シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部

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蠱惑の魔剣

封鎖の島

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「ガレアを救出しよう!」
 その夜、祭りの準備を終えたノシロとディスピオーネは、灯りの落ちた街を抜け、島主の邸に忍び込んだ。

 だが、屋敷のどこにも彼の姿はない。
「どこに隠されているんだ……!」
 夜が明けるや否や、二人は島庁へと駆け込む。

「ディスピオーネ殿、何か聞いてますか?」
 焦りと恐怖の入り混じった顔が、大村長のもとに次々と集まっていた。
「どうした?」

「港が……封鎖されました! 入港も出港も、すべて禁止だそうです!」
「誰がそんな命令を?」

 問いながら、ディスピオーネの胸に冷たいものが走る。
 その権限を持つのは、今となっては――島主ガレア、ただ一人。

 ディスピオーネは息を荒げながら港へ駆けた。
 堤防には、木材と鉄柵で組まれたバリケード。警備兵たちが縄を張り、商人たちの怒号が飛び交っている。

 定期船は大陸へ帰れず、逆に来航した船は追い返されていた。
「何をやっているんだ!」
 彼が怒鳴ると、警備隊長が顔を引きつらせて答えた。

「す、すみません。島主様のご指示でして……」
「俺は聞いていないぞ!」
 ヴァレンシア商会の運輸部門の担当であり、提督でもある彼のもとに、そんな通達は届いていない。

「それは私に言われても……」
 隊長は視線を逸らす。
 嫌な予感が膨らむ。ディスピオーネは丘を登り、ヴァレンシア孤児院へ向かった。

 その途中――高級住宅街を抜けると、別の喧噪が風を裂いた。
「おい! お前たちが抵抗すれば、大使館員が怪我をするぞ!」

 共和国大使館の前。そこに立つのは監査室長。
 縄で縛られた大使の姿が見えた。
「何をしている?」

 ディスピオーネの声に、監査室長の後ろから冒険者たちが現れる。
「見てわからんのですか? 共和国がラゼル様の暗殺を企てたんです。その手先を捕らえただけですよ」

「馬鹿な! 大使は無関係だ!」
「ははは。政治ですよ、ディスピオーネ殿。理屈など通じません――ニコラ様が墓の下で泣いておられるでしょうな」

 吐き捨てたのは、サガン。
 その笑みには、狂気と確信が入り混じっていた。
 剣に手をかけた瞬間、周囲から十数名の冒険者が一斉に動いた。

 ここで戦えば、確実に多くの血が流れる。
 それでも――。
 ディスピオーネは唇を噛み、拳を震わせながら背を向けた。

さらに進むと、聖教会の門前にも鎧の列があった。
聖職者たちは全員捕らえられている。
「聖王国は変な魔術を使う。これで手は出せまい」

指揮を執っているのは、冒険者副ギルド長・ドラガン。
彼の冷たい声に、兵たちは沈黙で応えた。
――世界が、ひっくり返っていく。

その感覚を押し殺しながら、ディスピオーネは丘の上の孤児院へ辿り着いた。
扉は破られ、家具は倒れ、壁には焦げ跡が走っている。

「メグミ! 無事か!」
返事はない。
部屋を覗いても、子どもたちの姿も影もない。

遅かったのか……?
「おじさん、うるさいよ」
港の見えるテラスから、小さな声がした。
そこに座っていたのは――リコだった。



その日の早朝、ダンジョン町の外れにある迷宮亭では――
冒険者たちの怪しい動きを察知した受付嬢ミミが、給事長ネラのもとに駆け込んでいた。

「大変、大変! ドラガン副ギルド長が冒険者を率いて港町に向かったよ!」
「ふうん」
ネラは興味なさげに、店の前を掃いている。
「だから、大使館とか、ヴァレンシア孤児院を襲撃するんだって!」

「それを早く言いなさいよ! ノゾミ、大変だ!」
ノゾミたちは、慌てて「本日臨時休業」の札を掲げ、馬車屋へ向かった。

だが、馬車はすべて冒険者ギルドに徴用されていた。
「まずい。困ったな……」
「そうだ。馬車があるよ、持ってくる!」

ミミが連れてきたのは、ラゼル王子一行の豪華馬車。
ラゼル王子とノルドらがさらに朝早くからダンジョンに潜っている隙に、こっそり拝借してきたのだ。

「ミミ、ありがとう。行ってくるよ。店を見ててね」
「わかりました!」
御者席にはネラ。助手席にはノゾミ。

「飛ばすわよ!」
「どこで追いつけるかな」
冒険者たちを乗せた馬車を、港町へ至る最後の峠で追い抜いた。
「おい! それはラゼル様の馬車じゃないのかぁ!?」

「さあね!」
ノゾミは笑いながら、冒険者の馬車の車輪めがけて、麺棒と大型ミートハンマーを投げつけた。

ガシャガシャ、と音を立てて車輪が壊れ、馬車が止まる。
「危ないだろうがぁ!」
「これは後で大変なことになるね! あの道具たちお気に入りだったのに~!」

ノゾミが悲しんでいる。
「もうなってるわよ! さあ、あと少しよ!」
なんとか冒険者たちを振り切ったノゾミたちは、港で待機していた監査官たちに駆け寄り、
「馬車が故障してたよ、助けに行ってあげて!」
と告げた。

「そうか、ありがとう。すぐ迎えに行こう」
――完全に信じた監査官たちを見送り、ノゾミたちはヴァレンシア孤児院へと急いだ。
だけど、彼女たちもより早く、そのことを伝えに来た者がいた。

「ワオーン!」
 ヴァルが、ダンジョン遠征の見送りの際、ドラガンとラゼルの密談を盗み聞きしていたノルドからの伝言を届けに、孤児院へ駆け込んできた。



「そんな訳でもう、ここには誰もいないよ」
「じゃあ、リコはどうしてここにいるんだ?」
「島主様の匂いのする人を探してるの。お茶でも飲む?」

「ははは、なるほどね。頂こう」
ディスピオーネは思わず笑った。
 焦げ跡の残る孤児院に、わずかな安堵の息が戻った。
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