アルカディア・クロノクル ゲーム世界に囚われた俺を救うのは、妹か、かつての仲間か

織部

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王都冒険者ギルド ※

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※※※

 山吹たちの挨拶に、ソラリスが首を傾げて、驚いたように尋ねた。
「あれ、声が違う。あなたは誰?」
「えーと……なんて言えばいいんだろう」

 山吹は答えに詰まる。けれど、もう誤魔化すのはやめようと思った。
「わかったわ。アイリスの友達なんでしょ?」
「うーん……アイリスは、お姉ちゃんて感じかな」

 友達ではなく。山吹は、そう思って答えた。
「じゃあ、アイリスは、この世界のどこかにいるのかな?」
「え……?」

 そのとき、扉を叩く音がした。こんなマンションの一室で、しかもこんなタイミングで。
「見てくるね」
時雨がそっと立ち上がり、ドアスコープを覗く。
「……あ、黒神さんだと思うよ。どうする?」

 まただ。大事な話になると、何者かに見られているような気配が忍び寄る。電話が鳴ったり、誰かが現れたり。タイミングが良すぎて、逆に冷や汗が滲む。

「仕方ない。ソラリス、また後で話しましょう」
 山吹はひとつ、深い息を吐いて、時雨に目を向けた。

「どうする? ここで話をする?」
「ううん。できたら、外の喫茶店で。私も一緒に行ってもいいかな?」
「わかった。もちろんよ」

 黒神がわざわざ外出してきたなんて。よほどの用件なのだろう。山吹は扉を開けた。

 だが、予想していた表情ではなかった。いや、山吹が今まで一度も見たことのない――情けないほどに、素直な顔をしていた。

「何の用? ……ストーカーさん」
「おい、その言い方は酷くないか? 仕方ないだろう、俺だって」
「そうね。赤目さんの指示だもんね」

 図星だったのか、黒神は黙った。彼は昔から、感情が顔に出る。隠すのが下手すぎる。
「少しだけ待ってて。話に行きましょう」

 人の少ない喫茶店なんて、この辺りにはほとんどない。防犯カメラの死角も、限られている。

 どうせ赤目博士には筒抜けだろうけど、それでも――ライブ中継されるのは気分が悪い。
「もしかして……私たちの生活、パソコンのカメラで覗いてたの?」
「してないよ」
「……どうだか」

 黒神がしていないとしても、赤目なら。平然とやるだろう。ためらいもなく。
「じゃあ、私が押してあげるわ」

 私は黒神の車椅子を押しながら、市内の裏通りにある、あの古びた喫茶店へ向かった。
古びた木の扉を押し開けると、コーヒーと、時間そのものの匂いが鼻先を撫でた。

 空気は沈み込むように静かで、壁に掛けられた時計だけが、確かに時間を刻んでいた。
まるで、誰にも見つからずにすむ、忘れられた時間の隙間みたいな場所。

 それでも、私は知っている。――ここで交わす言葉すら、誰かの目に晒されていることを。



  エリオンとリアナは、アキラたちの指令を受けて王都にやってきた。そして、王都に滞在していたハートフェルトと合流する。

 王都の空は、火山の噴煙による粉塵で鈍く赤く染まっていた。だが、街の民衆は慌てる様子もなく、あくまで表面上は日常を保っているように見える。

「フェルト、王都を案内して!」
 リアナはまるで観光客のような口ぶりだった。

「もちろん。……だけど、その前に冒険者ギルドに行かないと」

「ん~……じゃあ、せめて美味しいものを食べてからにしましょう?」

 そう言って、リアナは人通りの多い通り沿いにある、大衆向けの食堂へと入っていった。周囲には、民たちの噂話が飛び交っている。

「王がなんとかしてくれるだろう」
「ああ、学者たちを集めて会議を開いているって話だ」

「でもな……アストリア様のご息女が殺されたという噂もある。あれはアストリア様の怒りじゃないかって……」

「おい、それは口にしてはいけない……」

 リアナのもう一つの目的は――情報収集だった。それに気づいたハートフェルトは、彼女の見かけ以上の聡明さに静かに感心する。

「まったく……フェルトは、私をなんだと思ってるのよ」

 満足げに腹を満たしたリアナは、ようやく王都の冒険者ギルドへと向かった。

 ギルドの建物は、王国騎士団によって厳重に警備されていた。にもかかわらず、館内外には冒険者たちがひしめき合い、殺気立っている。

「何かあったんですか?」
 リアナが、近くにいた中年の冒険者に愛嬌たっぷりに声をかける。

「……なんだ、エルフのお嬢ちゃん。知らないのかい?」

 彼女の可愛らしい容姿と飾らぬ態度が、男の警戒心をほぐしたようだ。リアナは、自然な形で情報を引き出していく。

 冒険者の話によれば、王都から何度も魔物の森への討伐部隊が編成され、次々に出撃していったという。しかし――誰一人として戻ってきていない。

 最初の討伐で負傷し、生還したのはオタル・ギルド長と、少数の冒険者だけ。その彼らも今はセーヴァスに滞在しているという。

「だからさ、王都のギルドの派遣のやり方に問題があるんじゃねぇかって、皆が言いはじめてるんだ」

「何回も派遣したんですか?」

「ああ、まるで蟻地獄だ。王国の中堅冒険者は、ほとんど全員と言ってもいいくらいだよ。敵が強敵である可能性は、ベテランたちも警告していたんだがな……金に目がくらんだ連中が無理に押し通した」

「……それで、これからどうするつもりなんですか?」

 冒険者ギルドでは、魔物への対策について、王国全体で話し合いが始まっているらしかった。

 その会議の場には、セドリック第三王子をはじめ、これまでギルドの要請を無視していた高ランクの冒険者たちの姿もあった。

 会議は、セドリックの深々とした謝罪から始まる。

「まずは、王国の非を認めるところからだ。フェニックスたちにかけられた罪状については、即時に無罪の通達を出すつもりだ。そして……彼には、再び宰相の地位に就いてもらう。それと高ランクの冒険者のみんなに納得してもらうだけの報奨と地位も用意する。中途半端なものではない」

 高ランクの冒険者たちは、互いに頷き合う。

「その上で、皆に協力をお願いしたい。ヴァイオレット王女や宰相殿が、魔物に囚われている可能性がある。無謀な突撃は繰り返さない。今度は部隊を分け、確実な進行をするつもりだ。……どうか、王都の危機を救ってほしい」

 セドリックの静かな演説に、会議に参加した冒険者たちは深く心を動かされていた。

「これで――王国の守りの時間稼ぎはできるだろう」

 セドリックは、小さく微笑みを漏らした。
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