アルカディア・クロノクル ゲーム世界に囚われた俺を救うのは、妹か、かつての仲間か

織部

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川を降り船着場に着く

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 アキラたちは、西南の森からオークとの上陸地点へと移動していた。セレナたちが戦った場所ではなく、もう一つの渡河地点だ。
「アキラ、見つけました。」

 仲間の声に、アキラの全身が強張る。慎重に視線を向けると、川から少し離れた生い茂った草むらの奥に、オークたちの船がひっそりと隠されていた。風に揺れる葉音の中、誰かがごくりと唾を飲む音がやけに響く。敵がいつ戻ってきてもおかしくない。胸の鼓動が高鳴った。

 皆で息を詰めながら船を担ぎ上げる。セレナは無言のまま、その後ろを押していた。船が水面に浮かぶ瞬間、彼女はためらいなく身を投じる。その動きは鋭く、他のメンバーが息を飲むほどだった。船は激しい流れに乗り、まるで葉っぱのように揺れながら川を下っていく。

 対岸の森がざわつき始めた。
 森の中には、オークやオーガが潜んでいることを、マップ機能で確認できる。アキラの目が鋭く森を見つめた。
「監視されてるわ」セレナが低く告げる。船の上に立ち上がった彼女は、楽しげな目で森の奥深くを見つめていた。何者かが、こちらを伺っている。

 セレナはゆっくりと腰から剣を抜き、肩に担ぐ。遠くから聞こえていたオークたちの喚き声が、次第に低くなり、やがて不気味な静寂に変わった。

 船は川の流れに逆らわず、静かに下流へと滑り続ける。セレナは剣を握ったまま、対岸の森を一瞬たりとも見逃さない。
 森の中に潜む魔物たちが、じりじりとこちらの動きを追うように移動しているのが、うっすらと見て取れる。船が進むたび、葉のざわめきも連動するように静かに移動していった。

 しばらくすると、大河に架かる唯一の大橋が見えてきた。しかし、以前は無事だった橋も、今は一部が崩れており、渡れない状態だ。アキラは眉をひそめ、視線を巡らせる。オーガ領側の橋の入口には柵が作られ、オークの衛兵が見張りをしているのが見えた。

「橋は封鎖されているのか」アキラは息をつく。

 その瞬間、ルナが突然ノワールを背に乗せて飛び上がった。「跳躍」の力で橋の上に舞い上がると、そのままオーガ領側に向かって疾走する。ノワールは素早く鞭を振り回し、閃光のような一撃がオークたちの視界に飛び込んだ。オークたちは一目散に逃げ出したが、ルナは体を翻し、すぐに船に戻ってきた。

「何やってるの?」アキラは呆れた声を出す。
「ふふふ、威力偵察よ。執事長がそう言うのがあるって。敵の反応を確かめたのよ。でも意外に脆い!」セレナが説明する。ルナは楽しそうな様子だ。

 確かに、ルナの動きに対するオークたちの対応は鈍かった。想定より統制が取れていないのかもしれない。
 ノクスは無言で弓を握りしめ、焦るように何かを見定めている。
「ノクスも、いいよ」
「では!」

 ノクスは静かに弓を引き絞り、狙いを定めると、「炎風の魔法矢」を放った。矢は「シュッ」と空を裂き、オーガ領の森の上空で炸裂する。轟音が響き、炎が一瞬にして夜空を染め上げた。周囲の空気が一気に熱を帯び、森の木々が揺らめく。

 魔物たちは気配を一帯から完全に消した。
 やがて切り立つ岩場が川の両側に見える。ここを越えると、川の流れは滝へと続いていた。アキラの心臓が跳ね上がり、息を呑む。「まずい、滝が近い!」

「そこだ!全力で漕げ!」アキラの声は緊迫感に満ちていた。彼とノクスは風魔法を使いながら、全員で必死に櫓を漕ぐ。船は激しい水流の中で揺れ、緊張感が体中を駆け巡った。

