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第一章 王子とロバ耳と国際交流と
11、ダークホース?いえ、僕はロバです
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「ラニちゃんっ!」
昼休みになり、食堂に着くと先に着いて座っていたエレンがブンブンと手を振り、おいでと自身の膝を叩く。
そんな姿に苦い笑みを浮かべつつもリュビオが僕の分の食事をエレンの席に置く。シルビオはニコニコと王子様じゃないのに王子様スマイルで流れるように僕を持ち上げ、エレンの膝の上に座らせた。
そんなカオスな状態で始まる皇子によるテーブルマナー講習。
そんな状態に僕はもう慣れていた。
いや、多分、毎日の事なので感覚が麻痺してしまったと言った方がいいのかもしれない。
「ラニ、スプーンを握るな!!親指と人差し指、中指で支えて持てと言ってるだろうっ!」
「鉛筆持ちでしょ?分かってるよ。分かってる」
「阿呆。分かってないから、その持ち方をするんだろう」
「……鉛筆と言えば。僕の友達のエリオットがね。この前、鉛筆をくるくる指で回して遊んでいたんだ。それがカッコよくってね。僕もできるようになりたいから毎日練習してるんだよ!」
「露骨に話を逸らすな。…それにな。お、俺だって鉛筆の一つや二つ回せる。教えてやってもいいんだからなっ!」
「……見事に話を逸らされてるじゃないですか」
「フィルっち。そこは『ペン回しの練習に力を入れるくらいならテーブルマナーの復習しろッ』って言うところぢゃん」
「ラニちゃんっ。俺もっ、俺も出来るよ!お兄さん、ラニちゃんに教えられるよ!!」
完全にこの三ヶ月で関わってくる主要キャラ達から逃げる事を諦めた僕。
何故かエレンも加わり、仲良しグループと化した主要キャラグループの一員に組み込まれていた。
だが、別に『転生モブもの』の世界観に転がり落ちた訳じゃない。
僕は転んでもただじゃ起きない。そんな男の子です。
ぷるんと揺れるプリンを鉛筆持ちしたスプーンで掬う。
皇子の目を盗み、スプーンごと口の中に突っ込む。滑らかなそのプリンの舌触りに幸福感に浸りながらチラリと後ろを見るとシルビオとエレンが仲睦まじ気にお話ししている。
前世の記憶がある僕には分かる。
もう主人公はシルビオルートに入っているんだと。
「そうだよね。学園モノの物語の始まりは入学からが定番だし、エレンは4年生だもんね。4年間もシナリオ進んでるならルート分岐してるよね」
「おいっ、スプーンを舐めるな」
咥えたスプーンを口でふんふんと上下に振りながら腕を組み、ニタリと思わず笑う。
転生モノの定番は主人公と出会う前に攻略対象に出会い、攻略対象が抱える問題を解決してしまうもの。もうルート分岐すら終わってるならモブの僕が入る隙はない………筈!!
「フィル。スプーンの一つや二ついいじゃないですか」
「そうだよ。フィルっち」
「スプーンの一つや二つで大人しくエレンの膝の上にいてくれるならいいじゃないですか。エレンはラニ王子を差し出せばご機嫌なのだから」
「……リュビっち。心の声が盛大に漏れてるよ」
ついでにこの状況を作り出したのはリュビオだ。
この悪徳メガネはエレンが僕を膝に乗せるとご機嫌になると分かった瞬間、秒で僕をエレンに売り渡した。
だけど、許してあげよう。
なんたって、シナリオでの僕の出番はもうない。そして、リュビオに2人の間に入る隙もない。
「……なんでしょうね。時折、ラニ王子から哀れみの感情を感じるのは」
静かに心の中で合掌すると、リュビオが納得のいかないという顔をした。
僕は情けの感情を知る14歳。
広い心でリュビオの悪あがきを許してあげるんだ。
この時の僕は完全に失念していた。
三ヶ月で当たり前の事になってしまい。
考えていなかった。
実際問題。
ロバ耳をどうにかしない事には何の解決にもならないし、この目立つ4人と関わるという事は僕も自然と注目の対象になるって事を…。
《ダークホース。皇子達を手玉に取る異国の王子の魅了術》
大々的に学園の掲示板に張り出された新聞。
そこには何処のゴシップ記事ばりの見出しがドンッと大きく乗っかっていて、何時撮られたのか分からない僕の写真がデカデカと載っていた。
「へ?」
移動教室の最中にたまたま見つけたその新聞の前には人集りが出来ていた。
中身までは人が多くて覗けないけど、見出しからして良くないものだって事だけは分かる。
