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魔物の森で起きていること
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オーガは、領土を計画通り広げているはずだったが、思うように進んでいなかった。
縄張りこそ奪ったが、コボルトの住まいの迷路に誘い込まれ、ドワーフには洞窟を壊されて下敷きにされ、危うく命を落としかけた。
さらに、人間の村に向かったオーガたちが戻ってこないことが、ますます問題となっていた。
「遅いぞ。隻眼の者たちは、なぜ戻らぬ?」
ゴルド王の苛立ちが、口調に滲んでいる。
「我が愚弟のこと、故にわしが見て参ります」
隻眼の兄、バルド将軍が、静かに言い放つ。
「待て待て。お前は、戦から帰って来たばかりではないか?」
僧侶のオーガ、モルドが制止の声を上げる。
「エルフとの戦いの傷も癒えておらんだろう」
エルフ村への襲撃では、敵に待ち構えられ、苦境に陥ったのだった。
オーガ軍最強の戦士であるバルドは、あらかじめその危険を予見しており、あえて近づかなかった。
「罠に嵌るなど、愚かだ!」
彼は村を包囲し、火攻めの準備を整えた。だが、そのとき、兄たちが罠に嵌り、敵を取り逃すという情報がバルドの元に届き、彼はさらに慎重になっていた。
「エルフの丸焼きか。食うところもないな」
彼は敵を挑発し、夜襲を個別に撃退した。そして、捕えたエルフの戦士を生け捕りにし、磔にして見せしめにした。
「出来るだけ生け捕りにしろ!」というゴルド王の命令に従い、バルドは敵の精神を削り、降伏の時間を与えていた。
だが、これから先、更に北にある多くのエルフの村を占領しなければならない。オーガ軍を消耗させず、エルフを精神的に服従させることが、この戦の鍵となる。
しかし、事態は急変した。オーガ軍が包囲していたはずの村が、いつの間にか逆に包囲されていたのだ。
「何者だ?」
「他の村のエルフたちです」
「何だと!」バルドは驚き、即座に状況を把握しようとした。エルフ族が、他の村と協調して戦うとは思えなかった。
しかし、数こそ多いが、それほど強くはないだろう。むしろ、まとめて屠る機会が来たと、バルドは微笑んだ。
なぜなら、オーガ族の固有スキルである治癒と魔法防御があれば、どんな敵も恐れることはないと信じていたからだ。
だが、予想に反して、エルフの矢の嵐がオーガ軍を追い詰めていく。どこからその矢が飛んでくるのか、まるで分からない。
「何をしている! 突っ込んで叩き潰せ!」バルドの声が、苛立ちを隠せずに響く。
「バルド将軍、まずいです! あの大木の上を見てください!」
オーガ兵が指差した先には、見覚えのない大きな白い旗がひらひらと揺れていた。その旗には、ノクスの弓と同じデザインで、エリス神の横顔が描かれていた。
「極北のハイエルフたちが、なぜ我々の戦に参戦するのだ? お前たちに喧嘩を売ってはいない。話し合おう」
バルドは、戦意を喪失させようと、大木に向かって呼びかけた。
「笑止。エリス神からの神託は降りている! お前たちが北の森に入ることは許されない!」と、ノクスの父、ハイエルフの族長ノーザンが、スキル「高揚」を発動し、号令を下す。
エリス神は、そんな神託を与えていなかった。実際、彼女にとってエルフがどれだけ死のうと、村がいくつ失われようと、どうでもよいことだった。
ただ、オーガのエルフ村襲撃の話を、飲み会のような族長会で話している最中、神木に雷が落ちたのだ。
その理由は――アキラとの結婚を勝手に決めたエリオンに、彼女が怒ったからである。
「神の怒りに触れている!」
「何が、お怒りなのだ?」
「助けに行かない我らにお叱りだろう」
会議に参加したエルフ族長たちは全員顔色を失い、急いで村に戻り、全軍出撃の準備を始め、ハイエルフ軍と合流してこの地に駆けつけた。
一段と激しくなるエルフの攻撃。ノクスと同じ年齢のハイエルフ部隊、星の降る年に生まれた優秀な者達が戦線に加わり、オーガ軍はついに撤退を決断した。
「まずい、撤退だ」バルドの声が響き、オーガ軍はその場から全員で離脱を開始した。
「まさか、このスキルを使う時が来るとは……」
バルドは防御陣形を使い、全オーガを呼び寄せ、集団で戦場から撤退を始めた。逃げる際のスキルは、全員の移動速度と防御力を高め、一時的にHPを増加させるものだ。
だが、集団で動くため、逆に敵の格好の的となってしまう。
「戦うな!スキルが効かなくなるぞ」バルドは、隠し持っていたマナポーションを飲み干し、吐き気と疲労に耐えながら、無理に戦場から退いた。
だが、彼の意思に反して、殿を務めるオーガ戦士たちは足止めのためにその場に残り、少しでも時間を稼ごうとした。時間が経過し、再び追撃が迫ると、また1匹が部隊を離れ、時間を稼ぐ。
