65 / 221
外伝
ヴァルと表彰式
しおりを挟む
ディスピオーネの護衛たちが、指示を仰ぐ。一悶着起こしたくてうずうずしている気の荒い傭兵たちである。
「どうしますか? 追い出しますか?」
ガレアに手を出したら、その時点で終わりである。いや、好機かもしれない。
全員捕らえて、シシルナ島を手に入れるか……。だが、果たして勝てるのか? そんなことが許されるのか……。
ガレアの周りにも、それなりの戦力が揃っているようだし……。
ディスピオーネが逡巡していると、不意にガレアたちを押し退け、女が入ってきた。
「ピオ、確定はまだかい。私は気が短いんだよ」
カニナ村の村長にして夜の権力者を、愛称で呼ぶ者は一人しかいない。ニコラだ。
護衛たちが反射的に武器に手をかける。だが、ディスピオーネはそれを制するどころか、急に態度を変えた。
「……だから、早く確定しろと言ったろう? ステュワールド!」
強い口調に、護衛たちは目を白黒させる。先ほどまでの不穏な空気が、一瞬で引いた。
「はぁ……宜しいのですか?」
「当たり前だ。急げ!」
鋭い命令が飛ぶ。しかし、その直後——
「ピオ、後で私のところにおいで。もちろん、一人でね」
ニコラが、厳しい目つきでさらりと言うと、ディスピオーネの顔がぴくりと引きつる。そして、先ほどまでの威圧感が嘘のように、しおらしく頷いた。
「は、はい……母さん」
賭博場のボスの返事は、驚くほど小さかった。彼も又、ニコラに育てられた一人だった。
「かたなしですな、ディスピオーネ殿」
ガレアが皮肉気に笑う。
「ばぁば、ウィナーズサークル行こう!」
リコが、緊迫していた大人達の様子を無視して、すっとニコラの手をとり、部屋から連れ出していった。
※
実況
白旗が上がりました。レースが確定しました。優勝は、もちろん、ヴァルです!
大歓声の中、表彰式が行われることとなった。
ヴァル、リコ調教師、それとノルドオーナー。
「やだよ! 出たくない!」
「セラになんて報告したら良いのかな? そんなノルドの姿、喜ぶかい?」
ニコラに説得されて、いや、脅されてノルドもしぶしぶ、大人数の前に立った。
緊張の中、賞状と、賞金を受け取った。
賞金の方は、シシルナ銀行の口座に入るらしい。大金なので、持ち歩くのは危ないからと言う理由だ。
優勝賞金 ヴァル 五百ゴールド
リコ調教師 百ゴールド
ノルド厩舎 百ゴールド
「えー。現金で欲しいよ~」リコは、抗議をしていたが、決まりらしい。だが、通帳を初めて貰って嬉しそうに眺めていた。すぐに、メグミに取り上げてしまったが……
「一体何に使うんだ?」
「グラシアスさんが、私を最初に預けた時に、お金を沢山払ってるの。だからお返しをしたくて。それと、みんなにもプレゼントしたい」
「でも、あの料理店の店主がくすねた」ノルドは、不愉快な出来事を思い出して、不機嫌になった。
「うん。でも、グラシアスさんに罪は無いから。謝ってくれたし、この島まで連れて来てくれたよ」
「そうだよね。ところで、ヴァル、何か欲しいものがあったら、教えてね」ノルドは尋ねたが、牙狼は、全く興味が無さそうだった。
「ヴァルはね、セラさんにお返しをする為に走ったんだよ!」リコは、ヴァルの想いを代弁する。
「ワオーン!」
「ありがとう、ヴァル」その想いは、わかっていたけれど、リコに言葉にされて。ノルドはとても嬉しかった。
※
ローカンとカノンは、換金所に向かった。
「優勝、ヴァル。払い戻しオッズ 三倍」
「ははは、しばらくは贅沢な暮らしができるぞ!」
ローカンは、有頂天になりながらカノンに話しかけようとした。
隣で換金していたはずのカノンが、係員に誘導されていく。
「ちょっと待ってくれ! そいつは悪い奴だが、悪いことしてないぞ!」ローカンが慌てて声をかけると、カノンは微かに顔色を変えた。
「なんてこと言うの? 馬鹿なの?」
カノンは、ローカンを睨んだ。
しかし、係員は冷静に一言だけ言った。
「高額支払いなので、別室でのご対応となります」
「……いや、俺だって高額だったぞ!」ローカンが不満げに言い返す。
「おめでとうございます。金額は申し上げられませんが、規則により、一定額以上の支払いは別室となっております。それと、犯罪履歴などは関係ありませんのでご安心ください」
「え? お前、いくら掛けたんだ?」
「だから、セラさんに借りたお金、全部って言ったでしょ!」
「……こんな女に大金を……馬鹿な――いや、今のは取り消す」
ローカンは、思わず口にした言葉をのみ込んだ。やばい。もし耳のいい奴がこの会話を聞いていたら……その先に待つ事態を想像し、背筋が冷たくなる。
慎重に言葉を選び直しながら、低く言った。
「……ついて行こうか?」
ローカンが歩を進めると、係員がにこやかに微笑んだ。
「お連れ様であれば、ご一緒でも問題ありません」
「お連れ様だよな、カノン?」
「はいはい……」
カノンは気だるそうに返事をしつつも、足を止めることはなかった。
