王子様の耳はロバの耳 〜 留学先はblゲームの世界でした 〜

きっせつ

文字の大きさ
18 / 119
第一章 王子とロバ耳と国際交流と

18、期待と責任

しおりを挟む
忌まわしきロケット事件の次の日。

僕はまた新聞部の部室に拉致され、般若の形相のぐるぐる眼鏡先輩と対峙する羽目になっていた。


「ラニ氏。昨日、シルビオと御手手を繋いで仲良く歩いていたそうですね」

「……周りからはそう見えただけだよ。寧ろ、シルビオと僕の溝は深まった」

「あれですか? 最近流行りの主人公から攻略対象を寝とっちゃう系ですか? ハニカミあって御手手を繋いでチューして、しまいには身体まで繋げちゃう系ですか!!」

「何!? その歪んだ解釈ッ」

言い方がかなり刺々しいグルグル眼鏡先輩。
そんなグルグル眼鏡先輩をなだめるのに休み時間は食われた。

何故だろう。
「やっぱり、一人で教室に帰れないぢゃんっ」っと、感情の読めない笑顔を浮かべるシルビオが頭に浮かんだのは。

違うもん。一人で帰れるもん、と居もしない頭の中のシルビオに抗議して、プクッと頰を膨らませる。


椅子の奥まで座ってしまって浮いた足をパタパタさせて、せめて昼休みまでには帰れないかなとグルグル眼鏡先輩の機嫌が直るのを待つ。

グルグル眼鏡先輩の機嫌は完全に直る事は無かったけど、足をパタつかせる僕を見て、何かを諦めるように溜息を吐いた。

「ラニ氏。シルビオはとても攻略難易度が高い攻略対象なのです。彼を攻略するにはフィルバート皇子の好感度を一定に収めなくてはいけないのですから」

「……何故、皇子?」

何故、またここで皇子が出てくるのだろうと考え、例の忌々しいロケットを思い出し、スッと席を立った。


「何処へ行こうというのですか」

そのままダッと出口に向かって、走ろうとしたんだ。
でも、グルグル眼鏡先輩は今度は逃さないと言わんばかりの執念で僕を取り押さえた。

「いいよっ! 話さなくても分かった。もうシルビオは居なかった事にしよう」

「何を分かったと言うのですか。貴方は絶対、分かってない。また、余計な事をする前に聞きなさい」

「分かってるって!? あれでしょ。シルビオは皇子の事、ラブの好きなんでしょ? じゃなきゃ、後生大事に肌身離さず、自身の主人の小さい頃の写真を持ってる筈がない。持ってたらそれは忠誠を通り越して狂気だよ」

「へー、意外と理解してるじゃないのですか。そうですよ。シルビオはフィルバート皇子を崇拝に近い忠誠を誓っている。実は超真面目なキャラです」

「うぅ…。まさかの狂気の方だった」

せめて、ラブの好きの方がまだマシだったと項垂れて、床に突っ伏す。

そんな僕とは対照にグルグル眼鏡先輩はキラキラと目を輝かせながら取り押さえた僕の上でシルビオの素晴らしさを語るんだ。

どんな、拷問?


「いいですか。シルビオは忠節の騎士です。フィルバート皇子の為ならその身を投げ出す事すら厭わない。三通りあるバッドエンドの一つではフィルバート皇子を庇って死ぬというエンドもあるくらいですっ!」

「……いいよ。もう、シルビオは」

「あのチャラい性格も矢鱈と社交性が高いのもキラキラしてるのもフィルバート皇子に近付く悪い虫に誰よりも早く近付き、排除する為。主人公との出会いもフィルバート皇子が主人公に興味を持ったから。主人公の監視の名目で近付きます。そのうち、主人公の人柄に絆され、そして恋になるのです」

「ねぇ。それ、皇子から主人公寝取ってない?ちょっと待って!? 好きな人奪っってるよね、それ」

「違ぁーいますぅッ! シルビオルートでのフィルバート皇子は友情エンドなんですぅー。……シルビオルートの難しい所はフィルバート皇子の主人公への好感度を中間に抑える事。ただでさえ、フィルバート皇子の主人公への好感度は上がり易いから難しいのです」


