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第一章 王子とロバ耳と国際交流と
18、期待と責任
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忌まわしきロケット事件の次の日。
僕はまた新聞部の部室に拉致され、般若の形相のぐるぐる眼鏡先輩と対峙する羽目になっていた。
「ラニ氏。昨日、シルビオと御手手を繋いで仲良く歩いていたそうですね」
「……周りからはそう見えただけだよ。寧ろ、シルビオと僕の溝は深まった」
「あれですか? 最近流行りの主人公から攻略対象を寝とっちゃう系ですか? ハニカミあって御手手を繋いでチューして、しまいには身体まで繋げちゃう系ですか!!」
「何!? その歪んだ解釈ッ」
言い方がかなり刺々しいグルグル眼鏡先輩。
そんなグルグル眼鏡先輩をなだめるのに休み時間は食われた。
何故だろう。
「やっぱり、一人で教室に帰れないぢゃんっ」っと、感情の読めない笑顔を浮かべるシルビオが頭に浮かんだのは。
違うもん。一人で帰れるもん、と居もしない頭の中のシルビオに抗議して、プクッと頰を膨らませる。
椅子の奥まで座ってしまって浮いた足をパタパタさせて、せめて昼休みまでには帰れないかなとグルグル眼鏡先輩の機嫌が直るのを待つ。
グルグル眼鏡先輩の機嫌は完全に直る事は無かったけど、足をパタつかせる僕を見て、何かを諦めるように溜息を吐いた。
「ラニ氏。シルビオはとても攻略難易度が高い攻略対象なのです。彼を攻略するにはフィルバート皇子の好感度を一定に収めなくてはいけないのですから」
「……何故、皇子?」
何故、またここで皇子が出てくるのだろうと考え、例の忌々しいロケットを思い出し、スッと席を立った。
「何処へ行こうというのですか」
そのままダッと出口に向かって、走ろうとしたんだ。
でも、グルグル眼鏡先輩は今度は逃さないと言わんばかりの執念で僕を取り押さえた。
「いいよっ! 話さなくても分かった。もうシルビオは居なかった事にしよう」
「何を分かったと言うのですか。貴方は絶対、分かってない。また、余計な事をする前に聞きなさい」
「分かってるって!? あれでしょ。シルビオは皇子の事、ラブの好きなんでしょ? じゃなきゃ、後生大事に肌身離さず、自身の主人の小さい頃の写真を持ってる筈がない。持ってたらそれは忠誠を通り越して狂気だよ」
「へー、意外と理解してるじゃないのですか。そうですよ。シルビオはフィルバート皇子を崇拝に近い忠誠を誓っている。実は超真面目なキャラです」
「うぅ…。まさかの狂気の方だった」
せめて、ラブの好きの方がまだマシだったと項垂れて、床に突っ伏す。
そんな僕とは対照にグルグル眼鏡先輩はキラキラと目を輝かせながら取り押さえた僕の上でシルビオの素晴らしさを語るんだ。
どんな、拷問?
「いいですか。シルビオは忠節の騎士です。フィルバート皇子の為ならその身を投げ出す事すら厭わない。三通りあるバッドエンドの一つではフィルバート皇子を庇って死ぬというエンドもあるくらいですっ!」
「……いいよ。もう、シルビオは」
「あのチャラい性格も矢鱈と社交性が高いのもキラキラしてるのもフィルバート皇子に近付く悪い虫に誰よりも早く近付き、排除する為。主人公との出会いもフィルバート皇子が主人公に興味を持ったから。主人公の監視の名目で近付きます。そのうち、主人公の人柄に絆され、そして恋になるのです」
「ねぇ。それ、皇子から主人公寝取ってない?ちょっと待って!? 好きな人奪っってるよね、それ」
「違ぁーいますぅッ! シルビオルートでのフィルバート皇子は友情エンドなんですぅー。……シルビオルートの難しい所はフィルバート皇子の主人公への好感度を中間に抑える事。ただでさえ、フィルバート皇子の主人公への好感度は上がり易いから難しいのです」
何処が忠節の騎士だ?と、シルビオの狂気にブルリッと震え上がる。
