完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部

文字の大きさ
20 / 221

クライド

しおりを挟む

「いない、いないぞ! うちの馬がいない!」

「わしの畑も、荒らされてる! 鶏のも一匹もおらん! あんなにいたのに!」

「俺んとこの納屋も、空っぽだ! 食料も農具もない!」

 広場に集まった村人たちの声が、怒鳴り合いのように響く。隣の者の話を耳にしながら、自分の被害がもっと深刻だと誇示しようとしている。

そんな中、一人がふと口を開いた。

「きっと、魔女の仕業だろう!」

「魔女か、そうだろうな、最近、森に入る子供を見たし、あいつらが関わっているに違いない!」

「ああ、あの親子だ! あの家に行って、懲らしめてやるべきだ!」

 怒声が飛び交うが、すぐにまた沈黙が訪れる。誰もその場を動こうとはしない。

 村人たちは、口では大声で言っていても、自分達では何もできないことを知っており、ただの憂さ晴らしで騒いでいるだけだ。

(あの親子に手を出すと、どうなるかわからん。逆に怒らせるだろうな。俺はごめんだ)

 そのとき、若き村長がようやく現れると、村人たちは一斉にその姿を捉えた。安堵の色が浮かんだ。

「何だ? 何を騒いでいるんだ?」

 村人たちはその言葉に、次々と訴えを始めた。

「村長様! うちの畑が! うちの納屋が! 家の周りも荒らされて! きっと、魔女が……」

 村長はその訴えを中断させて、笑いながら告げた。

「魔女の仕業だって? そんなはずはないだろう。ゴブリンの仕業だろぅ」

 村人たちはその言葉を聞いて、冷静さを取り戻したが不満げな顔は消さない。

「つまらないことを言っている暇があったら、まず財政官に被害を報告しろ、それより、ゴブリンはまた来るぞ、準備しろ!」

 村人たちは慌てて返事をし、動き出すが、誰もその場を離れる気配は見せない。村長が具体的な指示を出さない限り、動こうとはしないのだ。

「島主様には私から報告する。そして、冒険者ギルドにも依頼を出す。今夜から、夜は皆、学校に籠れるようにしろ。その準備を急げ!」

 村人たちは慌ただしく動き始め、村長はその様子を見ながら、再び肩をすくめた。



 若き村長の名は、クライド・オルヴァ。代替わりにより新たに司政官の役職が発現して、オルヴァ村の新しい村長となった。

 彼は王国の学校に通い、冒険者として経験を積んだ後、統治者となった島主に憧れを抱いていた。

「自分も同じ道を歩もう」と決心し、親に頼み込んで島を離れ、半島の自由都市ナボリの学校に進学した。

 しかし、都会の楽しさに溺れ、遊びほうけ、ろくに勉強もせず、魔物の討伐もせずに過ごした結果、知識も戦闘力も身につけることはなかった。

 だが、呼び戻され、心を入れ替えたクライドは、村長としての責務を全うする決意を固め、心血を注ぐことにした。それは先月のことだった。

 彼は村民に伝えた通り、島主と交渉するため島庁に向かっていた。だが、本来ならば交渉の約束を取り付けてから、ようやく通してもらえるものだ。

「お約束のない方は、お通しできません」島庁の警備員に断られたその時、会議を終えた島主と偶然顔を合わせた。

「クライド君、オルヴァ村で何かあったのか?」

 まさか、島主が小さな村の新米村長の名前を覚えていてくれるとは……クライドは驚きとともに、胸が熱くなった。

 島主が彼を覚えていたのは、セラ親子の住む村だからだ。数十、数百の小さな村の統治者までは、よほどでない限り記憶に留めていない。

「はい、ゴブリンの襲撃がありました」

「そうか。それでは、話を聞こう。私の部屋に入れ」

 島主に会うのは、父親の葬儀以来だ。単独で会うのは初めてで、緊張が全身に走った。

 言葉が出るか心配しながらも、彼は島主の部屋へ足を踏み入れた。

 部屋には島主のほか、警備長ローカンの姿もあった。ローカンは、窃盗団事件を解決した実力者として知られる男だが、その威圧感のない呑気な雰囲気が逆に恐ろしいと感じられた。

「お忙しいところ、お時間をいただき、誠にありがとうございます」

「いや、そんな堅苦しい挨拶は不要だ。それで、被害の状況は?」

 クライドは懐から財政官がまとめた資料を取り出し、島主に見せた。

「他の森から逃げてきたゴブリンが増えたのだろう。見舞金を出そう」

「ありがとうございます。実は、村の者が魔女の仕業だと言い出して、魔女狩りだとか騒いでおりまして」

「魔女狩りだと……それで、お前はどう指示した?」島主の顔が一変し、厳しくなった。

「そんなことはないだろうと、一喝しました」

 クライドは、無邪気に答えたが、その答えは正確だったようだ。

「そうか、そうか、お前は見込みがありそうだな、な、ローカン」島主は微笑んだ。

「はい」警備長は、なぜか額の汗を拭った。

「それで、どうするつもりだ?」

「夜間は村人を学校に避難させて守ります。ゴブリン討伐は冒険者ギルドにお願いしようと思っています」

「それが良い。冒険者ギルドにでも討伐してもらえ。お前の村の予算でな」



 交渉に成功したクライドは、満足げな表情で島庁を後にし、ダンジョン町の冒険者ギルドへ向かった。

 島主の部屋には、ローカンと島主であるガレアだけが残り、静寂が漂う中、ローカンが慎重に口を開いた。

「冒険者たちは、ゴブリン討伐を引き受けるでしょうか? あの村の財力では、満足な報酬も出せないのではと思うのですが……」

「報酬の額は問題の一部に過ぎん。」ガレアは静かに答えたが、その口調にはわずかな険が含まれていた。

「まず、ゴブリン討伐の依頼自体が厄介だ。ゴブリンは単体では弱いが、数が増えれば知恵を働かせるし、卑怯な手も使ってくる。今回は、巣穴を根絶しないといけない」

「……では、どうされますか?」

「お前たちに任せるか?」

 ガレアが意図を込めた視線をローカンに向ける。

「え、我々が……?」

「ははは、無理に戦えとは言わん。村の守りにつくだけで十分だ。あの村には村長と年老いた教師くらいしか、冒険者上がりはいないのだ」

「承知しました」

 島主の命には従わねばならない。彼はすぐさま、連れて行くべき精鋭メンバーの顔ぶれを思い浮かべ、準備の手配に取りかかるべく、指示を出した。



 島のダンジョン町の、冒険者ギルドに、オルヴァ村のゴブリン討伐のクエストが貼られたが、やはり、冒険者達に見向きもされなかった。

 クエストボードを漁る冒険者も、そのクエストを苦々しい顔で見て、黙殺した。



【後がき】

 お時間を頂き、読んで頂き有難うございます。♡等で応援頂きますと、今後も励みになります。又、ご感想やレビュー等も一行でも頂けますと、飛び上がって喜びます。 引き続きよろしくお願いします!  織部
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!

本条蒼依
ファンタジー
 氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。  死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。  大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立

黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」 「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」 ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。 しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。 「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。 だが、彼らは知らなかった。 ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを! 伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。 これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!

処理中です...