シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部

文字の大きさ
31 / 238

陶芸の村 ジロナス

しおりを挟む

 ノルドが提案したことは二つだった。

 一つは、偽物の保湿クリームを作り直すこと。もちろん、チャリティで売るような富豪や貴族向けのものではなく、普段使いする、保湿だけのクリームだ。

「それって、一から作った方が簡単じゃない? ノルドが大変じゃない?」リコが心配そうに尋ねる。

「やったことはないから、上手くいくといいんだけど。自信はあるよ。でも、作業が大変で一人では難しいんだ」

「でも、製薬スキルが無いと無理じゃないのか?」

「ええ、勿論。その部分は私がやります。器からクリームを取り出したり、器を洗ったり、詰めたり、そういったことをお願いしたいのです」

「それなら、手伝う!」リコが手を挙げる。

「メグミ、お前も手伝いなさい。必要なら他の人間も。足手纏いになるかもしれんが、子供たちにも手伝わせたい。それでこそ、ヴァレンシア孤児院製だ。お願いできないか?」

 ニコラが、珍しく頭を下げた。周りの人間は、その態度に驚き、しばらく沈黙が流れた。
 
 もう一つは、チャリティの場での実演販売だ。

「全ての効能は実演できないけれど……」

「それは良い考えだ。式典の途中で紹介しよう。ノルド、頼めるかな? 招待客は数百人もいないよ」

「え……いや……」考えただけで、ノルドは緊張して顔面蒼白になりそうだった。

「お前の説明は素晴らしい。みんな納得するよ」

「考えさせてください」

 自分で提案しておきながら、こんなことになるとは思っていなかったのだ。

 そして、その時、今まで大人しくしていたヴァルが、ノルドに擦り寄った。励ましているようだった。

※※

 警備長のローカンと、ノルドの住むオルヴァ村の村長クライドは、陶芸の村ジロナスを目指して歩いていた。

「警備長、疲れました。危なかったですね……」

 ぼろぼろに破けた服を着たクライドは、今にも倒れそうにふらふらしている。剣も武器もすべて失い、見るからに情けない姿だ。

「しっかり歩け! お前、何もしてないだろう!」

 ローカンが苛立ちを隠さず声を上げる。

 二人は島主の指示で魔物の森に赴き、討伐を命じられた。いや、正確には強い魔物から逃げ回る日々が続いているのだが。

「ゴブリンすら倒せない奴を村長として置いておけないぞ!」

 島主のそんな一言が発端だった。

「はい、ですが、一人では修行も難しく……」

「そうだな」

 クライドの言い訳に巻き込まれる形で、ローカンも同行を命じられる羽目になった。

「ローカンがサポートしてくれる。すぐに行動に移せ!」

 島主はクライドの言い訳を軽く流しながら、ローカンにも無理やり同行を促す。

 せっかちで頑固な島主は、一度決めたことを覆すような人間ではない。ローカンも、雇い主で恩も尊敬もしている島主の命令は絶対だ。

 クライドはため息をついた。それに釣られて、ローカンもまた深い息を吐く。

 祭りの準備で賑わう季節、ドルチェメンテが市場に並び始めたというのに、二人はこんな森の中を歩いているのだ。

 シシリア島には中級ダンジョンがあり、そこは癖のある地形や魔物の巣窟として知られている。

 そのため、冒険者としての職を持たない初級者が入るのは禁止されている。島主が事故率の高さに対応するため新しい規則を作ったのだ。

 それに、オルヴァ村の近く、ノルドの家の裏手では、村長クライドが格好がつかない。

「島主様の要請だ。仕方ない。魔物討伐に行ってくる」

 村に戻ったクライドは財務官にそう告げた。

「さすが村長、ご指名とは!」

 尊敬の眼差しを向けられる。

「……間違ってはいないが」

 クライド自身、このままではいけないと思っている。だが、行動が伴わないのが現状だ。

 そうして、島の各所にある魔物の森の中でも難易度が低いと言われるジロナス近くの森に挑んだのだが――いま、ちょうどその帰り道にいる。

「今日は何を食べますか?」

 既に、魔物討伐よりも食事のことで頭がいっぱいらしい。

「お前はそればかりだな。どうせ俺の奢りだろう。今日はカポナータとライスコロッケだ」

「さすが、独身貴族様ですからね」

「間違ってはいないが、男爵家の七男だ。そんな話したか?」

「ええ、昨日、ホットワイン飲みながら」

「そうだったか」

 ローカンは、この島が気に入り移住してきた、相続権のほとんどない貴族だった。特にこの島の食事を気に入っているのは言うまでもない。

「さ、宿で着替えて、レストランを探しましょう♪ 警備長!」

 やっぱり、こいつもシシルナ島の男だな。ローカンは内心、呆れ混じりにそう思った。

※※

 数人のガラの悪い若い男たちと、頑固そうな職人気質の男が、道の真ん中で口論を繰り広げていた。

「お前らだな! 俺の図柄と器の形を真似しやがったのは! やっと日の目を見た商品なんだぞ!」

 怒りを抑えきれない様子の職人が、突きつけるような視線を浴びせる。

