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祝祭チャリティ 前
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「だから、なんで私が、付き合わなきゃいけないの?」
その声の主は、この島から逃げ延びた強盗団の生き残り、刺青の女だった。
無謀な計画に巻き込まれ、命をつなぐためにまた男たちに引きずられることに、彼女はすでに嫌気が差していた。
「お前が、あの島のことをよく知ってるからだ。この仕事はしくじれない。この前は逃したが、今度は必ず仕留める」
首領の言葉は冷徹で、目に容赦のない光が宿っている。腕力も頭も一流の彼が率いるのは有名な暗殺集団だ。
強盗団を脱けたと思えば、今度は殺し屋たちとの危険な日々が待っていた。
自分の男を見る目のなさに、彼女は改めて嫌気を覚えていた。ちなみに、例の商人は彼らにあっさり始末されている。
「断る余地はないの?」
「ああ、依頼主は相当な地位の持ち主だ。察しがつくだろう? まあ、俺たちの腕を信じておけ」
「わかったわ。けど、船に忍び込むの? 私は島を出るだけでも一苦労だったわ」
「そこは心配いらない。依頼主が手はずを整えている。さあ、準備しろ。シシルナ島に向かうぞ」
彼は周囲の部下たちに号令をかけた。刺青の女は腕を組み、ため息をつきながら黙っていた。明日の朝にはシシルナ島に到着する予定だ。
それはちょうど、セラたちがこの島に着いた八年前と同じ日、同じ船だった。
通常、この島に向かう定期便だけでは輸送量が足りないため、この季節には特別な許可を受けた船だけが入港を許される。
ニコラが運営する通常便では、船員による厳しい監視と入港時の審査が徹底されている。
特別に寄港を許された船舶であっても、船内の立ち入り検査や入港時の審査は避けられない。
だが、この船は聖王国の貴族専用の特別船であり、形式的な簡易検査で済まされるのが通例だ。
「俺たちが船員ですか?」
「仕方ないだろう。武器や装備は依頼主が運び込んでいるはずだ。安心しろ!」
「へい」
「いいか、ちゃんと船員の仕事をこなせよ!」
数人の男たちが船員服に着替えると、もともと着ていた服や装備を次々と海へ投げ捨てた。そのうちの一人が、苦笑いをしながら言った。
「……この服、サイズ合わねぇな」
「お前もか」と別の男がつぶやきながら肩をすくめた。
「まあ、着られるだろ。心配すんな、こんなことでバレるわけねぇよ」
笑いながら、みんなが服を着替え、気を紛らわす。
「お前もだ!」
刺青の女も、すでに無駄に迷っている暇はないと思い、指示通りに服を、みんなの前で見せつけるように着替えてやった。
※
島主は一人寂しく、部屋から入港する船を見つめていた。夜が明ける前、誰もが眠る時間帯である。
「やはり怪しいのは聖王国の船かな。こんな時間に入港するとはな」
しかし、聖王国の船はいつもこの時刻に到着するし、この国との関係は悪くない。
特に今年は無理をお願いしているので、手荒な真似もできないのだが、何か引っ掛かるものがある。
とんとんと、扉を叩く音とともに、ローカンの声が響く。
「入れ。珍しく早いな!」
「ははは、祝祭ですからね」 ローカンは寝癖をつけたまま、慌てて起きた様子で答える。
「緊急事態か?」
「いえ、来客です」 扉から小狼が入ってきた。
「ヴァル君、どうした?」
小狼は、彼の背中にあるポーチを顔で示した。
「おおお!」 島主は思わず叫び声を上げる。
セラの手作りのふかふかマフラーとお菓子が、セラ家族の祝祭メッセージカードとともに入っていた。
ヴァルは用事が済んだ様子で帰ろうとするが、島主は慌てて告げた。
「ローカン、ヴァル君に食事を!」
ヴァルの顔は、にやりと笑っていた。
※
祝祭六日目の夜になった。ノルドは昨日貰ったスーツに着替え、セラは黒衣とスカーフを纏い、グラシアスの馬車でリコとヴァレンシア孤児院にやってきた。
