、どこに連れ去ったの?」
「連れ去ってない。彼女は自分の意思で、この世界を去った。俺たちのしたことは、後片付けだけだ。翠の体に触れてもいない」
「そんなこと、信じれるわけない」
だが、あの赤目なら、そんなことも可能じゃないのか? と山吹は考えた。異空間へ転移させたのかもしれない。非常識だが、理屈では否定できない。
「だが、事実だ」黒神は強い口調で断言した。
「それで、翠はどこにいるの? 死んだの?」
「だから、アルカディア・クロニクルの中で生きている。どこで生きているのかは、俺には教えてもらえない」
「誰が知っているの?」
「赤目さんだよ。だけど、山吹も教えてもらえない。何故なら、山吹がプレイヤーの一人だからね」
※
『死の国』との和平。
「弱くてつまらないから、どうでもいいけど」セレナは、あっけらかんと言った。
「良かった。それで移民の人達の歓迎会をしたいんだ。エリシオン国が楽しいところだって思って欲しくて……」
「うん、賛成! 打ち合わせしてくる!」
毎日、この国は人口が増えていた。
セレナが王都から連れてきた獣人族が続々と到着し、人族の移民希望者も加わる。今日でようやく一段落つくところだった。
戦争も終戦した今、牙狼の森の警備は少人数でも十分だった。内政はネグラロサに任せれば何とかなる。
「アキラ、そろそろ行きましょう」
「そうだね。ラピス」
「歓迎会が終わったら出かけよう!」
ソラリスの救出に向かうのは、アキラとノクス、それとアゼリアが担当だったが、死の国との戦いが続いていて、これまで動けなかった。
この話は、ヴァイオレット王女も、他のメンバーにも伝えてある。
「明日の朝にも出かけよう」
国民全員を集めた大歓迎会は、大成功のうちに終わった。子供たちは笑顔で手を振り、大人たちは安堵の表情を浮かべる。セレナは満面の笑みで彼らに手を振り返した。
翌日、早朝。静かに、旅立とうとしていたが、屋敷を出た瞬間、音楽が鳴り響いた。
「出陣式をきちんとされませんと」
ヴァイオレット王女以下の首脳陣が立ち並んでいた。
「ちょっと行ってくるだけなんだけどな」
アキラと出陣するメンバーは、前に並んだ。
「私も、急いで帰って来たんだもん! 行く!」
セレナが声を上げた。もちろん置いて行っても、すぐに追いつかれるだろう。
「セレナもルナもいいよ!」
いつの間にか、道の両脇に国民が列を作っていた。
その中を、ドワーフ達に作らせた狼たちの牽く車に乗って出陣して行く。
「歩きでいいのに!」
「へへへ、さあ、乗ろう! アキラ」
この馬車は硬くて軽い究極の素材で作られ、アダマンタイトのような貴重な鉱石が惜しみなく使われている。
巨大な車体は圧倒的な存在感を放ち、物理攻撃も魔法攻撃も寄せつけない、鉄壁の防御を誇る。
「動く要塞だね」
大馬車には座席が多くあり、半数の狼も乗り込んでいる。
猛速度で走り出す馬車の中、アキラは景色に目をやりながら心を引き締めた。
「あれ……」
隠れるように座っていたステラを見つけた。
「ええ? ついてきて危ないよ!」
「旅行、私も一緒に行きたい」
ステラはレイラに飛びつき、小さな手でしがみつく。そして、レイラの反応も彼女の作戦通り。
「今回は連れてっても大丈夫よ! アキラ」
セレナの言葉に、ステラは微笑んだ。
邂逅の旅の始まりだ。
黒神は、コーヒーを飲んで落ち着くと言った。
湯気が立ち上るカップを見つめながら、山吹には到底信じられるものではない話を聞く覚悟を迫られているように感じられた。
「つまり、兄さんは、あのゲームの中で生きてると言うの?」
山吹は不愉快な顔をした。眉が寄り、唇をかみしめる。
「そう思い込んでる。と言うのが正しいかな」
「黒神さんも、そう思ってるの?」
「……まあ、そうだ」
山吹には到底理解できなかった。胸の奥がざわつく。
「信じろって言われても……」
「そんなこと言ってないよ。信じる信じないは、自由だ。少なくとも、俺たちは、俺は信じている」
黒神の声には迷いがなく、確固たる信念が宿っていた。山吹はその言葉に、少しだけ心を揺さぶられたが、納得するには程遠かった。
「どうして? きっと赤目さんが、兄の性格や行動パターンをトレースしたんだわ」
「……山吹は、魂の存在は信じるか?」
