アルカディア・クロノクル ゲーム世界に囚われた俺を救うのは、妹か、かつての仲間か

織部

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セレナの王都

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 セレナたちはあっという間に王国にたどり着いた。最初はゆっくりとしたペースで進んでいたが、セレナの得意技である疲れ知らずの長距離移動により、翌日には王都に到着していた。

 夜が深まる頃、移動の途中で、商人のキャラバンが盗賊に襲われているのを目撃した。セレナたちは一瞬の迷いもなく助けに入る。盗賊を蹴散らし、感謝の言葉を口にした商人から、王都で評判の美味しい店と宿を紹介される。

「いやあ、お強いですね! 本当に助かりました。どうか、奢らせてください!」
 商人は恰幅の良い中年で、破顔しながらセレナに言った。
「たいしたことしてないから。お金もあるし、大丈夫!」セレナは軽く笑って断った。
 隣では、ルナが元気よく吠える。

「ですが、お話しした宿や店は高級でして……! 是非、私にお任せを!」商人がまるで頼んだかのように言う。
 どうやら、この商人はセレナたちの腕前に感動し、警備役にでも引き込みたいらしい。しかし、セレナはあまり乗り気ではない。

「うーん、でも、やめとく。また今度ね」本当のところ、セレナたちには別の心配があった。
 ふと、周囲に意識が向く。監視者の目が何人もセレナたちに注がれていることに気づく。冷ややかな視線に、セレナは警戒心を抱いた。

「こっちだ」セレナは低く指示を出し、ルナは無言で路地裏へと駆けていく。
 静まり返った路地裏の陰から、セレナの視線が鋭くなる。すぐに、監視していた老人が姿を見せた。セレナは忍び寄り、声をかける。
「おじさん、何か用?」
 老人はびっくりして目を見開いたが、すぐにしらを切る。
「い、いや、別に……」

 セレナは一歩踏み込んだ。周囲の空気が変わったのを感じた。臭いでわかる。彼らは仲間だ。そして、ただの市民ではない。
「嘘は通じないよ」セレナは老人の袖を掴み、強く引き寄せた。だが、老人は素早く服を脱ぎ捨て、その場を離れた。
 セレナはその後を追うことなく、軽く肩をすくめて、見送りの仕草を見せた。

「ボロのふりをしていたけど、服の質は一級品。それに、最初から敵意はなかった……」セレナは一瞬だけ考え込むが、それ以上追求する気はなかった。
 アキラに報告するつもりだったが、歩きながらそのことをすっかり忘れていた。

 しばらくして、ルナが戻ってきた。軽やかに走りながら、尻尾をふりふりと振っている。
「わかった?」
「ワオーン!」ルナは胸を張って自慢げに吠える。
「ルナ、王都じゃ吠えちゃダメだってば……」セレナは苦笑しながら、ルナを見た。

「……まあ、夜中にもう一度行こう。それまではどうする?」セレナは考え込み、商人が言っていた宿の方向を見た。「道で寝てもいいけど、王都じゃ禁止だって商人さんが言ってたしね。紹介された宿に行こうか」

 ルナは何も言わず、軽く頷いた。
 紹介された宿は、大通り沿いにあり、冒険者ギルドや商人ギルドが並ぶ場所にあった。煌びやかな高級宿の前に立つと、セレナは躊躇せずに扉を開けた。

「すいませーん、泊まりたいでーす!」
 狼人族の少女と、狼がズカズカと宿に入っていく。その姿に、受付の女性は驚いたが、すぐに笑顔を作り直した。彼女も商売人で、即座にプロフェッショナルな対応を見せる。

「申し訳ありません。本日は満室でして……」女性は困ったように頭を下げた。
「そっかぁ。じゃあ、仕方ないね」セレナはあっさりと踵を返し、玄関へ向かう。

 その時——
「おっと、来たんですね!」さっきの商人が駆け寄ってきた。着替えた彼からは堂々とした様子で、高級な宿に泊まる姿から一流商人の風格がにじみ出ていた。
「でも、満室らしくて……」
「ちょっと待ってて」商人は受付で交渉を始めるが、しばらくするとセレナを呼び止めた。

「冒険者ギルドのカードはお持ちですか?」
「何それ?  持ってない」セレナはあっけらかんと答えた。
「それでは、冒険者様の部屋には泊まれません……となると、ロイヤルスイートルームしか空いてませんが」支配人が受付嬢に変わり、冷ややかに告げた。

「そんな部屋が!  美味しそう!  幾ら?」セレナは、お菓子付きの部屋だと思い込み、目を輝かせる。
 支配人は、一瞬呆れた表情を浮かべると、セレナを見下すように吐き捨てるように告げた。「金貨百枚ですよ」
「うーん」セレナは難しい顔をした。物価があまりよくわからない。いや、全くわからないが正解だ。だが、スイートの誘惑には勝てない。

「他の宿を紹介しますよ!」商人は、セレナの顔色を伺いながら言う。
「これで良いのかな?」金貨五千枚も持っているセレナにとって、百枚ぐらいは問題ではない。それに足りなくなって困ったらアキラがなんとかしてくれるだろう。

 セレナは空間魔法をポケットに展開し、ドラゴニア金貨を百枚取り出した。
「え?」
「え!」
 支配人と商人は同時に声にならない声を上げた。その顔が引きつり、目が見開かれる。

「間違えたのかな?」セレナは慌てた。ルナは早くしろと睨んでくる。お腹が減っているらしい。
「し、失礼ですが、金貨を鑑定させて頂いてもよろしいですか?」支配人は、目の前に並べられた金貨に、まるで恐ろしいものを見るような視線を向けながら、十枚を手に取ってバックヤードへと引っ込んだ。

 商人は机の上に広がった金貨を眺めながら、唸った。「セレナさん、私も見ても良いですか?」
「うん。好きにすれば」セレナは手をひらひらと振って答えた。金貨をどうしてそんなに真剣に見て楽しいのか、

 彼女にはさっぱりわからなかった。この金貨、どう考えても、純正の金に違いないのに。
 数分後、支配人が汗だくで戻ってきた。「お待たせしました。お部屋にご案内します。」
「やったー! ありがとう!」セレナはルナを引き連れて部屋に向かう。

「宿一つ取るのも大変だなぁ、これが旅かぁ」と呟きながら、部屋に入ってみると——
 豪華な内装に一瞥もくれず、セレナはテーブルを確認する。
「……お菓子は?」期待していたお菓子がないことに気づき、セレナはガッカリした表情を浮かべる。

「お菓子はついてないのか?」セレナが支配人に尋ねると、支配人は困惑した様子で答えた。
「いえ、ロイヤルスイートにはお菓子はついておりませんが、他のサービスは——」

 セレナは肩をすくめ、「あぁ、そうなんだ」と言いながらルナを見下ろした。

「お菓子、なかったね」セレナは不満げに呟くと、ルナは軽く唸った。

「仕方ないな……」セレナは考え込み、そして決断したように言った。「ご飯とお菓子を食べに出かけるか!」
 セレナたちは、王都の夜の探索に出かけた。
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