王子様の耳はロバの耳 〜 留学先はblゲームの世界でした 〜

きっせつ

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第一章 王子とロバ耳と国際交流と

17、レーヴ帝国の朝

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赤々と熟れたマンゴーのような夕日がモアナのエメラルド色の海を照らす。


その夕陽を背負いながら第一王子は海に石を投げた。
第一王子が投げた石は綺麗な弧を描き、ポチャンッと穏やかな海に沈んでいく。

フッと哀愁漂う笑みを浮かべて石が残した一つの波紋を眺め、隣で僕が水切りで作った七つの波紋を眺めて、その銀色の長いまつ毛を伏せた。

「ラニ。俺はお前に水切りのコツを教えてやると言ったな」

「うん。平たい石を選んで低い姿勢で石に横回転をかけて投げるんだよね」

「……そうだ。よく覚えたな、ラニ」

こちらを見て、フッと微笑み、第一王子はもう一度、石を海に投げる。
しかし、水を切る事なく、ポチャンッとまた波紋を一つだけ残し、海へと消えた。

切なげな表情でその波紋が消えるまで第一王子は眺めるとヤシの木にどさっと腰掛け、マンゴー色に染まる空を仰いだ。

「ラニ。俺はお兄さんだから、大人だから…という言葉があまり好きじゃない」

「言われた事あるの?」

そう問いながら一番投げやすそうな平たい石を第一王子に渡すと第一王子はまたフッと笑い、態々、夕陽をバックにして石を受け取った。

「ない。でも、なんとなく好きじゃないんだ。こう…、立場で余計な責任を負わされているようで好きになれない。相手よりも長く生きていたって向き不向きがあるだろ?」

まるでしがらみから抜け出すように振りかぶって、もらった石を投げる。第一王子渾身の投擲だったが、それもポチャンッと大きな波紋を一つ作り、沈んでいく。

その波紋を二人で眺めていると水面に映る僕達の背後に第一王子の息子、第十二王子の姿が映った。

第十二王子の顔はニッコリ笑っていたが、そこはかとなく、その笑顔からは怒気を感じた。


「………大きすぎる期待は足枷になる」

「おいっ、親父。また、店サボってラニに何を吹き込んでる?」

「俺は心配だ。留学から帰ってきてから息子が、長男だからと何か責任を感じているようでその所為で最近刺々しい」

「心配?刺々しい?何言ってんだ。ボンクラ親父。全部、お前の言動の所為でしょ。…一体、自分の留学の時に何をやらかした? 俺、留学した時にレーヴの宰相と皇帝に絡まれたんだけど?」

「ラニからも説得を…。…ん?俺の留学の時?? 友人と楽しい学園生活を謳歌しただけだぞ???」

「絶対、アンタは何かした。最初は俺への説教だったのに、あんまりにも親父がらみで絡むからメンドーになって酔い潰して逃げる羽目になったんだぞ。特に宰相の絡み方には執念を感じたけど?」

「…え?サフィ(宰相)は一番の友達なんだけど?」

「へぇ…、友達ね。ふぅん、…友達。……はぁ。俺はあの留学でやっぱり、俺がこのボンクラ親父の代わりに家族を支えなきゃと思ったんだよ。メンドーだけど」

「え? サフィ? なんで??」と、頭にはてなマークを大量に浮かべる第一王子の首根っこを掴んで、第十二王子が引きずっていく。

「さー。仕事母さんの所に戻ろうねー」

「いや、ちょっと、待って!? サフィ、なんて言ってたの? …あれか! 前日も遊び呆けてた俺が、頑張って徹夜で勉強したサフィを差し置いて首席を取ったのをまだ根に持って…」

「……ラニ。俺が遊んであげるから、もうこのボンクラと遊んじゃダメだ」

「それともあれか?ルー(皇帝の愛称)と嫌がるサフィを夜の街に遊びに連れてった事?…でも、あれは最終的にはサフィも楽しんで…」

「ラニ。頼むからこのボンクラと遊ばないで。ボンクラ菌がラニに移りかねない。そして、アンタはもう過去は変えられないから今をどうにかして。父親の責任を果たせ」

「くっ! …俺もまた大きすぎる期待を背負って生きているのか。…じゃあ、伯父としても責任があると思うので甥を可愛がる責任を…」

「アンタを最初に待ってるのは仕事をサボった責任だよ。…飯抜きだってさ」

「そんなぁー。ごめんて、かぁちゃん」

夕陽の中。
泣きべそをかきなから第一王子が引きずられていくのを見て、僕は子供心に思った。

《責任》と《期待》って大変なんだな…と。



…………。
………………。


「おい……きろ」

「お…、…きろ」

結構、懐かしい夢を長々と見たなとベッドの中で微睡んでいると誰かのうるさい声が響いて、深く毛布を被った。

勘弁してよ。まだ、眠いって…。
もうちょっと、寝かせ……すー、すー。

「オイッ!起きろと言ってるだろうっ!!」

ベッドに籠城する僕に声の主がブチ切れ、毛布を取り上げる。
常夏モアナ育ちの僕からすれば冷たい朝のレーヴの空気がブワッと身体を包み、熱を求めてシーツの中に逃げようとした。

だが、その男はそれを許さなかった。
ガッと首根っこ掴んで引き寄せられ、取り押さえられた。

「寒いっ! 眠い!! まだ、まだ僕は寝るっ。温かいベッドで寝るんだ!!」

「もう朝の八時だ。観念して起きろ」

八時だよっ。休日のま。朝八時!!」

「馬鹿者っ! これから実習を兼ねた茶会があるのを忘れのか!? 他の国の王子も出るんだぞ。例え、開催時間が午後からでも王子として恥じぬよう用意をだな」

「うぅ…。僕は出るなんて一言も言ってないよ」

朝から元気な上に超が付く程、真面目な皇子。

お節介にお節介を重ねて、この皇子は今まで皇子から学んだ事を生かさせたいらしい。


休みの日なのにお勉強なんて嫌だ。
休まなくて何の為の休みなの?

そう言おうと口を開き、喜色に染まっている翡翠色の瞳を見て、口を噤む。


『フィルバート皇子は過度な期待の中で生きてきたんです』

その翡翠の瞳を見ていると、忌まわしきロケット事件の後。

グルグル眼鏡先輩とした皇子とシルビオ、二人の関係性の話を思い出してしまい、なんともいえない気持ちになる。

なんなら、あんなに第一王子の《期待》と《責任》の話の夢を見たのもその時の話の所為だ。
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