 櫓が「ギィ…ゴッ」と軋む。水面をかく「ザブン、ザブン」という音が響く。飛沫が容赦なく顔に叩きつけられ、視界が揺れる。手が滑りそうになるのを必死でこらえながら、アキラは船の動きを必死に制御した。
「くそっ、間に合え…!」

 滝の轟音が背後から次第に遠ざかる。ついに船が岸へと近づき、アキラたちは一斉に飛び降りた。
 無我夢中で体を動かし、全員が船を押し上げる。数秒後、ようやく安定した地面に足をつけた瞬間、アキラはぐったりと膝に手をついた。

「危なかった…落ちたら危険だった」
 滝は激しい水流で地面に叩きつけられ、その轟音は地響きを立てていた。彼らのいた場所が、今や泡と飛沫の渦に呑まれている。

 マップ機能で確認すると、魔物の反応はすべて消え、人間の領域に入ったことがわかる。セレナも静かに確認し、深く息をついた。

 船着場から続く道は長い間使われていなかったようで、草木が生い茂っている。アキラは慎重に火魔法を使い、草木を焼き払いながら進んだ。焦げた草の煙が鼻をつき、一瞬むせそうになるが、すぐに水魔法で消火する。

 セレナとノクスは、ドワーフに研いでもらった鎌を手に取り、残った草を次々と刈り進めた。
「これ、すごいよく切れる!」
 セレナとノクスは真剣な表情ながらも楽しそうに作業を続け、その速さにより、アキラが焼いて消火する役目になった。

 そんな中、ルナとノワールが狩りから戻ってきた。ノワールが嬉しそうに報告する。
「アキラさん、倉庫を見つけました!」

 皆でその場所へ向かう。道から少し外れたところに、二階建ての大きな倉庫が姿を現した。周囲には足跡もなく、長い間使われていないのが明らかだった。
 入り口の扉には頑丈な鍵と錆びたチェーンがかかっていた。セレナは迷いなく牙狼剣を抜き、チェーンを一瞬で切り裂く。

 鋭い金属音が響く中、彼女は扉をこじ開けた。重い扉が軋みを立てながら開き、皆が中に足を踏み入れる。
「やっぱり、セレナが好奇心を抑えられるわけないね」
 天窓から差し込む光で、倉庫内の様子がはっきりと見えた。整然と並ぶ様々な船や荷車、見たことのない武器、製造機器――まるで造船所か武器製造所のようだった。

「これ、持って帰ったらドワーフのおじさんが喜ぶんじゃない?」
「倉庫というより、造船所か武器製造所みたいね。ラピさん、どう思う?」アキラが尋ねる。
「ええ、私も初めて見ます。ここは……」ラピスが珍しく言葉に詰まる。
 皆が倉庫内を見回す中、ノワールが突然叫んだ。
「この紋章…!」

「どうした?」アキラが顔を向ける。
「この船についている紋章、全部アストリア様のものです! こんな場所があるなんて知らなかった。この倉庫、間違いなくアストリア様の所有物です」

「このまま置いておくのは危険です。それなら、持ち帰りましょう」ラピスが冷静に提案する。
「どうやって?」アキラが途方に暮れて尋ねる。
「何を言ってるんですか? これくらい、アキラの空間倉庫に入りますよ」ラピスがにやりと笑う。
「ノワール、この倉庫、ヴァイオレット様やフェニックスさんにも見せたいのですが」
「ここに来てもらうのですか?」
「僕が運ぶよ。みんな、外に出て」

 全員が倉庫の外へ出た瞬間、アキラは空間倉庫の魔法を発動させた。
 空気が一瞬、ピンと張り詰める。次の瞬間――倉庫全体が静かに歪み、波紋のように揺らめいたかと思うと、霧のように空間へと溶けていった。

「すごい……」「ワオーン!」
 驚いたノワールは目を白黒させ、その場で尻餅をついた。
 セレナたちは、アキラの空間魔法を知っていた。それでも、再び目の当たりにすると、その圧倒的な力に思わず息を呑む。



 道なき道を整備しながら突き進むと、やがて主要道路にぶつかった。その手前には、今にも崩れそうな道路看板が立っている。

左、西海の港湾都市セーヴァス
右、炭坑町ウエストグラン
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