丘を登る道には、次々と馬車が到着し、ヴァレンシア孤児院はチャリティ会場と化していた。
本土から招待された富豪や貴族たちが華やかな装いで集まっている。普段は開かない歴史ある建物の正門が開かれ、大広間も社交の場として輝きを放っていた。
「思ったよりも立派な催しですね」
セラが感嘆する一方で、ノルドは顔が青ざめ、足元が重く感じられた。
「それじゃあ、また後でね」
リコは孤児院の準備に向かっていった。やることが多いらしい。
「受付はこちらです。グラシアス様。ノルド君とお母様は、出演者控え室へどうぞ」
受付にはメグミとリジェが正装して立っており、案内をしていた。ノルドとセラは、控え室へ向かう。
途中で調理場を通ると、美味しそうな匂いが鼻をくすぐった。島主のシェフやノシロたちが慌ただしく動いている。
しかし、彼らはこんな大規模な催しには慣れていないようだった。
「おい、そっちの盛り付け間に合ってないぞ!」
「参加者が予定より多いんだ!」
混乱の声が飛び交い、調理場は一層慌ただしくなっている。
「ノルド、手伝ってきますね」
セラがそう言って調理場に入ろうとする。
「僕も……」
「あなたは出演者よ。控え室に行って、打ち合わせを済ませなさい」
ノルドは言われるまま控え室へ向かったが、足が震えて全身に冷や汗が流れた。
(どうしよう、どうしよう、どうしよう……)
控え室の扉を開けると、中から賑やかな声が飛び込んできた。
「あ! ノルド!」
「おー、ノルドじゃないか?」
「遊びに来たのか?」
「ダイスでもするか?」
顔を上げると、アマリと三老人がそこにいた。
「ど、どうしてここに?」
「お姉ちゃんの付き人だよ」とアマリが足をぶらぶらさせる。
「わしらの付き人だろうが!」と三英雄が返す。
ノルドは思わず笑みをこぼした。
落ち着くと周りの音が。控え室の外からでもセラの声が聞こえてくる。
「そちらの皿を先に出して! 焦げないように気をつけて!」
天才調理人セラのおかげで、調理場の混乱も徐々に収束していく。彼女は忙しく動きながらも、周囲に冷静に指示を出し続けていた。
(さすが母さんだ……俺も、頑張らなきゃ)
【後がき】
お時間を頂き、読んで頂き有難うございます。♡等で応援頂きますと、今後も励みになります。又、ご感想やレビュー等も一行でも頂けますと、飛び上がって喜びます。 引き続きよろしくお願いします! 織部
その声の主は、この島から逃げ延びた強盗団の生き残り、刺青の女だった。
無謀な計画に巻き込まれ、命をつなぐためにまた男たちに引きずられることに、彼女はすでに嫌気が差していた。
「お前が、あの島のことをよく知ってるからだ。この仕事はしくじれない。この前は逃したが、今度は必ず仕留める」
首領の言葉は冷徹で、目に容赦のない光が宿っている。腕力も頭も一流の彼が率いるのは有名な暗殺集団だ。
強盗団を脱けたと思えば、今度は殺し屋たちとの危険な日々が待っていた。
自分の男を見る目のなさに、彼女は改めて嫌気を覚えていた。ちなみに、例の商人は彼らにあっさり始末されている。
「断る余地はないの?」
「ああ、依頼主は相当な地位の持ち主だ。察しがつくだろう? まあ、俺たちの腕を信じておけ」
「わかったわ。けど、船に忍び込むの? 私は島を出るだけでも一苦労だったわ」
「そこは心配いらない。依頼主が手はずを整えている。さあ、準備しろ。シシルナ島に向かうぞ」
彼は周囲の部下たちに号令をかけた。刺青の女は腕を組み、ため息をつきながら黙っていた。明日の朝にはシシルナ島に到着する予定だ。
それはちょうど、セラたちがこの島に着いた八年前と同じ日、同じ船だった。
通常、この島に向かう定期便だけでは輸送量が足りないため、この季節には特別な許可を受けた船だけが入港を許される。
ニコラが運営する通常便では、船員による厳しい監視と入港時の審査が徹底されている。
特別に寄港を許された船舶であっても、船内の立ち入り検査や入港時の審査は避けられない。
だが、この船は聖王国の貴族専用の特別船であり、形式的な簡易検査で済まされるのが通例だ。
