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二部
ガブリエルと新聞社
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実は、島庁にはすでに問い合わせをしており、「教えられない」と返事をもらっている。そこで、島の有力者であるニコラに手紙を出した。返事がもらえればいいのだが。待っている時間が惜しい。
「聞き込みをしよう」
港町を歩くことにした。夏の暑さで、人々は日陰に隠れ、街を歩く人は少ない。
人は誰でも食事をする。となると、食堂、飲み屋、あるいは食料品店か。
一軒の繁盛している雑貨店を見つけた。看板には「ノシロ食料品店」。食料品以外にも、さまざまな雑貨が置いてある。
店は人で溢れていた。夏祭りの実行委員事務所と書かれた立札もあり、美しいエルフの女性が座って応対していた。
「材料をまとめて欲しいんだけど?」
「わかりました。会場に直接届けますよ」
店主らしい大男が、元気よく客の応対をしていた。力強く、一本気な性格のようだ。
伝票をさらっと書いて、注文客に渡している。
「彼に聞こう」
ガブリエルは、その男の手が空くのを待っていた。
しばらくして、ようやく男の手が空いた。
「何か用事か?」と、にこりと笑って訊いてきた。
買い物客には見えなかったのだろう。珍しい黒き神学校の制服に、聖女随行の証、そして幼い容姿。
「この島で、人を探しています。カノンという女性で、青い刺青があります。歳の頃は……」
「なぜ、探してるんだ?」
「……」
ガブリエルが答えないと、男――シロノと名乗った店主は、呆れたように告げた。
「他人の協力を得たいときは、ちゃんと思いと事情を伝えないと駄目だ。事情を聞いてから、答えさせてくれ」
そう――あの狼少年ノルドのように、口下手でも思いを伝えてほしい。そうでなければ、ただのお喋りになってしまう。
ガブリエルの中には迷いがあった。だから、グラシアスにも、ノシロにも言えなかった。
もし、素直に彼が事情を打ち明け、協力を依頼していれば、きっと簡単に見つけることができただろう。
だが、ガブリエルは苦労を重ねすぎて、心から他人を信じることができなくなっていた。本当に信頼できると判断した相手にしか、本音を言えなくなっていたのだ。
一方、ノルドは素直すぎた。それゆえに、周囲の人間が心配して手を差し伸べてくれた。
「……話せるようになったら、またおいで」
ノシロにしては珍しく、それ以上は語らなかった。
リジェが、静かに鋭い視線を向けていたからだ。普段は柔らかな彼女が、今日はなぜか厳しい顔をしていた――それだけで十分だった。
※
その後も、ガブリエルは何軒かの店を尋ねて回ったが、刺青の女性の情報は得られなかった。
「どこかに幽閉されているんじゃないか……いや、もう死んでいるんじゃ……」
思わずそんな考えが頭をよぎる。胸がぎゅっと締めつけられるようだった。
――けれど、すぐにかぶりを振った。
それなら、わざわざ隠す必要なんてない。誰かが隠しているということは、生きている証拠だ。
気を取り直して歩き出した矢先、一人の少年にぶつかってしまった。
年齢的には、ガブリエルと同じくらいだろうか。
彼の手から何枚かの紙がはらはらと舞い、道に散らばった。
「すいません!」
謝りながら拾い上げて、ふと手元を見やる。
『シシルナ島新聞 特別号 夏祭り特集』
「新聞……?」
共和国の首都でさえ始まったばかりの媒体だ。それがこの島に――?
「新聞なんですね」そう話しかけると、少年がこちらを見上げた。
「ご存知ですか? その格好……ネフェル聖女様の随行員の方ですよね?」
「ええ、そうです。ところで、この『シシルナ新聞社』って、どこにあるんですか?」
新聞社なら、きっと――彼女の手がかりがあるはずだ。根拠のない確信だった。
少年はふふんと得意げに笑った。
「ついてきてください。案内しますよ。でも、その代わり……」
彼は小さくウィンクしてから、にやっと笑った。
「いろいろ質問に答えてもらいますからね。僕、取材も兼ねてますんで!」
彼の名はセイ。この新聞社を運営しているのだという。
道すがら、セイは矢継ぎ早に質問を投げかけてきた。
「聖女様は何が好きなの?」「君はなんで神学校に通ってるの?」
「随行員になるには何をしたの?」――
最初は警戒していたはずのガブリエルだったが、気がつけばつい答えていた。
不思議と、彼には心を開きやすかった。
町の繁華街に入る。雑然とした雰囲気に少し気後れしたが、セイは迷いなく人混みを抜け、裏通りの階段を上がっていった。
「ここだよ」
建物の二階。古びているが、どこかあたたかな雰囲気の扉の前で立ち止まる。
中に入ると、幼い子供たちが数人、原稿を書いたり印刷機を動かしたりしていた。
「まあ、そこのソファに座って」
セイが手を差し伸べる。彼の声には、自然と人を安心させる力があった。
「おかえり、セイ!」と一人の子供が笑顔で迎えた。
「みんな、元気そうだね」とセイが返すと、子供たちの中から「頑張ってるよ!」といった声が返ってきた。
「はい、どうぞ。喉、渇いてるでしょ」机の上に置かれたグラスには、薄く色づいた水。
ごくり――。甘くて、少し薬草のような香りがした。
「おいしい。……ん? ポーションが入ってる?」
「よくわかったね。正解。蜂蜜と、ノルド特製の回復ポーション入り。夏限定だよ」誇らしげに言うセイの目は輝いていた。
