27 / 221
ネフェル
しおりを挟むシシルナ島は冬を迎えた。魔物の森も、冬風の冷たさを感じると、多くの魔物が冬眠に入り、普段の賑わいは嘘のように静まり返っていた。
ノルドは勉強と薬作りに没頭し、日々を過ごしていた。時折、町へ出向いてノシロの店を手伝ったり、完成した薬をニコラの元へ届けたりもする。
森へ足を運ぶたび、彼は古代遺跡を訪れて清掃作業を行い、祭壇に蝋燭を灯し、精霊王への祈りを捧げることを日課としていた。
遺跡に彫られた祭壇の彫刻は「精霊王」を物語っていた。
その日も、ノルドはヴァルを連れて遺跡に向かっていた。だが――
「あれ? 開いてない?」
魔物が入り込まないように作った簡単な柵が、誰かの手によって開け放たれていた。
周囲に魔物の気配は感じられない。それでも、普段とは異なる緊張感が空気に漂っていた。
「誰かが入ったのか……?」
ノルドは低くつぶやき、ヴァルに合図を送る。小狼はすぐに反応し、静かに前進を始めた。ノルドも続いて遺跡の中へ足を踏み入れる。
わずかな足音が響くのを感じながら進むと、部屋の中央に白い影が倒れているのが見えた。
純白のローブを纏った少女が、冷たく硬い石床の上で横たわっている。金髪の長い髪が床に広がってた。
ヴァルが慎重に近づき、低い姿勢で彼女の様子を伺う。一瞬の沈黙の後、小狼は振り返り、ノルドに向かって短く首を縦に振った。
「う……うん……」
少女が微睡から目を覚ました。その瞳は、青空を映したように澄んでいる。はっきりとした声が、静まり返った礼拝堂に響いた。
「わぁぁ……!」
目を開けた彼女は、最初にヴァルを見て驚きの声を上げた。
しかしすぐに敵意がないと気づいたのか、「ごめん、ごめん!」と慌ててヴァルの頭を撫でる。その無邪気な仕草に、警戒していたヴァルも緊張を解いたようだった。
少女はゆっくりと立ち上がり、純白のローブの裾を軽く払うと、礼拝堂を見回した。そして、堂々とした様子で岩陰を見つめる。
「私はネフェル。隠れていないで、出てきなさい!」
その凛とした声に、ノルドは思わず岩陰から顔を出した。なぜだろう、彼女が勝手に忍び込んだはずなのに、叱られているような気がするのだ。
「ノルドだ。ここで、何をしてたの?」
「勝手に入ってごめんね。寒くて仕方なかったの。でも、この礼拝堂……とても綺麗ね。あなたのおかげなの?」
「ああ……でも、こんなに綺麗じゃなかった」
ノルドが視線を壁へ向けると、古びた彫刻が微かな光に照らされ、神秘的な陰影を
浮かび上がらせていた。
「ふふふ」ネフェルが小さく笑う。
「ところでノルド、お腹が減ったわ! 何か食べるもの持ってない?」
唐突な頼みに、ノルドは少し眉をひそめたが、すぐにリュックを下ろして中を探った。
昼食用に用意していたモッツァレラチーズとトマトを挟んだパンを取り出し、丁寧に半分に切る。それを蜂蜜入りホットレモンの入った水筒と一緒に彼女に手渡した。
「ありがとうね。ねえ、ノルド、この島にあるサナトリウムって知ってる?」
「サナトリウム……療養院?」ノルドは眉をひそめた。思い当たる場所がないようだ。
「おかしいなぁ、この近くにあるはずなんだけど」彼女は懐から手紙を取り出し、じっと見つめた。
「もしかして、森の丘の上にある建物のことか?」ノルドは少し考えてから言った。町に降りると、丘の上に白く美しい建物が緑の中にちらりと見えたからだ。
「でも、道の途中に門があって入れなかったよ」
彼は以前、町と反対側の道を歩いて探索したときのことを思い出す。
「でも、森を通れば行けるかもしれないわ」
彼女は少し考えてから答えた。
「それで、何のために行くんだ?」ノルドは眉をひそめながらも、興味深そうに尋ねた。
彼女が悪い人には見えなかったが、理由が気になったのだ。
「大切な人に会いに行くの!」
彼女の声には確かな力がこもっていた。
ノルドはその言葉に納得し、うなずいた。
「わかった。行ってみよう。でも、もし危険そうだったらすぐに戻るからな」
「ふふふ、大丈夫よ、ノルド!」
彼女は笑顔を浮かべた。
ノルドが小川に架けた橋を渡り、さらに森の奥へ進む。険しい森をゆっくりと進んでいくが、ネフェルの動きは飛び跳ねるように軽やかだ。
まるで森の中で育ったような、すっとした歩き方。年齢は数歳しか上に見えないが、彼女は明らかに森を歩き慣れた冒険者のようだ。
あの遺跡に到達できることからも、その推測は間違いないだろう。
「まるで母さんのようだ」
「へ?」ネフェルは不思議そうに声を出した。
森の中では、何故か魔物に襲われることがなく、魔物が逃げていった。やがて、森は一面の大きな崖に突き当たり終わりを迎えた。
「きっと、この上だけど、登れないな」
まるで世間と隔絶しているような壁だった。崖の中腹にある巣穴に、大きな鳥がいるのが見える。
じろりとこちらを観察しているのがわかる。その鳥は、羽を広げて大きく空に飛び出し、鋭い鳴き声を上げながら旋回を始めた。
「ガギャァァ!」羽ばたきの音が轟き、威嚇するように森中に響き渡る。
「まずい。あれは鳥の魔物、いや、小さいがグリフォンだ。逃げよう!」
ノルドと小狼は、森の中に隠れたが、ネフェルは平然と立っている。
グリフォンは獲物を見つけ急降下し、堂々と立っているネフェルを襲おうとする。
「危ない! 逃げろ!」ノルドは腰のダーツに手をかけ構えた。
「大丈夫よ、ノルド!」
ネフェルが片手を魔物に向かって差し出す。何も武器を持っていなかったから、魔術師だと思っていた彼の予測通りの動きだ。
しかし、彼女の動きに何か魔力を感じたが、目に見える魔法は何も発動しなかった。
「何の魔法だ?」ノルドとヴァルは、戦闘体制のまま、見守ることにした。
グリフォンは、地上に降り立ち、彼女から少し離れて対面し、ネフェルを睨みつけたが、その場から動かなかった。
鋭い眼差しが、徐々に穏やかで柔らかなものへと変化していく。まるで彼女を認めるかのように、その威圧感は消えていった。
しばらくすると、グリフォンは急上昇し、ゆっくりと上空を旋回すると、巣に戻って行った。
「うーん。逃げられたか……」
「ネフェル、何してるの? 大丈夫?」
「捕まえて、崖の上に運んでもらおうかと思って」
「え?」
彼女は、ニタリと微笑んだ。
「私ね、魔物使いなの」
【後がき】
お時間を頂き、読んで頂き有難うございます。♡等で応援頂きますと、今後も励みになります。又、ご感想やレビュー等も一行でも頂けますと、飛び上がって喜びます。 引き続きよろしくお願いします! 織部
15
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる