寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ

文字の大きさ
75 / 131

どうやら頭を打ったらしい

しおりを挟む
「命拾いしたな。」

私に向けられる罪人達の視線を思い出して、ゾワリッと寒気が走る。

最初は七人だった。
七人がリヒト達を引き上げるのに協力してくれる筈だった。それが気付けば十七人になり、最終的には二十七人。人間二人を引き上げるのに過剰戦力だ。

何人か引っ張ってるふりして絶対協力してない。

ー これだから罪人は!! 

そもそも何で私の紐下g……やらハダk…エプロン姿なんて見たいのか。

男だぞ!?
フェルゼンのウェディングドレ…とかっ!? 今回のとか!?
何でこうも人を貶めるような格好させたいんだアイツ等は!!


「まぁね。ここ、基本男しか居ないんでい。」

人の心を勝手に呼んで来たネズミが答える。罪人って別に男女関わらず、大罪を犯したらここに流刑される筈だが……と聞きたいが、それ以上は流石に怖くて聞けない。

ここは弱肉強食だ。
たまたま、私達はネズミに拾われただけで、私達だってどうなってたかは分からない。

取り敢えずネズミの機転で紐下g…ハダk……エプロンは回避出来たのでもう考えるのはやめよう。


ネズミの怪我は酷かった。
足の骨が折れ、折れた骨が肉を引き裂き、出ている状態。
正直、流石にもう駄目かと思ったら一応、『リンク』にも腕利きの医者がいるらしい。

かなり時間と対価がかかるが、治せない怪我では無いらしい。まぁ、時間と対価が一番の問題なんだが。

「対価はヒヒ系の討伐代でいいわよん。後はネズミをアンタ達が面倒見る気があるかだけよん。」

リヒトはそのクジャクの問いに二つ返事で了承した。私も特に異論はない。

まぁ、当分私達の冤罪も晴れなさそうだし。ここ二ヶ月世話になった恩もある。

取り敢えず、ネズミはその腕利きの医者の元へ運ばれて私達は一度ネズミの寝ぐらに帰る事になったのだが……。


「……リヒト、貴方も怪我してるでしょ? 離してくれない? 」

部屋に戻った途端、リヒトにがっちりホールドされて約二時間。何故約二時間拘束されているのかは全く分からない。

「リヒト? 」

「…………。」

「あの、…どうしたの? せめて何とか言って。」

表情を確認するにも後ろからがっちりホールドされているので視認出来ない。本当に何考えてるのか分からない。

そして……。

リヒトとは五センチしか背は変わらない。シュヴェルトと比べると…悲しくなる程自身がちんまく見えるがリヒトとは大切な事だからもう一度言うが変わらない。

成長期に五センチは誤差。
十四歳の私は余裕で十六歳のリヒトを抜かす筈だから気にはしない。

気にはしないんだが…。
こうやってホールドされていると「アレ? もしや五センチって結構…大きい差じゃ…。 」なんて思ってしまう。

ー 落ち着け…。五センチは誤差だ。毛だって生えるし、これから背だって筋肉だって……。

自身にそう言い聞かせて、取り敢えずホールドからどうやって抜けるか考える。

すると耳裏にリヒトの鼻頭が当たり、スンッと耳裏の匂いを嗅ぐ。

「ちょっ!? 本当に何して…ちょっと!? 」

鼻息が耳を擽る。
そしてまたスンッスンッと匂いを…。
く、くすぐったい。

「シュネーの匂いだ。」

「……まぁ、私を嗅いだら私の匂いでしょうね。」

何がしたいんだこの人は。
リヒトは私を離す気が全くないようでスンッスンッと犬のように匂いを嗅ぎ続ける。

「ねぇ、シュネー。」

「何です? 」

「僕が生きたいって言ったら君は離れていくの? 」

「物理的にもう離れられないの知ってて言ってる? それ。」

崖に落ちて一体何があったのか。
生きる気力が湧いたのか。
はたまた頭を打ったのか。

「うん。知ってるし、もう離せないと思う。」

「……頭、打ちました? 」

「うん。打ったかもしれない。」

ー マジか。

話が地味に通じないと思ったら我が主人は頭をやってしまったらしい。ネズミの怪我はヒヒ系の討伐から出されるがリヒトの頭は診療してくれるだろうか。

そういえば『刑受の森』の外から持ち込んだ荷物の中に売れそうなものが……。

あれ? 
それを対価にふっかけてみればクジャクに口吸われなくても済んだのでは……いや、もういい。
もう、どうしようもない事を考えてもしょうがない。

ー 今思えば相当錯乱してたんだな、私。

溜息をつくとふと、身体の拘束が解かれた。そして首筋に柔らかな口付けが落とされる。

「ひゃッ!? 何してっ!? 」

そして今度は前から抱き締められる。
いや、だからどうしたんだって!?

「シュネー。」

「何!? 」

「今日、夜、触らせて。」

「断る。…怪我してるでしょ。ゆっくり休め。」

本当に何考えてんだ。
崖から滑落した後だぞ!?
縄使って降りてみたが、結構な高さだった。ヒヒ系みたいに死ななかったのが不思議なくらいなんだぞ!?

呆れていると不安そうなリヒトの顔が私を覗く。

頭打ったなら医者に行こうよ。
付き添うって。

「僕は君が隣に居てくれるなら生きられる気がする。」

「…気がするじゃなくて生きてくれなきゃ困るのですが。」

「そうだね。君に触れていられるなら生きたいかな。僕は。」

「触れッ……。ホントにアンタ大丈夫か!? 頭の中切ったとか? 」

何それ!?
何だその訳の分からない生きる気力は!?
崖から滑落して一体何があったの!?