「ノルドは友達さ。すごいんだ、本当に。まあ、それはともかく――」
手を広げて、彼は言った。
「シシルナ新聞社へ、ようこそ! さて、何が知りたい?」
「聞き込みをしよう」
港町を歩くことにした。夏の暑さで、人々は日陰に隠れ、街を歩く人は少ない。
人は誰でも食事をする。となると、食堂、飲み屋、あるいは食料品店か。
一軒の繁盛している雑貨店を見つけた。看板には「ノシロ食料品店」。食料品以外にも、さまざまな雑貨が置いてある。
店は人で溢れていた。夏祭りの実行委員事務所と書かれた立札もあり、美しいエルフの女性が座って応対していた。
「材料をまとめて欲しいんだけど?」
「わかりました。会場に直接届けますよ」
店主らしい大男が、元気よく客の応対をしていた。力強く、一本気な性格のようだ。
伝票をさらっと書いて、注文客に渡している。
「彼に聞こう」
ガブリエルは、その男の手が空くのを待っていた。
しばらくして、ようやく男の手が空いた。
「何か用事か?」と、にこりと笑って訊いてきた。
買い物客には見えなかったのだろう。珍しい黒き神学校の制服に、聖女随行の証、そして幼い容姿。
「この島で、人を探しています。カノンという女性で、青い刺青があります。歳の頃は……」
「なぜ、探してるんだ?」
「……」
ガブリエルが答えないと、男――シロノと名乗った店主は、呆れたように告げた。
「他人の協力を得たいときは、ちゃんと思いと事情を伝えないと駄目だ。事情を聞いてから、答えさせてくれ」
そう――あの狼少年ノルドのように、口下手でも思いを伝えてほしい。そうでなければ、ただのお喋りになってしまう。
ガブリエルの中には迷いがあった。だから、グラシアスにも、ノシロにも言えなかった。
もし、素直に彼が事情を打ち明け、協力を依頼していれば、きっと簡単に見つけることができただろう。
だが、ガブリエルは苦労を重ねすぎて、心から他人を信じることができなくなっていた。本当に信頼できると判断した相手にしか、本音を言えなくなっていたのだ。
一方、ノルドは素直すぎた。それゆえに、周囲の人間が心配して手を差し伸べてくれた。
「……話せるようになったら、またおいで」
ノシロにしては珍しく、それ以上は語らなかった。
リジェが、静かに鋭い視線を向けていたからだ。普段は柔らかな彼女が、今日はなぜか厳しい顔をしていた――それだけで十分だった。
※
その後も、ガブリエルは何軒かの店を尋ねて回ったが、刺青の女性の情報は得られなかった。
「どこかに幽閉されているんじゃないか……いや、もう死んでいるんじゃ……」
思わずそんな考えが頭をよぎる。胸がぎゅっと締めつけられるようだった。
――けれど、すぐにかぶりを振った。
それなら、わざわざ隠す必要なんてない。誰かが隠しているということは、生きている証拠だ。
気を取り直して歩き出した矢先、一人の少年にぶつかってしまった。
年齢的には、ガブリエルと同じくらいだろうか。
彼の手から何枚かの紙がはらはらと舞い、道に散らばった。
「すいません!」
謝りながら拾い上げて、ふと手元を見やる。
『シシルナ島新聞 特別号 夏祭り特集』
「新聞……?」
共和国の首都でさえ始まったばかりの媒体だ。それがこの島に――?
「新聞なんですね」そう話しかけると、少年がこちらを見上げた。
「ご存知ですか? その格好……ネフェル聖女様の随行員の方ですよね?」
「ええ、そうです。ところで、この『シシルナ新聞社』って、どこにあるんですか?」
新聞社なら、きっと――彼女の手がかりがあるはずだ。根拠のない確信だった。
少年はふふんと得意げに笑った。
「ついてきてください。案内しますよ。でも、その代わり……」
彼は小さくウィンクしてから、にやっと笑った。
「いろいろ質問に答えてもらいますからね。僕、取材も兼ねてますんで!」
彼の名はセイ。この新聞社を運営しているのだという。
道すがら、セイは矢継ぎ早に質問を投げかけてきた。
「聖女様は何が好きなの?」「君はなんで神学校に通ってるの?」
「随行員になるには何をしたの?」――
最初は警戒していたはずのガブリエルだったが、気がつけばつい答えていた。
不思議と、彼には心を開きやすかった。
町の繁華街に入る。雑然とした雰囲気に少し気後れしたが、セイは迷いなく人混みを抜け、裏通りの階段を上がっていった。
「ここだよ」
建物の二階。古びているが、どこかあたたかな雰囲気の扉の前で立ち止まる。
中に入ると、幼い子供たちが数人、原稿を書いたり印刷機を動かしたりしていた。
「まあ、そこのソファに座って」
セイが手を差し伸べる。彼の声には、自然と人を安心させる力があった。
「おかえり、セイ!」と一人の子供が笑顔で迎えた。
「みんな、元気そうだね」とセイが返すと、子供たちの中から「頑張ってるよ!」といった声が返ってきた。
「はい、どうぞ。喉、渇いてるでしょ」机の上に置かれたグラスには、薄く色づいた水。
ごくり――。甘くて、少し薬草のような香りがした。
「おいしい。……ん? ポーションが入ってる?」
「よくわかったね。正解。蜂蜜と、ノルド特製の回復ポーション入り。夏限定だよ」誇らしげに言うセイの目は輝いていた。
「ノルドは友達さ。すごいんだ、本当に。まあ、それはともかく――」
手を広げて、彼は言った。
「シシルナ新聞社へ、ようこそ! さて、何が知りたい?」
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