シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部

文字の大きさ
75 / 238
二部

シダ通りの迷宮亭

しおりを挟む
 ダンジョン町は、シシルナ島にある二つの町の一つだ。もう一つは島都 港町。

 この町の雰囲気は、ノルドがよく行く港町とは全く違った。港町が、商人と船乗りの町、明るい町だとしたら、冒険者の町、暗い町だ。

 ノルド達は、初めて冒険者ギルドに足を踏み入れた。彼の歩調は、いつもよりもさらに遅くなっている、緊張して、恐れている時の彼の特徴だ。対照的にリコはヴァルと共に先を闊歩して歩いていく。先日のホテルの予約の時もそうだった。
 
 ノルドは、壁のクエストボードを見つけると、近寄って張り出してあるクエストを読んだ。

 そこには、「魔石収集依頼」「魔兎狩猟」「エルフツリーの樹液収集」「バインドカズラの調査及び討伐」などが手付かずに残されていた。

 そして紙に大きく✖️がついて、「窃盗団の発見と討伐」「オルヴァ村のホブゴブリン討伐」、完了の文字が書かれていた。

 隣には、募集ボードがあった。募集されているのは「荷運び人募集」ばかりだ。冒険者のパーティは固定されているらしい。

 興味深げに、眺めていると、ギルド内を監視していたらしい大男が、ノルドに声を掛けてきた。リコとヴァルは、いつの間にか受付嬢と楽しそうに話をしていた。

「ここは、子供の来るところじゃない」体格の大きな男が話しかけてきたが怒っている感じでは無かった。

「将来は来るつもりです」
「そうか、この冒険者ギルドには、ダンジョンに挑む者が多く集まるんだな。少し難易度が高いダンジョンだが、将来が楽しみだな」
「ノルド! わかったよ。ククリは火に強いから、ロープの代わりに使うんだって」リコが受付嬢との会話を終えて戻ってきた。

「そうなのか」でも、硬さに問題がある気がする。頑丈なロープに、耐火性の薬液を入れれば……。

 ノルドが思索をしていると、リコは気がつき、「また、製品のこと考えていたんでしょ。早く、ケーキ屋さんに行きましょう。お店が閉まってしまうわ!」

 と、リコは走り出して行った。ヴァルは興味が無いらしく、ノルドと一緒にゆっくり歩きながら、飲み屋の匂いを確認しているようだ。

「ここのお菓子は、甘さ控えめで、大人にも人気なんだって」

 ダンジョン町のグルメ情報も、受付嬢から仕入れたリコは、町一番のお菓子屋で、色んなお菓子を大量に買い込むと、宿に向かった。



 宿といっても、ダンジョン町にあるのは、冒険者宿しかない。

「シダ通りの迷宮亭」
 
 町の裏通りに、歪んだ形をした宿があった。外観が複雑に入り組んでいて、階段と窓で迷路のように見える。料理が評判で、冒険者たちに人気がある少しお高めの宿のようだ。やっと、地下に隠れた入り口を見つけた。
 からん、からん。
 
 扉についた鐘が鳴ると、食堂にいる冒険者達が一斉にノルド達を物珍しげに見た。
 食堂と受付の壁には、「星喰の書 ⭐︎⭐︎⭐︎」と、荷車のタイヤの透かし絵の上に飾られた賞状が何枚も掲げられている。

「リコ、あれは?」ノルドは、少し気後れをした。
「ああ、よくあるやつよ。グラシアスさんと泊まった宿や食堂には、飾ってあったわ。すいませーん、宿泊をお願いしまーす!」

 リコはいつものように、元気いっぱいに声を出した。

「あらあら、小さな冒険者さん達ね。ごめんなさいね、予約で満室なのよ。他をあたってもらえるかしら」
 丁寧だけど、きっぱりと、給仕長らしい猫人族の大人の女性に断られた。

「でも、ここなら、いつでも泊めてもらえるって!」
 食事をしている冒険者達が呆れた顔で、ノルド達を見てくる。一人の冒険者が、注意書きの書かれたボードを指差した。

お客様へ
当宿泊施設は、シシルナ島ダンジョン冒険者専用の宿泊施設です。
また、必ず、事前にご予約をお願い致します。
——シダ通りの迷宮亭 店主

「リコ、他をあたろう!」ノルドはいたたまれなくなった。
「ごめんね。又、来てね」猫人族の女性は、ノルド達を追い出そうと、前に立ちはだかった。

「駄目だよ、泊まる宿を勝手に変えたら、メグミに怒られるよ」リコは、困って呟いた。

「メ、メグミ……メグミって言ったの? それって、ヴァレンシア孤児院のメグミ様のこと?」
 
猫人族の女性が、驚いたように尋ねた。

「はい。そうです。ここに泊まりなさいって……ばぁばもそうしろって」
「ばぁば?」
「うん。ニコラばぁば」

「ニ、ニコラって……ニコラ・ヴァレンシア様のこと?」
 その瞬間、猫人族の女性の顔色が変わった。まるで、神の名でも聞いたかのように。
「そ、そ、それを早く言いなさいよ!」
 猫人族の女性は、完全に青ざめた顔で慌てて調理場に引っ込むと同時に、他の給仕に命じてノルド達に席を準備させた。

