アルカディア・クロノクル ゲーム世界に囚われた俺を救うのは、妹か、かつての仲間か

織部

文字の大きさ
87 / 138

峠の休憩所 オークたちの会話

しおりを挟む
 ルーカス達が、峠の休憩所に着くと、王国騎士団の残留部隊がキャンプをしていた。冒険者達の姿を見て、団員達にざわめきが起こった。

「ルーカス殿、どうなされましたか?」団員の一人が尋ねた。
「オークの大群に、作戦本部を強襲されました。オタル・ギルド長も重体です。あちらに。」
「なんだと! 作戦本部は、この近くだろう。どうしますか? ヤハタ部隊長」団員が指示を仰ぐ。部隊長は、温厚そうな初老の男であった。

「団員全員、魔物襲撃に備えて戦闘配備をしろ。周辺警戒を実施、交代で仮眠。直ちにかかれ! それと、冒険者全員に聞き取りをしろ。セーヴァスに早馬をとばせ!」

 部隊長はすぐに指示を出し、小隊長以下、行動に移った。
「話を聞かせてもらえますかな、ルーカス殿」

 温厚な男の目が、わずかに光った。
「それより、先に部隊をアリーシア村に派遣してもらえませんか?」
「なぜ?」ヤハタは驚いたように聞いた。
「アリーシア村の冒険者にも危機が……情報も、違うことを伝えないと」

「それと我々に関係はないでしょう。今回の魔物退治はギルドの仕事のはず。団長、副団長からの指示と違うことは、私にはできません。ここには二十名しか残っていません。他はセーヴァスにいますからね。アリーシア村には、あなたが向かえばどうですか? この中では一番強そうですしね、副ギルド長。馬を一頭お貸ししましょう。それくらいなら、私の権限でなんとかなりますよ」

「我々は、王国のために——」
「はっはっは。面白い冗談だ。金のためですよね」

 ヤハタのような庶民上がりの部隊長クラスには、今のギルドについて思うところがあった。
「……とりあえず、馬を一頭借りる」
 ルーカスは、言い出してしまった以上、アリーシア村に行く羽目になった。仕方ない。だが、危険すぎる。
 夜道を駆けるのは無謀だ。獣道も多く、視界も狭い。万が一、襲撃でも受ければ村に辿り着けなくなる。今は体力の温存と情報整理が先だ。
 時間を潰して、朝にでも着くように行こう。



 アキラたちが峠の休憩所にたどり着くと、ハートフェルトたちとの合流を果たす前に、王国騎士団の警戒に捕まった。冒険者全員に聞き取りをしているとのことで、彼らは幕屋へと連れていかれた。
「またか。三度目だな……」
 アキラは、ため息混じりに呟いた。鬱陶しさを隠せなかった。

 やがて、部隊長のヤハタが幕屋に入ってきた。部下にお茶を出すように指示して下がらせると、自ら椅子を指して座るよう促した。
「少し話を聞きたいだけだ。時間を取らせて悪いな、坊主」

 さっきまでの厳しい表情とは打って変わって、優しげな笑みを浮かべていた。
「ここには俺一人だ。事情を聞くだけ。安心してくれ。——お前たちが、冒険者を助けたそうだな?」
「……」
「冒険者どもにはもう聞き取りを済ませたよ。あいつら、お前たちを置いて逃げたらしいな」

 アキラは、隠し通せないと悟ってうなずいた。
「……そうですね」
「ありがとな。強いんだな、お前たち」

 ヤハタの声には、敬意すらにじんでいた。
「そういえば、お前は——エリス様の使徒なんだって? この騎士団でも噂になってるぞ」
「使徒かどうかは、わかりませんが……」

 アキラはまた嘲笑されるのではと、わずかに身構えた。
「そんな顔するな。嘘だなんて言ってないさ。よくある話だ」
「そうなんですか?」
「ああ。何人もいるぞ。有名な話だが、アストリア様はアイリス神とよく話していらした。俺は見たことがある。……神と話すというより、友人と語らうような雰囲気だったな」

 まるで、アキラとラピスのように。思わず、アキラの顔が綻ぶ。
「ところで、改めて名前を聞いてもいいか? 名前で呼んだ方が話しやすいからな。俺はヤハタ、部隊長だ。昔は冒険者をやってた。ずいぶん前の話だけどな」

「アキラです」
「ハイエルフ、ノーザンの娘。魔法戦士ノクス!」
 ノクスの名乗りは、決めポーズ付きだった。思わず全員が笑った。
「ノワ」
 小さな声で、下を向いたまま答えた。

「ノワ……ノワールか。うん、いい名前だ。ノワールと言えば、黒髪ロングの北国美人。アストリア家のメイド長で、都じゃ誰でも知ってる有名人だ。将来は可愛くなれる名前だな」
「でも、ヴァイオレット様を誘拐したって……」
「はっはっは! そんな話、誰が信じるか。あの跳ねっ返りお嬢様の、いつもの我儘さ。だがな、その割に、王子たちの動きが……おかしいんだよ」

 ヤハタの目が、わずかに鋭さを帯びた。
「どこが?」
 ノワが、つい聞き返してしまう。
「ははは。おちびちゃん、王子様が好きなのか?」
 茶化されたノワは、ぶんぶんと首を振った。
「違うのか? 安心したよ」

「それで、王子がおかしいって、どういうことなんですか?」
 ノクスが真顔で尋ねた、そのとき——。
 幕屋に、お茶を運んできた部下が戻ってきた。

「早いな。——時間を取らせたな。話はここまでだ」
 ヤハタはすっと席を立ち、アキラたちを幕屋から退がらせた。
「良い旅を。エリス神の祝福を……我らにも」

 その呟きは、小さく、それでいて心に残る声だった。

※※

「それで、狼娘は?」
 オークのドルムは、アリーシア村の廃墟で、アキラたちから逃れてきた部下に問いかけた。
「いませんでした。……もし、いたのなら、生きて戻れた者はおりません」
「そうか。だが、魔術師とエルフはいたのだな?」
「はい。多くの仲間がやられました。バルム様も、我々を助けようとして、重傷です」
「……そうか。バルムを連れて、しばらく森の奥で体を休めろ。ザルム、食料を渡してやれ」

 アリーシア村では、人間の襲撃を退けたことで、オークたちは一時歓喜に沸いた。しかし、司令部が襲撃され、バルムの部隊がほぼ全滅したという報せが届くと、村の喧騒は水を打ったように静まり返った。

 その時、森で冒険者と戦っていたのは、工事作業のために多くのオークを集めてきたザルムの部隊だった。彼は命じられていた撤退を無視し、残っていたのだ。
「ザルム、奴らはこっちに向かっているのか?」
「いえ、引き上げました」
「そうか……ならば今のうちに次の戦いの準備だ。まずはオーガとの交渉だな。冒険者どもの装備や道具は、奴らとの良い取引材料になるだろう」
「そうしましょう。ところで、落とし穴や森で捕えた者が思ったより多いですが……どうします?」
「ふん、それなら俺に使い道がある」

 そう言って、ドルムは話を続けた。
「しかし、見事なほどに策にかかったな。『狼娘も同じ策で倒せるんじゃないか』と、仲間たちが騒いでいるが……どう思う?」
「やらせてみてもいいでしょう。私は遠慮しておきます。狼娘が目の前に現れたら……逃げないオークがどれだけいますかね?」
「ほとんど、腰抜かして逃げるだろうな」
「では、人質作戦は?」

「……ガルムの最期を俺は見ている。ああいう手は、かえって奴を本気にさせるだけだ。楽に死にたいなら、やめとくことだな」
「夜行性なのは同じ。隠れても音で気づかれるし、泳ぎも得意……爆薬や黒油は?」
「すぐに匂いで策と見抜かれるだろう」
「だよな……。今回は、いなくて良かった」
「いたら、私は真っ先に逃げます」二人は顔を見合わせ、思わず笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部
ファンタジー
 ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。  背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。  母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。  セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。  彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。  セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。 「セラ、ウミ」 「ええ、そうよ。海」 ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します! カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。

世界一簡単にレベルアップ ~魔物を倒すだけでレベルが上がる能力を得た俺は、弱小の魔物を倒しまくって異世界でハーレム作る事にしました~

きよらかなこころ
ファンタジー
 シンゴはある日、事故で死んだ。  どうやら、神の手違いで間違って死んでしまったシンゴは異世界に転生することになる。  転生する際にオマケに『魔物を倒すだけでレベルが上がる』能力を貰ったシンゴ。  弱小の魔物を倒してレベルを上げ、異世界でハーレムを作る事を企むのだった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

転生したら鎧だった〜リビングアーマーになったけど弱すぎるので、ダンジョンをさまよってパーツを集め最強を目指します

三門鉄狼
ファンタジー
目覚めると、リビングアーマーだった。 身体は鎧、中身はなし。しかもレベルは1で超弱い。 そんな状態でダンジョンに迷い込んでしまったから、なんとか生き残らないと! これは、いつか英雄になるかもしれない、さまよう鎧の冒険譚。 ※小説家になろう、カクヨム、待ラノ、ノベルアップ+、NOVEL DAYS、ラノベストリート、アルファポリス、ノベリズムで掲載しています。

処理中です...