「やっと追撃が止まったか」バルドはようやく安全な場所に辿り着き、雷が落ちて焼け焦げた場所でようやく走るのをやめた。
そして、本拠地に戻り、弟が行方不明だという報告を受けた。
※
軍師のトルドが言った。「問題が起きたのは間違いないでしょう。最悪の事態を考えれば、まずは偵察を」
「うむ。バルド、休んで次の戦に備えよ。覇王の道はこれからだ」そう言い残し、ゴルド王は奥の部屋へと姿を消した。家来たちには、自らの苦悩を悟られぬよう、顔を強張らせたまま。
オーガ王直轄の斥候がすぐに派遣された。オーガの中では珍しく、斥候という職を持つ、ひときわ小柄なオーガだった。
翌日、休む間もなく行動を続けてきた斥候が戻り、報告をあげた。
「申し上げます。人の村は壊滅しておりました。そして、人もガルド様たちもおりませんでした。さらに、村は追い剥ぎによって徹底的に荒らされておりました。人と狼の足跡、そして野営の跡も確認しました。」
「ガルドは何処に?」軍師のオーガ、トルドが尋ねる。
「ガルド様たちの足跡を追いましたが、途中で消えておりました。」
「そこで、やられたのか?」
「分かりません。跡形も無いのです。人を捜索していたようですが」
「そうか」トルドは、少しの沈黙の後、再度訊ねる。
「疲れているところ悪いが、確認させてくれ。狼がいたのか?」
「はい。大きな足跡、爪の痕、一直線な歩き方。間違いありません。もし近くにいたのなら、見つかって生きて帰れるはずはありません」
「そうか。ゆっくり休んでくれ」トルドは、さらに情報を整理し始めた。
南西の森はオークの領地。西の森はオーガの領地。両者は同盟を結んでおり、オーガは北へ、オークは南へと進む。
だが、二つの森は大河で隔てられており、行き来することは稀であった。川が二つ合流し、普段から川幅が広く、深さもあり、流れも速い。橋を使わずに渡るのは自殺行為だと言われていた。
ここ数日、オーガの領域に、川を渡るオークが何度も見かけられたとの情報が上がってきている。住むのは構わないが、奴らの好む森ではないはずだ。
奴らは素早く、簡単に捕まえることはできない。捕獲が難しければ、外交問題に発展する危険もある。事実として、西南の森からオークが逃亡しているという。
オークの森は、かつて狼の森だったことを思い出し、一つの仮説が浮かぶ。
ガルドが村を襲った後、冒険者と狼が現れた。ガルドがいなくなったとなれば、転移魔法を使ったのだろう。あの時、奴らにとって有利な場所で戦闘が行われたに違いない。
狼が冒険者の助けを借り、西南の森を取り戻したのならば、オークキングを倒したことになるだろう。あの王はかなり強い。冒険者とは限らないが、相当な実力者であることは間違いない。
「このままでは詰みではないか! 四方面作戦など止めるべきだった」トルドは悔しさをこぼし、さらに続けた。
「目先で見えている力で判断してしまったのか……挟まれたのならば、挟み返すまで、南の森の主と話をするしかない」
魔物の森全体を巻き込む戦いが、ついに幕を開けた。
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「我が愚弟のこと、故にわしが見て参ります」
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「待て待て。お前は、戦から帰って来たばかりではないか?」
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「エルフとの戦いの傷も癒えておらんだろう」
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彼は敵を挑発し、夜襲を個別に撃退した。そして、捕えたエルフの戦士を生け捕りにし、磔にして見せしめにした。
「出来るだけ生け捕りにしろ!」というゴルド王の命令に従い、バルドは敵の精神を削り、降伏の時間を与えていた。
だが、これから先、更に北にある多くのエルフの村を占領しなければならない。オーガ軍を消耗させず、エルフを精神的に服従させることが、この戦の鍵となる。
しかし、事態は急変した。オーガ軍が包囲していたはずの村が、いつの間にか逆に包囲されていたのだ。
「何者だ?」
「他の村のエルフたちです」
「何だと!」バルドは驚き、即座に状況を把握しようとした。エルフ族が、他の村と協調して戦うとは思えなかった。
しかし、数こそ多いが、それほど強くはないだろう。むしろ、まとめて屠る機会が来たと、バルドは微笑んだ。
なぜなら、オーガ族の固有スキルである治癒と魔法防御があれば、どんな敵も恐れることはないと信じていたからだ。
