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追跡
しおりを挟む「そうか、わかった。ところで、何匹ゴブリンを仕留めたんだ?」
ガレアは、島庁に、オルヴァ村から報告書を持って来た警備員に冷静に尋ねた。
「……ウマで逃げられてしまい、一匹も」
「ふむ、しかし学校では、クライド君が戦ったと報告があるが?」
「……そう言えばおかしいですね。戦闘の跡も見当たりませんでした」
「まあいい。援軍は出さない。その代わり、私が向かおう。冒険者ギルドに追加クエストを出せ。ドラガンに『オルヴァ村でボブゴブリンが現れた』と伝えるのだ。島主権限で報酬金を引き上げる!」
島主は、机から紙を取り出すと、素早く書類に記し押印して渡した。
「ボブゴブリンですか?」
「ああ、間違いない。ただのゴブリンが、小難しい策を使うわけがない。率いているのだろう」
「そうですか……島主様の戦いが見られるのでしょうか?」
警備員は、期待とわずかな緊張を滲ませて尋ねた。
(お前たちは、倒せないことを恥じろよ)
ガレアは内心で毒づきつつも、淡々とした表情を崩さなかった。
「いや、オルヴァ村では私の出番はないさ」
「ローカン警備長ですか? それとも、クライド村長が?」
「ははは、面白い冗談だな」
ガレアは、仕舞い込んでいた、使い込まれた杖を手に取り、その重みを確かめた。
※
学校の中庭に張られたテントで、仮眠を取っていたローカンは、警備員の声で叩き起こされた。ほんの少し仮眠を取ろうとしただけだったのに。
「緊急事態です。ローカン警備長!」
「入れ!」
寝ぼけた頭を抱えて、ローカンはベッドに腰掛ける。まだ意識が半分眠っている。
「人攫いです。子供がいなくなりました。しかも、何人もです」
「本当か? 遊びに行ってるのではないのか? 攫ったのはまさか?」
「はい。ゴブリン共です。目撃者もおります」
「なぜ、学校の外に子供が出ているんだ!禁止していないのか……」
ローカン自身も夜襲を終えたばかりだというのに、再び襲撃されるとは考えていなかった。体が重く、頭もすぐに覚醒しない。
(まずい、これは責任問題だ……)
「ローカン警備長、村の子が攫われたぞ! どうしよう?」今度は、クライドが慌てて飛び込んできた。顔が引き攣っている。
「どうしようも、こうしようもないだろう。取り返すまでだ!」ローカンは勢いよく立ち上がり、ため息をついた。
「じゃあ、援軍の到着を待って、森に入るのですね?」
「そんな悠長な考えでは間に合わない、一刻を争うぞ!」ローカンは即座に答えた。
「私には、ここを守る役目がありますから、よろしくお願いします」クライドは静かに言った。
警備長は少し黙った後、鋭く目を細め、言葉を続けた。
「いや、村民の救出だ、お前は行かないとな。あとは……うちから精鋭の2人の内、どちらかが」
その時、警備員たちが顔を見合わせ、無言で頷いた。
「そう言えば、ローカン警備長は、強盗団の討伐で魔物の森に入られてました。私達、2人で応援が来るまで、ここを守ります」
それを聞いたクライドは、少し安堵の息を漏らしながら答える。
「……あ、そうですね、それでお願いします。ローカン警備長が行ってくださるなら、心強いです。じゃあ、行きましょう!」
仕方なく、彼らは出発の準備を始めた。 警備員たちの顔には、無意識のうちに少しの安堵が浮かんでいた。
この島は、平和で、比較的裕福な島だ。その為、冒険者になれても、危険を犯してまで、磨こうとはしない。
魔物の森や、ましてやダンジョンには踏み入らない。選ばれた彼らは、その中では比較的果敢な方ではあるのだが……
※
ローカンとクライドは、魔物の森に足を踏み入れた。大森林ほどではないが、森の中は薄暗く、光が届かない。少しでも進むと方向感覚が鈍り、道を見失いかねない。
準備に手間取り、すでに夕方になっていた。
「ローカン警備長、こちらで合っているのですか?」
「わからん。ただ、たしかこっちだ」
ローカンは、村から離れ、前回踏み入った街道の脇道まで戻り、人の往来があった微かな跡を頼りに進んでいた。しかし、クライドはそれを探索魔法か何かだと勘違いしている。
やがて、以前強盗団の死体を発見した小さな空き地にたどり着いた。
「休憩しよう」ローカンが声をかけると、クライドはほっとしたように地面に座り込んだ。
「疲れたぁ……」
魔物の森にいるにもかかわらず、クライドには警戒心がまるで感じられない。この様子では何かスキルや能力を隠しているのかもしれないと、ローカンは少し疑念を抱いた。
「ところで、クライド村長。君の冒険者としてのジョブは何だ?連携が必要だ。俺は剣士だ。悪いが教えてくれ」
「……」
「すまん、聞こえなかった」
「ありません」
「……は? まさか、初級冒険者なのか? 島の外で修行を積んだんじゃなかったのか!」
ローカンは頭を抱え、ふぅと息を吐いた。すると、不意に湖のほとりにある小さな小屋が目に入り、彼は近づいて扉に手をかけた。
「なんだ、この小屋……妙にきれいじゃないか。しかも鍵がかかってる!」
ガチャガチャと扉を引っ張ると、突然「ワオーン!」という雄叫びが響き、ローカンは驚いて剣に手をかけ振り返った。現れたのは毛並みの美しい小狼だった。
「おいおい、ヴァル君じゃないか!こんな森に散歩か?」
クライドは腰を抜かし、呆然としている。
ヴァルと呼ばれた小狼は首を振り、ローカンの服の袖を引っ張った。
「待て待て、今日は遊んでる暇はないんだ。……あ、そうだ、干し肉をあげよう!」
ローカンはもう一方の手でポーチを漁ったが、ヴァルは一瞬考え込んだあと、残念そうな顔をしてさらに裾を引っ張った。
「……何かあったのか? わかったから、口を離してくれ!」
ヴァルは首を振り、走り出す前に「ついて来い」と言わんばかりの視線を向けた。
「クライド、行くぞ!」
ローカンは行き詰まっていた状況を打開できると考え、すぐに後を追った。
(島主には、ヴァル君のせいにして報告すればいいな……)
ローカンが内心で楽観的に考える中、クライドはその様子を尊敬の眼差しで見ていた。ローカンが小狼を飼い、あらかじめ森に派遣していたのだと思い込んでいる。
「しかし、速いな!」
クライドは汗を垂らし、息も絶え絶えになりながら走る。ヴァルは時折後ろを振り返り、あまりの遅さに呆れたような表情を見せた。あのノルドの足の速さと比べても、明らかに物足りないのだろう。
「もう無理だ……休ませてくれ!」
クライドが叫ぼうとした瞬間、目の前にゴブリンが現れた――。
【後がき】
お時間を頂き、読んで頂き有難うございます。♡等で応援頂きますと、今後も励みになります。又、ご感想やレビュー等も一行でも頂けますと、飛び上がって喜びます。 引き続きよろしくお願いします! 織部
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