それにしても僕がいつ皇子達を手玉に取ったのか。
「ひ、酷い風評だ…」
やはり、攻略対象達に関わってはいけなかった。
僕がこの皇子達とどうこうなる展開なんてないや…とたかを括り、段々と逃げるのが面倒になり、現状を受け入れたのが間違いだったのか。
後悔しながら後退るとトンッと誰かにぶつかり、その誰かに肩を掴まれた。
振り向くと、その人は漫画で出てきそうな大きなグルグル眼鏡の下からにっと笑い、スッとメモ帳とペンを取り出した。
「わたくし、ミューズ学園新聞部の者です。ダークホースのラニ氏」
「いえ! 僕はダークホースじゃありません。ロバですっ!」
「…ロバ?」
「あっ、まずっ!」
慌てておしゃべりな口を手で塞く。
この状況に混乱し過ぎて、「惜しい! 馬じゃなくて僕はロバ耳っ」…なんてふざけた事を考えたのが悪かった。
つい、話しかけられて思ってた事をほぼそのまま言ってしまった。
目に見えて、やっちゃった感を出す僕になんのこっちゃ?と言わんばかりに「ろ、ろば??」と小声で再度呟き、相手も目に見えて動揺する。
グルグル眼鏡の新聞部さんは僕の謎の返しにまだ困惑しつつもコホンと咳払いをして、仕切り直し始めた。
「わたくし、ミューズ学園新聞部の者です」
そうもう一度名乗ると得意げにグルグル眼鏡をクイッと上げて、勝ち誇ったように胸を張り、ビシッと僕を指差す。
「わたくしは貴方の秘密を知っていますっ!! ずばり、貴方は前世の記憶がありますねっ!」
「うん。そうだけど、なに?」
「フフンッ。隠したって無駄です。わたくしには分かります。なんたってわたくしも転せ……。え?」
ロバ耳がバレてない事にホッとして満面の笑みで答えると、解せないと言わんばかりの不満を大きなグルグル眼鏡の下から覗かせていた。
何故、僕が前世の記憶を持ってると思ったのか。
それが分かって、何がしたかったかは知らないけど、僕、別に前世の記憶を持ってる事隠してないよ?
昼休みになり、食堂に着くと先に着いて座っていたエレンがブンブンと手を振り、おいでと自身の膝を叩く。
そんな姿に苦い笑みを浮かべつつもリュビオが僕の分の食事をエレンの席に置く。シルビオはニコニコと王子様じゃないのに王子様スマイルで流れるように僕を持ち上げ、エレンの膝の上に座らせた。
そんなカオスな状態で始まる皇子によるテーブルマナー講習。
そんな状態に僕はもう慣れていた。
いや、多分、毎日の事なので感覚が麻痺してしまったと言った方がいいのかもしれない。
「ラニ、スプーンを握るな!!親指と人差し指、中指で支えて持てと言ってるだろうっ!」
「鉛筆持ちでしょ?分かってるよ。分かってる」
「阿呆。分かってないから、その持ち方をするんだろう」
「……鉛筆と言えば。僕の友達のエリオットがね。この前、鉛筆をくるくる指で回して遊んでいたんだ。それがカッコよくってね。僕もできるようになりたいから毎日練習してるんだよ!」
「露骨に話を逸らすな。…それにな。お、俺だって鉛筆の一つや二つ回せる。教えてやってもいいんだからなっ!」
「……見事に話を逸らされてるじゃないですか」
「フィルっち。そこは『ペン回しの練習に力を入れるくらいならテーブルマナーの復習しろッ』って言うところぢゃん」
「ラニちゃんっ。俺もっ、俺も出来るよ!お兄さん、ラニちゃんに教えられるよ!!」
完全にこの三ヶ月で関わってくる主要キャラ達から逃げる事を諦めた僕。
何故かエレンも加わり、仲良しグループと化した主要キャラグループの一員に組み込まれていた。
だが、別に『転生モブもの』の世界観に転がり落ちた訳じゃない。
僕は転んでもただじゃ起きない。そんな男の子です。
ぷるんと揺れるプリンを鉛筆持ちしたスプーンで掬う。
皇子の目を盗み、スプーンごと口の中に突っ込む。滑らかなそのプリンの舌触りに幸福感に浸りながらチラリと後ろを見るとシルビオとエレンが仲睦まじ気にお話ししている。
前世の記憶がある僕には分かる。
もう主人公はシルビオルートに入っているんだと。
「そうだよね。学園モノの物語の始まりは入学からが定番だし、エレンは4年生だもんね。4年間もシナリオ進んでるならルート分岐してるよね」
「おいっ、スプーンを舐めるな」
咥えたスプーンを口でふんふんと上下に振りながら腕を組み、ニタリと思わず笑う。
転生モノの定番は主人公と出会う前に攻略対象に出会い、攻略対象が抱える問題を解決してしまうもの。もうルート分岐すら終わってるならモブの僕が入る隙はない………筈!!
