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外伝
シシルナ新聞とセイ
しおりを挟む「号外でーす、牙狼ヴァル号 優勝!」
セイ達が新聞を配っている。
「今日のレースの解説付きです。もらってください! 良かったら新聞社に募金もお願いしまーす」
新聞を配りながら、募金箱を差し出す。
「シシルナ島新聞社……」
ノルドは聞いたことのない言葉に、興味を示す。
「おーい、ノルド! おめでとう、ヴァル号はどうしたの?」
「後で、リコと出てくるよ。今出たら大変だからね」
「そうだね。一枚どうぞ、もちろん、ノルから募金は受け取らないよ」
セイはウインクをした。
「記事や版はどうしたの? マルカスさん?」
「僕たちが作ったんだよ。マルカスさんの記事や絵よりは、レベルが落ちるけどね。それとあらかじめ作ってあった部分もある」
セイが答えた。
その号外にはなんと、ノルドの似顔絵とインタビュー記事が書かれていた。
「おい! セイ、これは何だ?」
「ははは、うまく書けてるだろ、うちの絵担当リンの力作だよ。あ、記事は俺だよ。ノルドとヴァルの出会いと誓約のシーン、よく書けてるだろう」
「もう……ところで、いつのまに新聞社を作ったんだ?」
ノルドが驚きの表情を浮かべると、セイは誇らしげに続けた。
「さっきだよ、払い戻し金を元手に。これでみんなを食べさせていく」
「すごいな!」
ノルドはセイの行動力に感心しながら言った。
「それで、どうするんだ?」
「俺達が記者をして、島の出来事を取材することにしたんだ」
セイは自信を込めて言った。
「それで、マルカスさんには会えなかったのかい?」
「ううん、会えたよ。でも逃げられちゃった」
ノルドがあっさりと答えるので、セイは少し驚きながら尋ねた。
「探してたんじゃないの?」
「うん。でもね、捕まえてきてじゃないんだ。連れてきてって依頼なんだ」
「どう違うの?」
セイは首をかしげて尋ねた。
「つまり、罰したいんじゃなくて、会いたいってことかな。それに、マルカスさんは隠れてるわけじゃない。本当に隠れてたら、僕には捕まえられない」
ノルドは説明しながら、何かを思いついたように言った。
「彼から会いに来た。でも、捕まろうとはしない。」
「マルカスさんは、待ってるんだ」
ノルドは、サナトリウムで徹夜で遊んだ後、母さんが門のところに居てくれたことを思い出していた。
「よくわかんないけど、マルカスさんは、寂しがり屋な感じがするんだ」
「わかる。俺達と最初に会った時もそうだった」
高貴な男と話をしていたセイの仲間の売り子が、話し込んでいたノルド達のところにやってきた。
「難しいことはわからないです。社長に変わります。セイ、こちらの方が……」
「君が社長か、若いな。出資の話をしたいのですが?」
「はい……」
「あれ? グラシアスさん、こんなところで何を?」
セイに話しかけたのは、商人のグラシアスさんだった。
「もちろん、商売だよ……ノルド君の友達なのかな」
「はい、そうです。でも、母さんに言われて来たんですよね?」
グラシアスさんは、母さんの看病に向かったらしいが、ヴァルの『アリーマ記念』出場の知らせが届き、「様子を見てきて!」と母さんに言われたらしい。
その顔にはとても残念そうな表情が浮かんでいた。
「セイ君、場所を変えて色々と話をしよう! 時間を貰えるかな? ノルド君も一緒に来るかい?」
「いいえ、ヴァルを待ってます」
そう答えた時、ローカン達とリコ達が連れ立ってやって来た。
※
カニナ村に、もう一泊することになった。高級な宿だが、連泊することにした。
マルカスの捜索については、ノルドの意見もあり、彼女にも、この村まで来てもらうことにしたからだ。
「それだと、連れて行くという約束が守れない」カノンは難しい顔をした。
「きっと、賭博場か飲み屋にいるはずだ」
ヴァルにも匂いを追ってもらい調べたが、途中で匂いが消えていた。
「どこにいるんだろう?」
あらかた居そうな場所をあたったが、見つけることができなかった。
「仕方ない。とりあえず飯だ」ローカンの頭は、すでにどの店で食事をしようかと考えが切り替わっていた。
「もっと真剣に探しなさいよ!」
「だがな、腹が減ったらいい考えが浮かばないし、気持ちが落ちる。さあさあ、美味い飯屋を探そう!」
「まったく……」カノンは呆れていた。
ヴァルが先導し、リコに手を組まれて、ノルドは村を歩いた。
「今日は、私達についてきて。教えてもらった美味しいお店があるんだー」
「リコは、ニコラ様達と一緒じゃなくて良いの?」
「うん。今晩は、偉い人達との食事会だけど、お仕置きするって、言ってたから近寄らないよ!」
争いを嫌うリコは、殺伐とした雰囲気を察して逃げてきたらしい。
「ああ……」
村の外れに、およそ食堂とは思えない古い一軒家があった。家からは美味しい匂いが漂っていた。
「ここだな」がらがらと入り口の扉を開ける。
「いらっしゃい! あら、チャンピオン ヴァル様もご一緒ですか。ご予約は?」
「いえ……」
「そうですか。でも、チャンピオン様が来られたのなら、特別にお席をお作りします。こちらへどうぞ!」
一階の話し声が聞こえてくる。楽しげな会話が聞こえてくる。
「あ? あの声はグラシアスさんとセイと……何故、一緒に?」
そう、あの声は、マルカスさんだ。ノルドは発見したが、とりあえず匂いを覚えるだけで、他の人には教えないことにした。今は逃げられるだけだ。
彼らの会話がノルドには聞こえる。
「マルカス様は、ルナティス公国に居たのですか?」
「そうです。隠居したので、こちらに来ました。若い時にもいたんですよ」
「じゃあ、新聞社手伝ってよ!」セイの元気な弾んだ声がする。
ジビエ中心の料理は、美味しく、酒も進んだみたいで、ローカンもカノンも強か飲んで、酔っ払っていた。ヴァルも、お店から特別に、一番良い部位の骨付き肉を幾つか貰っていた。
「ご馳走様、ローカン」
「待て待て、俺が一番稼いで無いぞ!」そう言いながらも、財布を出す警備総長だった。
※
結局、マルカスの捜索は明日に持ち越すことになった。腹が満たされて、みんなすっかり満足してしまった……
リコはシロノに迎えに来てもらい、仕方なくニコラの元へ帰って行った。
「リコがいると助かるよ」とノシロは疲れた顔で言った。ようやく安心したようだ。
「じゃあ、僕たちは夜の散歩に行こう!」ノルドはヴァルを誘って外へ出かけた。追跡の時間だ。
ローカンとカノンだけになったが、お互い部屋に戻って寝ることにした。
警備総長が横になろうとしたそのとき、カノンが突然尋ねてきた。再び、異常な雰囲気が漂っている。
「奢ってもらったお礼をしないとね」
彼女の言葉には、またもや、どこか操られているような、違和感があった。
「待て! 待て待て!」
だが、二人の他には誰もいなかった。
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楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
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