王子様の耳はロバの耳 〜 留学先はblゲームの世界でした 〜

きっせつ

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第一章 王子とロバ耳と国際交流と

12、転生者がもう1人いるって物語の定石だよね

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僕が前世の記憶を見たのは10年前。

嵐の日に何故か父が幼い僕を沖に連れていくという暴挙に出て、冷たい雨と波で身体を冷やし、高熱を出した時だった。

熱で頭がふらふらして意識が現実と夢の世界を彷徨う中。
頭の中でラニとしての4年間が駆け巡り、胎内記憶まで戻るとジジジッという音と共にもっと前の記憶が映し出された。

その記憶は飛び飛びで、空まで届くんじゃないかってくらい高い建物が立ち並ぶ街を歩いていたかと思うと読んでる本の映像になったりする。

しかも使い古された映画フィルムのように焼けや穴があり、綺麗な映像ではなかった。もしかしたら前世ではなく、前世よりもっともっと前の記憶なのかもしれない。

だから僕がその昔、誰でどんな国に住み、どんな人生を送っていたのか分かるほど、綺麗に記憶を思い出してはいない。

そんな断片だけの記憶なのにそれはとても強く心に残り、熱が引いた後でも僕の記憶の一部としてその記憶は根付いた。


「かーらぁす。なぜ鳴くのぉ。カラスはやーまぁに~」

「あらー。また前世の歌ぁー?」

「羊の歌の次はカラスかぁ。ラニの前世の歌は面白いなぁー」

「そうねー、パパ。ママもラニちゃんの前世の歌面白くて好きよぉー」

「「「かーわいい。七つのぉ、子があるからーよぉ」」」

父も母もモアナの中でもおっとりした部類に入る為、滅茶苦茶すんなりと前世の記憶持ちである事は受け入れられた。大王や第一王子達も「面白いっ!」の一言だった。


歌中心の記憶ばかりなので今世で生かせるアイディアとかも特になく、4歳にしてはちょっと人より多くものを知ってるだけ。
よくある前世の記憶を生かして…とか、特別な力が…とか、そういうのはない。

いたって普通のモアナの子供として、おっとりとした両親に育てられた。
大王じいちゃんの独断でレーヴ帝国に留学するまで僕はまさかはこの世界にBLゲームの世界観が存在するなんて知らずに生きてきたのでしたっ!まーるっ!!




「…と、まぁ、こんな感じです」

茶菓子のマカロンを齧りながらざっくりと『前世持ちの僕のモアナライフ!』について話す。

僕の話を聞き、困惑の表情をグルグル眼鏡の下から浮かべた新聞部の
取材の為に持っていたペンをテーブルの上に転がしたかと思うと、ダンッと力の限りテーブルを叩いた。

「ゆるい!そこは神童と持ち上げられ国のイケメン達に大事にされるハーレムシチュか。異物扱いで蔑ろにされている所にイケメンが助けに来て、恋に落ちる所でしょうが!!」

「なんでその一番現実じゃなさそうな二択なの?後、イケはやだよ。メンはお断り申すよ!」

外はサクッ、中はしっとりなマカロンの食感を楽しみながらそこはきちんとお断りを入れる。

グルグル眼鏡先輩は何故か恨みがましくこちらを睨んできたが、やっぱり、メンはお断り。メンはメンでも麺ならいいよ、と言ったら盛大にため息をつかれた。

「つまり、ラニ氏は主人公ポジをエレンから奪う気はない…と」

「ないない。僕は全力でモブを遂行するよ」

「では、何故、主要グループの中心人物っぽいポジにいるので?」

「…僕はただ《イベント》に巻き込まれただけだよ。…今の状況の苦情はリュビオに言ってね。僕を最初に生贄にしたのはリュビオだから」

「…そうなんでしょうか?今の状況は本当にラニ氏が作り出しているのではないのでしょうか?」

「ないよー。ないない」

本当に?と怪訝な顔でこちらを見るグルグル眼鏡先輩に失敬なと頬を膨らませながらまたマカロンをもう一つ頂く。

嬉しいなぁ。
マカロンって一個一個が高いから食べた事ないんだよね。なんか前世でも高いお菓子だった気がする。

嬉しくてつい足とロバ耳をパタパタさせてしまう。

しかも本来なら授業に出ている時間にこんな美味しいお菓子を食べていると思うとちょっと優越感がある。

ふふふっ。
お国の両親にじいちゃんへ。
今、僕はとても幸せです。


移動教室の途中でグルグル眼鏡先輩に捕まって、お話の為に連れてこられた新聞部の部室。

取材用の応接室のフカフカなソファは座り心地が良くて、口の中は甘くて幸せで、つい嬉しくてふんふんと鼻歌を歌ってしまう。

「赤とんぼの歌…。ラニ氏はわたくしと同じく、日本出身なのでしょうか?」

「知らなーい。ただ頭に浮かぶから歌ってるだけー」

「…本当に断片しか記憶がないのですね」

「うんっ!もう一個食べていい?」

「ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ。……随分と遠慮なく食べましたね。これ、部費ではなく、わたくしのポケットマネーなのですが」

「ご馳走様ですっ!」

「随分と高い取材料…。そして、特種もなし。ムフフなネタもなし…」

「僕にそれを求めてもしょうがないよ。大丈夫。エレンはシルビオルートだからそっちに期待してよ」

「……絶対、ラニ氏がシナリオを狂わしているとわたくしは考えているのですよ。でないと、未だにベロチューの一つもかましてないのが説明がつかない」

「健全なお付き合いなんだねー」

「…すっごい他人事ですね」

「他人事だもん」

実は地球のニホンという国からの転生者だというグルグル眼鏡先輩。
彼は悔しさを滲ませて、またダンッとテーブルを叩いた。

グルグル眼鏡先輩の前世は腐女子という男同士の恋愛が大好物の生き物だったらしい。
なんだかんだあって、若くして死にグルグル眼鏡先輩が好きだったスマホBLゲーム『ミューズの恋歌』の世界にモブとして転生したらしい。

生でゲームのシチュを見放題っ!…と、喜んでいたのに僕が転生者で転生前のゲーム知識を悪用してエレンの邪魔してると思ったらしい。だから、邪魔な僕を蹴落とす為に悪意満々であの記事を書いたらしい。

……ん?悪意満々??
あれ?考えてみると結構酷いよね??
マカロンとフカフカなソファで嬉しくてあまり深く考えてなかったけど…。

「……まぁ、いいや。誤解は解けたんだよね」

「ラニ氏が一切主要キャラ達に興味がない事は分かりましたよ」

「じゃあ、この話はおしま…」

「では、ロバとはなんなのでしょうか?先程からフヨフヨとリボンの中で動いているソレは一体、なんなのでしょうか?」

グルグル眼鏡先輩は怪訝な表情を浮かべて、僕の頭の上で揺れる耳を指差した。
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