「死よりもシュネーに触らないのが怖い。」

「……私は貴方の思考回路が怖い。日に日に私の分からない方向に転がって行ってるでしょ。何処に行くつもりで!? 」

「……シュネーは当分理解しなくていいよ。シュネーに拒絶されるのは辛いから。」

この主人は何を恐れているのか?
震えているので手を回してポンポンと背中を撫でてやると、溜息をつかれた。

「…シュネーって一度懐に入れた相手を警戒しないタイプでしょ。」

「誰の事言ってます? …なんだか嫌な予感がする。」

「悪いようにはしないよ。ただ、僕はゲルダが言うように狡い男みたいだからね。」

何故今、ゲルダの事が出たのか…。
兎に角今、抱き締めるのをやめて欲しい。

いや、私だって心配したよ。
抱き締められて不覚にもホッとしたから約二時間、抵抗もせずに収まってたよ。

だが、取り敢えず今は離して欲しい。
私も結構心労とかが来てるんだって。

疲れた。寝たい。
さっさと今日の出来事を忘却したい。

「リヒト…。手当てとか…お風呂…とか、食事とかそろそろ。」

「じゃあ、その後に一週間に一回のアレね。」

「………寝ようよ。何故それを今持ち出した!? 」

思わず首筋を隠したが、ニッコリと何故か薄ら寒い笑顔を向けられた。

この元王子が何処へ向かっているのか全く分からない。
それがちょっと…いや、大分怖い。

それでも生きようと前へ向いてくれるのなら。
生きる事に価値を見出してくれたなら……いいのか?
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

婚約破棄させた愛し合う2人にザマァされた俺。とその後

結人
BL
王太子妃になるために頑張ってた公爵家の三男アランが愛する2人の愛でザマァされ…溺愛される話。 ※男しかいない世界で男同士でも結婚できます。子供はなんかしたら作ることができます。きっと…。 全5話完結。予約更新します。

BLゲームのモブに転生したので壁になろうと思います

BL
前世の記憶を持ったまま異世界に転生! しかも転生先が前世で死ぬ直前に買ったBLゲームの世界で....!? モブだったので安心して壁になろうとしたのだが....? ゆっくり更新です。

待て、妊活より婚活が先だ!

檸なっつ
BL
俺の自慢のバディのシオンは実は伯爵家嫡男だったらしい。 両親を亡くしている孤独なシオンに日頃から婚活を勧めていた俺だが、いよいよシオンは伯爵家を継ぐために結婚しないといけなくなった。よし、お前のためなら俺はなんだって協力するよ! ……って、え?? どこでどうなったのかシオンは婚活をすっ飛ばして妊活をし始める。……なんで相手が俺なんだよ! **ムーンライトノベルにも掲載しております**

婚約破棄されるなり5秒で王子にプロポーズされて溺愛されてます!?

野良猫のらん
BL
侯爵家次男のヴァン・ミストラルは貴族界で出来損ない扱いされている。 なぜならば精霊の国エスプリヒ王国では、貴族は多くの精霊からの加護を得ているのが普通だからだ。 ところが、ヴァンは風の精霊の加護しか持っていない。 とうとうそれを理由にヴァンは婚約破棄されてしまった。 だがその場で王太子ギュスターヴが現れ、なんとヴァンに婚約を申し出たのだった。 なんで!? 初対面なんですけど!?!?

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ
BL
 国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。  フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。  生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

【完】ラスボス(予定)に転生しましたが、家を出て幸せになります

ナナメ
BL
 8歳の頃ここが『光の勇者と救世の御子』の小説、もしくはそれに類似した世界であるという記憶が甦ったウル。  家族に疎まれながら育った自分は囮で偽物の王太子の婚約者である事、同い年の義弟ハガルが本物の婚約者である事、真実を告げられた日に全てを失い絶望して魔王になってしまう事ーーそれを、思い出した。  思い出したからには思いどおりになるものか、そして小説のちょい役である推しの元で幸せになってみせる!と10年かけて下地を築いた卒業パーティーの日ーー ーーさあ、早く来い!僕の10年の努力の成果よ今ここに!  魔王になりたくないラスボス(予定)と、本来超脇役のおっさんとの物語。 ※体調次第で書いておりますのでかなりの鈍足更新になっております。ご了承頂ければ幸いです。 ※表紙はAI作成です

冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる

尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる 🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟 ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。 ――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。 お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。 目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。 ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。 執着攻め×不憫受け 美形公爵×病弱王子 不憫展開からの溺愛ハピエン物語。 ◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。 四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。 なお、※表示のある回はR18描写を含みます。 🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。 🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。

異世界転生したと思ったら、悪役令嬢(男)だった

カイリ
BL
16年間公爵令息として何不自由ない生活を送ってきたヴィンセント。 ある日突然、前世の記憶がよみがえってきて、ここがゲームの世界であると知る。 俺、いつ死んだの?! 死んだことにも驚きが隠せないが、何より自分が転生してしまったのは悪役令嬢だった。 男なのに悪役令嬢ってどういうこと? 乙女げーのキャラクターが男女逆転してしまった世界の話です。 ゆっくり更新していく予定です。 設定等甘いかもしれませんがご容赦ください。

処理中です...