66 / 238
外伝
カノンとローカンによる払い戻し
しおりを挟む二人は案内され、厚い絨毯が敷かれた高級ラウンジへと通される。足元が沈み込むほどの柔らかさ。
壁の展示台には過去の優勝犬の彫刻が並び、座り心地の良さそうな椅子に座る客に、スーツ姿の給仕がワイングラスを運んでいた。
「おー……ここが、高額支払いの場かぁ」
ローカンは感心しながら周囲を見渡す。
「静かにして、恥ずかしいでしょ」
カノンが彼の脇腹を軽く突いた。
「なるほどな……」
ローカンは感心しつつも、この場の意味を考える。
金持ちたちに“特別な扱い”を提供することで、彼らのステータス意識をくすぐる――そういう仕組みか。見事なまでの手際だ。やり手だな、この村の村長は。
払い戻しカウンターでは、支払い金額の確認とともに、ヴァルの名が刻まれた記念品が渡されていた。優勝が決まって一時間もたっていない。ローカンは感心しながらも、不満を口にした。
「俺、貰ってないぞ!」
「申し訳ありません。こちらのカウンターでお支払いの方のみとなります」
「あら、ありがとう。これ、セラさんにあげたら喜ぶわ!」
カノンは上機嫌で記念品を受け取ると、大事そうに懐へしまった。
払い戻し金は「シシルナ銀行」に振り込まれるらしく、二人はそのまま隣の銀行カウンターへと案内される。
「こちらに手をかざしてください。登録いたします」
カノンはため息をつきながら、大きな水晶に手を当てた。
――ゾクリ。
ほんのわずかに、魔力が吸い取られる感覚がある。ギルドでよく使われる魔力認証の仕組みと同じだろうが、やはりあまり気持ちのいいものではない。
「はい、登録完了です。こちらが通帳になります。これで他の方が不正利用することはできません」
「本当に?」
「はい。シシルナ銀行の支店なら、どこでもご利用いただけます。通帳はご本人様以外、お使いいただけません」
銀行員は誇らしげに言った。
「すごいだろ? 俺も最初は驚いたよ。シシルナの島民は、子供の頃に口座を作るらしい。身分証の代わりにもなるんだ」
「そんなことより、現金にしたいんだけど」
「申し訳ありません。本日お引き出しいただけるのは、払い戻し金額の十分の一までとなっております。ですので、三十ゴールドまででしたらお渡し可能です」
「……そう。じゃあそれで」
カノンは通帳を差し出し、三十ゴールドを受け取る。
「ちょっと待て! お前、百ゴールドも借りたのか?」
「恥ずかしいわね。セラさんはくれたのよ。でも、借りたことにするって私が言ったの!」
ローカンが反論する前に、隣のカウンターから低く押し殺したような声が聞こえた。
「お客様、すでにご登録がございます。お名前は……様でよろしいですね?」
「――いや、違う。それは別人だ。ただの偶然だ」
ローカンの眉がピクリと動いた。
今の声、どこかで聞いたことがある――そう思い、視線を向ける。
そこにいたのは、例のアクセサリーを売っていた商人だった。
「これまで、このような事例は一度もございません。マル……様で間違いないかと存じますが」
「そうだ。通帳は無くした」
「かしこまりました。では、再発行いたしますね」
――沈黙。
男は、カウンター越しの銀行員をじっと睨みつける。
ちらりと周囲をうかがうように視線を泳がせ、その手がカウンターの上でかすかに震えていた。
ローカンは無言のまま、じっとその様子を観察する。
やがて金と通帳を受け取ると、男は挨拶されても無視し、足早に立ち去った。
「勝ったのに不機嫌とは、変わった奴だ」
「聞き取れなかったけど、名前は何だったの? 気になるわ。ただ者じゃない雰囲気があるもの」
「実は、俺もだ。聞いてみよう」
ローカンは銀行の窓口に尋ねたが、個人情報のためと拒否された。
彼が警備総長だと名乗っても、答えは同じだった。
「別に預金額を聞いてるわけじゃない。名前だけだ」
ローカンが食い下がると、渋々シシルナ銀行の出張所長が姿を現した。
「お名前だけですよ、島主様にもよしなに……」
勿体ぶった態度の男。
