20 / 238
クライド
しおりを挟む「いない、いないぞ! うちの馬がいない!」
「わしの畑も、荒らされてる! 鶏のも一匹もおらん! あんなにいたのに!」
「俺んとこの納屋も、空っぽだ! 食料も農具もない!」
広場に集まった村人たちの声が、怒鳴り合いのように響く。隣の者の話を耳にしながら、自分の被害がもっと深刻だと誇示しようとしている。
そんな中、一人がふと口を開いた。
「きっと、魔女の仕業だろう!」
「魔女か、そうだろうな、最近、森に入る子供を見たし、あいつらが関わっているに違いない!」
「ああ、あの親子だ! あの家に行って、懲らしめてやるべきだ!」
怒声が飛び交うが、すぐにまた沈黙が訪れる。誰もその場を動こうとはしない。
村人たちは、口では大声で言っていても、自分達では何もできないことを知っており、ただの憂さ晴らしで騒いでいるだけだ。
(あの親子に手を出すと、どうなるかわからん。逆に怒らせるだろうな。俺はごめんだ)
そのとき、若き村長がようやく現れると、村人たちは一斉にその姿を捉えた。安堵の色が浮かんだ。
「何だ? 何を騒いでいるんだ?」
村人たちはその言葉に、次々と訴えを始めた。
「村長様! うちの畑が! うちの納屋が! 家の周りも荒らされて! きっと、魔女が……」
村長はその訴えを中断させて、笑いながら告げた。
「魔女の仕業だって? そんなはずはないだろう。ゴブリンの仕業だろぅ」
村人たちはその言葉を聞いて、冷静さを取り戻したが不満げな顔は消さない。
「つまらないことを言っている暇があったら、まず財政官に被害を報告しろ、それより、ゴブリンはまた来るぞ、準備しろ!」
村人たちは慌てて返事をし、動き出すが、誰もその場を離れる気配は見せない。村長が具体的な指示を出さない限り、動こうとはしないのだ。
「島主様には私から報告する。そして、冒険者ギルドにも依頼を出す。今夜から、夜は皆、学校に籠れるようにしろ。その準備を急げ!」
村人たちは慌ただしく動き始め、村長はその様子を見ながら、再び肩をすくめた。
※
若き村長の名は、クライド・オルヴァ。代替わりにより新たに司政官の役職が発現して、オルヴァ村の新しい村長となった。
彼は王国の学校に通い、冒険者として経験を積んだ後、統治者となった島主に憧れを抱いていた。
「自分も同じ道を歩もう」と決心し、親に頼み込んで島を離れ、半島の自由都市ナボリの学校に進学した。
しかし、都会の楽しさに溺れ、遊びほうけ、ろくに勉強もせず、魔物の討伐もせずに過ごした結果、知識も戦闘力も身につけることはなかった。
だが、呼び戻され、心を入れ替えたクライドは、村長としての責務を全うする決意を固め、心血を注ぐことにした。それは先月のことだった。
彼は村民に伝えた通り、島主と交渉するため島庁に向かっていた。だが、本来ならば交渉の約束を取り付けてから、ようやく通してもらえるものだ。
「お約束のない方は、お通しできません」島庁の警備員に断られたその時、会議を終えた島主と偶然顔を合わせた。
「クライド君、オルヴァ村で何かあったのか?」
まさか、島主が小さな村の新米村長の名前を覚えていてくれるとは……クライドは驚きとともに、胸が熱くなった。
島主が彼を覚えていたのは、セラ親子の住む村だからだ。数十、数百の小さな村の統治者までは、よほどでない限り記憶に留めていない。
「はい、ゴブリンの襲撃がありました」
「そうか。それでは、話を聞こう。私の部屋に入れ」
島主に会うのは、父親の葬儀以来だ。単独で会うのは初めてで、緊張が全身に走った。
言葉が出るか心配しながらも、彼は島主の部屋へ足を踏み入れた。
部屋には島主のほか、警備長ローカンの姿もあった。ローカンは、窃盗団事件を解決した実力者として知られる男だが、その威圧感のない呑気な雰囲気が逆に恐ろしいと感じられた。
「お忙しいところ、お時間をいただき、誠にありがとうございます」
「いや、そんな堅苦しい挨拶は不要だ。それで、被害の状況は?」
クライドは懐から財政官がまとめた資料を取り出し、島主に見せた。
「他の森から逃げてきたゴブリンが増えたのだろう。見舞金を出そう」
「ありがとうございます。実は、村の者が魔女の仕業だと言い出して、魔女狩りだとか騒いでおりまして」
「魔女狩りだと……それで、お前はどう指示した?」島主の顔が一変し、厳しくなった。
「そんなことはないだろうと、一喝しました」
クライドは、無邪気に答えたが、その答えは正確だったようだ。
「そうか、そうか、お前は見込みがありそうだな、な、ローカン」島主は微笑んだ。
「はい」警備長は、なぜか額の汗を拭った。
「それで、どうするつもりだ?」
「夜間は村人を学校に避難させて守ります。ゴブリン討伐は冒険者ギルドにお願いしようと思っています」
「それが良い。冒険者ギルドにでも討伐してもらえ。お前の村の予算でな」
※
交渉に成功したクライドは、満足げな表情で島庁を後にし、ダンジョン町の冒険者ギルドへ向かった。
島主の部屋には、ローカンと島主であるガレアだけが残り、静寂が漂う中、ローカンが慎重に口を開いた。
「冒険者たちは、ゴブリン討伐を引き受けるでしょうか? あの村の財力では、満足な報酬も出せないのではと思うのですが……」
「報酬の額は問題の一部に過ぎん。」ガレアは静かに答えたが、その口調にはわずかな険が含まれていた。
「まず、ゴブリン討伐の依頼自体が厄介だ。ゴブリンは単体では弱いが、数が増えれば知恵を働かせるし、卑怯な手も使ってくる。今回は、巣穴を根絶しないといけない」
「……では、どうされますか?」
「お前たちに任せるか?」
ガレアが意図を込めた視線をローカンに向ける。
「え、我々が……?」
「ははは、無理に戦えとは言わん。村の守りにつくだけで十分だ。あの村には村長と年老いた教師くらいしか、冒険者上がりはいないのだ」
「承知しました」
島主の命には従わねばならない。彼はすぐさま、連れて行くべき精鋭メンバーの顔ぶれを思い浮かべ、準備の手配に取りかかるべく、指示を出した。
※
島のダンジョン町の、冒険者ギルドに、オルヴァ村のゴブリン討伐のクエストが貼られたが、やはり、冒険者達に見向きもされなかった。
クエストボードを漁る冒険者も、そのクエストを苦々しい顔で見て、黙殺した。
【後がき】
お時間を頂き、読んで頂き有難うございます。♡等で応援頂きますと、今後も励みになります。又、ご感想やレビュー等も一行でも頂けますと、飛び上がって喜びます。 引き続きよろしくお願いします! 織部
8
あなたにおすすめの小説
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!
しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。
けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。
そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。
そして王家主催の夜会で事は起こった。
第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。
そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。
しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。
全12話
ご都合主義のゆるゆる設定です。
言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。
登場人物へのざまぁはほぼ無いです。
魔法、スキルの内容については独自設定になっています。
誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。
「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」とやりがい搾取されたのでやめることにします。
木山楽斗
恋愛
平民であるフェルーナは、類稀なる魔法使いとしての才を持っており、聖女に就任することになった。
しかしそんな彼女に待っていたのは、冷遇の日々だった。平民が聖女になることを許せない者達によって、彼女は虐げられていたのだ。
さらにフェルーナには、本来聖女が受け取るはずの報酬がほとんど与えられていなかった。
聖女としての忙しさと責任に見合わないような給与には、流石のフェルーナも抗議せざるを得なかった。
しかし抗議に対しては、「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」といった心無い言葉が返ってくるだけだった。
それを受けて、フェルーナは聖女をやめることにした。元々歓迎されていなかった彼女を止める者はおらず、それは受け入れられたのだった。
だがその後、王国は大きく傾くことになった。
フェルーナが優秀な聖女であったため、その代わりが務まる者はいなかったのだ。
さらにはフェルーナへの仕打ちも流出して、結果として多くの国民から反感を招く状況になっていた。
これを重く見た王族達は、フェルーナに再び聖女に就任するように頼み込んだ。
しかしフェルーナは、それを受け入れなかった。これまでひどい仕打ちをしてきた者達を助ける気には、ならなかったのである。
モフモフテイマーの、知識チート冒険記 高難易度依頼だって、知識とモフモフモンスターでクリアします!
あけちともあき
ファンタジー
無能テイマーとしてSランクパーティをクビになったオース。
モフモフテイマーという、モフモフモンスター専門のテイマーであった彼は、すぐに最強モンスター『マーナガルム』をテイムするが……。
実はオースこそが、Sランクパーティを支える最強メンバーだったのだ。
あらゆるモンスターへの深い知識。
様々なクラスを持つことによる、並外れた器用さ。
自由になったオースは、知識の力で最高の冒険者へと成り上がっていく。
降って湧いた凶悪な依頼の数々。
オースはこれを次々に解決する。
誰もがオースを最高の冒険者だと認めるようになっていく。
さらに、新たなモフモフモンスターが現れて、仲間も増えて……。
やがて、世界を巻き込む陰謀にオースは関わっていくのだ。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆
八神 凪
ファンタジー
日野 玖虎(ひの ひさとら)は長距離トラック運転手で生計を立てる26歳。
そんな彼の学生時代は荒れており、父の居ない家庭でテンプレのように母親に苦労ばかりかけていたことがあった。
しかし母親が心労と働きづめで倒れてからは真面目になり、高校に通いながらバイトをして家計を助けると誓う。
高校を卒業後は母に償いをするため、自分に出来ることと言えば族時代にならした運転くらいだと長距離トラック運転手として仕事に励む。
確実かつ時間通りに荷物を届け、ミスをしない奇跡の配達員として異名を馳せるようになり、かつての荒れていた玖虎はもうどこにも居なかった。
だがある日、彼が夜の町を走っていると若者が飛び出してきたのだ。
まずいと思いブレーキを踏むが間に合わず、トラックは若者を跳ね飛ばす。
――はずだったが、気づけば見知らぬ森に囲まれた場所に、居た。
先ほどまで住宅街を走っていたはずなのにと困惑する中、備え付けのカーナビが光り出して画面にはとてつもない美人が映し出される。
そして女性は信じられないことを口にする。
ここはあなたの居た世界ではない、と――
かくして、異世界への扉を叩く羽目になった玖虎は気を取り直して異世界で生きていくことを決意。
そして今日も彼はトラックのアクセルを踏むのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる