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第一章 王子とロバ耳と国際交流と
9、噂の男爵令息は…
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これでもかと見開かれた空色の瞳がこちらを凝視している。
「エレン。譜面が全部落ちてるわよ」
「…ハッ!!ダ、ダメですよっ。せ、せ、せ、生徒に手を出しちゃっ」
ライモンド先生の声でエレンこと噂の男爵令息がはたと我に返って、震えた指でライモンド先生を指差す。
こっちはこっちでいきなりの主人公の登場に一瞬固まった。
主人公エレンは音楽隊。
ライモンド先生は音楽隊の顧問でエレンのクラスの担任で攻略対象。ここにエレンが来るのはなんら変ではないけど、エレンとこの一年間、ここで出くわした事がなかったので油断してた。
「……別に髪型を褒めただけよ」
「あやしい雰囲気醸し出してましたよ!?」
「あらま。嫉妬?…後で貴方もちゃんと口説いてあげるから怒らないで頂戴?」
「か、揶揄わないでくださいっ!…わわっ!?」
頭がフリーズしている間にまるでシナリオを回収するかのようになんだか甘い雰囲気が二人の間で醸し出される。
ライモンド先生に揶揄われて顔を真っ赤に染めたエレン。
動揺して自分で譜面を床に撒いた事を忘れて足を滑らした。
「おっと…。危ない」
まるでこけるのを予測していたかのような滑らかな動きでライモンド先生はエレンを胸で受け止める。ライモンド先生は綺麗に整った人差し指をエレンの唇に付け…。
「お転婆も大概に…ね?」
何時もより割増な大人の色気を纏い囁くように優しく叱った。
まさかの僕の目の前で《イベント》を回収され、呆然とする。
しかも完全に巻き込み事故だ。
ダシにされた…。僕、イベントのダシにされた!?
これ以上、巻き込まれてたまるか!と、そろりと出ていこうとした。
「ラニちゃんっ。行くよ!!」
頬を薔薇色に染めて動揺しているエレンが、ライモンド先生の腕の中から抜け出し、そろりと出ていこうとした僕の手を何故か引っ張る。
「ちょっと、エレン!!」
「は、破廉恥ですっ。ラニちゃんッ、お兄さんがこんな破廉恥な人から守ってあげるからねっ」
「いや…、落とした譜面はどうするの?」
「ハッ!」
ライモンド先生に指摘されて、あわあわと落ちた譜面を拾い、たいして怖くもない睨みを効かせながら僕を連れて研究室が退室する。
エレンはありがちの天然ドジっ子属性の主人公らしい。
あれだ。ラッキースケベを素でやるタイプの主人公。
ー 恐ろしい子!!
何処かで聞いた事がある台詞を心の中で叫びながらもやはり、ラッキースケベよりも恐ろしいのはひとつ。
「なんで僕の名前、知ってるの?」
僕の手を引き続けるエレンに問い掛ける。
僕はこの二年間、ちょくちょくエレンがイベントを起こしている所を遠目から見た事がある。だが、僕自身はエレンと一切関わってない。
なのに、名前を知っている上にちゃん付け。呼び方に親しみを感じるのは何故?
エレンは問い掛けると、突如固まるように足を止めた。そしていきなり目に見えて慌て始めた。
「え、えーとね。その…えーと」
無茶苦茶視線を泳がせて、謎の身振り手振りをして、言葉を絞り出そうと奮闘している。そんな言いづらい事なの?
エレンは助けを求めるように周囲を見渡し、近くにあった食堂を見て、これだ!!と言わんばかりの笑みを浮かべた。
「ほらっ、ラニちゃんは食堂でよくお手伝いしてるでしょ!!食堂のおばちゃんがラニちゃんの事働き者だって褒めててっ」
水を得た魚のように先程と違い、生き生きと話し始めるエレン。
確かにエレンの言うように食堂のおばちゃんはよく僕を褒めてくれる。
まるで我が子のようにご飯を食べに来た生徒や先生に僕を自慢しながら褒める。
「だから、僕の名前知ってるの?」
ちょっと引っ掛かるところがあるが、お話好きのあのおばちゃんなら僕の名前を教えていても変ではない。
こてんと首を傾げて問うと、エレンは顔を真っ赤にして悶絶しながら壁を叩き始めた。どうしたの!?
「だ、大丈夫?」
「大丈夫ッ。…ちょっと幸せ過ぎて。こんな事ならもっと早く話し掛けてれば良かったっ」
「えっと?…なんの話??」
気にしないでと苦笑を浮かべると、くるりと後ろを向き、スー、ハー、と何度も深呼吸をして、またこちらに帰ってくる。
「俺の名前はエレン。エレン・メローディアですっ。ラニちゃんより二個上の四年生で、音楽隊に入ってます」
「?…えっ…と、ラニです?苗字はないです。二年生で部活は入ってないです?」
何故か始まった自己紹介と、目の前に差し出された手。
頭にハテナマークを浮かべながら差し出された手と万人受けする優しい笑みを浮かべるエレンの顔を交互に見比べた。
なんとなく、差し出された手に手を重ねてみるとギュッと握られて、「これでお友達だね」と微笑まれた。…ん?友達??
「はい?」と疑問を投げ掛けたが、それを肯定に取られ、エレンがパアァッと満面の笑みを浮かべる。その目はモアナの海のようにキラキラと輝いていて、クラクラする程眩しい。
「あのねっ!ちょっと待っ…」
「ありがとう。ラニちゃん、大好きっ!」
「はにゃっ!?」
まさかのモブでありながら主人公からの告白?を受け、もう我慢できないと言わんばかりにエレンは僕に抱きついた。
あれ?どうしてこうなった??
