アルカディア・クロノクル ゲーム世界に囚われた俺を救うのは、妹か、かつての仲間か

織部

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変革の日

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 その日、世界は変革された。それは、単なる地形が変わることではなく、ルールが変わったことを意味する。

 空は夕暮れよりも深く赤く染まり、まるで世界そのものが炎に包まれたかのようだった。

 アキラが監視塔の最上部に駆け上がると、すでにヴァイオレット王女一行が集まっていた。

 王女の隣では、フェニックスが腕を組み、険しいまなざしで東の空を睨んでいる。その横で、ノワールは無言のまま、その空を赤く染めた元となる火山の方角にじっと視線を向けていた。

「これは……」アキラが思わず呟く。
 すると、すぐにラピスが答えた。
「おそらく、魔物の侵攻ルートが開いたのだと思います」

 それは、プレイヤーにあらかじめ予告されていた“可能性”のひとつ。だが――
「まさか、こんなに早く開くとは……」ラピスの表情が険しくなる。

「しかし……かなり遠いな」
 塔の上からでもはっきり見える。遥か東、大森林を越えた黒々とした山々が火を噴き、濃い噴煙が空を覆い尽くしている。

「ええ、こちらへの被害はないでしょう。大森林に潜んでいた魔物の半数は、あちらの出口へと流れるはずです」

 さすがは赤目博士だ。クロガミだけに有利にしない。
 ラピスが小さく安堵の息を吐いたとき、だがアキラの視線はなお、噴火の中心に鋭く据えられたままだった。

「……大変なことになりました」
 沈黙を破ったのは、ヴァイオレット王女だった。普段の冷静さとは異なる、震える声だった。

「どうされましたか?」アキラが顔を向ける。
「――あの山のふもとに、姉がいます。聖女ソラリス。……このままでは、命を落とします」

「どうしてあんなところに?」
 その瞬間、フェニックスが一歩前へ出かけたが、ノワールが無言のままそれを制した。判断は、アキラに委ねるべきだと。

 空気が、ぴんと張りつめる。
「……何とか、できるのでしょうか?」
「援軍を送れれば、状況を変えられるかもしれません」

「……わかりました。すぐに会議を開き、対策を講じましょう」
 ラピスが画面の向こうの話し合いに苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

「この馬鹿王女……」
 そのとき、塔の階下から軽やかな声が響いた。

「アキラさん、朝食ができましたよー!」
 階段を駆け上がってきたのは、メイド服姿の小柄な少女、ステラだった。にっこりと笑いながら、アキラの手をぱっと取る。

「行きましょう。冷めちゃいますよ?」
「……ああ、そうだね」
 アキラは少女に手を引かれながら、無言のまま塔を降りていった。

 その背に、燃える空と、黙して見送る王女たちの姿があった。



 王都は、蜂の巣を突いたような騒ぎとなっていた。

 一つが、西のマリスフィア侯爵領との連絡がつかなくなってしまったことだ。そしてもう一つが、誰の目にも見える火山の噴火だ。

「こんなこと、歴史的にも一度もなかったことだ」
 王国の学者や聖職者たちが、王城に集められて知見を求められたが、異常事態としか答えられないようだった。

 ディオン王は、先の魔物との戦いをほぼ無傷で勝利した賢王と名高いが、事実を知る人は、アストリア大聖女の功績であると疑わない。

「愚王が、アストリア様のご息女を保護しなかったからだ。天罰ではないのか?」
 王都民の中には、火山と彼女の失踪を関連付ける話が広がりつつあった。
 だが、王城ではさらに混乱の極致にあった。

「南の公爵家ヴァルステイア家とも連絡がつきません。道は、火山から溢れ出した溶岩の川ができています」
「それでは、第一王子のライオネル王子の無事は?」
「ついておりません。魔法や鳥を使い連絡を取ろうとしている最中です」

 まったく、王国の後継者が、こんな時に女の尻を追いかけて出かけるとは……

 国王ディオンは、顔面蒼白で玉座にもたれて、事態の対応を命令できずにいた。

「ですが、セラフィナ、聖女ソラリス様でしたか。ライオネル兄様が連れて戻れば王都の混乱も収束するのではありませんか?」
 満面の笑顔で、国王を励ましているのは、第三王子のセドリックだった。
「そうだな」
「それに、エドガー兄様も王都に帰還するとの連絡がありました」

 国王は、セドリックの手を取ると安心したように、頷いた。
「お疲れでしょう。お休みされるとよろしいかと」
 フェニックスの後任の宰相が、国王に声をかけた。
「ああ、セドリック後を頼む」
 そう言って、寝室へと下がって行った。

「父上も老いたな。兄様たちは、自分が釣り合わぬ宝石を手に入れようと必死だしな」
「どういう意味でしょう? 王太子」宰相は、セドリックの発言に驚き目を見開いた。

「そのままの意味だよ。それよりも、冒険者ギルドに向かおう。騎士団など数がいても、魔物との戦いに役立つほど強い者はいないだろう」

 この王子は、歯に衣を着せぬいいようは、だが物事の本質をついている。
「それでは、待機させている騎士団はどうしますか?」
「王都近郊に、防衛陣地を構築させろ、時間稼ぎに少しでもなればいいがな」

 この戦いは、格が全てだ。唯一、数の勝負になるのは、同格の時だけだ。

「俺が手を出すまでもなく、ばかな兄達を処理してくれると助かるんだがな」

 セドリックは、誰にも聞こえないくらいの小声で呟いた。
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