「どうしますか? 追い出しますか?」
ガレアに手を出したら、その時点で終わりである。いや、好機かもしれない。
全員捕らえて、シシルナ島を手に入れるか……。だが、果たして勝てるのか? そんなことが許されるのか……。
ガレアの周りにも、それなりの戦力が揃っているようだし……。
ディスピオーネが逡巡していると、不意にガレアたちを押し退け、女が入ってきた。
「ピオ、確定はまだかい。私は気が短いんだよ」
カニナ村の村長にして夜の権力者を、愛称で呼ぶ者は一人しかいない。ニコラだ。
護衛たちが反射的に武器に手をかける。だが、ディスピオーネはそれを制するどころか、急に態度を変えた。
「……だから、早く確定しろと言ったろう? ステュワールド!」
強い口調に、護衛たちは目を白黒させる。先ほどまでの不穏な空気が、一瞬で引いた。
「はぁ……宜しいのですか?」
「当たり前だ。急げ!」
鋭い命令が飛ぶ。しかし、その直後——
「ピオ、後で私のところにおいで。もちろん、一人でね」
ニコラが、厳しい目つきでさらりと言うと、ディスピオーネの顔がぴくりと引きつる。そして、先ほどまでの威圧感が嘘のように、しおらしく頷いた。
「は、はい……母さん」
賭博場のボスの返事は、驚くほど小さかった。彼も又、ニコラに育てられた一人だった。
「かたなしですな、ディスピオーネ殿」
ガレアが皮肉気に笑う。
「ばぁば、ウィナーズサークル行こう!」
リコが、緊迫していた大人達の様子を無視して、すっとニコラの手をとり、部屋から連れ出していった。
※
実況
白旗が上がりました。レースが確定しました。優勝は、もちろん、ヴァルです!
大歓声の中、表彰式が行われることとなった。
ヴァル、リコ調教師、それとノルドオーナー。
「やだよ! 出たくない!」
「セラになんて報告したら良いのかな? そんなノルドの姿、喜ぶかい?」
ニコラに説得されて、いや、脅されてノルドもしぶしぶ、大人数の前に立った。
緊張の中、賞状と、賞金を受け取った。
賞金の方は、シシルナ銀行の口座に入るらしい。大金なので、持ち歩くのは危ないからと言う理由だ。
優勝賞金 ヴァル 五百ゴールド
リコ調教師 百ゴールド
ノルド厩舎 百ゴールド
「えー。現金で欲しいよ~」リコは、抗議をしていたが、決まりらしい。だが、通帳を初めて貰って嬉しそうに眺めていた。すぐに、メグミに取り上げてしまったが……
「一体何に使うんだ?」
「グラシアスさんが、私を最初に預けた時に、お金を沢山払ってるの。だからお返しをしたくて。それと、みんなにもプレゼントしたい」
「でも、あの料理店の店主がくすねた」ノルドは、不愉快な出来事を思い出して、不機嫌になった。
「うん。でも、グラシアスさんに罪は無いから。謝ってくれたし、この島まで連れて来てくれたよ」
「そうだよね。ところで、ヴァル、何か欲しいものがあったら、教えてね」ノルドは尋ねたが、牙狼は、全く興味が無さそうだった。
「ヴァルはね、セラさんにお返しをする為に走ったんだよ!」リコは、ヴァルの想いを代弁する。
「ワオーン!」
「ありがとう、ヴァル」その想いは、わかっていたけれど、リコに言葉にされて。ノルドはとても嬉しかった。
※
ローカンとカノンは、換金所に向かった。
「優勝、ヴァル。払い戻しオッズ 三倍」
「ははは、しばらくは贅沢な暮らしができるぞ!」
ローカンは、有頂天になりながらカノンに話しかけようとした。
隣で換金していたはずのカノンが、係員に誘導されていく。
「ちょっと待ってくれ! そいつは悪い奴だが、悪いことしてないぞ!」ローカンが慌てて声をかけると、カノンは微かに顔色を変えた。
「なんてこと言うの? 馬鹿なの?」
カノンは、ローカンを睨んだ。
しかし、係員は冷静に一言だけ言った。
「高額支払いなので、別室でのご対応となります」
「……いや、俺だって高額だったぞ!」ローカンが不満げに言い返す。
「おめでとうございます。金額は申し上げられませんが、規則により、一定額以上の支払いは別室となっております。それと、犯罪履歴などは関係ありませんのでご安心ください」
「え? お前、いくら掛けたんだ?」
「だから、セラさんに借りたお金、全部って言ったでしょ!」
「……こんな女に大金を……馬鹿な――いや、今のは取り消す」
ローカンは、思わず口にした言葉をのみ込んだ。やばい。もし耳のいい奴がこの会話を聞いていたら……その先に待つ事態を想像し、背筋が冷たくなる。
慎重に言葉を選び直しながら、低く言った。
「……ついて行こうか?」
ローカンが歩を進めると、係員がにこやかに微笑んだ。
「お連れ様であれば、ご一緒でも問題ありません」
「お連れ様だよな、カノン?」
「はいはい……」
カノンは気だるそうに返事をしつつも、足を止めることはなかった。
6
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる