完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部

文字の大きさ
74 / 221
二部

ダンジョン町の森

しおりを挟む
 ダンジョン町の近くに広がる“大魔物の森”。それは、シシルナ島最大の森であり、島の中央に深々と根を張っている。

「一度、入ってみたかったんだ!」

 ノルドは、探索の期待に胸を高鳴らせた。

 今回の同行メンバーは、ヴァル、ビュアン、そしてリコ。

 セラが、リコの同行をダンジョン町の森を探索する条件として挙げたのだ。理由は、万が一危機に陥ったとき、ノルドを担いで逃げられるから。

「子犬の前なんか、私は姿を現さないわよ!」
 
ビュアンは不機嫌だったが、

「一度だけ、会ってあげて」とセラに説得され、仕方なく“面接”することになった。

「わぁ、妖精様だ!」
 リコは極めて社交的だった。ノルドも知っていたつもりだったが、改めて感心する。しかも、リコの言葉には嫌味がなく、心からのものだ。

 人たらし――いや、妖精たらしだ。

「ノルドには、ビュアンがいないと駄目だ」
「美しい妖精って、ビュアンのことを言うのね」
「今度、私の作ったお菓子をビュアンに食べてほしい!」

 次々と繰り出される、相手が欲しがる言葉。
「うんうん、リコ、お前わかってるな。仕方ない、チームを組もう」
「ワオーン!」
 ヴァルも賛成した。


 チーム・ノルドの方針は、まず地図づくりだ。
「大きな森だ。知らない魔物もいるかもしれない。気をつけて行こう!」
「おぅ!」「ワオーン!」

 リコは、孤児院の仕事と勉強を一週間お休みして、この探索に参加している。
「バインドカズラの調査討伐の報酬は貰えるんだ!」
 
 ちゃっかり者のリコは、ダンジョン町の宿も、ニコラの紹介状を手に入れて安く泊まるつもりだ。
「別に、家に帰れる距離だよ」
「合宿だよ! それに、ダンジョン町も見て回りたいよね」

 孤児院では、小さい子どもたちの世話を一日中している。リコにとって、この探索は息抜きでもあるのだ。
「どうせ、冒険者の街なんて碌でもないわよ!」ビュアンは否定的だ。