「真似って言われてもなあ」と、若者の一人が肩をすくめ、半笑いを浮かべる。

「たまたまだよ、たまたま」

「たまたまだと? ふざけるな!」職人は詰め寄った。

「同じ意匠に加えて、このひどい出来栄えだ! 俺の仕事だと思われるのが我慢ならねえ! それに、元型もぬすんだろう!」

「落ちていた元型なら、拾ったがな」

 別の若者が軽く笑いながら、懐から小銭袋を取り出して見せびらかす。「これだけ稼げたんだ。良い商売だよなあ!」

 その瞬間、職人の顔が怒りで真っ赤に染まった。

「おい、その発言、警備に届け出てやる! 今すぐ――」

 しかし、若者たちは取り合わない。それどころか、職人を囲み、地べたに倒し、足蹴にしている。

「警備が、俺達を捕まえる? できる訳ないだろう」

「へんな言い掛かりは辞めろよ!」

「もういいだろ、ジジイ。邪魔なんだよ」

「そこまでだ!」

 村では有名な荒くれ者たちを、村の人々は知らないふりをしていたが、どこからともなく響いた声が場を凍りつかせた。

 汚れた上着を羽織り、どこかくたびれた男――クライドが一歩踏み出して割って入る。

「お前には関係ないだろう?」

 若者の一人が眉をひそめ、クライドを見下ろす。

「何だ、この薄汚い野郎。俺たちにケンカ売る気か?」

 他の若者たちも、互いに視線を交わしながらニヤついた。「何だ、やるのかよ!」
クライドは周囲を見回し、助けを求めてローカンをちらりと見た。

 だが、ローカンは腕を組んだまま無視を決め込む。

「……おい、俺ひとりで?」と小声でライドはぼやいた。


【後がき】

 お時間を頂き、読んで頂き有難うございます。♡等で応援頂きますと、今後も励みになります。又、ご感想やレビュー等も一行でも頂けますと、飛び上がって喜びます。 引き続きよろしくお願いします!  織部
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!

しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。 けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。 そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。 そして王家主催の夜会で事は起こった。 第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。 そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。 しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。 全12話 ご都合主義のゆるゆる設定です。 言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。 登場人物へのざまぁはほぼ無いです。 魔法、スキルの内容については独自設定になっています。 誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら鎧だった〜リビングアーマーになったけど弱すぎるので、ダンジョンをさまよってパーツを集め最強を目指します

三門鉄狼
ファンタジー
目覚めると、リビングアーマーだった。 身体は鎧、中身はなし。しかもレベルは1で超弱い。 そんな状態でダンジョンに迷い込んでしまったから、なんとか生き残らないと! これは、いつか英雄になるかもしれない、さまよう鎧の冒険譚。 ※小説家になろう、カクヨム、待ラノ、ノベルアップ+、NOVEL DAYS、ラノベストリート、アルファポリス、ノベリズムで掲載しています。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

異世界陸軍活動記

ニボシサービス
ファンタジー
病弱だった青年が異世界に飛ばされ、そこで軍人として活躍するお話です

クラスまるごと異世界転移

八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。 ソレは突然訪れた。 『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』 そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。 …そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。 どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。 …大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても… そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

処理中です...