「俺たちが船員ですか?」
「仕方ないだろう。武器や装備は依頼主が運び込んでいるはずだ。安心しろ!」
「へい」
「いいか、ちゃんと船員の仕事をこなせよ!」
数人の男たちが船員服に着替えると、もともと着ていた服や装備を次々と海へ投げ捨てた。そのうちの一人が、苦笑いをしながら言った。
「……この服、サイズ合わねぇな」
「お前もか」と別の男がつぶやきながら肩をすくめた。
「まあ、着られるだろ。心配すんな、こんなことでバレるわけねぇよ」
笑いながら、みんなが服を着替え、気を紛らわす。
「お前もだ!」
刺青の女も、すでに無駄に迷っている暇はないと思い、指示通りに服を、みんなの前で見せつけるように着替えてやった。
※
島主は一人寂しく、部屋から入港する船を見つめていた。夜が明ける前、誰もが眠る時間帯である。
「やはり怪しいのは聖王国の船かな。こんな時間に入港するとはな」
しかし、聖王国の船はいつもこの時刻に到着するし、この国との関係は悪くない。
特に今年は無理をお願いしているので、手荒な真似もできないのだが、何か引っ掛かるものがある。
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「入れ。珍しく早いな!」
「ははは、祝祭ですからね」 ローカンは寝癖をつけたまま、慌てて起きた様子で答える。
「緊急事態か?」
「いえ、来客です」 扉から小狼が入ってきた。
「ヴァル君、どうした?」
小狼は、彼の背中にあるポーチを顔で示した。
「おおお!」 島主は思わず叫び声を上げる。
セラの手作りのふかふかマフラーとお菓子が、セラ家族の祝祭メッセージカードとともに入っていた。
ヴァルは用事が済んだ様子で帰ろうとするが、島主は慌てて告げた。
「ローカン、ヴァル君に食事を!」
ヴァルの顔は、にやりと笑っていた。
※
祝祭六日目の夜になった。ノルドは昨日貰ったスーツに着替え、セラは黒衣とスカーフを纏い、グラシアスの馬車でリコとヴァレンシア孤児院にやってきた。
丘を登る道には、次々と馬車が到着し、ヴァレンシア孤児院はチャリティ会場と化していた。
本土から招待された富豪や貴族たちが華やかな装いで集まっている。普段は開かない歴史ある建物の正門が開かれ、大広間も社交の場として輝きを放っていた。
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セラが感嘆する一方で、ノルドは顔が青ざめ、足元が重く感じられた。
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「おい、そっちの盛り付け間に合ってないぞ!」
「参加者が予定より多いんだ!」
混乱の声が飛び交い、調理場は一層慌ただしくなっている。
「ノルド、手伝ってきますね」
セラがそう言って調理場に入ろうとする。
「僕も……」
「あなたは出演者よ。控え室に行って、打ち合わせを済ませなさい」
ノルドは言われるまま控え室へ向かったが、足が震えて全身に冷や汗が流れた。
(どうしよう、どうしよう、どうしよう……)
控え室の扉を開けると、中から賑やかな声が飛び込んできた。
「あ! ノルド!」
「おー、ノルドじゃないか?」
「遊びに来たのか?」
「ダイスでもするか?」
顔を上げると、アマリと三老人がそこにいた。
「ど、どうしてここに?」
「お姉ちゃんの付き人だよ」とアマリが足をぶらぶらさせる。
「わしらの付き人だろうが!」と三英雄が返す。
ノルドは思わず笑みをこぼした。
落ち着くと周りの音が。控え室の外からでもセラの声が聞こえてくる。
「そちらの皿を先に出して! 焦げないように気をつけて!」
天才調理人セラのおかげで、調理場の混乱も徐々に収束していく。彼女は忙しく動きながらも、周囲に冷静に指示を出し続けていた。
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