「美味しいお菓子のお店があるのよ。買って帰って、宿で食べない?」
「……仕方ないわね」
「それじゃ、森に入るよ!」
 
 ダンジョン町の近くに広がる森は、冒険者の練習場としても利用されているらしく、人が通る道ができていた。さらに、人の気配も多くある。

「魔物の森への入場は禁止しているはずなのに、どうなってるんだ!」
「冒険者だもん。私たちより強いよ」
「それなら、討伐依頼を受けてくれればいいのに……」
 
 ノルドは不満に思いつつも、冒険者たちの実力を見てみたいとも考えていた。
「じゃあ、ノルド、冒険者たちの後をつけようよ!」リコも同じ考えのようだ。

 ヴァルが先行し、その後をノルド、リコが続く。当然、人の通らない道を進む。
 ヴァルは、ノルドが歩きやすい道を探してくれる、気の利く相棒だ。


 
 しばらく森の中を歩いていくと、視界が開けた。そこには小さな草原が広がり、その先にはごつごつとした岩壁がそびえている。

「四人いるね。何してるんだろう?」ノルドがつぶやく。

 草原の中央では、剣士と魔法使いの二人ずつが組になり、戦いの基礎訓練を繰り返していた。

「見てろよ、火魔法を放つ。攻撃目標の動きを予測して、撃つんだ」
 
 魔法使いが火の玉を放つと、それは正確にスナクという魔小蛇の頭を打ち抜き、蛇が地面へと落下する。

「今だ!」剣士が駆け寄り、鋭い一撃で魔物を仕留めた。

「次はお前たちだ」 剣士が弟子たちに声をかける。

 弟子の一人が水魔法を放った。だが、最初の何発かは空を切り、ようやく放たれた水流が蛇に命中する。ぐらりと揺らぎ、蛇が地面に落ちる。
「今だ!」 剣士が叫ぶ。

 新米剣士が剣を振るうが、刃は魔物の体をかすめることなく空を切った。魔小蛇はすぐさま森の奥へと逃げていく。

「まだ遅い。判断も、素早さも足りない」 剣士はため息をついた。
 
ノルドたちが潜んでいた茂みのほうへ、逃げた魔物が向かってくる。
 しかし、冒険者たちはそれに気づいていない。

「何あれ? 水鉄砲みたい!」 ビュアンがくすくす笑いながら、ふわりと飛んだ。

「威力ないなぁ、魔力も剣も」 ノルドが真剣な顔でつぶやく。

「セラ母さんと比べちゃ駄目よ」 リコが言いながら、ヴァルが飛びかかり、逃げてきた魔小蛇を仕留めるのを見届ける。

「うん、それは確かに母さんとは比べられないね」 ノルドは微笑んだ。
 
 セラの魔法剣士としての実力は、圧倒的だ。
 例えば、巨大な火の矢を連続で放ち、敵に完膚なきまでに叩きつける。剣の鋭さも、速さも、強さも、まるで踊るように美しく、しかし残酷。
 
 彼女の背中を追うのが、ノルドの目標だった。
 
 ビュアンは空を舞いながら、ぱちぱちと手を叩く。

「でも、あの水魔法、可愛かったね! 魔法って、こんな風にも使えるんだ!」
「ビュアンがそれを言うの?」 ノルドは思わず苦笑した。


 
 やがて、冒険者たちは訓練を終えると、ククリという魔壁蔦を採取し始めた。ある程度集めると、周辺の森へと入り、小さな魔物を仕留めながら、来た道を戻っていく。

「あの蔦、何に使うんだろう?」
「私たちも取ってみようよ、ノルド!」リコがすぐに動き出す。
「じゃあ、少しだけね。帰ったら、魔物図鑑で調べよう」
「冒険者ギルドで用途を確認するのもいいかもね」

 ノルドたちの背の高さでは、すでに蔦は取り尽くされていた。そこで、リコがヴァルを軽々と持ち上げ、放り投げる。ヴァルは鋭い前足の爪を使い、器用に蔦を切り落とした。

「色んな魔物がいるな!」ノルドは楽しげに言う。

「そうね」リコが笑う。
「どこの森にもある、エルフツリーを探しましょう!」
「でも、これだけ広いと……」
「すぐにわかるわよ! みんな、行きなさい!」
 
 ビュアンが合図を送ると、精霊たちがノルドたちの周囲をくるくると回り、ふわりと飛び立っていった。
 エルフツリーは、森の中心に存在するものだ。なぜなら、その森を生み出しているのが、まさにその樹だから。
 どうやって生まれるのかは誰にも分からない。だが、魔物も人も、それ以外の何者も、この樹を大切にしている。

 シシルナ島の中央に広がるダンジョン町の森には、一際大きなエルフツリーが三本もそびえていた。
 一番手前にあるエルフツリーから順番に、フロンティア、アルテア、カリスと名付け、ノルドの作成した地図に書き込んでいく。

「ねぇねぇ、私の家の木の名前がないんだけど?」 ビュアンが少し不満そうに言う。
 
リコは少し考えた後、にっこり笑って言った。それじゃあ、ビュアン様の木でどう?」

「却下!」 ビュアンは即座に否定する。

「そんなのじゃ面白くないわ。ノルド、ちゃんと考えて名付けなさい!」
 ノルドは少し困った顔をしながら言葉を絞り出す。

「うーん……これは特別な木だから、じっくり考えないとね」 正直、まだ思いつかなかったのだ。
 
 ビュアンは腕を組み、考えたふりをした後、くすっと笑う。

「それならいいわ! 楽しみにしてるからね!」
 
 そうして、ノルドたちはフロンティアの木の下でしばし休憩し、昼寝を楽しんだ後、ダンジョン町へ向かうことにした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

処理中です...