34 / 221
祝祭
しおりを挟む「やっと、終わったぁ」
数日がかりで、保湿クリームを作り直し、ようやく商品として販売できる形になった。
リコ、メグミ、孤児院の子供たち、母さん、そして少しだけヴァル。みんなの協力があったからこそ、ここまでこぎつけた。
セラは、ニコラ達と話して以来、以前にも増して元気になった気がする。何か吹っ切れたような笑顔を見せる彼女に、ノルドは少し安心していた。
そんな空気の中、外から力強い声が響いた。
「おーい、お代わり、持って来たぞ!」
ノシロの声だ。ノルドが急いで外に出ると、荷台にぎっしり積まれた木箱を目にして、その場に座り込んでしまった。
「これ、全部……?」
木箱の中身は、見覚えのあるクリームの容器ばかりだった。ノルドは驚きと疲労で動けなくなる。
「馬鹿じゃないの、兄さん」
能天気なノシロに苛立ちを抑えきれないメグミが毒を吐いた。「これ、偽物クリームでしょ? どれだけ持ってきたのよ」
ノシロは肩をすくめて、「そんな言い方しなくても……取り押さえた奴らから没収したんだ」と小声で返した。
ニコラが間に入り、ノシロに向き直る。
「よくやったわ。お疲れさん!」
その言葉に、ノシロは照れくさそうに頭を掻いた。「ああ……」
「で、偽造業者はどうしたの?」
「居合わせた警備総長に連れていかれたよ。これで偽造は止まるだろう」
ニコラは荷台を指して言った。
「それなら、この荷物は倉庫に運んでおきなさい。祝祭が終わったら、その後の対応を考えよう」
その一言で場の空気が和らいだ。
※
「いらっしゃいませ、保湿クリームの実演販売をしています!」
港町の広場では、シシルナ島中から集まった人々で賑わう冬の祝祭が始まった。
エリス神と精霊王に捧げる、一週間に及ぶ祝祭。
一等地にあるヴァレンシア孤児院の屋台前で、声を張り上げるリコたち孤児院の子供に、通りかかった買い物客が足を止める。
「これ、本当に効くの?」
「もちろんです! 冬の乾燥にぴったりです。一度試してみませんか?」
差し出された試供品を手に取り、物見の客は半信半疑で手に塗り始めた。
「でも評判悪かったしな……」
「あれは偽物です。使ってみてください!」
リコは気にせずに勧め、試した人たちの間から歓声が上がる。
「これはいい。一つください!」
そこに、深刻な顔をした農家の親子が現れた。
「俺の母ちゃんに買ったら、手が腫れたぞ。どうしてくれるんだ?」
日焼けした体格のいい男の隣には、具合の悪そうな老婆。
リコが言葉を詰まらせた瞬間、メグミがすっと対応を代わった。
「それは大変でしたね。こちらにどうぞ」彼女は仕切られたテントの中に親子を手招きする。
「おい! 口止めなんてさせないぞ!」農夫が声を荒らげるも、メグミは冷静に応じる。
「薬師様に診てもらいましょう」中では、ノルドが居心地が悪そうに椅子に座っていた。
「おい、こんな子供に何ができる?」
ノルドがいつものように手を動かそうとした瞬間、メグミが制して告げる。
「この方は、ニコラ様の薬師です。ご安心ください」
懐からニコラのサイン入り証文を取り出し、農夫に見せると、彼は黙り込んだ。
ノルドは老婆の手を取り、腫れ上がり、痒みで掻きむしられた跡にクリームを丹念に塗った。
「馬鹿野郎、母ちゃんになにしやが……ん……だ」
老婆の口から安堵の声が漏れ、周囲の空気が和らぐ。
「ああ、治った。痒くない」
「お大事に」ノルドは小声で告げ、少し俯いた。
「ありがとう、坊主」
農夫がつぶやくと、メグミが手元の商品を差し出す。
「今使ったのは特別製です。販売しているものも効果はありますが、そこまでではありません。それでも、冬の乾燥には十分ですので、ぜひお試しください」
「いや、買わせてくれ」
農夫は感謝の気持ちを込めて代金を支払い、老婆を支えながらその場を去っていった。
※
近くの雑貨店の出店では、リジェが看板娘として、その美しさで集客している。
「ハイエルフか……美しい……」
感嘆の声を上げる客たちをよそに、ノシロは面白くなさそうな顔で黙々と商品を売っていた。
「まあ、これなら休んだ分の損は取り返せそうだな」
シロノのそんな声はかき消せるほど、店の賑わいは盛況だった。
広場の中心の舞台では、楽団の演奏が始まり、鮮やかな衣装の踊り子たちが舞い踊る。
精霊王の伝説を描いた芝居が、この祝祭で一番の人気演目だ。
「見て見て、すごい!」
子供たちが歓声を上げ、大人たちも足を止めてその光景に目を奪われる。
「警備員さん、これ食べる?」
出店のチュコを差し出す店主に、巡回中の警備総長が笑顔を見せた。
「頂きます!」
ここで断らないのが、シシルナ島の警備員魂である。
市場も舞台も、人々の笑顔であふれ、シシルナ島は喜びと感謝の一週間を迎えていた。
※
「島の入国管理はどうだ?」
ニコラは、港を眺める島主に声をかけた。
「ああ、今年は聖女様も来られるからな。厳重にしているつもりだが……」
島主は少し難しい顔をしながら答える。
「心配いらん。うちの連中も総動員している。もう散って見回りしているはずだ」
「飲み歩いているの間違いじゃないのか?」
「ははは、そうかもしれんがな! それにしても、そっちは人材不足だな。お前の警備員、弱いんじゃないか?」
「何を言う! 母さんが見どころのある奴を全部手下にしてるせいだろうが」
「確かに、それは否定できん」
二人は笑いながら、島主の部屋から次々と入港してくる船を眺めていた。
【後がき】
お時間を頂き、読んで頂き有難うございます。♡等で応援頂きますと、今後も励みになります。又、ご感想やレビュー等も一行でも頂けますと、飛び上がって喜びます。 引き続きよろしくお願いします! 織部
6
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる