完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部

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二部

シダ通りの迷宮亭

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 ダンジョン町は、シシルナ島にある二つの町の一つだ。もう一つは島都 港町。

 この町の雰囲気は、ノルドがよく行く港町とは全く違った。港町が、商人と船乗りの町、明るい町だとしたら、冒険者の町、暗い町だ。

 ノルド達は、初めて冒険者ギルドに足を踏み入れた。彼の歩調は、いつもよりもさらに遅くなっている、緊張して、恐れている時の彼の特徴だ。対照的にリコはヴァルと共に先を闊歩して歩いていく。先日のホテルの予約の時もそうだった。
 
 ノルドは、壁のクエストボードを見つけると、近寄って張り出してあるクエストを読んだ。

 そこには、「魔石収集依頼」「魔兎狩猟」「エルフツリーの樹液収集」「バインドカズラの調査及び討伐」などが手付かずに残されていた。

 そして紙に大きく✖️がついて、「窃盗団の発見と討伐」「オルヴァ村のホブゴブリン討伐」、完了の文字が書かれていた。

 隣には、募集ボードがあった。募集されているのは「荷運び人募集」ばかりだ。冒険者のパーティは固定されているらしい。

 興味深げに、眺めていると、ギルド内を監視していたらしい大男が、ノルドに声を掛けてきた。リコとヴァルは、いつの間にか受付嬢と楽しそうに話をしていた。

「ここは、子供の来るところじゃない」体格の大きな男が話しかけてきたが怒っている感じでは無かった。

「将来は来るつもりです」
「そうか、この冒険者ギルドには、ダンジョンに挑む者が多く集まるんだな。少し難易度が高いダンジョンだが、将来が楽しみだな」
「ノルド! わかったよ。ククリは火に強いから、ロープの代わりに使うんだって」リコが受付嬢との会話を終えて戻ってきた。

「そうなのか」でも、硬さに問題がある気がする。頑丈なロープに、耐火性の薬液を入れれば……。

 ノルドが思索をしていると、リコは気がつき、「また、製品のこと考えていたんでしょ。早く、ケーキ屋さんに行きましょう。お店が閉まってしまうわ!」

 と、リコは走り出して行った。ヴァルは興味が無いらしく、ノルドと一緒にゆっくり歩きながら、飲み屋の匂いを確認しているようだ。

「ここのお菓子は、甘さ控えめで、大人にも人気なんだって」

 ダンジョン町のグルメ情報も、受付嬢から仕入れたリコは、町一番のお菓子屋で、色んなお菓子を大量に買い込むと、宿に向かった。



 宿といっても、ダンジョン町にあるのは、冒険者宿しかない。

「シダ通りの迷宮亭」
 
 町の裏通りに、歪んだ形をした宿があった。外観が複雑に入り組んでいて、階段と窓で迷路のように見える。料理が評判で、冒険者たちに人気がある少しお高めの宿のようだ。やっと、地下に隠れた入り口を見つけた。
 からん、からん。
 
 扉についた鐘が鳴ると、食堂にいる冒険者達が一斉にノルド達を物珍しげに見た。
 食堂と受付の壁には、「星喰の書 ⭐︎⭐︎⭐︎」と、荷車のタイヤの透かし絵の上に飾られた賞状が何枚も掲げられている。

「リコ、あれは?」ノルドは、少し気後れをした。
「ああ、よくあるやつよ。グラシアスさんと泊まった宿や食堂には、飾ってあったわ。すいませーん、宿泊をお願いしまーす!」

 リコはいつものように、元気いっぱいに声を出した。

「あらあら、小さな冒険者さん達ね。ごめんなさいね、予約で満室なのよ。他をあたってもらえるかしら」
 丁寧だけど、きっぱりと、給仕長らしい猫人族の大人の女性に断られた。

「でも、ここなら、いつでも泊めてもらえるって!」
 食事をしている冒険者達が呆れた顔で、ノルド達を見てくる。一人の冒険者が、注意書きの書かれたボードを指差した。

お客様へ
当宿泊施設は、シシルナ島ダンジョン冒険者専用の宿泊施設です。
また、必ず、事前にご予約をお願い致します。
——シダ通りの迷宮亭 店主

「リコ、他をあたろう!」ノルドはいたたまれなくなった。
「ごめんね。又、来てね」猫人族の女性は、ノルド達を追い出そうと、前に立ちはだかった。

「駄目だよ、泊まる宿を勝手に変えたら、メグミに怒られるよ」リコは、困って呟いた。

「メ、メグミ……メグミって言ったの? それって、ヴァレンシア孤児院のメグミ様のこと?」
 
猫人族の女性が、驚いたように尋ねた。

「はい。そうです。ここに泊まりなさいって……ばぁばもそうしろって」
「ばぁば?」
「うん。ニコラばぁば」

「ニ、ニコラって……ニコラ・ヴァレンシア様のこと?」
 その瞬間、猫人族の女性の顔色が変わった。まるで、神の名でも聞いたかのように。
「そ、そ、それを早く言いなさいよ!」
 猫人族の女性は、完全に青ざめた顔で慌てて調理場に引っ込むと同時に、他の給仕に命じてノルド達に席を準備させた。

「こちらへどうぞ、部屋は今準備しております。何をお飲みになりますか?」
 ノルドは、この急な対応の変化に背筋がぞくりとした。
 まるで、自分たちがただの旅人ではなく、貴族のように扱われているようだった。

「おい! 子供は駄目な宿なんじゃないのか?」
 冒険者が給仕に詰め寄った。
「うるさい! 大切なお客様だ。失礼なことを言うとお前達を出禁にするぞ!」
 猫人族の給仕長が、調理場から顔を出して怒鳴った。

「メグミ姉ちゃんやニコラ母さんにチクられたらどうしてくれる。めんどくさいことになるぞ」
 調理場から、別の人の声がする。その一言で、ノルドは理解した。
 
「島のあちこちに孤児院出身者がいる」——ノルドは、その事実をひしひしと実感した。
 何も頼んでいないのに、料理が次々に運ばれてくる。
「苦手なものがございましたら、気兼ねなく言ってください」給仕が言う。
「あの~、料理頼んでいないんですが……」
「この宿は料理はお任せしかございません」

 ノルドは、幾らするんだろう? と気が気ではなかったが、リコやヴァルは全く気にせず、料理を楽しんでいる。
「このお肉の煮込み料理美味しい。それと川魚のハーブ包みも」
 ヴァルは、味付けのされていない、骨付きの羊肉やふっくらとした魚が皿に置かれている。
 素材にこだわる食通の狼も満足しているようだ。
 デザートは、チーズを焼いて蜂蜜をかけたシンプルな料理だった。
 
 その瞬間——
 ノルドの顔に、どこからか水がかかった。まるで誰かが悪戯をしたかのように。
「あ、すいません。このデザート、追加で部屋に持って行きたいのですが」
「あら、気に入りましたか。後ほどお持ちしますよ」
 コースが終わり、最初は周りのことやお金のことを気にしていたノルドも、すっかり落ち着いた頃、給仕が告げた。
「本日はありがとうございました、料理長よりご挨拶させて頂きます」
 
 そこには——
 メグミが立っていた。
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