アルカディア・クロノクル ゲーム世界に囚われた俺を救うのは、妹か、かつての仲間か

織部

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ヴァイオレットの探し物 ※

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 ヴァイオレット一行は、川の中洲の島に足を踏み入れた。そこには、かつて人々が生活していた痕跡が確かに残っていた。

 まずは、監視塔に登る。

「これが、魔物の森の大森林なのね。美しいわ……でも、フェニックス、ここに来たことはないの?」

「はい。アストリア様が軍を派遣された際、私は別の任務で派遣されていました。アストリア様自身が一度だけ、この地に来られたはずです」

「そうだったのね。フェニックスが同行しないなんて、珍しいわ」

 その言葉がフェニックスの記憶の扉を叩いた。彼はその時、別の地へと単独で派遣されていた。海の魔物を討伐するために。彼女の同行を断られたあの時の違和感が、今も残っている。

「次は、隣の小屋に行きましょう」

 ヴァイオレットは、美しい景色に興味を示すこともなく、次の目的地へと足を向けた。景色に見惚れていたアゼリアは、慌てて階段を駆け降りて追いかけた。

 小屋には、アキラ達がついこの間まで使っていた生活感が残っていた。

「アキラさんの話通り、ここには何も残っていませんね。まるで何者かが意図的にすべてを消し去ったかのようです。書類ひとつすら見当たりません」

「誰かの仕業に違いないわ。隠すための動きね」

 ヴァイオレットは、わずかに眉をひそめた。

「服装を見れば、昔の王国の流行ですね。今のものとあまり変わりませんが」

「フェニックスが流行を語るなんてね。でも、今はそんな話をしている場合じゃない。倉庫を調べて。時間がないわ」

 彼女は、焦るように指示を出した。

「ヴァイオレット様、アキラ様からは許可をいただいていますし、しばらくは戻られないはずです」

 アゼリアは少し困惑しながらも言った。

「違うのよ。今、この無音の気配があるうちに……」

 言いかけた言葉を飲み込み、ヴァイオレットは強く唇を引き結んだ。

「隠し倉庫も扉も見当たりません」

「そんなに簡単に見つかるはずがないわね。どこかに何かが隠されている…島のどこかに」

「港が二つあるそうです」

アゼリアは、ノクスからの情報を口にした。

「なら、二手に分かれましょう。アゼリアは私と一緒に来て。フェニックスは大きな港を調べて」

 ヴァイオレットは、アゼリアが少しも離れたがらないのを感じ取り、彼女を選んだ。怪しいのは小さな港の方だ。

 しかし、その港にはただの釣具の入った納屋があるだけだった。

「もう時間切れか……」

 ヴァイオレットが苛立ちを感じつつも気持ちを切り替えようとしていると、アゼリアが声をかけた。

「ヴァイオレット様、この島の神域を護る祠にお参りしませんか?これほどの神聖な力を感じるのは初めてです」

「どこにあるの?」

「さっき通り過ぎましたよ」アゼリアは、王女が気がつかない事に驚いた。

「そこね! アゼリア、納屋からスコップを持ってきて」

 祠は丁寧に清掃され、花が捧げられていた。毎日、セレナが祠を清めているのだろう。

「祠の前か……いや、後ろだ。アゼリア、急いで」

「神域を荒らすなんて……しかし、分かりました」

 アゼリアは一瞬戸惑ったものの、すぐにヴァイオレットの指示に従い、土を掘り始めた。後でアキラやセレナに謝る必要があるだろう…許してくれると良いけれど。

 掘り進めると、スコップが硬い鉄の扉に当たった。

「当たりよ!」

 しかし、アゼリアとヴァイオレットだけでは、この分厚い扉を開けることはできない。そこに、ちょうど大港から戻ったフェニックスが姿を現した。

 三人がかりでようやく扉を開けると、中には小さなアダマンタイト製の宝箱が鎖で繋がれていた。鎖は暗室の奥に続いており、壊さなければ持ち出せない。

 鎖に繋がれたまま宝箱を地上に引き出すと、二つの鍵穴が目に入った。

 ヴァイオレットは、ネックレスにぶら下がるペンダントから鍵を取り出し、一つの鍵穴に差し込んで回した。しかし、片方の鍵しか回らない。

「姉さんがいないと開けられないのね…」

 ヴァイオレットはふと空を見上げた。

 ラピスがこの世界に戻って、王女達を監視に入ったら、小さな事件が起きていた。事件なのかもわからない。

「あの箱は一体何なの?こんなイベント、聞いたことがないわ」

 彼女が次の行動を決めかねている時、一人の少女の声が静寂を破った。

「何をしているんですか?」

声をかけた少女の名は、ステラだった。

※※※

「大満足!」

 山吹は、並ぶ料理を見て声を上げた。

 日本海の幸が豪勢に並んでいる。新鮮な刺身、のどぐろの塩焼き、治部煮、能登牛の陶板焼き、松茸の土瓶蒸し……。

「ご飯のお代わりは、好きなだけしてください」

「ありがとうございます」

 炊き立てのご飯が、釜から立ち上る湯気とともに運ばれてくる。細身長身の山吹はモデルのような体型をしているが、食べる量は意外と多い。

「時期がもう少し遅ければ、香箱ガニも……」

 宿泊代は格安だったが、食事は別料金で贅沢にした。その分、出費はかさむが、まあいい。黒神にもらったバイト代もあるし。

「さてと」

 山吹はスマホを取り出し、料理を数枚撮った。SNSに載せるためだ。いわゆるアリバイ。

 あたかも観光を楽しんでいるように見せるための証拠写真。実際、豪華な食事をしているのは事実だが、それが目的ではない。この旅の本当の意味を知る者はいない。

 食事を終えた後、塩分を含んだ温泉に浸かる。湯の熱がじわじわと体に染み込む。

「ゆっくり入りたいところなんだけど……」

 熱い湯に肩まで浸かりながら、ため息をついた。
考えることがある。温泉の温かさが思考を溶かしそうになる前に、部屋へ戻ることにした。

 布団が敷かれている。ツーリングバッグから一冊のノートを取り出し、寝転がる。表紙を撫でながら、静かに息をついた。

『AIにおける仮想世界の構築』

 ページを開く指先が、わずかに震える。兄の殴り書きが、しっかりと残るページ。

 この世界は、本物なのか、それとも偽物なのか?
 もし偽物だったとして、それは本物とどう違うのか? そもそも、偽物に価値はないのか?

 仮想世界の中に人が住み始めたとしたら、その世界は単なる「道具」と言えるのだろうか? そこに生きる人々にとって、そこが「現実」ならば——。

 山吹はページの文字を追いながら、ふと手を止める。

「その仮想世界は、単なる拡張世界ではなく、別の現実世界足りうるのか?」

 所々に、添削のように太い赤い文字がある。これはあの人の文字だ。

 ふっと、笑みがこぼれた。

『わからない。私のやる事は兄を探すことだ』

 山吹は目を閉じ、深く息を吸う。温泉の名残がまだ肌に残っていた。窓を開けると静かな夜の空気が胸に広がる。

 彼女はもう一度、ノートを見つめた。目の前に兄がいるような、そんな気がした。今夜は眠れそうにない。

 
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