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二部
シシルナ島の夏祭り
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「かき氷はいかがですか? レモン、オレンジ、アーモンド、どれも食べるだけで元気が出ますよ! それと、冷たい飲み物も販売中です!」
バレンシア孤児院の店の前には、長い行列ができていた。孤児院の子供たちは、揃いのエプロンを身に着け、魚市場の倉庫から届いた氷をかき氷機にかけて、指定されたシロップを氷鉢にかけ、お代と引き換えに渡していた。
シダ通りの迷宮亭から、ノゾミ店長たちが応援に来ている。
「腕が痛ーい」
「洗い物がどんどん溜まってきたよ」
「はい、お代は銀貨一枚です。でも、子供は銅貨五枚でいいよ」
飲食の店舗の隣には、雰囲気をガラリと変えた高級店舗。定番の蜂蜜飴や保湿クリーム、蜂蜜酒、クッキーなどの商品が綺麗な個装箱に入れられ、棚に陳列している。清楚なメイド服に身を包み、リコが店長を務めている。
「あーあ。暑いし、つまんない」リコは不満げだ。
「仕方ないでしょ。売上の大きさもお客様対応の難しさも、こちらの方が上なんだから。立派に務めて、ニコラ様を喜ばせよう」手伝いに来ているネラがリコの頭を撫でる。
「いらっしゃいませ。どうぞ、お座りください。お飲み物は何がよろしいですか?」
入ってきたのは、大陸の貴族らしい老夫婦。リコは背筋を伸ばし、丁寧に接客を始めた。
老婦人が目を細めて微笑む。「まあ、なんて可愛らしいお嬢さん。言葉遣いもきちんとしていて、感心しますわ」
「えっ……」リコは目をぱちぱちと瞬かせた。
「よろしければ、こちらの商品をご覧ください。ヴァレンシア孤児院の保湿クリームは聖女様が……効能ですが……ほんの少しですがご試用いただけます」
リコの説明に、老婦人は目を丸くして隣の夫にささやいた。
「まぁ……説明がとても丁寧でわかりやすいわね。こういう子がいるなんて――さすが、ニコラ様のお店ね」
老紳士も穏やかに頷いた。「若いのに立派だ。王都の高級店にも引けを取らんよ」
「……ありがとうございます」リコは小さく礼をしながら、頬を少し赤く染めた。
ネラがくすりと笑いながら後ろから言った。「見てたわ。ちゃんとできてるじゃない」
「べ、別に……普通のことをしただけだし」リコはそっぽを向いたが、耳まで真っ赤になっていた。
老夫婦が帰っていき、ひとときの静けさが訪れる。
リコは一人になった店内で、そっと深呼吸をして、棚の商品を整え直すふりをしながらぽつりとつぶやいた。
「……ふふっ」
その笑顔は、ほんの少しだけ誇らしげだった。
※
夏祭りの一日目。暑さの和らいだ広場に設けられた舞台では、さまざまな演目が披露されていた。シシルナ島の子どもたちや大人たちの演舞に加え、大陸から招かれた出演者たちも登場し、祭りは大いに盛り上がっている。
実行委員のノシロは、その様子を鼻高々に見つめながら、隣に立つグラシアスへ話しかけた。
「まさか、有名な大陸の音楽隊や歌手まで出演してくれるとは思いませんでした。これも、グラシアス商会長のおかげです」
「いや、それが意外と簡単でしてね。ニコラ・ヴァレンシア孤児院のチャリティに招待すると言えば、二つ返事でしたよ。あの行事は、ある程度の地位がないと招かれない。ちらつかせれば一発です」
一日目の祭りは、夜になる前に終わる。それは観光客を街の飲み屋や食堂へと誘導するための工夫だ。そしてその夜には、一年に一度しか開催されないはずのチャリティという名の大晩餐会が待っている。
ノシロは胸の高鳴りを抑えきれず、自分の店を早々に閉め、孤児院へと急いだ。
今回のチャリティには、当然ながらニコラは一切関わっていない。
ニコラの子どもだけで行う、初めての催しなのだ。
そう、これは本当に――初めてのことだった。
「今回のチャリティ、最終的な参加者数は、いつもの倍になる。頼んだぞ」
ガレアが、仕切り役のメグミに告げる。
「人選は厳しくしたんですよね? 島主様」メグミは一歩も引かぬ目で問い返す。
「もちろんだ。けれどな……ニコラ様を一目見たいって、島を出て行った兄さんや姉さん、妹や弟たちがどうしてもって頼んできてな。俺には、断れなかった」
「まさか……母さんの容体を?」
「ああ、黙っておくわけにはいかなくてな。中には、酷い手紙もあった。『お前のせいだ』『お前がついていながら不甲斐ない』『島主にお前を選んだ母さんが間違っていた』――そんなふうに」
「何なのそれ……普段は頼りのひとつもよこさず、自分一人で大きくなった気でいて、寄付のひとつもしないくせに!」
メグミは怒りをあらわにした。けれど、その言葉の奥に滲む寂しさも、彼女にはよくわかっていた。
彼女もまた、かつてニコラから言われた一人だった。「島を出なさい」。
お金は出す。だから進学しろ。天職を見つけろ。好きに生きろ。そして――一度出たら、もう戻ってくるな、と。
チャリティに出すものは「自分で作ったもの」に限られ、金銭の寄付は受け取らない。
寄付したくても、それをニコラは許さない。
そして二度と、島には帰れない。それもまた、メグミは知っていた。
だからこそ、ガレアの出した手紙が何を意味するのか、みんな理解していた。
「何しに帰ってきた」と、ニコラに怒鳴られるのを覚悟のうえで――。
