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買い物
しおりを挟むシシルナ島には陶芸の村もあり、この港町でも、年に何度か陶器市が開かれる。セラは病気と容姿のこともあって、普段はほとんど町に出かけないが、陶器市の話を聞いて、珍しく一緒に出かけることになった。
「そうね、薬瓶を探しに行きましょう。ノルドの保湿剤に合う、良いものが見つかるかもしれないわ」
中には、セラ親子を奇妙な目で見る者もいたが、商売や買い物に夢中で、ほとんどの人々は気に留めていないようだった。
「ノルドはどれが良いと思う?」
「うーん」ノルドは、値段のことが気になるのと、変な答えはできないので、なかなか選べずにいた。
「薬瓶だから、蓋がしっかりしていることが大切よ。私は、優しいデザインが好きね。これとかどうかしら?」
セラは、檸檬と草木が描かれた白い小さな陶器を指差した。
「僕もそれがいいと思う」ノルドは本心からそう思ったが、セラは「好きなものを選びなさい」と微笑んだ。
市には、商人が売る店もあれば、陶器職人が自ら作品を販売している店もあった。
「1つ、銀貨1枚だ。銅貨じゃないぞ」
職人は貧乏人には用がないと言わんばかりの態度だった。
「もちろんよ、この檸檬が描かれたポットとハーブの小さなポットが欲しいの。蓋付きでね。できれば、100個くらい」
「母さん、そんなに?」
「ふふ、大丈夫よ、ノルド。それくらいならお金はあるから」
「違うよ。まだ完成してないし、売れるかどうかもわからない」
「そんなことは気にしなくていいわ。今あるのは何個かしら?」
「村に戻ればすぐに作れるが、今は少ししかないぞ。本当に払えるのか?」
「ええ、では手付金として金貨5枚でどうかしら?それと、底にサインを入れられるかしら」
セラは腰の小銭入れから金貨を取り出し、職人の机に置いた。
「ああ、すまんかった。それじゃ、証文を作るから、その間にサインのデザインと届け先を教えてくれ」
「ノルド、あなたのサインを入れるのよ」
ノルドは何にしようか悩んだ末に、ヴァルの顔を描こうとしたが、絵の才能がないため、それは狼とも犬とも判別できないものになった。
「ノルドにも苦手なことがあるのね」
セラはスカーフに隠れた口元で微笑み、今日一番の嬉しそうな声を漏らした。
※
陶器市での買い物が終わると、セラ達は町の武器屋に寄ることにした。
「せっかく町に来たのだから、武器も見ようね」
「うん」
武器屋は、島の都にあたるこの港町と、ダンジョン町にある。どちらかといえば港町の方は貴族や富裕層向け、ダンジョン町は冒険者向けだ。
港町の高級店舗が並ぶ一角にあり、美しいディスプレイには宝石がちりばめられた剣や宝具が飾られている。
「ここね。入るわよ、ノルド」セラはためらうことなく店に入った。
「母さん……」ノルドはおどおどしながら、セラの服をつかんで後をついていく。
「いらっしゃいませ」背の高い美男子の若い店員が、玄関が開いた瞬間に何とも言えない表情を浮かべ、鼻を鳴らした。
「武器を見せてもらいたいのですが?」セラがスカーフの下から声をかけた。
「あの、当店では……」その男店員は、机の下の警報器を押したようだ。
奥から冒険者上がりの屈強な警備員と店主が入ってきて、二人を取り囲んだ。
「あの、武器を見たいだけなんですが……ダガーナイフやダーツなど」セラが再び説明する。
「ふん、どうせ窃盗だろう。捕まえろ!」店主が叫ぶ。
「どん!」警備員の突進で、ノルドはセラの服から手を離され、壁にぶつかった。
スカーフに隠されたセラの顔がみるみるうちに怒りで歪んだ。
「私のノルドに……」セラは瞬く間に、ノルドを突き飛ばした警備員を地面に転がし、気絶させた。その警備員は気絶したことすら気がつかなかっただろう。
セラは懐から革袋を取り出し、店主にぽーんと投げた。店主は反射的に受け取り、少し焦りながら袋を開けた。
「開けなさい。今日の予算よ」スカーフの下から発せられる声には、従わざるを得ない威圧感があった。
恐る恐る革袋を開けると、中には数百枚の金貨が詰まっている。
しかも、それは「ドラゴニア金貨」と呼ばれる貴重なもので、王国金貨の10倍、いや20倍の価値がある幻の金貨だった。
店主は一枚を取り出し、鑑定機にかけて確かめた。本物だ。
その間に、セラはノルドのもとへ駆け寄り、怪我を確認している。
「大丈夫だよ、母さん」
「ごめんね。せっかくの楽しい買い物が……」ノルドの頭を撫で、店主の方を見やる。
「お、お、お返しします。た、大変申し訳ありませんでした。この者を今すぐ片付けろ!お、お茶と茶菓子をお持ちいたします。どうぞソファへ……」
店主は若い店員をぎらりと睨みつけ、「スロー用のダガーナイフとダーツを全種類お出しします」と慌てて指示を出し、手際よく準備を始めた。
「では、そうしてもらいましょう。でも装飾のあるものは要りませんよ」セラ達はお茶を飲みながら、武器の説明を受ける。
「どれが良いのか、わからないや」ノルドは金額も気になったが、薬のときとは違い全く頭に入らなかった。
「そうね。試せる場所はあるかしら?」
「もちろんです。こちらへどうぞ!」地下の練習所に案内され、ノルドはダガーナイフを的に向かって投げると、次々と真ん中に命中した。硬度なナイフで刃こぼれもしない。
「上手いもんですな」店主が感心の声を上げる。
「次は、ダーツも投げてみて!」
しゅばっ、と音を立ててダーツが的の真ん中に刺さり、そこにいた全員が驚いた。
「ノルド、本当に初めて手にしたの?才能があるわ。そんな気がしてたのよ」
「うん。初めてだよ」セラに褒められた事が嬉しくてノルドは、少し照れながら笑顔を浮かべた。
「その人に聞きながら練習してて。私は店主さんと話をしてくるわ」セラは機嫌の良い声で言い残し、店舗に戻って行った。
しばらくして、セラが戻ってきた。
「遅くなったわね。さあ、帰りましょう。明日、説明しながら渡すわね」
「うん。でも、母さんを、ノシロさんの店に連れて行きたかったんだけど」
「今度、連れてってね」
※
セラ達親子が、帰ったのを確認して、若い男が、店主に質問してきた。
「奴らは何者ですか?」
「わからん。一つわかるのは、あの女はとても強い冒険者だという事だ」
「もし私達が、全員でかかれば」
「ははは、すぐに天国に行けるよ」
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