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新たな住民 2
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五人が語るこの場所への転移は、アキラたちにとって徐々に「日常の中の非日常」になりつつあった。
ダリオスが椅子に浅く腰をかけ、静かに口を開く。
「わかりやすく説明するよ」
そう前置きしながらも、語られる内容は十分に奇妙で――だからこそ、選ぶ言葉は丁寧で、誠実だった。
彼を知り、信頼する五人も落ち着いた様子で耳を傾ける。会話は自然と、これからの方針へと移っていった。
「ご存知の通り、ホテルを閉めて旅に出るつもりだったんですが……」
この前アキラたちが世話になったホテルの経営者――アルストン夫妻の夫が、やや照れくさそうに言う。
「そうでしたね。実は、私の領地に新しいホテルがありまして。今ちょうど、経営者を探していたところなんです」
ラジオを聴くように気楽に話を聞いていたラピスは、ふと気づいて顔をこわばらせた。――ホテルに名前をつけていない。看板も、外観のデザインすら途中だった。
一流のホテルマンに見せるには……まずい。アキラは自信満々なのに。
焦ったラピスの手がわずかに震え、持っていたカップがかちゃりと鳴った。
「こんな場所に? ……でも、客なんて来るのか?」
誰かの率直な問いに、夫妻は顔を見合わせて微笑む。
「それが、来るんですよ。不思議でしょう? あとでご案内しますね。ぜひ一目、見ていただきたいんです」
ラピスの自信作でもある。アキラは、どうやら自慢する気らしい。
ラピスの顔は青ざめたままだった。
湯気立つ香りが、ふわりと空気を包む。
ステラが静かにカップを配って回る。注がれたお茶は、ほんのり甘く、市場で買い求めた高級茶。
「俺たちは、人と魔物の戦争が近くで始まりそうだったんで、逃げてきたんだが……」
ホワイティ・ハウル食堂の店主、トトの低い声が空気を震わせる。
「ここは、しばらくは安全ですよ」
アキラがきっぱりと答える。その響きに、場の空気がわずかに和らいだ。
「だが、川の向こうは魔物の森だろ? 本当に大丈夫なのか?」
トトの問いに、アキラはうなずく。
「アリーシア村の人々も、ここに疎開しています。この場所には“認識阻害”の魔法が張られているので、魔物たちには気づかれません」
すぐ横から、小さな声がした。
「あの……セレナさんは?」
食堂の看板娘、ロロがそっと顔を上げる。握ったカップが少しだけ揺れていた。
「里帰りしてるよ。そのうち戻ってくる」
「そっか……会いたいな。……ねぇ、父さん、少しだけ、ここにいようよ。コボルトさんたちもいたし……」
ロロが見上げる先で、父親がしばらく無言で娘を見つめていた。やがて、目尻をやわらかく下げ、静かにうなずく。
「そうだな。……少し厄介になろう。宿は、あるのか?」
「ギルドホールの宿舎か、ホテルのどちらかですね」
「ギルドホール?」
声が割って入った。リアナだった。驚いたように目を見開き、身を乗り出す。
アキラは町を案内してくれた彼女を見つめた。確かに、彼女は町にいた。だが、どうやって?
「……リアナ。君はどこで転移したんだ?」
「兄ちゃんを探してて……それで、巻き込まれたの」
短く答えたその声に、わずかな迷いが滲んでいた。
アキラの脳裏に、腹立たしい光景が浮かぶ。
副ギルド長――ルーカス。戦闘が始まるや否や真っ先に逃げ出した男。しかも、他人には正直さばかりを求めていた。
「そうか。ルーカスさんに怪我はなかったよ。……アリーシア村に偵察に向かったって聞いていたけど」
「ごめんなさい。お兄ちゃん、昔から逃げ足だけは早いの。……悪気はないの」
俺の言葉から察したのだろう。リアナが静かに口にする。頭の回る子だ。
アキラは思う。――ルーカスは、自分と同じ、小心者なのかもしれない。
「それじゃあ、ギルドホールとホテル、案内しよう。疲れてると思うけど、ついてきてくれ。元アリーシア村の住民も紹介するよ」
ダリオスが席を立ち、五人がそれに続く。
※
「あとは、ダリオスに任せよう。俺たちは、コボルトたちに会いに行こう」
コボルトの対応は、ドワーフのストーンファイアに任せていた。
「ああ、アキラ殿、説明は終えたよ。それで、こいつらなんだが」
「我ら、西北の森に住むコボルト・シルヴァ・クロウ一族。私は族長のカリム。オーガどもの襲撃で棲家を追われた。ストーンファイア殿と同じだ。アキラ殿は牙狼の娘の主人と聞いた。我らもしばらく住まわせてもらえないだろうか?」
ラピスにアドバイスを求めたが、彼女の気配は無かった。彼女は、それどころでは無かったからだ。
カリムの後ろには、コボルトたちが疲れ切った表情でいる。子供のコボルトたちは今にも倒れそうだ。
「もちろんだ。ここは安全だ。棲家はどうしよう?」
「島でどうだろうか?」
「ああ、構わない。塔も小屋も好きに使ってもらって構わない。食料は提供するよ。だけど、畑と薬草畑は荒らしちゃ駄目だよ。セレナが大事に育ててるから?」
「ひえええええ、絶対に、荒らしません」コボルトたちが口々に誓いの言葉を出す。
「それと、魔物の森も、入らないでね。セレナに相談してからね。牙狼の森だって言ってるから」
「ひえええええ、絶対に、行かない」またしてもだ。
まるで、地獄の門番の名でも聞いたかのようだった。
「いったい何をやったんだ、セレナは……」
ダリオスが椅子に浅く腰をかけ、静かに口を開く。
「わかりやすく説明するよ」
そう前置きしながらも、語られる内容は十分に奇妙で――だからこそ、選ぶ言葉は丁寧で、誠実だった。
彼を知り、信頼する五人も落ち着いた様子で耳を傾ける。会話は自然と、これからの方針へと移っていった。
「ご存知の通り、ホテルを閉めて旅に出るつもりだったんですが……」
この前アキラたちが世話になったホテルの経営者――アルストン夫妻の夫が、やや照れくさそうに言う。
「そうでしたね。実は、私の領地に新しいホテルがありまして。今ちょうど、経営者を探していたところなんです」
ラジオを聴くように気楽に話を聞いていたラピスは、ふと気づいて顔をこわばらせた。――ホテルに名前をつけていない。看板も、外観のデザインすら途中だった。
一流のホテルマンに見せるには……まずい。アキラは自信満々なのに。
焦ったラピスの手がわずかに震え、持っていたカップがかちゃりと鳴った。
「こんな場所に? ……でも、客なんて来るのか?」
誰かの率直な問いに、夫妻は顔を見合わせて微笑む。
「それが、来るんですよ。不思議でしょう? あとでご案内しますね。ぜひ一目、見ていただきたいんです」
ラピスの自信作でもある。アキラは、どうやら自慢する気らしい。
ラピスの顔は青ざめたままだった。
湯気立つ香りが、ふわりと空気を包む。
ステラが静かにカップを配って回る。注がれたお茶は、ほんのり甘く、市場で買い求めた高級茶。
「俺たちは、人と魔物の戦争が近くで始まりそうだったんで、逃げてきたんだが……」
ホワイティ・ハウル食堂の店主、トトの低い声が空気を震わせる。
「ここは、しばらくは安全ですよ」
アキラがきっぱりと答える。その響きに、場の空気がわずかに和らいだ。
「だが、川の向こうは魔物の森だろ? 本当に大丈夫なのか?」
トトの問いに、アキラはうなずく。
「アリーシア村の人々も、ここに疎開しています。この場所には“認識阻害”の魔法が張られているので、魔物たちには気づかれません」
すぐ横から、小さな声がした。
「あの……セレナさんは?」
食堂の看板娘、ロロがそっと顔を上げる。握ったカップが少しだけ揺れていた。
「里帰りしてるよ。そのうち戻ってくる」
「そっか……会いたいな。……ねぇ、父さん、少しだけ、ここにいようよ。コボルトさんたちもいたし……」
ロロが見上げる先で、父親がしばらく無言で娘を見つめていた。やがて、目尻をやわらかく下げ、静かにうなずく。
「そうだな。……少し厄介になろう。宿は、あるのか?」
「ギルドホールの宿舎か、ホテルのどちらかですね」
「ギルドホール?」
声が割って入った。リアナだった。驚いたように目を見開き、身を乗り出す。
アキラは町を案内してくれた彼女を見つめた。確かに、彼女は町にいた。だが、どうやって?
「……リアナ。君はどこで転移したんだ?」
「兄ちゃんを探してて……それで、巻き込まれたの」
短く答えたその声に、わずかな迷いが滲んでいた。
アキラの脳裏に、腹立たしい光景が浮かぶ。
副ギルド長――ルーカス。戦闘が始まるや否や真っ先に逃げ出した男。しかも、他人には正直さばかりを求めていた。
「そうか。ルーカスさんに怪我はなかったよ。……アリーシア村に偵察に向かったって聞いていたけど」
「ごめんなさい。お兄ちゃん、昔から逃げ足だけは早いの。……悪気はないの」
俺の言葉から察したのだろう。リアナが静かに口にする。頭の回る子だ。
アキラは思う。――ルーカスは、自分と同じ、小心者なのかもしれない。
「それじゃあ、ギルドホールとホテル、案内しよう。疲れてると思うけど、ついてきてくれ。元アリーシア村の住民も紹介するよ」
ダリオスが席を立ち、五人がそれに続く。
※
「あとは、ダリオスに任せよう。俺たちは、コボルトたちに会いに行こう」
コボルトの対応は、ドワーフのストーンファイアに任せていた。
「ああ、アキラ殿、説明は終えたよ。それで、こいつらなんだが」
「我ら、西北の森に住むコボルト・シルヴァ・クロウ一族。私は族長のカリム。オーガどもの襲撃で棲家を追われた。ストーンファイア殿と同じだ。アキラ殿は牙狼の娘の主人と聞いた。我らもしばらく住まわせてもらえないだろうか?」
ラピスにアドバイスを求めたが、彼女の気配は無かった。彼女は、それどころでは無かったからだ。
カリムの後ろには、コボルトたちが疲れ切った表情でいる。子供のコボルトたちは今にも倒れそうだ。
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