何処が忠節の騎士だ?と、シルビオの狂気にブルリッと震え上がる。

俄然、もうシルビオから撤退したいと、グルグル眼鏡先輩の拘束から這いながら逃げ出そうとするが抜け出せない。

「シルビオルートはシルビオが主人公に絆されてからが本番ッ。糖度高めの甘々な展開に主人公の前だけではチャラくない本来の彼を見せるその姿はもう…。クッ!!この《イベント》クラッシャーさえ、居なければ今頃はッ!!」

「おち、落ち着こうッ。腕が首に回ってるよ!?きっと…、きっと、主人公エレンの運命の相手は他に居たんだよっ!」

「その主人公エレンの好感度がマックスなのはラニ氏なのですがッ!! 攻略者ほっといてラニ氏を構い倒してるのですがッ?」

「僕は何もしてないからね!? 出会った最初から何故か好感度マックスだったよっ…」

段々と首に回った腕に力が入る中、ギブアップだとタップしながら、なんとかこの状況を切り抜ける方法を模索する。

「あ、あれは? 皇子は? 皇子が運命の相手なんじゃ」

「……それもラニ氏の所為で最初の《イベント》が丸潰れになってる上に、フィルバート皇子をエレンは嫌がってます。エレンに嫌がられてる事でツンデレ、ちょい俺様キャラが悪い方向に発揮されてるのです」

「うっ…。じゃあ、じゃあ、リュビオ!!」

「リューたんは却下です。ネコ×ネコはわたくしの地雷だと言っているでしょうがッ」

「……リュ、リューたん!? ネコ?? なんだか分からないけど、リュビオは人間だよ。ニャンコじゃないよ」

「えぇいッ!! 腐ってないノンケの者異教徒よ。婚約者ににゃんにゃんされて、エロッエロッに開発され尽くしたリューたんが主人公を抱けると思ってるのですか!!」

「ねぇ、何の話!? ニャンコがどうしたの??……情報過多で何言ってるか分かんないよッ?!」

どうやらグルグル眼鏡先輩の地雷?を踏み抜いたのが逆に功を奏したようでグルグル眼鏡先輩はガックリと肩を落として僕から退いた。



「シルビオルートも丸潰れ…」

「眼鏡先輩はシルビオ推しなの?」

「シルビオルートのシナリオが好きなのです。あのTHE騎士様って感じで、エレンをお姫様扱いするのがいいのですよ。THE少女漫画の王道って感じで」

「……好きな人、奪うのが王道? 忠誠誓ってるのに皇子を一切立てる気ないよね」

「…………シルビオはフィルバート皇子の素質を信じてるのですよ。フィルバート皇子は立てなくても自分よりできる筈なのだと信じて期待しているのです。崇拝しているが故です」

「酷い話だ」

「確かにフィルバート皇子は何でもかんでもシルビオの方が上手く出来て、シルビオには勝てないと思ってる節があるのです。シルビオはフィルバートルートでのフィルバートのトラウマの一つですからね」