「こちらへどうぞ、部屋は今準備しております。何をお飲みになりますか?」
 ノルドは、この急な対応の変化に背筋がぞくりとした。
 まるで、自分たちがただの旅人ではなく、貴族のように扱われているようだった。

「おい! 子供は駄目な宿なんじゃないのか?」
 冒険者が給仕に詰め寄った。
「うるさい! 大切なお客様だ。失礼なことを言うとお前達を出禁にするぞ!」
 猫人族の給仕長が、調理場から顔を出して怒鳴った。

「メグミ姉ちゃんやニコラ母さんにチクられたらどうしてくれる。めんどくさいことになるぞ」
 調理場から、別の人の声がする。その一言で、ノルドは理解した。
 
「島のあちこちに孤児院出身者がいる」——ノルドは、その事実をひしひしと実感した。
 何も頼んでいないのに、料理が次々に運ばれてくる。
「苦手なものがございましたら、気兼ねなく言ってください」給仕が言う。
「あの~、料理頼んでいないんですが……」
「この宿は料理はお任せしかございません」

 ノルドは、幾らするんだろう? と気が気ではなかったが、リコやヴァルは全く気にせず、料理を楽しんでいる。
「このお肉の煮込み料理美味しい。それと川魚のハーブ包みも」
 ヴァルは、味付けのされていない、骨付きの羊肉やふっくらとした魚が皿に置かれている。
 素材にこだわる食通の狼も満足しているようだ。
 デザートは、チーズを焼いて蜂蜜をかけたシンプルな料理だった。
 
 その瞬間——
 ノルドの顔に、どこからか水がかかった。まるで誰かが悪戯をしたかのように。
「あ、すいません。このデザート、追加で部屋に持って行きたいのですが」
「あら、気に入りましたか。後ほどお持ちしますよ」
 コースが終わり、最初は周りのことやお金のことを気にしていたノルドも、すっかり落ち着いた頃、給仕が告げた。
「本日はありがとうございました、料理長よりご挨拶させて頂きます」
 
 そこには——
 メグミが立っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!

しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。 けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。 そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。 そして王家主催の夜会で事は起こった。 第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。 そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。 しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。 全12話 ご都合主義のゆるゆる設定です。 言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。 登場人物へのざまぁはほぼ無いです。 魔法、スキルの内容については独自設定になっています。 誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

アルカディア・クロノクル ゲーム世界に囚われた俺を救うのは、妹か、かつての仲間か

織部
ファンタジー
 記憶を失った少年アキラ、目覚めたのはゲームの世界だった!  ナビゲーターの案内で進む彼は、意思を持ったキャラクターたちや理性を持つ魔物と対峙しながら物語を進める。  新たなキャラクターは、ガチャによって、仲間になっていく。    しかし、そのガチャは、仕組まれたものだった。  ナビゲーターの女は、誰なのか? どこに存在しているのか。  一方、妹・山吹は兄の失踪の秘密に迫る。  異世界と現実が交錯し、運命が動き出す――群像劇が今、始まる!  小説家になろう様でも連載しております  

異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆

八神 凪
ファンタジー
   日野 玖虎(ひの ひさとら)は長距離トラック運転手で生計を立てる26歳。    そんな彼の学生時代は荒れており、父の居ない家庭でテンプレのように母親に苦労ばかりかけていたことがあった。  しかし母親が心労と働きづめで倒れてからは真面目になり、高校に通いながらバイトをして家計を助けると誓う。  高校を卒業後は母に償いをするため、自分に出来ることと言えば族時代にならした運転くらいだと長距離トラック運転手として仕事に励む。    確実かつ時間通りに荷物を届け、ミスをしない奇跡の配達員として異名を馳せるようになり、かつての荒れていた玖虎はもうどこにも居なかった。  だがある日、彼が夜の町を走っていると若者が飛び出してきたのだ。  まずいと思いブレーキを踏むが間に合わず、トラックは若者を跳ね飛ばす。  ――はずだったが、気づけば見知らぬ森に囲まれた場所に、居た。  先ほどまで住宅街を走っていたはずなのにと困惑する中、備え付けのカーナビが光り出して画面にはとてつもない美人が映し出される。    そして女性は信じられないことを口にする。  ここはあなたの居た世界ではない、と――  かくして、異世界への扉を叩く羽目になった玖虎は気を取り直して異世界で生きていくことを決意。  そして今日も彼はトラックのアクセルを踏むのだった。

クラスまるごと異世界転移

八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。 ソレは突然訪れた。 『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』 そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。 …そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。 どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。 …大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても… そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

処理中です...