「エレン。譜面が全部落ちてるわよ」
「…ハッ!!ダ、ダメですよっ。せ、せ、せ、生徒に手を出しちゃっ」
ライモンド先生の声でエレンこと噂の男爵令息がはたと我に返って、震えた指でライモンド先生を指差す。
こっちはこっちでいきなりの主人公の登場に一瞬固まった。
主人公エレンは音楽隊。
ライモンド先生は音楽隊の顧問でエレンのクラスの担任で攻略対象。ここにエレンが来るのはなんら変ではないけど、エレンとこの一年間、ここで出くわした事がなかったので油断してた。
「……別に髪型を褒めただけよ」
「あやしい雰囲気醸し出してましたよ!?」
「あらま。嫉妬?…後で貴方もちゃんと口説いてあげるから怒らないで頂戴?」
「か、揶揄わないでくださいっ!…わわっ!?」
頭がフリーズしている間にまるでシナリオを回収するかのようになんだか甘い雰囲気が二人の間で醸し出される。
ライモンド先生に揶揄われて顔を真っ赤に染めたエレン。
動揺して自分で譜面を床に撒いた事を忘れて足を滑らした。
「おっと…。危ない」
まるでこけるのを予測していたかのような滑らかな動きでライモンド先生はエレンを胸で受け止める。ライモンド先生は綺麗に整った人差し指をエレンの唇に付け…。
「お転婆も大概に…ね?」
何時もより割増な大人の色気を纏い囁くように優しく叱った。
まさかの僕の目の前で《イベント》を回収され、呆然とする。
しかも完全に巻き込み事故だ。
ダシにされた…。僕、イベントのダシにされた!?
これ以上、巻き込まれてたまるか!と、そろりと出ていこうとした。
「ラニちゃんっ。行くよ!!」
頬を薔薇色に染めて動揺しているエレンが、ライモンド先生の腕の中から抜け出し、そろりと出ていこうとした僕の手を何故か引っ張る。
「ちょっと、エレン!!」
「は、破廉恥ですっ。ラニちゃんッ、お兄さんがこんな破廉恥な人から守ってあげるからねっ」
「いや…、落とした譜面はどうするの?」
「ハッ!」
ライモンド先生に指摘されて、あわあわと落ちた譜面を拾い、たいして怖くもない睨みを効かせながら僕を連れて研究室が退室する。
エレンはありがちの天然ドジっ子属性の主人公らしい。
あれだ。ラッキースケベを素でやるタイプの主人公。
ー 恐ろしい子!!
何処かで聞いた事がある台詞を心の中で叫びながらもやはり、ラッキースケベよりも恐ろしいのはひとつ。
「なんで僕の名前、知ってるの?」
僕の手を引き続けるエレンに問い掛ける。
僕はこの二年間、ちょくちょくエレンがイベントを起こしている所を遠目から見た事がある。だが、僕自身はエレンと一切関わってない。
なのに、名前を知っている上にちゃん付け。呼び方に親しみを感じるのは何故?
エレンは問い掛けると、突如固まるように足を止めた。そしていきなり目に見えて慌て始めた。
「え、えーとね。その…えーと」
無茶苦茶視線を泳がせて、謎の身振り手振りをして、言葉を絞り出そうと奮闘している。そんな言いづらい事なの?
エレンは助けを求めるように周囲を見渡し、近くにあった食堂を見て、これだ!!と言わんばかりの笑みを浮かべた。
「ほらっ、ラニちゃんは食堂でよくお手伝いしてるでしょ!!食堂のおばちゃんがラニちゃんの事働き者だって褒めててっ」
水を得た魚のように先程と違い、生き生きと話し始めるエレン。
確かにエレンの言うように食堂のおばちゃんはよく僕を褒めてくれる。
まるで我が子のようにご飯を食べに来た生徒や先生に僕を自慢しながら褒める。
「だから、僕の名前知ってるの?」
ちょっと引っ掛かるところがあるが、お話好きのあのおばちゃんなら僕の名前を教えていても変ではない。
こてんと首を傾げて問うと、エレンは顔を真っ赤にして悶絶しながら壁を叩き始めた。どうしたの!?
「だ、大丈夫?」
「大丈夫ッ。…ちょっと幸せ過ぎて。こんな事ならもっと早く話し掛けてれば良かったっ」
「えっと?…なんの話??」
気にしないでと苦笑を浮かべると、くるりと後ろを向き、スー、ハー、と何度も深呼吸をして、またこちらに帰ってくる。
「俺の名前はエレン。エレン・メローディアですっ。ラニちゃんより二個上の四年生で、音楽隊に入ってます」
「?…えっ…と、ラニです?苗字はないです。二年生で部活は入ってないです?」
何故か始まった自己紹介と、目の前に差し出された手。
頭にハテナマークを浮かべながら差し出された手と万人受けする優しい笑みを浮かべるエレンの顔を交互に見比べた。
なんとなく、差し出された手に手を重ねてみるとギュッと握られて、「これでお友達だね」と微笑まれた。…ん?友達??
「はい?」と疑問を投げ掛けたが、それを肯定に取られ、エレンがパアァッと満面の笑みを浮かべる。その目はモアナの海のようにキラキラと輝いていて、クラクラする程眩しい。
「あのねっ!ちょっと待っ…」
「ありがとう。ラニちゃん、大好きっ!」
「はにゃっ!?」
まさかのモブでありながら主人公からの告白?を受け、もう我慢できないと言わんばかりにエレンは僕に抱きついた。
あれ?どうしてこうなった??
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