完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部

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蠱惑の魔剣

誰の為の休憩

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遠征の合間の短い休暇――初回は日帰り、一日の休みだった。だが二度目はニ泊三日となり、帰りも深夜にずれ込んだことで、結局二日間の休みに変更された。

 その間、ノルドはゆっくり休む間もなく、セラのサナトリウムに一泊した後、次の遠征に備えて食料の調達、調薬、備品の点検と、精力的に動いていた。

 慣れたとはいえ、彼の仕事量は普通の冒険者の比ではない。冒険者たちも武器の手入れや身体のメンテナンスに追われているが、ノルドの担う「荷運び人」という役割は、それ以上に幅広い。 

「……これで大丈夫かな」
 シダ通りの《迷宮亭》。ダンジョン町にある冒険者専門の宿にして、星喰の書にも載ってる有名なレストラン。

 ノルドは特別に、遠征用の食料を受け取りに来ていた。今回も、下ごしらえ済みの料理の詰め合わせ。あとは焼くだけ、火を入れるだけという状態の品々が木箱に整然と収められていく。

 亭主で料理人のノゾミが厨房から料理を運び、給仕長のネラが手際よく箱詰めを進める。
「ありがとうございます。この前も皆にすごく好評でした!」
「当然よ。うちのノゾミさんの料理だもの。普通、遠征の食事ってパンと干し肉くらいでしょ? まともに調理されたものなんてまず出ないわ」

 ネラは胸を張って言い切る。その様子にノルドは苦笑した。確かに、その通りだ。だが、自分の場合は話が違う。

 収納魔法の容量は段違い。テントも調理道具も、冒険者たちの予備装備や薬品、水や石まで――すべて運べるのだから。

「ほんと、ネラはわかってないわよ。ノルドがパンと干し肉なんか出すわけないでしょ? それに、セラさんの息子に変なもの出したら、私が恥ずかしいわ」

 ノゾミが言う。
「うん、それなら安心だ。……ラゼルのためだって言ったら、閉じ込めるところだったけど」
「言ってないし!……っていうか、迷宮亭の料理名乗ってないわよね? ね、ノルド?」

 睨まれ、ノルドは引きつった笑みを浮かべる。何度か口を滑らせてしまったことがあるため、今は話題を変えることにした。

「ところで……ここに泊まった冒険者で、すごい人っていました?」
その問いに、ネラはすぐに頷いた。
「いたわよ。あなたと仕事した、あの東方旅団とかね」
「あー……でも、アイツら一回もお茶に応じてくれなかったのよ! 何度誘っても!」

 珍しくネラがしょんぼりしている。彼女がそこまで気にするのは、相手がただの冒険者ではないと感じているからだろう。東方旅団は独特の知性と気品を持ち、ノルドも何度か食事に誘われたが、女性は一人も同席せず、会話も探索の話ばかりで、食後はすぐに解散してしまう、徹底した仕事人集団だった。

「普通の冒険者じゃないですよね」
 ノルドがそう言うと、ネラは悔しそうに頷いた。
 その時、ノゾミがぽつりと口を開く。
「ねぇ、グラシアスさんはシシルナ島に来る気はないのかしら」

 その一言に、ネラの顔がみるみる険しくなる。
「そのうち来るでしょう」
 ノルドはそう答えたが、本当の理由――「母に会いに来るかもしれない」――は口にできなかった。彼は知っている。セラとグラシアス、その二人の絆が誰にも簡単に踏み込めるものではないことを。 



「それでさ、お気に入りの子ってラゼルのパーティにいるの?」
 唐突なネラの質問に、ノルドは首を横に振った。
「まさか……」
「でしょ。だって、リコに、アマリもいるもんね」
 アマリ――聖女と呼ばれる少女の妹にして、精霊を使う天性の才を持つ少女。

 その名が出た瞬間、ノルドの顔は真っ赤になった。
「ワオーン!」
 小狼のヴァルが絶妙なタイミングで吠える。
「あ、ごめん、ヴァルもいたね。……っていうか、ほんとモテるのね、あなた」

「それじゃあ、長居しすぎた。冒険者ギルドに行くね!」
 恥ずかしさを隠すように、ノルドは立ち上がり、早足で《迷宮亭》を後にした。



「まったく、失礼な奴らよね」
 妖精ビュアンが現れて怒っている。

「いやぁ……」ノルドは頭を掻いた。

「わかってないのよ。ノルドの第一夫人は、私なのにね」頬に接吻する妖精。
 さらに照れるノルド。
「ワオーン!」
 ヴァルが吠える。 

「何言ってるの! あなたは子分でしょ!」

 ヴァルは不服そうに下を向いたが、ノルドが撫でるとすぐに機嫌は直った。

 そんなたわいない会話をしている間に、冒険者ギルドに到着した。

「おお、ノルドか。精算をしよう。それと酒も準備してある」
「ありがとうございます」
「何か、問題はあったか?」 

 詳細な報告をしたが、例の薬の件については口にできなかった。

 ドラガンからお金と酒を受け取り、帰ろうとしたところ、アレンに呼び止められた。

「ノルド、ロッカたちがラゼルのサポートをしているらしいが大丈夫か?」
「何かあったんですか?」
「いや、珍しくあいつら喧嘩をしていたからな。あの仲良い奴らがな」

 ノルドには思い当たる節がなかったため、その時は深く気に留めなかった――。

そして、第三回目の遠征の日になった。
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