王子様の耳はロバの耳 〜 留学先はblゲームの世界でした 〜

きっせつ

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第一章 王子とロバ耳と国際交流と

13、そっか!眼鏡先輩、アッタマいい!!

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頭のロバ耳を問われてスッと目を逸らす。

やっぱり、さっきの失言は忘れてなかったかと心の中で冷や汗をかき、ストレスで狂乱するサフィールさんが頭に浮かんだ。

「ほらっ、この前さ。みんなケモミミが生える《イベント》あったでしょ。僕はあの時、ロバ耳だったんだよ。…先輩は何耳だった?」

「成程。それで《イベント》の効果が未だに解けずにロバ耳が生えたままだと」

「………黙秘っ」

「分かり易すぎるのですよ。ラニ氏のその言動が全てをうたって曝露うたってしまってるのですよ」

タラタラと流したくないのに冷や汗が流れる。
グルグル眼鏡先輩の顔をまともに見れず、頭の中でサフィールさんが血の涙を流して僕を睨んでる。

僕に打てる最後の手は…。


スッと椅子から立ち、床に膝をつく。
指先を綺麗に揃えて自分史上最も美しいフォームで土下座した。

「勘弁してあげてください。預かってる他国の王子にロバ耳が生えたのが知れ渡ったら国際問題なんです」

「…なんで他人事なのですか。ラニ氏の事でしょ!?」

「ついでに学長の首が物理的に飛びます。後、30年は生かしてあげてください」

「それは…、それはついでで本当にいいのですか?無茶苦茶大事ではないですかっ。何が、何がどうなったらそうなるのです!?」

「僕が聞きたいよ…。僕はただ平凡な学園生活を送りたいだけなのに…」

人が全力で頭を下げているのにちらりと見上げたグルグル眼鏡先輩は疑わしげにこちらを見てる。酷いよ。この人っ!

「はぁ…。そもそもエレンが本当にシルビオルートに入っているのかも疑わしいのです」

「しつこいよっ!!エレンは4年生でしょ?4年間あれば進んでるでしょ!!」

「…エレンは転校生ですよ。4年生ですが、ラニ氏と同じでこの学園には1年しかいません。エレンは孤児で貴族としての常識を学んでからだったので2年遅れで入ってきてるのです」

「まさかの転校生ポジ…。で、でも、2年目なら流石にルート分岐くらいは…」

「数あるルートから帝国ルートに入った事は関わっているメンツからして分かってます」

「…ちょっと待って。帝国ルートって何!?」

「スマホBLゲーム『ミューズの恋歌』の攻略対象は総勢64名。最初の画面で帝国ルートか公国ルート、王国ルート、敵国ルートを選び、ミューズ学園に在籍する皇子や先生達を攻略するゲームなのですよ」

「64。モアナの王子くらいに多い…」

「フフンッ!攻略対象が多くて長く遊べるのが売りのゲームですからねっ!飽きさせないようにリズムゲーの要素もあって、多くの神曲も生み出した最高のゲームですよ!!」

「…なんで、眼鏡先輩が得意げなの?」

「しかも全ルート達成すると総勢64人とのハーレムルートが解禁されるのですっ!」

「ドン引きだよッ。64人と大乱交してる主人公ってなんかヤダ!!」

思った以上にクレイジーなBLゲームの世界観にゾッして寒イボ立ち、身体をさする。
僕も一歩間違えばその世界観の中に転がり込む可能性もあるのだからたまったもんじゃない。

楽しそうに語るグルグル眼鏡先輩が僕には悪魔に見える。
そんなクレイジーな世界観を生で見たいなんて常軌を逸している。
絶対、この人とも関わっちゃダメだ!!


「と、とにかく、ロバ耳の事は記事にしちゃダメだよ!!…いや、記事にしても学長が命懸けで阻止するから無理だからねっ!」

一応、釘を刺して、タッと最短で出口を目指す。


「ロバ耳をどうにかしたいのなら、その原因を断てばいいだけの話だとわたくしは思いますけどね」

ドアノブに手をかけた瞬間、そうグルグル眼鏡先輩がぽそりっと呟いた。

その呟きにバッとグルグル眼鏡先輩を見るとグルグル眼鏡先輩は頬杖をついて、にぃっこりと笑った。

「…原因を断つ?」

「『ミューズの恋歌』のイベントが原因なのであれば、《シナリオ》が終了すれば、自動的にそのお耳も直るのではないですか?」

その言葉に目を丸くして、暫くグルグル眼鏡先輩と見つめ合う。
何故だろう。グルグル眼鏡先輩の後ろに後光が見えるのは?

思わず、拝みたくなるのを我慢してシュタッと席に戻る。

「そっかぁ!そうだよねっ。《シナリオ》を終わらせれば元通りになる筈だよねっ!天才だよっ。眼鏡先輩は天才だっ!」

「ぐっ!?向日葵みたいな大輪の笑顔…。落ち着けっ、わたくしッ。わたくしの理想の受け様は可憐で可愛い鈴蘭の似合うエレン。こんなお子ちゃま全開で思わず撫でたくなるようなショタ受けは論外っ。魅惑のケモミミ属性があったとしてもわたくしは負けないッ。そう、わたくしの受けの推しはエレン。ネコ×ネコはわたくしの地雷…」

「なんの話?」

耳が治る手掛かりに顔が綻ぶ。
目を輝かせて、尊敬の眼差しをグルグル眼鏡先輩に向けると先輩は僕の頭の上で手を彷徨わせたが、無理やり手を引っ込めた。

…で、ニャンコがどうしたの??


「ンンンッ!!いえ、こちらの話ですので、お気になさらず。それよりも、お耳の事が先決でしょ?ならば、停滞している《シナリオ》を進めればいいのですっ!」

「《シナリオ》を進める…。つまり、今好感度が高い相手とちゃっちゃとエレンをくっ付ければいいんだねっ!」

「そうですっ。ラニ氏が《シナリオ》の邪魔をしなければ進みます」
 
「分かった。シルビオだねっ!シルビオとエレンをくっ付ければ、僕もこれ以上《シナリオ》に巻き込まれない。任せてっ!僕、やってみるよ」

「やっ。だから、ラニ氏が邪魔をしなければ普通に進行するのですって!」

まだ僕が2人の邪魔していると疑い続けるグルグル眼鏡先輩の言葉を華麗にスルーして、ぴょんっと立ち上がる。

思い立ったが、吉日っ!
僕は僕の平穏な日常を取り戻してみせるッ。

じゃっ!と、まだ行くなと制止するグルグル眼鏡先輩を掻い潜り、休憩時間のチャイムとともにシルビオの元に駆け出す。

「一番、エレンの好感度が高いのはラニ氏なのですが!?…後、シルビオルートは進めるには難易度が高いのですっ!…てっ、聞いてます!?ラニ氏?ラニ氏!!!」

グルグル眼鏡先輩が何かを叫んでいたが、「またまたぁ~、シルビオとエレンは一番仲が良いよ?」と僕はスルーした。
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