完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部

文字の大きさ
39 / 221

猛毒

しおりを挟む

※※
「はぁ、寒いな。今日の催し、いつもより時間が長いな。ヴァル君」

 ローカン達は、歓迎会の警備に駆り出されていた。隣には、ヴァルが寝転んでいる。ヴァルには冬毛が生え揃っており、丁度よい温度だった。

 小狼は耳を立てて、立ち上がると、鋭い視線でローカンに「行くぞ」と合図した。

「え! 寒いんだけど」仕方なく、後ろをつけていく。

 歓迎会の送迎の上等な装飾を施された馬車が整然と並んでいる坂道を降りていく。

「まだ、チャリティが終わってないんだ。持ち場を離れられないよ」

 控えめな声でローカンが呟いたが、ヴァルは耳を動かすだけで進み続ける。

「本当に行くの?」

 ローカンは渋々ついていきながら、寒さに震えて肩をすくめた。



「祝福」に見惚れ、物音一つない静かな空間は、やがてざわつく人々の声に包まれていく。

 富豪の一人が壇上のノルドに声を上げた。

「おい! ここにある商品は、聖女様に使われたのと同じものなんだよな!」

「もちろんです」ノルドは胸を張り、自信たっぷりに答える。

「ノルドは、嘘は言わないわよ。とっても良い子よ、ふふふ。皆さん、また明日の夜、お会いしましょう!」

 ネフェルは微笑みながら彼の頭を優しく撫でて、自分の役割に満足すると退場していった。人々の視線は彼女に釘付けのままだ。

「本日のみの限定販売でーす!」リコが声を張り上げ、活気を煽る。

「匂いも良いですし、実用的です。ぜひともおひとつ! お勧めですよ」グラシアスは丁寧な口調で取り巻きの淑女に声をかけた。

「ええ、お父様にお願いしてみます」

「グラシアス様のお勧めならば」

 絶大な聖女の効果もあって、ノルドの保湿クリームの価格はさらに高騰していく。

「欲しい! 自慢になるぞ!」と貴族や富豪たちが次々に声を上げる中、ニコラが舞台に立ち、満面の笑顔で告げた。

「それじゃあ、二千ゴールドで、一人二つまで売ろう。これは特別価格だ。追加で欲しい者には、後ほどヴァレンシア孤児院とグラシアス商会が責任を持って届けるよ」

 ニコラの言葉に、会場はさらに沸き立った。

「儲すぎも良くないからな!」



 舞台を降りたノルドは、深く息を吐き出し、ようやく平常心を取り戻した。

「立派だったわ。もう一人前ね」

 セラは満足げに微笑み、穏やかに言葉をかける。

 ノルドが招待客を見ると、司祭たちが出口へ向かって歩き出していた。その先には、島主が待ち構えている。

「司祭様、お話を伺いたいのですが。こちらへ」

「いや、この後、用事があるのでな」

 露骨に嫌な顔をする司祭に、島主は引き下がらない。

「少しだけで構いませんので!」

「こら、聖王国の司祭に無礼だろう!」

 執事の男が怒声を上げるも、島主の背後には屈強なニコラの手下たちが控えていた。

「……ちっ。グラシアスの差し金か。少しだけだぞ」

 司祭は苛立ちを隠さずに吐き捨てると、島主に促され奥へと消えた。

 その様子を見守っていたノルドがふと別の方向を見ると、出口へ急ぐ司祭付きのメイドの姿を見つける。

「母さん、あそこに!」

 ノルドの声に気づき、セラもそちらに目を向けた。

 黒衣の女性――セラがいつの間にか現れ、メイドの行く手を遮る。

「何故この島に戻ってきたの?」

 冷たい声が静かに響く。

 メイドは怯えたように立ち止まったが、セラはその視線を逃さない。

「待って、魔女様。自主しに来たのよ」

 どこか嘲るような口調だが、その言葉の半分は真実のようだった。

「わかったわ。でも命は大事にしなさい」

 セラの声は、静かだがどこか重く響く。

 その時、再び島主が現れ、無言のまま刺青女を奥へと連れ去った。

 刺青女は抵抗することなく従うが、その後ろ姿はどこか不穏さを感じさせる。

 いつの間にか、執事の姿は遠く離れていた。にやりと、不適な笑顔を浮かべた。

――バタン。

 音と共に、セラが急にその場へ崩れ落ちる。

ノルドが駆け寄ると、セラの首元にとても小さな針が刺さっていた。毒のようだ。

 (あの男が、やったのか! 許さない!)

「母さん! しっかりして!」

 ノルドの声に、セラが反応することは、無かった。

【後がき】

 お時間を頂き、読んで頂き有難うございます。♡等で応援頂きますと、今後も励みになります。又、ご感想やレビュー等も一行でも頂けますと、飛び上がって喜びます。 引き続きよろしくお願いします!  織部
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...