61 / 138
ヴァイオレットの探し物 ※
しおりを挟むヴァイオレット一行は、川の中洲の島に足を踏み入れた。そこには、かつて人々が生活していた痕跡が確かに残っていた。
まずは、監視塔に登る。
「これが、魔物の森の大森林なのね。美しいわ……でも、フェニックス、ここに来たことはないの?」
「はい。アストリア様が軍を派遣された際、私は別の任務で派遣されていました。アストリア様自身が一度だけ、この地に来られたはずです」
「そうだったのね。フェニックスが同行しないなんて、珍しいわ」
その言葉がフェニックスの記憶の扉を叩いた。彼はその時、別の地へと単独で派遣されていた。海の魔物を討伐するために。彼女の同行を断られたあの時の違和感が、今も残っている。
「次は、隣の小屋に行きましょう」
ヴァイオレットは、美しい景色に興味を示すこともなく、次の目的地へと足を向けた。景色に見惚れていたアゼリアは、慌てて階段を駆け降りて追いかけた。
小屋には、アキラ達がついこの間まで使っていた生活感が残っていた。
「アキラさんの話通り、ここには何も残っていませんね。まるで何者かが意図的にすべてを消し去ったかのようです。書類ひとつすら見当たりません」
「誰かの仕業に違いないわ。隠すための動きね」
ヴァイオレットは、わずかに眉をひそめた。
「服装を見れば、昔の王国の流行ですね。今のものとあまり変わりませんが」
「フェニックスが流行を語るなんてね。でも、今はそんな話をしている場合じゃない。倉庫を調べて。時間がないわ」
彼女は、焦るように指示を出した。
「ヴァイオレット様、アキラ様からは許可をいただいていますし、しばらくは戻られないはずです」
アゼリアは少し困惑しながらも言った。
「違うのよ。今、この無音の気配があるうちに……」
言いかけた言葉を飲み込み、ヴァイオレットは強く唇を引き結んだ。
「隠し倉庫も扉も見当たりません」
「そんなに簡単に見つかるはずがないわね。どこかに何かが隠されている…島のどこかに」
「港が二つあるそうです」
アゼリアは、ノクスからの情報を口にした。
「なら、二手に分かれましょう。アゼリアは私と一緒に来て。フェニックスは大きな港を調べて」
ヴァイオレットは、アゼリアが少しも離れたがらないのを感じ取り、彼女を選んだ。怪しいのは小さな港の方だ。
しかし、その港にはただの釣具の入った納屋があるだけだった。
「もう時間切れか……」
ヴァイオレットが苛立ちを感じつつも気持ちを切り替えようとしていると、アゼリアが声をかけた。
「ヴァイオレット様、この島の神域を護る祠にお参りしませんか?これほどの神聖な力を感じるのは初めてです」
「どこにあるの?」
「さっき通り過ぎましたよ」アゼリアは、王女が気がつかない事に驚いた。
「そこね! アゼリア、納屋からスコップを持ってきて」
祠は丁寧に清掃され、花が捧げられていた。毎日、セレナが祠を清めているのだろう。
「祠の前か……いや、後ろだ。アゼリア、急いで」
「神域を荒らすなんて……しかし、分かりました」
アゼリアは一瞬戸惑ったものの、すぐにヴァイオレットの指示に従い、土を掘り始めた。後でアキラやセレナに謝る必要があるだろう…許してくれると良いけれど。
掘り進めると、スコップが硬い鉄の扉に当たった。
「当たりよ!」
しかし、アゼリアとヴァイオレットだけでは、この分厚い扉を開けることはできない。そこに、ちょうど大港から戻ったフェニックスが姿を現した。
三人がかりでようやく扉を開けると、中には小さなアダマンタイト製の宝箱が鎖で繋がれていた。鎖は暗室の奥に続いており、壊さなければ持ち出せない。
鎖に繋がれたまま宝箱を地上に引き出すと、二つの鍵穴が目に入った。
ヴァイオレットは、ネックレスにぶら下がるペンダントから鍵を取り出し、一つの鍵穴に差し込んで回した。しかし、片方の鍵しか回らない。
「姉さんがいないと開けられないのね…」
ヴァイオレットはふと空を見上げた。
ラピスがこの世界に戻って、王女達を監視に入ったら、小さな事件が起きていた。事件なのかもわからない。
「あの箱は一体何なの?こんなイベント、聞いたことがないわ」
彼女が次の行動を決めかねている時、一人の少女の声が静寂を破った。
「何をしているんですか?」
声をかけた少女の名は、ステラだった。
※※※
「大満足!」
山吹は、並ぶ料理を見て声を上げた。
日本海の幸が豪勢に並んでいる。新鮮な刺身、のどぐろの塩焼き、治部煮、能登牛の陶板焼き、松茸の土瓶蒸し……。
「ご飯のお代わりは、好きなだけしてください」
「ありがとうございます」
炊き立てのご飯が、釜から立ち上る湯気とともに運ばれてくる。細身長身の山吹はモデルのような体型をしているが、食べる量は意外と多い。
「時期がもう少し遅ければ、香箱ガニも……」
宿泊代は格安だったが、食事は別料金で贅沢にした。その分、出費はかさむが、まあいい。黒神にもらったバイト代もあるし。
「さてと」
山吹はスマホを取り出し、料理を数枚撮った。SNSに載せるためだ。いわゆるアリバイ。
あたかも観光を楽しんでいるように見せるための証拠写真。実際、豪華な食事をしているのは事実だが、それが目的ではない。この旅の本当の意味を知る者はいない。
食事を終えた後、塩分を含んだ温泉に浸かる。湯の熱がじわじわと体に染み込む。
「ゆっくり入りたいところなんだけど……」
熱い湯に肩まで浸かりながら、ため息をついた。
考えることがある。温泉の温かさが思考を溶かしそうになる前に、部屋へ戻ることにした。
布団が敷かれている。ツーリングバッグから一冊のノートを取り出し、寝転がる。表紙を撫でながら、静かに息をついた。
『AIにおける仮想世界の構築』
ページを開く指先が、わずかに震える。兄の殴り書きが、しっかりと残るページ。
この世界は、本物なのか、それとも偽物なのか?
もし偽物だったとして、それは本物とどう違うのか? そもそも、偽物に価値はないのか?
仮想世界の中に人が住み始めたとしたら、その世界は単なる「道具」と言えるのだろうか? そこに生きる人々にとって、そこが「現実」ならば——。
山吹はページの文字を追いながら、ふと手を止める。
「その仮想世界は、単なる拡張世界ではなく、別の現実世界足りうるのか?」
所々に、添削のように太い赤い文字がある。これはあの人の文字だ。
ふっと、笑みがこぼれた。
『わからない。私のやる事は兄を探すことだ』
山吹は目を閉じ、深く息を吸う。温泉の名残がまだ肌に残っていた。窓を開けると静かな夜の空気が胸に広がる。
彼女はもう一度、ノートを見つめた。目の前に兄がいるような、そんな気がした。今夜は眠れそうにない。
0
あなたにおすすめの小説
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣
織部
ファンタジー
ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。
背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。
母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。
セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。
彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。
セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。
「セラ、ウミ」
「ええ、そうよ。海」
ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します!
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。
世界一簡単にレベルアップ ~魔物を倒すだけでレベルが上がる能力を得た俺は、弱小の魔物を倒しまくって異世界でハーレム作る事にしました~
きよらかなこころ
ファンタジー
シンゴはある日、事故で死んだ。
どうやら、神の手違いで間違って死んでしまったシンゴは異世界に転生することになる。
転生する際にオマケに『魔物を倒すだけでレベルが上がる』能力を貰ったシンゴ。
弱小の魔物を倒してレベルを上げ、異世界でハーレムを作る事を企むのだった。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
転生したら鎧だった〜リビングアーマーになったけど弱すぎるので、ダンジョンをさまよってパーツを集め最強を目指します
三門鉄狼
ファンタジー
目覚めると、リビングアーマーだった。
身体は鎧、中身はなし。しかもレベルは1で超弱い。
そんな状態でダンジョンに迷い込んでしまったから、なんとか生き残らないと!
これは、いつか英雄になるかもしれない、さまよう鎧の冒険譚。
※小説家になろう、カクヨム、待ラノ、ノベルアップ+、NOVEL DAYS、ラノベストリート、アルファポリス、ノベリズムで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる