完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部

文字の大きさ
196 / 221
蠱惑の魔剣

封鎖の島

しおりを挟む

「ガレアを救出しよう!」
 その夜、祭りの準備を終えたノシロとディスピオーネは、灯りの落ちた街を抜け、島主の邸に忍び込んだ。

 だが、屋敷のどこにも彼の姿はない。
「どこに隠されているんだ……!」
 夜が明けるや否や、二人は島庁へと駆け込む。

「ディスピオーネ殿、何か聞いてますか?」
 焦りと恐怖の入り混じった顔が、大村長のもとに次々と集まっていた。
「どうした?」

「港が……封鎖されました! 入港も出港も、すべて禁止だそうです!」
「誰がそんな命令を?」

 問いながら、ディスピオーネの胸に冷たいものが走る。
 その権限を持つのは、今となっては――島主ガレア、ただ一人。

 ディスピオーネは息を荒げながら港へ駆けた。
 堤防には、木材と鉄柵で組まれたバリケード。警備兵たちが縄を張り、商人たちの怒号が飛び交っている。

 定期船は大陸へ帰れず、逆に来航した船は追い返されていた。
「何をやっているんだ!」
 彼が怒鳴ると、警備隊長が顔を引きつらせて答えた。

「す、すみません。島主様のご指示でして……」
「俺は聞いていないぞ!」
 ヴァレンシア商会の運輸部門の担当であり、提督でもある彼のもとに、そんな通達は届いていない。

「それは私に言われても……」
 隊長は視線を逸らす。
 嫌な予感が膨らむ。ディスピオーネは丘を登り、ヴァレンシア孤児院へ向かった。

 その途中――高級住宅街を抜けると、別の喧噪が風を裂いた。
「おい! お前たちが抵抗すれば、大使館員が怪我をするぞ!」

 共和国大使館の前。そこに立つのは監査室長。
 縄で縛られた大使の姿が見えた。
「何をしている?」

 ディスピオーネの声に、監査室長の後ろから冒険者たちが現れる。
「見てわからんのですか? 共和国がラゼル様の暗殺を企てたんです。その手先を捕らえただけですよ」

「馬鹿な! 大使は無関係だ!」
「ははは。政治ですよ、ディスピオーネ殿。理屈など通じません――ニコラ様が墓の下で泣いておられるでしょうな」

 吐き捨てたのは、サガン。
 その笑みには、狂気と確信が入り混じっていた。
 剣に手をかけた瞬間、周囲から十数名の冒険者が一斉に動いた。

 ここで戦えば、確実に多くの血が流れる。
 それでも――。
 ディスピオーネは唇を噛み、拳を震わせながら背を向けた。

さらに進むと、聖教会の門前にも鎧の列があった。
聖職者たちは全員捕らえられている。
「聖王国は変な魔術を使う。これで手は出せまい」

指揮を執っているのは、冒険者副ギルド長・ドラガン。
彼の冷たい声に、兵たちは沈黙で応えた。
――世界が、ひっくり返っていく。

その感覚を押し殺しながら、ディスピオーネは丘の上の孤児院へ辿り着いた。
扉は破られ、家具は倒れ、壁には焦げ跡が走っている。

「メグミ! 無事か!」
返事はない。
部屋を覗いても、子どもたちの姿も影もない。

遅かったのか……?
「おじさん、うるさいよ」
港の見えるテラスから、小さな声がした。
そこに座っていたのは――リコだった。



その日の早朝、ダンジョン町の外れにある迷宮亭では――
冒険者たちの怪しい動きを察知した受付嬢ミミが、給事長ネラのもとに駆け込んでいた。

「大変、大変! ドラガン副ギルド長が冒険者を率いて港町に向かったよ!」
「ふうん」
ネラは興味なさげに、店の前を掃いている。
「だから、大使館とか、ヴァレンシア孤児院を襲撃するんだって!」

「それを早く言いなさいよ! ノゾミ、大変だ!」
ノゾミたちは、慌てて「本日臨時休業」の札を掲げ、馬車屋へ向かった。

だが、馬車はすべて冒険者ギルドに徴用されていた。
「まずい。困ったな……」
「そうだ。馬車があるよ、持ってくる!」

ミミが連れてきたのは、ラゼル王子一行の豪華馬車。
ラゼル王子とノルドらがさらに朝早くからダンジョンに潜っている隙に、こっそり拝借してきたのだ。

「ミミ、ありがとう。行ってくるよ。店を見ててね」
「わかりました!」
御者席にはネラ。助手席にはノゾミ。

「飛ばすわよ!」
「どこで追いつけるかな」
冒険者たちを乗せた馬車を、港町へ至る最後の峠で追い抜いた。
「おい! それはラゼル様の馬車じゃないのかぁ!?」

「さあね!」
ノゾミは笑いながら、冒険者の馬車の車輪めがけて、麺棒と大型ミートハンマーを投げつけた。

ガシャガシャ、と音を立てて車輪が壊れ、馬車が止まる。
「危ないだろうがぁ!」
「これは後で大変なことになるね! あの道具たちお気に入りだったのに~!」

ノゾミが悲しんでいる。
「もうなってるわよ! さあ、あと少しよ!」
なんとか冒険者たちを振り切ったノゾミたちは、港で待機していた監査官たちに駆け寄り、
「馬車が故障してたよ、助けに行ってあげて!」
と告げた。

「そうか、ありがとう。すぐ迎えに行こう」
――完全に信じた監査官たちを見送り、ノゾミたちはヴァレンシア孤児院へと急いだ。
だけど、彼女たちもより早く、そのことを伝えに来た者がいた。

「ワオーン!」
 ヴァルが、ダンジョン遠征の見送りの際、ドラガンとラゼルの密談を盗み聞きしていたノルドからの伝言を届けに、孤児院へ駆け込んできた。



「そんな訳でもう、ここには誰もいないよ」
「じゃあ、リコはどうしてここにいるんだ?」
「島主様の匂いのする人を探してるの。お茶でも飲む?」

「ははは、なるほどね。頂こう」
ディスピオーネは思わず笑った。
 焦げ跡の残る孤児院に、わずかな安堵の息が戻った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...