それでも、彼らは戻ってくる。
灯りのともるあの家が、忘れられなかったのだ。母さんであるニコラのいる家が。
バレンシア孤児院の店の前には、長い行列ができていた。孤児院の子供たちは、揃いのエプロンを身に着け、魚市場の倉庫から届いた氷をかき氷機にかけて、指定されたシロップを氷鉢にかけ、お代と引き換えに渡していた。
シダ通りの迷宮亭から、ノゾミ店長たちが応援に来ている。
「腕が痛ーい」
「洗い物がどんどん溜まってきたよ」
「はい、お代は銀貨一枚です。でも、子供は銅貨五枚でいいよ」
飲食の店舗の隣には、雰囲気をガラリと変えた高級店舗。定番の蜂蜜飴や保湿クリーム、蜂蜜酒、クッキーなどの商品が綺麗な個装箱に入れられ、棚に陳列している。清楚なメイド服に身を包み、リコが店長を務めている。
「あーあ。暑いし、つまんない」リコは不満げだ。
「仕方ないでしょ。売上の大きさもお客様対応の難しさも、こちらの方が上なんだから。立派に務めて、ニコラ様を喜ばせよう」手伝いに来ているネラがリコの頭を撫でる。
「いらっしゃいませ。どうぞ、お座りください。お飲み物は何がよろしいですか?」
入ってきたのは、大陸の貴族らしい老夫婦。リコは背筋を伸ばし、丁寧に接客を始めた。
老婦人が目を細めて微笑む。「まあ、なんて可愛らしいお嬢さん。言葉遣いもきちんとしていて、感心しますわ」
「えっ……」リコは目をぱちぱちと瞬かせた。
「よろしければ、こちらの商品をご覧ください。ヴァレンシア孤児院の保湿クリームは聖女様が……効能ですが……ほんの少しですがご試用いただけます」
リコの説明に、老婦人は目を丸くして隣の夫にささやいた。
「まぁ……説明がとても丁寧でわかりやすいわね。こういう子がいるなんて――さすが、ニコラ様のお店ね」
老紳士も穏やかに頷いた。「若いのに立派だ。王都の高級店にも引けを取らんよ」
「……ありがとうございます」リコは小さく礼をしながら、頬を少し赤く染めた。
ネラがくすりと笑いながら後ろから言った。「見てたわ。ちゃんとできてるじゃない」
「べ、別に……普通のことをしただけだし」リコはそっぽを向いたが、耳まで真っ赤になっていた。
老夫婦が帰っていき、ひとときの静けさが訪れる。
リコは一人になった店内で、そっと深呼吸をして、棚の商品を整え直すふりをしながらぽつりとつぶやいた。
「……ふふっ」
その笑顔は、ほんの少しだけ誇らしげだった。
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夏祭りの一日目。暑さの和らいだ広場に設けられた舞台では、さまざまな演目が披露されていた。シシルナ島の子どもたちや大人たちの演舞に加え、大陸から招かれた出演者たちも登場し、祭りは大いに盛り上がっている。
実行委員のノシロは、その様子を鼻高々に見つめながら、隣に立つグラシアスへ話しかけた。
「まさか、有名な大陸の音楽隊や歌手まで出演してくれるとは思いませんでした。これも、グラシアス商会長のおかげです」
「いや、それが意外と簡単でしてね。ニコラ・ヴァレンシア孤児院のチャリティに招待すると言えば、二つ返事でしたよ。あの行事は、ある程度の地位がないと招かれない。ちらつかせれば一発です」
一日目の祭りは、夜になる前に終わる。それは観光客を街の飲み屋や食堂へと誘導するための工夫だ。そしてその夜には、一年に一度しか開催されないはずのチャリティという名の大晩餐会が待っている。
ノシロは胸の高鳴りを抑えきれず、自分の店を早々に閉め、孤児院へと急いだ。
今回のチャリティには、当然ながらニコラは一切関わっていない。
ニコラの子どもだけで行う、初めての催しなのだ。
そう、これは本当に――初めてのことだった。
「今回のチャリティ、最終的な参加者数は、いつもの倍になる。頼んだぞ」
ガレアが、仕切り役のメグミに告げる。
「人選は厳しくしたんですよね? 島主様」メグミは一歩も引かぬ目で問い返す。
「もちろんだ。けれどな……ニコラ様を一目見たいって、島を出て行った兄さんや姉さん、妹や弟たちがどうしてもって頼んできてな。俺には、断れなかった」
「まさか……母さんの容体を?」
「ああ、黙っておくわけにはいかなくてな。中には、酷い手紙もあった。『お前のせいだ』『お前がついていながら不甲斐ない』『島主にお前を選んだ母さんが間違っていた』――そんなふうに」
「何なのそれ……普段は頼りのひとつもよこさず、自分一人で大きくなった気でいて、寄付のひとつもしないくせに!」
メグミは怒りをあらわにした。けれど、その言葉の奥に滲む寂しさも、彼女にはよくわかっていた。
彼女もまた、かつてニコラから言われた一人だった。「島を出なさい」。
お金は出す。だから進学しろ。天職を見つけろ。好きに生きろ。そして――一度出たら、もう戻ってくるな、と。
チャリティに出すものは「自分で作ったもの」に限られ、金銭の寄付は受け取らない。
寄付したくても、それをニコラは許さない。
そして二度と、島には帰れない。それもまた、メグミは知っていた。
だからこそ、ガレアの出した手紙が何を意味するのか、みんな理解していた。
「何しに帰ってきた」と、ニコラに怒鳴られるのを覚悟のうえで――。
それでも、彼らは戻ってくる。
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