黒神から、そんな言葉が投げかけられるのは驚きだった。
「まさか、信じてるの?」
彼は静かに頷いた。
「もうじき、アキラに会うことになるだろう。そこで、俺の言ったことがわかる」
彼らは兄を尊敬し、慕っているから騙されてしまっているのか……。山吹はため息をつき、覚悟を決め、尋ねなければならないことを口にした。
「それで、翠さんはどうしたの?」
「何も……」
「何もって、病気で動けない彼女が、一人でいなくなったとでも言うの?」
「そうだ」
「ふざけないで!」
思わず、大きな声を山吹は張り上げ、席を立った。感情が溢れ出るのを抑えられなかった。
「山吹」時雨に宥められ、彼女は座った。
「何もと言うのは、間違いかもしれない。彼女の遺言に従って行動をした」
「やっぱり、どこに連れ去ったの?」
「連れ去ってない。彼女は自分の意思で、この世界を去った。俺たちのしたことは、後片付けだけだ。翠の体に触れてもいない」
「そんなこと、信じれるわけない」
だが、あの赤目なら、そんなことも可能じゃないのか? と山吹は考えた。異空間へ転移させたのかもしれない。非常識だが、理屈では否定できない。
「だが、事実だ」黒神は強い口調で断言した。
「それで、翠はどこにいるの? 死んだの?」
「だから、アルカディア・クロニクルの中で生きている。どこで生きているのかは、俺には教えてもらえない」
「誰が知っているの?」
「赤目さんだよ。だけど、山吹も教えてもらえない。何故なら、山吹がプレイヤーの一人だからね」
※
『死の国』との和平。
「弱くてつまらないから、どうでもいいけど」セレナは、あっけらかんと言った。
「良かった。それで移民の人達の歓迎会をしたいんだ。エリシオン国が楽しいところだって思って欲しくて……」
「うん、賛成! 打ち合わせしてくる!」
毎日、この国は人口が増えていた。
セレナが王都から連れてきた獣人族が続々と到着し、人族の移民希望者も加わる。今日でようやく一段落つくところだった。
戦争も終戦した今、牙狼の森の警備は少人数でも十分だった。内政はネグラロサに任せれば何とかなる。
「アキラ、そろそろ行きましょう」
「そうだね。ラピス」
「歓迎会が終わったら出かけよう!」
ソラリスの救出に向かうのは、アキラとノクス、それとアゼリアが担当だったが、死の国との戦いが続いていて、これまで動けなかった。
この話は、ヴァイオレット王女も、他のメンバーにも伝えてある。
「明日の朝にも出かけよう」
国民全員を集めた大歓迎会は、大成功のうちに終わった。子供たちは笑顔で手を振り、大人たちは安堵の表情を浮かべる。セレナは満面の笑みで彼らに手を振り返した。
翌日、早朝。静かに、旅立とうとしていたが、屋敷を出た瞬間、音楽が鳴り響いた。
「出陣式をきちんとされませんと」
ヴァイオレット王女以下の首脳陣が立ち並んでいた。
「ちょっと行ってくるだけなんだけどな」
アキラと出陣するメンバーは、前に並んだ。
「私も、急いで帰って来たんだもん! 行く!」
セレナが声を上げた。もちろん置いて行っても、すぐに追いつかれるだろう。
「セレナもルナもいいよ!」
いつの間にか、道の両脇に国民が列を作っていた。
その中を、ドワーフ達に作らせた狼たちの牽く車に乗って出陣して行く。
「歩きでいいのに!」
「へへへ、さあ、乗ろう! アキラ」
この馬車は硬くて軽い究極の素材で作られ、アダマンタイトのような貴重な鉱石が惜しみなく使われている。
巨大な車体は圧倒的な存在感を放ち、物理攻撃も魔法攻撃も寄せつけない、鉄壁の防御を誇る。
「動く要塞だね」
大馬車には座席が多くあり、半数の狼も乗り込んでいる。
猛速度で走り出す馬車の中、アキラは景色に目をやりながら心を引き締めた。
「あれ……」
隠れるように座っていたステラを見つけた。
「ええ? ついてきて危ないよ!」
「旅行、私も一緒に行きたい」
ステラはレイラに飛びつき、小さな手でしがみつく。そして、レイラの反応も彼女の作戦通り。
「今回は連れてっても大丈夫よ! アキラ」
セレナの言葉に、ステラは微笑んだ。
邂逅の旅の始まりだ。
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