「早く教えてくれ!」
「マルコス様です」
「マルコス? マルカスじゃないのか?」
「はい、マルコシアス様です。もうよろしいでしょうか? こちらも忙しいので……」
ローカンはカノンを見つめた。
カノンは、はっと気がついたように、所長に尋ねる。
「そうね。フルネームで教えてくれるかしら?」
「お待ちください、少々確認いたします」
面倒くさそうな雰囲気を漂わせながら、所長は奥へと引っ込んだ。
しばらくして戻ると、書類を確かめながら答えた。
「マルコシアス・カスティーオ・ヴィスコンティ様です」
「それなら、マルカスと名乗ってもおかしくないな。しかし、似顔絵、全く当てにならないじゃないか!」
「そうね。でも、見つけたわ。追いましょう」
ローカンとカノンは、人影の消えた競犬場を後にし、入場門へと戻った。
8
あなたにおすすめの小説
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」とやりがい搾取されたのでやめることにします。
木山楽斗
恋愛
平民であるフェルーナは、類稀なる魔法使いとしての才を持っており、聖女に就任することになった。
しかしそんな彼女に待っていたのは、冷遇の日々だった。平民が聖女になることを許せない者達によって、彼女は虐げられていたのだ。
さらにフェルーナには、本来聖女が受け取るはずの報酬がほとんど与えられていなかった。
聖女としての忙しさと責任に見合わないような給与には、流石のフェルーナも抗議せざるを得なかった。
しかし抗議に対しては、「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」といった心無い言葉が返ってくるだけだった。
それを受けて、フェルーナは聖女をやめることにした。元々歓迎されていなかった彼女を止める者はおらず、それは受け入れられたのだった。
だがその後、王国は大きく傾くことになった。
フェルーナが優秀な聖女であったため、その代わりが務まる者はいなかったのだ。
さらにはフェルーナへの仕打ちも流出して、結果として多くの国民から反感を招く状況になっていた。
これを重く見た王族達は、フェルーナに再び聖女に就任するように頼み込んだ。
しかしフェルーナは、それを受け入れなかった。これまでひどい仕打ちをしてきた者達を助ける気には、ならなかったのである。
モフモフテイマーの、知識チート冒険記 高難易度依頼だって、知識とモフモフモンスターでクリアします!
あけちともあき
ファンタジー
無能テイマーとしてSランクパーティをクビになったオース。
モフモフテイマーという、モフモフモンスター専門のテイマーであった彼は、すぐに最強モンスター『マーナガルム』をテイムするが……。
実はオースこそが、Sランクパーティを支える最強メンバーだったのだ。
あらゆるモンスターへの深い知識。
様々なクラスを持つことによる、並外れた器用さ。
自由になったオースは、知識の力で最高の冒険者へと成り上がっていく。
降って湧いた凶悪な依頼の数々。
オースはこれを次々に解決する。
誰もがオースを最高の冒険者だと認めるようになっていく。
さらに、新たなモフモフモンスターが現れて、仲間も増えて……。
やがて、世界を巻き込む陰謀にオースは関わっていくのだ。
転生したら鎧だった〜リビングアーマーになったけど弱すぎるので、ダンジョンをさまよってパーツを集め最強を目指します
三門鉄狼
ファンタジー
目覚めると、リビングアーマーだった。
身体は鎧、中身はなし。しかもレベルは1で超弱い。
そんな状態でダンジョンに迷い込んでしまったから、なんとか生き残らないと!
これは、いつか英雄になるかもしれない、さまよう鎧の冒険譚。
※小説家になろう、カクヨム、待ラノ、ノベルアップ+、NOVEL DAYS、ラノベストリート、アルファポリス、ノベリズムで掲載しています。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる