アルカディア・クロノクル ゲーム世界に囚われた俺を救うのは、妹か、かつての仲間か

織部

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図書館 ※真実

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 次の目的地は、村の中心に建てられた新しい図書館だった。
「待ってたよ! 早く早く!」

 現場に到着すると、アリアとステラが笑顔で手を振りながら駆け寄ってきた。

 アキラが準備した図書館は、小ぶりながらも重厚な石造りの建物で、地階には貴重な書物を保管するための書庫も備えている。
「じゃあ、本棚も出しますよ」

 アキラがアストリアの間から運び出した本棚を並べはじめると、その数にアリアが思わず声を上げた。

「ははっ、さすがアストリア! なんだいこの本の量は……」彼女は笑いながらも、感心したように棚を見渡す。

「誰にも貸出はしないよ。貴重な本も混じってるからね。ここで読むってルールでいこう、ヴァィオレット」すっかり司書官気取りでアリアが提案する。

「はい、異論ありません」ヴァィオレットは静かに微笑んで応じた。

「アストリア様の蔵書だけでなく、古代語の文書や由来の不明な書類も含まれているかと。閲覧を許可するかは、個別に判断が必要です」
「ま、古代語なんて、まだ一部しか読めないしね」
 アリアは肩をすくめると、何気ないふうを装ってアキラに視線を投げた。

 アキラは、本の中に危険な内容が紛れている可能性に気づいていた。けれど、選別しきれずに全て持ち出してしまったのだ。いずれ、整理と回収が必要になるかもしれない。

「私がいないときは、図書館は開きませんからね!」

アリアがぴしっと指を立てる。
「え? じゃあ薬草採り、禁止にしようかな?」
アキラがからかうように言うと、アリアは一瞬黙り込んだ。

「そ、それは……」気まずそうに口ごもる彼女に、ステラが明るく声を投げた。

「ティールームがあるから、ティータイムにしようよ!」空気がぱっと和らぐ。
 新しい図書館は、知と笑顔を詰めこんだ、小さな宝石箱のようだった。


 その夜、アキラはアキラハウスの自室に戻っていた。ひさしぶりに、何も背負わずに息ができる夜だった。

「なんか、落ち着くな。ラピさん」
 目を細めるアキラに、ラピスがそっと頷く。
「それは良かったです。ここは、あなたの帰る場所ですから」

 何も聞こえない静かな室内。そのまま沈黙を楽しんでいたアキラだったが、ふと口を開く。
「……セレナにでも連絡してみようかな」
 ぽつりと漏れた言葉に、ラピスが優しく微笑んだ。
「きっと、喜びますよ」

 けれどその目元には、ごくわずかに意地悪な光が宿っていた。

(連絡が入れば、あの子も少しは焦るでしょう)

 アキラはスキル《遠隔通信》を起動する。指先が光をなぞり、魔法陣のようなエフェクトが空中に広がった。

「セレナ、今どこにいる?」
『あっ、アキラ~! 今は王都にいまーす!』
「ワオーン!」

 通信の向こうで、ルナの元気な声が重なる。
「え、まだ王都? 何かあったのか?」
『だいじょーぶでーす! 帰ったらすっごいモノ見せますからねー! 楽しみにしててくださーい!』

 明るく言い切ると、通信は一方的に切れた。ぷつん、と軽い音がして、空間の光が収束する。

「……何してるんだろうね?」
 アキラが苦笑すると、ラピスが静かに応じた。
「さあ。でも――あれで、少しは前に進めるはずです」

 ラピスはわずかに笑みを深めた。その笑顔をアキラはもちろんわからない。
「それよりも、溜まっているガチャを引きましょう」

 ラピスの声が、ごく自然に空気を切り替える。
「さて……運命のガチャタイム、だな」
 アキラはソファから身を起こし、右手を軽く掲げる。
「全て引きましょう!」

 ラピスの声が少しだけ弾む。どこか、アキラ以上に楽しんでいるようにも思えた。

※※※※

 時雨の隠れ家。
 二人は、ずっと画面に釘付けになっていた。映し出されるすべてに目を奪われながらも、どこか冷えた無力感が胸を締めつけていた。

 彼らには、この画面の向こう側に干渉する術がない。
 時雨によれば、方法そのものは存在する。けれど、行動を起こすための——アクティブポイントが、決定的に足りていなかった。

「無いとかいうレベルじゃないの。マイナスなのよ。こんなこと、許されるのかしら?」
「でも、ポイントが加点されていけば……いずれ」

 山吹の希望的観測は、すぐに否定された。
「それはね、守護する対象が稼いでくれれば、こちらのアクティブポイントが増えていく仕組みなの。でも、その対象が——死んでるのよ」

 その一言で、山吹はようやく気がついた。
 このアカウントでは、何もできない。
 ただ見ているだけ。

 ただの観客席に座らされているに過ぎない。
「ところで、あのアキラって人物——お兄さんと関係があるのかしら?」
 突然の問いに、山吹は大きく首を振った。
「わからない」
 けれど、その言葉はどこか苦しげだった。

 わからない。わからない——わかりたくない。

 本当に?
 あなたは知っているはずよ。
 ただ、知らないふりをしているだけ。

 そんなふうに、時雨の声が、勝手に継ぎ足されていく。現実とは違う“もうひとつの声”が、山吹の妄想を蝕んでいく。

 なぜ、このゲーム世界の創造主は、私たちの侵入を許したのか? 

 あるいは、それすらも予期され、監視され、誘導されているのではないか?

「何をさせたいのかしら?」
 その疑念は、口にせず、山吹は問いを飲み込んで、別の言葉を紡いだ。

「あなたの守護対象、生きていたの?」
「そうなの」
 時雨は抑えきれず、感情を爆発させた。
 声の調子ひとつで、すべてが伝わってきた。
「良かったね」

 あくまで軽い、他人事の確認のつもりだった。
 ただ、ゲームキャラクターのデータがまだ残っていたという、それだけのことだったはずなのに。

 気づけば、彼女たちの意識は、ゆっくりと、確かに、このゲーム世界の中へと引き込まれていた。

 見ているだけのつもりが、感じている。考えている。関わってしまっている。

 もうすでに、境界は曖昧になり始めていた。

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