「やっぱり、狂気だ…」

ついにシルビオを庇いきれなくなったグルグル眼鏡先輩がスッと目を逸らす。

何が忠誠だ。
トラウマになってるじゃないか。

ドン引きしているとグルグル眼鏡先輩は明後日の方向を向きながら切なげにフッと笑う。


「フィルバート皇子は過度な期待の中で生きてきたんです。優秀なお兄さん達のように皇子として常に完璧を求められてきた」

「…ねぇ。なんで目を合わそうとしないの?」

「フィルバート皇子は皇子として過度な期待で息が詰まりそうな中。誰かの期待の為ではなく、自分の夢を純粋に追いかけて生きるエレンの姿に惹かれるのです」

「あれ? 眼鏡先輩…。シルビオを無かった事にしようとしてる?」

「さて、貴方が《イベント》の邪魔をしないように他の攻略対象の事を教えておくのです」


てらっとシルビオを見捨てたグルグル眼鏡先輩は本当に昼休みになるまで他の攻略対象について語り明かした。

だけど、話を聞きながら考えていたのは矢鱈と僕に王子としてを求めてくる皇子の事。


期待も責任もないのは少し寂しい。
だけど、期待も責任もあり過ぎるのはとても辛い。

全て程々が一番だと僕は思うんだ。






キラキラと喜色に輝く翡翠色の瞳。
この皇子は第一王子と違い、その期待と責任全てに応えるべきだと信じて疑ってない。
きっとそれが当たり前の世界で生きてきたから。

でも、それって僕の世界じゃ当たり前じゃないんだ。だからかな?
そんな中で生き続けてるこの人を単純に凄いなって思うのは。


皇子のピンクゴールドの髪に触れる。

手入れが行き届いた髪はサラサラとしていて、撫でていると気持ちいい。

「お、おい。何故、俺の頭を撫でている!?」

「何時も頑張ってて偉いなって思って」

「はぁ!? お、俺は当たり前の事をやってるだけで。褒められるような事は何も…」

「当たり前の事を当たり前に出来るって凄い事なんだよ。偉い人は偉いねって頭を撫でて褒めてもらうべきだよっ。僕の居たモアナ世界ではそうだったよ?」

「……ぬるい世界だな」

「うん。なんたって、南国だからね!」

撫でられ慣れてないのか。
皇子の表情は硬いけど、でもなんかちょっと嬉しそう。

それがなんだか面白くて笑うと頰に皇子の手が触れた。


なんだろう。と首を傾げると、ハッと我に返ったように皇子が手を引っ込めて時計を見て、次に出番はまだかとこちらを見ている侍女と目を合わせた。

目があった瞬間。
微笑ましそうな顔をする侍女と目に見えて、きょどる皇子。

このコンマ数秒で彼らの間に一体何があったのかは分からない。
ひとつだけ分かる事は僕はこのまま寝させてはもらえないって事。

侍女達が僕の今日着る服を持ってる時点でわかってしまうんだ…。


「分かったよ…。分かったって…」

「な、な、何が分かったんだ!?」

「起きるよ…。大人しく起きて茶会に出れば良いんだよね?」

「……そ、そうだな! よしっ!! 後は任せたぞ」

「「「仰せのままに」」」

諦めてベットからピョンッと降りた僕の背をバシバシと叩きながら「よしっ! その粋だ!!」と謎のエールを送り、妙なテンションで出て行く皇子。

「なんだったの…」

訳が分からない。
首を傾げ続ける僕の頭とついでにロバ耳もこれでもかと侍女達は嬉しそうに撫でてから仕事に取り掛かった。

何がそんなに嬉しいのか?
皇子は一体、何をキョドッてたのか。

幾ら聞いても、ふふふっと嬉しそうに笑うだけで答えてくれない。変なの。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生して王子になったボクは、王様になるまでノラリクラリと生きるはずだった

angel
BL
つまらないことで死んでしまったボクを不憫に思った神様が1つのゲームを持ちかけてきた。 『転生先で王様になれたら元の体に戻してあげる』と。 生まれ変わったボクは美貌の第一王子で兄弟もなく、将来王様になることが約束されていた。 「イージーゲームすぎね?」とは思ったが、この好条件をありがたく受け止め 現世に戻れるまでノラリクラリと王子様生活を楽しむはずだった…。 完結しました。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

神様の手違いで死んだ俺、チート能力を授かり異世界転生してスローライフを送りたかったのに想像の斜め上をいく展開になりました。

篠崎笙
BL
保育園の調理師だった凛太郎は、ある日事故死する。しかしそれは神界のアクシデントだった。神様がお詫びに好きな加護を与えた上で異世界に転生させてくれるというので、定年後にやってみたいと憧れていたスローライフを送ることを願ったが……。 

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

処理中です...