「フィル。スプーンの一つや二ついいじゃないですか」
「そうだよ。フィルっち」
「スプーンの一つや二つで大人しくエレンの膝の上にいてくれるならいいじゃないですか。エレンはラニ王子を差し出せばご機嫌なのだから」
「……リュビっち。心の声が盛大に漏れてるよ」
ついでにこの状況を作り出したのはリュビオだ。
この悪徳メガネはエレンが僕を膝に乗せるとご機嫌になると分かった瞬間、秒で僕をエレンに売り渡した。
だけど、許してあげよう。
なんたって、シナリオでの僕の出番はもうない。そして、リュビオに2人の間に入る隙もない。
「……なんでしょうね。時折、ラニ王子から哀れみの感情を感じるのは」
静かに心の中で合掌すると、リュビオが納得のいかないという顔をした。
僕は情けの感情を知る14歳。
広い心でリュビオの悪あがきを許してあげるんだ。
この時の僕は完全に失念していた。
三ヶ月で当たり前の事になってしまい。
考えていなかった。
実際問題。
ロバ耳をどうにかしない事には何の解決にもならないし、この目立つ4人と関わるという事は僕も自然と注目の対象になるって事を…。
《ダークホース。皇子達を手玉に取る異国の王子の魅了術》
大々的に学園の掲示板に張り出された新聞。
そこには何処のゴシップ記事ばりの見出しがドンッと大きく乗っかっていて、何時撮られたのか分からない僕の写真がデカデカと載っていた。
「へ?」
移動教室の最中にたまたま見つけたその新聞の前には人集りが出来ていた。
中身までは人が多くて覗けないけど、見出しからして良くないものだって事だけは分かる。
それにしても僕がいつ皇子達を手玉に取ったのか。
「ひ、酷い風評だ…」
やはり、攻略対象達に関わってはいけなかった。
僕がこの皇子達とどうこうなる展開なんてないや…とたかを括り、段々と逃げるのが面倒になり、現状を受け入れたのが間違いだったのか。
後悔しながら後退るとトンッと誰かにぶつかり、その誰かに肩を掴まれた。
振り向くと、その人は漫画で出てきそうな大きなグルグル眼鏡の下からにっと笑い、スッとメモ帳とペンを取り出した。
「わたくし、ミューズ学園新聞部の者です。ダークホースのラニ氏」
「いえ! 僕はダークホースじゃありません。ロバですっ!」
「…ロバ?」
「あっ、まずっ!」
慌てておしゃべりな口を手で塞く。
この状況に混乱し過ぎて、「惜しい! 馬じゃなくて僕はロバ耳っ」…なんてふざけた事を考えたのが悪かった。
つい、話しかけられて思ってた事をほぼそのまま言ってしまった。
目に見えて、やっちゃった感を出す僕になんのこっちゃ?と言わんばかりに「ろ、ろば??」と小声で再度呟き、相手も目に見えて動揺する。
グルグル眼鏡の新聞部さんは僕の謎の返しにまだ困惑しつつもコホンと咳払いをして、仕切り直し始めた。
「わたくし、ミューズ学園新聞部の者です」
そうもう一度名乗ると得意げにグルグル眼鏡をクイッと上げて、勝ち誇ったように胸を張り、ビシッと僕を指差す。
「わたくしは貴方の秘密を知っていますっ!! ずばり、貴方は前世の記憶がありますねっ!」
「うん。そうだけど、なに?」
「フフンッ。隠したって無駄です。わたくしには分かります。なんたってわたくしも転せ……。え?」
ロバ耳がバレてない事にホッとして満面の笑みで答えると、解せないと言わんばかりの不満を大きなグルグル眼鏡の下から覗かせていた。
何故、僕が前世の記憶を持ってると思ったのか。
それが分かって、何がしたかったかは知らないけど、僕、別に前世の記憶を持ってる事隠してないよ?
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