シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部

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セラ

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 セラは、大陸の北にある静寂の森で育った。寒く貧しい土地だった。

 幼い頃、両親を魔物に殺され、奇跡的に生き延びた彼女は、最北の町の孤児院に引き取られた。

 ある日、魔物征伐で町を訪れていた男に見つけられ、彼女は引き取られることとなった。

 その男が仕えていた主は、男の実の娘であり、獣王国の第二王妃。王妃はセラを温かく迎え入れた。
 第二王妃は、まるで歳の離れた妹のように接し、細やかな教育を施した。義父となった男は、厳しく剣を教え込み、セラの成長を支えた。

 セラは、メイド見習いとして調理や裁縫を手伝いながら、王宮での生活を学んだ。

 その基礎がしっかりと築かれ、やがて彼女の才能が花開いた。

「好きに生きて良いのよ」

 義父が若くして亡くなった時、第二王妃は悲しみを抱えながらも、穏やかな声で告げた。

「いえ、最期までお側におります」

 セラは、義父の遺言を胸に、毅然と答えた。

「そう……ならば、ヴァルターク王国に留学しなさい」

「ですが、学びは独学で事足りますし、剣は魔物退治で鍛えられます」

「これは命令よ、セラ」

 その言葉に、セラは従うことを決めた。

 ヴァルターク王国に着いたセラは、身分が低いにもかかわらず、その聡明さ、美しさ、そして強さで王都の人々の注目を集めた。

「今度、お茶でもしませんか?」

 高位貴族の子息が声をかけることもあったが、セラの返答は決まっていた。

「いえ、お茶なら自分で淹れます」

 その冷ややかな態度に、次第に誰も声をかけなくなった。それでも、ひとりだけ諦めずに機会を伺う青年がいた。名は、グラシアス。

 グラシアスは、同じ授業を受け、またセラのいる魔物討伐隊にも加わった。討伐は過酷であり、命の危険に何度も直面したが、その度にセラは彼を助けた。

「グラシアス、無理はしないで」

「くそっ! 俺のジョブが荷運び人じゃ、ただついていくだけだ……」

 しかし、セラはあっという間に卒業を迎え、ヴァルターク王国を離れることになった。

「もうお別れですか? 寂しいですね」

「グラシアス、商人をするなら、獣王国に商売に来ればいいわ」

 セラは軽く言って、王国を後にした。

「全く、何をしていたの? 遊びもしないなんて……」

 増えて返ってきた、彼女に渡した送別金を見て、第二王妃は、呆れ顔で言ったが、セラは平然と答えた。

「いえ、三つ星の料理店と王国御用装飾店で手伝いをしていましたし、近郊の魔物討伐にも参加していました」

 彼女の答えに、第二王妃は深いため息をついた。
「もう、馬鹿な子ね。それなら、貴女には私の近衛騎士団長を任せるわ」

「拝命いたします」

 セラは微笑み、すぐに任務を受け入れた。
 獣王国の女騎士として、セラの名は瞬く間に国中に広まった。


 それから暫くたったある日、第二王妃が妊娠した。長らく子供を望んでいなかった彼女はすでに諦めていたため、その喜びはひとしおだった。

 それ以上に喜んだのは、国王である。

「精霊王にお願いしたからだ。この子は、大陸を統べる者になるかもしれん」

 獣王国にはすでに、第一王妃との間に次期国王候補の男子がいた。それでも国王は、この新たな命に特別な宿命を見出していた。

「私は、この子を国王にはしません」第二王妃はお腹を優しく摩りながら静かに訴えた。

「そうもいかん。天啓だからな」国王は頑固にその訴えを退ける。

 神の加護を受けたと言われる、生まれぬ第二王子と、既に立派に責務を果たしている第一王子。王宮内では二つの陣営が形成され、争いの火種が徐々に大きくなりつつあった。

 そして、第二王子が無事に五体満足で生まれると、その争いは一気に表面化した。

「そうか、無事生まれたか!」

 国王は極北の氷の島に魔物征伐に赴いていた。その帰路で倒れ、病床に伏すことになる。

 もともと、定期的に体調を崩していた国王であるが、医師たちは今回も傷も病も見つけられなかった。

 遠征に同行していたセラもまた、近頃は原因不明の体調不良に苦しんでいた。

「呪いだ。第一王子の陣営の仕業だ」

 そう彼女が気づいた時には、すでに手遅れだった。

 国王の看病という名目で誘い出され、第二王妃の周りに戦える者はセラしかいなかった。



「至急、王子を連れてこちらに来るように」

 国王が危篤だとの知らせと共に、第二王妃に寝室への招集が届く。

「セラ、お願いがあります。この子を連れて逃げて」

「それはできません。それなら一緒に」

 第二王妃の瞳には深い決意が宿っていた。しかし、それが叶わぬことをセラも悟った。

「命に代えても」

 セラは第二王妃から赤子を預かり、その後の運命に覚悟を決めた。

 王城はすでに敵に囲まれていた。

 静かな足音が耳に入り、セラは包囲網が狭まっていることを実感する。

 セラは赤子を抱えて、魔物の森の中を駆け抜けた。

 その足音が響く限り、誰も彼女に追いつけなかった。

 だが、それは間違いだった。

「どこへ行く? お前の抱えている赤子を渡したら、命だけは助けてやるぞ!」

「お前たちは、何者だ?」

「牙狼族の暗殺集団だ。国王も我が一族だが、奴は我々を蔑ろにした」

 声をかけてきたのは、この集団の首領だった。

「誰に頼まれた? 聞くまでもないか」

 セラの周りには数十人の暗殺者がいた。

 セラは魔法を連発し、斬撃を振り、突破口を作り出すと、駆け抜けた。

 彼女の土魔法に貫かれ、火魔法に焼かれ、剣で切り裂かれた跡には、暗殺者たちの死体の山ができていた。

 だが、赤子を抱えているため、どうしても速度が上がらない。

「俺たちを全滅させるつもりか?」

 再び暗殺者たちに囲まれる。人数は半分に減っていた。首領の顔には怒りと恐れが混じっていた。彼らの予想を遥かに上回る力。

「死にたいのなら、相手をするぞ!」

 セラは懐からポーションを取り出し、一気に飲み干すと、再び戦闘態勢を整えた。

「罠を投げろ!」

「しまった」

 セラは罠を斬り抜けようとした瞬間、木の上から猛毒の液が降り注いできた。

 彼女は必死に赤子を庇い、その瞬間、戦闘姿勢を崩した。

 その隙を狙い、暗殺者たちが一斉に赤子を狙ってきた。剣や針や弓で。

「やったか!」

「許さない」

 セラは、全身の痛みに耐えながら、自らの魔法を全開で放った。

 森は赤々と燃え上がり、地形が変わり果て、牙狼族の暗殺者たちはほとんどが息絶えた。

 赤子はセラのポーションで一命を取り留めたが、片目に毒液が入ってしまい、失明してしまった。刺された後遺症もあるかも知れない。

「逃げなければ」

 セラは、南を目指して走り続けた。全身の痛みは引かないが、彼女は笑顔を浮かべて、力強く言葉を口にした。

「そうか! この子、ノルドには、呪いが効かないのだ」
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