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討伐依頼
しおりを挟む島主は、セラ親子の家に向かった。
「こんばんは、ガレアです」
「ワオーン!」小狼のヴァルが元気よく駆け寄り、勢いよく尻尾を振った。ついてこいと合図され、島主はその後を追う。
「こんばんは、ガレアさん」
通された部屋には、セラとリコがいて、ゆっくりお茶をしていた。島主はちらりと
視線を向ける。
(やはり、犬人族の少女がいたな)
耳がぴくぴくと動いている様子が、どこか楽しげだ。
「どうなさいましたか?」セラは、微笑みを感じさせる柔らかな声で尋ねた。
「色々と助けてもらっているようですね。本当に、すみません」島主は深く頭を下げた。
「なんのことですか? 大したことはしていませんよ。これから、スイーツタイムなんです。よろしければ、ご一緒にどうですか?」
「いきなり来て、それは……」
「今日はリコの成人祝いなんです。ぜひ一緒にお祝いしてあげてください!」
「それでは、ご馳走になります。ところで、リコちゃんは、どこの子ですか?」
「ニコラばあちゃんちの子!」リコは自信満々に答えたあと、少し考えるように首を傾げた。「あ、でも……ヴァル……そんな名前だったっけ?」
「……ああ、ヴァレンシア孤児院ですね」
「あ、たぶんそれ!」リコは嬉しそうにうなずき、ガレアの背中を軽く押しながらダイニングへと案内した。ヴァルは、不貞寝をしている。
部屋には甘い香りが漂っている。島主も思わず、深呼吸した。キッチンでは、小さなパティシェが、真剣な顔でデザート作りに取り組んでいた。
「母さんに習って、リコの生まれ故郷、聖王国のクチーナ・ポーヴェラ風ティラミスとパンナ・コッタを作ったよ」
几帳面にレシピが書かれたノートが、開かれているのが彼らしい。ノルドは控えめに言いつつも、その口元には誇らしげな笑みが浮かんでいた。
「それでは、どうぞ!」みんなの前に、デザートが置かれる。
リコは懐かしさと、これまで味わったことのない美味しさに感激し、尻尾をぶんぶんと振っている。
「小さい頃、通りのお店で食べている人たちを眺めながら、いつか私も食べてみたいと思ってたの……ありがとう、ノルド!」リコはノルドの首に飛びついた。
「早く、食べて!」
「うん。美味しい!」ノルドにもたれながら、一口食べて頷く。あっという間に、平らげた。
ノルドは顔を真っ赤にして下を向き、ポケットから小さな包みを取り出してリコに渡した。
「急だったから、これしか作れなかった」
それは、小さな陶器に入った保湿剤だった。檸檬の香りがふんわりと漂い、以前シロノに見せた試作品をさらに改良したものだった。
「大切に使うよ、ノルド!」
リコは満面の笑みを浮かべ、ノルドを見つめた。その笑顔に、ノルドも思わず照れくさくなり、軽く頷いた。
「私からは……リコ、おいで!」
セラは手招きすると、リコを部屋に連れて行った。しばらくして、着替えたリコが戻ってくる。
「へへへ、どう、ノルド、似合うかな?」
リコは嬉しそうにその場でくるくると回り、小さく踊ってみせた。
「うん、とっても似合ってる」
リコが着ているのは、淡い緑色のチュニック。柔らかな生地で仕立てられ、動きに合わせて伸縮性を持たせてある。活発に動き回れるよう工夫された一着で、セラの裁縫の腕前が光っている。
「ほう……」
島主は感心しながらそっと素材に触れた。その丈夫さから、この服が冒険者向きの仕立てであることがわかった。
リコは満足そうにお代わりをしていたが、やがて大きなあくびをして「お腹いっぱい、眠くなっちゃった」とつぶやいた。初めての森の探索で、気疲れもあったのだろう。
「リコ、着替えてベッドで休みな!」
「やだ!このまま寝る!」
リコがぐずぐずと座り込むと、ヴァルがそっと近づいてきた。リコのそばに横たわり、静かに寄り添う。
その暖かさに安心したのか、リコは表情を緩め、次第にまぶたを閉じていった。眠りにつく直前、セラにおぶわれて部屋へと運ばれていった。その寝顔は穏やかで、安心しきった様子だった。
「ご馳走様。村民や警備員の皆に世話をかけたな」
島主は食事を終え、ノルドに礼を述べた。
「いえ、別に……」
ノルドは控えめに答えたが、その表情はどこか誇らしげだった。
セラが戻ってきたところで、ガレアが話を切り出した。
「魔物の森にいるボブゴブリンを討伐しようと思います。案内をしてくれませんか?もちろん、報酬はお支払いします」
「ボブゴブリン……それでか」
ノルドは初めて聞いたような顔をしたが、すぐに納得した様子でうなずいた。
「わかりました。島主様は後衛でしょう。私も同行します」セラが言う。
「待って、島主様、母さん!僕に倒させてください!」 ノルドは勢いよく声を上げた。
セラは少し驚いたが、すぐに微笑んでうなずいた。
「いいわ。ノルド、あなたに任せます。ただし、私も島主様も同行しますよ」
「任せておいて」
ノルドは力強く答えたが、その声にはわずかに緊張が滲んでいた。
「準備してくるよ。行こう、ヴァル」
ノルドはヴァルの背を軽く叩いて呼びかける。ヴァルは静かに立ち上がりしぶしぶノルドの後をついていった。
※
ゴブリンの巣窟となっている森の最奥、暗闇に包まれた古代遺跡の前にたどり着いた。遺跡の前は、森が途切れて、土の平地になっている。
漆黒の闇が広がっているが、島主以外の仲間たちは暗闇でも周囲を見通せるらしい。セラから手渡された目薬を差すと、闇の中の景色が次第に浮かび上がってきた。
ノルドは警戒を強め、遺跡入り口を警備しているゴブリン二匹に視線を向ける。死角から素早くダーツを放つと、二匹とも毒に冒され、身動きが取れなくなった。その隙を逃さず、確実に仕留める。
「よし、ヴァル、罠を仕掛けるぞ!」
いつものように目で合図を送り、準備を開始した。
ガレアが運んできた罠は相当な量だ。それを器用に扱いながら、ヴァルはノルドの指示を待つことなく手際よく、口で罠を展開していく。その様子を見て、ガレアは感心したように小声でつぶやいた。
「手慣れていて、無駄がない」
「準備完了です!作戦はお伝えした通りです」
「ノルド、逃げたやつは私に任せなさい」
罠が張り巡らされたことを確認すると遺跡の正面にいるノルド達を残して、全体を見渡せる左手の小高い丘に位置取った。
「わかりました。それじゃあ始めます!」
【後がき】
お時間を頂き、読んで頂き有難うございます。♡等で応援頂きますと、今後も励みになります。又、ご感想やレビュー等も一行でも頂けますと、飛び上がって喜びます。 引き続きよろしくお願いします! 織部
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