だが、予想に反して、エルフの矢の嵐がオーガ軍を追い詰めていく。どこからその矢が飛んでくるのか、まるで分からない。
「何をしている! 突っ込んで叩き潰せ!」バルドの声が、苛立ちを隠せずに響く。
「バルド将軍、まずいです! あの大木の上を見てください!」
オーガ兵が指差した先には、見覚えのない大きな白い旗がひらひらと揺れていた。その旗には、ノクスの弓と同じデザインで、エリス神の横顔が描かれていた。
「極北のハイエルフたちが、なぜ我々の戦に参戦するのだ? お前たちに喧嘩を売ってはいない。話し合おう」
バルドは、戦意を喪失させようと、大木に向かって呼びかけた。
「笑止。エリス神からの神託は降りている! お前たちが北の森に入ることは許されない!」と、ノクスの父、ハイエルフの族長ノーザンが、スキル「高揚」を発動し、号令を下す。
エリス神は、そんな神託を与えていなかった。実際、彼女にとってエルフがどれだけ死のうと、村がいくつ失われようと、どうでもよいことだった。
ただ、オーガのエルフ村襲撃の話を、飲み会のような族長会で話している最中、神木に雷が落ちたのだ。
その理由は――アキラとの結婚を勝手に決めたエリオンに、彼女が怒ったからである。
「神の怒りに触れている!」
「何が、お怒りなのだ?」
「助けに行かない我らにお叱りだろう」
会議に参加したエルフ族長たちは全員顔色を失い、急いで村に戻り、全軍出撃の準備を始め、ハイエルフ軍と合流してこの地に駆けつけた。
一段と激しくなるエルフの攻撃。ノクスと同じ年齢のハイエルフ部隊、星の降る年に生まれた優秀な者達が戦線に加わり、オーガ軍はついに撤退を決断した。
「まずい、撤退だ」バルドの声が響き、オーガ軍はその場から全員で離脱を開始した。
「まさか、このスキルを使う時が来るとは……」
バルドは防御陣形を使い、全オーガを呼び寄せ、集団で戦場から撤退を始めた。逃げる際のスキルは、全員の移動速度と防御力を高め、一時的にHPを増加させるものだ。
だが、集団で動くため、逆に敵の格好の的となってしまう。
「戦うな!スキルが効かなくなるぞ」バルドは、隠し持っていたマナポーションを飲み干し、吐き気と疲労に耐えながら、無理に戦場から退いた。
だが、彼の意思に反して、殿を務めるオーガ戦士たちは足止めのためにその場に残り、少しでも時間を稼ごうとした。時間が経過し、再び追撃が迫ると、また1匹が部隊を離れ、時間を稼ぐ。
「やっと追撃が止まったか」バルドはようやく安全な場所に辿り着き、雷が落ちて焼け焦げた場所でようやく走るのをやめた。
そして、本拠地に戻り、弟が行方不明だという報告を受けた。
※
軍師のトルドが言った。「問題が起きたのは間違いないでしょう。最悪の事態を考えれば、まずは偵察を」
「うむ。バルド、休んで次の戦に備えよ。覇王の道はこれからだ」そう言い残し、ゴルド王は奥の部屋へと姿を消した。家来たちには、自らの苦悩を悟られぬよう、顔を強張らせたまま。
オーガ王直轄の斥候がすぐに派遣された。オーガの中では珍しく、斥候という職を持つ、ひときわ小柄なオーガだった。
翌日、休む間もなく行動を続けてきた斥候が戻り、報告をあげた。
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「ガルド様たちの足跡を追いましたが、途中で消えておりました。」
「そこで、やられたのか?」
「分かりません。跡形も無いのです。人を捜索していたようですが」
「そうか」トルドは、少しの沈黙の後、再度訊ねる。
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「はい。大きな足跡、爪の痕、一直線な歩き方。間違いありません。もし近くにいたのなら、見つかって生きて帰れるはずはありません」
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奴らは素早く、簡単に捕まえることはできない。捕獲が難しければ、外交問題に発展する危険もある。事実として、西南の森からオークが逃亡しているという。
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狼が冒険者の助けを借り、西南の森を取り戻したのならば、オークキングを倒したことになるだろう。あの王はかなり強い。冒険者とは限らないが、相当な実力者であることは間違いない。
「このままでは詰みではないか! 四方面作戦など止めるべきだった」トルドは悔しさをこぼし、さらに続けた。
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