完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部

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蠱惑の魔剣

魔剣の牢獄

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「我をどこに連れて行くつもりじゃ?」
 魔剣は風に乗り、ダンジョンの空洞を漂った。刃先が揺れるたび、冷たい声が辺りに響き渡る。
「五月蝿い。黙ってなさい」

 ビュアンの声が一閃し、風が唸りを上げた。
 眼下には、火炎を噴き上げる穴が赤く脈動している。

「まさか、我を落とすつもりか! 我は勇者の使いし剣ぞ!」
 剣は必死に抵抗するが、炎が刃を舐め、熱で赤く染まり始めた。

「それがどうしたの?」
 ビュアンの声は淡々としているが、その奥には怒りの冷たさが宿っていた。
「精霊王もそれを知っているはずだ。粗末に扱って良いものではない!」

 剣の声には誇りと傲慢が混じる。
「関係ないわ。――強欲すぎて捨てられたくせに」
 ビュアンが風を止めると、剣は一瞬、炎の穴へと落ちかけた。

「危ないだろう!」
 剣は必死に浮上しようともがくが、逆風が吹き付ける。火と風がぶつかり、轟音が生まれ、剣の声はかき消されそうになる。

「それとお父様が怒ってるのよ。ダンジョンを二度も傷つけたのはあなたでしょ!」
 ビュアンの声には、たしなめるような厳しさが含まれていた。

「悪かった。許してくれ。我にもラゼルを守る契約があるのだ」
「ノルドを傷つけたことは許さないわ。しばらく大人しくしていなければ――溶かすからね。わかった?」

 剣はしぶしぶ黙り込んだ。金属が擦れるような小さな溜め息が、風の中に溶けた。

 ビュアンは魔剣を、四階層の試練の部屋へと運び込んだ。そこには一片の灯りも無く、暗闇に閉ざされている。鍵がなければ開けられない――監禁に適した場所だ。

「カリス、しっかり見張っていてね。ノルドの元に戻るわ」
「ええ、任せて」
 ビュアンと同じ声を持つ精霊の木が応え、重い扉に鍵を下ろした。

 扉の向こう、蠱惑の剣は暗がりの中で微かに光を揺らし、低く笑う。
「まあよい。ラゼルに助けに来るように伝えよう」


 ドラガンたちは、ラゼルを助け出し、港町の庁舎にある介護室へと運び込んだ。
「ここは……どこだ?」
「お気づきですか。島庁舎の介護施設です。襲撃があるかもしれませんので」

「魔剣は……くそっ」
 ラゼルは身を起こし、後頭部の傷を触る。薬の香りが指に移った。

「薬を塗りました。お疲れですので、今日はゆっくりして下さい」
 カリスが穏やかに言う。
「他のものはどうした?」

「フィオナは行方不明です。ダンジョンの壁が崩れましたので……サラは食事中です」
「呑気なものだな。まあ良い。ドラガン、祝祭の準備は?」

 ラゼルにとって、奴隷とはそれくらいの存在だ。
「準備は滞りなく進んでおります。唯一、ヴァレンシア孤児院のメグミは逃しました。サナトリウムに逃げ込んだのではないかと」

「そうか……港の封鎖は済んでるんだろうな?」
「はい、もちろん」
 ラゼルは口の端を吊り上げた。
 この島の権威ある者はすでに魅了し、味方につけてある。

 祝祭が終われば、全てが自分のものになる。
「祝祭が終わったら、魔剣を取り返しに行こう。冒険者全員でな。どこにあるか知っているからな」

「御意」
「どこにあるのですか? とってきますよ」
 フィオナが問う。
「いや、ダンジョンのある場所だ。教えることは出来ない」

 ラゼルは低く呟いた。――自分で取りに行く。二度と手放したりはしない。



 ブランナは幻影の魔術を使い、ヴァルを救い上げていた。そして、ドラガンたちが立ち去るのを待って、ダンジョンから脱出した。

「これを飲んで」
 ノルド作成のリカバリーポーションを飲ませ終えると、空の瓶を投げ捨て、次にヒールポーションを与える。

 魔剣の光線を受けた箇所は、体毛が焼け、再生した肌がまだ赤く痛々しい。
「クーン」

「大丈夫よ、助け出すから。あなたが元気にならないと、ノルドが苦しむわよ!」
 ヴァルを担ぎ、魔物の森を迂回しながら、やっとの思いでセラの家への道を急ぐ。

「重たかった……ほら、着いたわよ」
 門にたどり着くと、ヴァルは飛び降り、セラの元へ駆け寄った。

「クーン」
「そう、ノルドを守ってくれたのね。体力を戻さないと。食事を用意するわ!」
 セラが頭を撫でると、ヴァルは尻尾を振って喜んだ。

「呆れた。歩けたんじゃない!」
「姉さん、お帰りなさい」
 ブランナは息を吐いたが、フィオナが駆け寄って抱きついてきたので、頬を緩めた。

 セラの家には、出かける前に残っていた人たちの他に、リコやローカンも来ていた。
「え? ノルドが捕えられたのか?」
 ローカンが目を見開く。

 ノルドのことだ。人を傷つけるような真似はしない。きっと素直に従ったのだろう。
「すいません。ヴァルを助けるので精一杯で」
「わかった。俺がなんとかしよう! どこに連れてかれたんだ?」

「サラが探ってます。すぐに連絡が来るはずです」
「任せておけ!」
 ローカンの言葉に宿る自信に、セラもリコも目を丸くした。

「ワオーン!」
「おいおい、ヴァル君、信じてくれよ! こう見えても元警備総長だ。うまくやるさ!」
「やはり、若い奥さんができると変わるものね? ね、セラ?」

 カノンは、冷たい視線をローカンに浴びせた。
「そうね。それで可愛い奥さんはどこにいるの? たいしたものは用意できないけど、小物を作ってプレゼントするわ。材料ならこの家に残ってるし」

「えっ、セラさんの手作り!? やった、ヒカリが喜ぶ!」
「セラさん、ノルドは大丈夫でしょうか?」
 ガブリエルが、余裕のある会話が繰り返される中で、心配そうに問う。

「当たり前よ。あの方がついているんだもの。逆に怒らせる方が怖いわ。今頃、収納から美味しいものでも取り出して食事してるわ」
 リコは、予想していた。

「じゃあ、私たちも食事をしましょう。リコ、カノン、手伝って」
 セラが立ち上がる。
 その時だった。窓の外から羽音が聞こえた。
 伝聞鳥が舞い降りる。

 脚には、グラシアス商会の印が刻まれた封書が結ばれていた。
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