俄然、もうシルビオから撤退したいと、グルグル眼鏡先輩の拘束から這いながら逃げ出そうとするが抜け出せない。
「シルビオルートはシルビオが主人公に絆されてからが本番ッ。糖度高めの甘々な展開に主人公の前だけではチャラくない本来の彼を見せるその姿はもう…。クッ!!この《イベント》クラッシャーさえ、居なければ今頃はッ!!」
「おち、落ち着こうッ。腕が首に回ってるよ!?きっと…、きっと、主人公の運命の相手は他に居たんだよっ!」
「その主人公の好感度がマックスなのはラニ氏なのですがッ!! 攻略者ほっといてラニ氏を構い倒してるのですがッ?」
「僕は何もしてないからね!? 出会った最初から何故か好感度マックスだったよっ…」
段々と首に回った腕に力が入る中、ギブアップだとタップしながら、なんとかこの状況を切り抜ける方法を模索する。
「あ、あれは? 皇子は? 皇子が運命の相手なんじゃ」
「……それもラニ氏の所為で最初の《イベント》が丸潰れになってる上に、フィルバート皇子をエレンは嫌がってます。エレンに嫌がられてる事でツンデレ、ちょい俺様キャラが悪い方向に発揮されてるのです」
「うっ…。じゃあ、じゃあ、リュビオ!!」
「リューたんは却下です。ネコ×ネコはわたくしの地雷だと言っているでしょうがッ」
「……リュ、リューたん!? ネコ?? なんだか分からないけど、リュビオは人間だよ。ニャンコじゃないよ」
「えぇいッ!! 腐ってないノンケの者よ。婚約者ににゃんにゃんされて、エロッエロッに開発され尽くしたリューたんが主人公を抱けると思ってるのですか!!」
「ねぇ、何の話!? ニャンコがどうしたの??……情報過多で何言ってるか分かんないよッ?!」
どうやらグルグル眼鏡先輩の地雷?を踏み抜いたのが逆に功を奏したようでグルグル眼鏡先輩はガックリと肩を落として僕から退いた。
「シルビオルートも丸潰れ…」
「眼鏡先輩はシルビオ推しなの?」
「シルビオルートのシナリオが好きなのです。あのTHE騎士様って感じで、エレンをお姫様扱いするのがいいのですよ。THE少女漫画の王道って感じで」
「……好きな人、奪うのが王道? 忠誠誓ってるのに皇子を一切立てる気ないよね」
「…………シルビオはフィルバート皇子の素質を信じてるのですよ。フィルバート皇子は立てなくても自分よりできる筈なのだと信じて期待しているのです。崇拝しているが故です」
「酷い話だ」
「確かにフィルバート皇子は何でもかんでもシルビオの方が上手く出来て、シルビオには勝てないと思ってる節があるのです。シルビオはフィルバートルートでのフィルバートのトラウマの一つですからね」
「やっぱり、狂気だ…」
ついにシルビオを庇いきれなくなったグルグル眼鏡先輩がスッと目を逸らす。
何が忠誠だ。
トラウマになってるじゃないか。
ドン引きしているとグルグル眼鏡先輩は明後日の方向を向きながら切なげにフッと笑う。
「フィルバート皇子は過度な期待の中で生きてきたんです。優秀なお兄さん達のように皇子として常に完璧を求められてきた」
「…ねぇ。なんで目を合わそうとしないの?」
「フィルバート皇子は皇子として過度な期待で息が詰まりそうな中。誰かの期待の為ではなく、自分の夢を純粋に追いかけて生きるエレンの姿に惹かれるのです」
「あれ? 眼鏡先輩…。シルビオを無かった事にしようとしてる?」
「さて、貴方が《イベント》の邪魔をしないように他の攻略対象の事を教えておくのです」
てらっとシルビオを見捨てたグルグル眼鏡先輩は本当に昼休みになるまで他の攻略対象について語り明かした。
だけど、話を聞きながら考えていたのは矢鱈と僕に王子としてを求めてくる皇子の事。
期待も責任もないのは少し寂しい。
だけど、期待も責任もあり過ぎるのはとても辛い。
全て程々が一番だと僕は思うんだ。
◇
キラキラと喜色に輝く翡翠色の瞳。
この皇子は第一王子と違い、その期待と責任全てに応えるべきだと信じて疑ってない。
きっとそれが当たり前の世界で生きてきたから。
でも、それって僕の世界じゃ当たり前じゃないんだ。だからかな?
そんな中で生き続けてるこの人を単純に凄いなって思うのは。
皇子のピンクゴールドの髪に触れる。
手入れが行き届いた髪はサラサラとしていて、撫でていると気持ちいい。
「お、おい。何故、俺の頭を撫でている!?」
「何時も頑張ってて偉いなって思って」
「はぁ!? お、俺は当たり前の事をやってるだけで。褒められるような事は何も…」
「当たり前の事を当たり前に出来るって凄い事なんだよ。偉い人は偉いねって頭を撫でて褒めてもらうべきだよっ。僕の居たモアナではそうだったよ?」
「……ぬるい世界だな」
「うん。なんたって、南国だからね!」
撫でられ慣れてないのか。
皇子の表情は硬いけど、でもなんかちょっと嬉しそう。
それがなんだか面白くて笑うと頰に皇子の手が触れた。
なんだろう。と首を傾げると、ハッと我に返ったように皇子が手を引っ込めて時計を見て、次に出番はまだかとこちらを見ている侍女と目を合わせた。
目があった瞬間。
微笑ましそうな顔をする侍女と目に見えて、きょどる皇子。
このコンマ数秒で彼らの間に一体何があったのかは分からない。
ひとつだけ分かる事は僕はこのまま寝させてはもらえないって事。
侍女達が僕の今日着る服を持ってる時点でわかってしまうんだ…。
「分かったよ…。分かったって…」
「な、な、何が分かったんだ!?」
「起きるよ…。大人しく起きて茶会に出れば良いんだよね?」
「……そ、そうだな! よしっ!! 後は任せたぞ」
「「「仰せのままに」」」
諦めてベットからピョンッと降りた僕の背をバシバシと叩きながら「よしっ! その粋だ!!」と謎のエールを送り、妙なテンションで出て行く皇子。
「なんだったの…」
訳が分からない。
首を傾げ続ける僕の頭とついでにロバ耳もこれでもかと侍女達は嬉しそうに撫でてから仕事に取り掛かった。
何がそんなに嬉しいのか?
皇子は一体、何をキョドッてたのか。
幾ら聞いても、ふふふっと嬉しそうに笑うだけで答えてくれない。変なの。
僕はまた新聞部の部室に拉致され、般若の形相のぐるぐる眼鏡先輩と対峙する羽目になっていた。
「ラニ氏。昨日、シルビオと御手手を繋いで仲良く歩いていたそうですね」
「……周りからはそう見えただけだよ。寧ろ、シルビオと僕の溝は深まった」
「あれですか? 最近流行りの主人公から攻略対象を寝とっちゃう系ですか? ハニカミあって御手手を繋いでチューして、しまいには身体まで繋げちゃう系ですか!!」
「何!? その歪んだ解釈ッ」
言い方がかなり刺々しいグルグル眼鏡先輩。
そんなグルグル眼鏡先輩をなだめるのに休み時間は食われた。
何故だろう。
「やっぱり、一人で教室に帰れないぢゃんっ」っと、感情の読めない笑顔を浮かべるシルビオが頭に浮かんだのは。
違うもん。一人で帰れるもん、と居もしない頭の中のシルビオに抗議して、プクッと頰を膨らませる。
椅子の奥まで座ってしまって浮いた足をパタパタさせて、せめて昼休みまでには帰れないかなとグルグル眼鏡先輩の機嫌が直るのを待つ。
グルグル眼鏡先輩の機嫌は完全に直る事は無かったけど、足をパタつかせる僕を見て、何かを諦めるように溜息を吐いた。
「ラニ氏。シルビオはとても攻略難易度が高い攻略対象なのです。彼を攻略するにはフィルバート皇子の好感度を一定に収めなくてはいけないのですから」
「……何故、皇子?」
何故、またここで皇子が出てくるのだろうと考え、例の忌々しいロケットを思い出し、スッと席を立った。
「何処へ行こうというのですか」
そのままダッと出口に向かって、走ろうとしたんだ。
でも、グルグル眼鏡先輩は今度は逃さないと言わんばかりの執念で僕を取り押さえた。
「いいよっ! 話さなくても分かった。もうシルビオは居なかった事にしよう」
「何を分かったと言うのですか。貴方は絶対、分かってない。また、余計な事をする前に聞きなさい」
「分かってるって!? あれでしょ。シルビオは皇子の事、ラブの好きなんでしょ? じゃなきゃ、後生大事に肌身離さず、自身の主人の小さい頃の写真を持ってる筈がない。持ってたらそれは忠誠を通り越して狂気だよ」
「へー、意外と理解してるじゃないのですか。そうですよ。シルビオはフィルバート皇子を崇拝に近い忠誠を誓っている。実は超真面目なキャラです」
「うぅ…。まさかの狂気の方だった」
せめて、ラブの好きの方がまだマシだったと項垂れて、床に突っ伏す。
そんな僕とは対照にグルグル眼鏡先輩はキラキラと目を輝かせながら取り押さえた僕の上でシルビオの素晴らしさを語るんだ。
どんな、拷問?
「いいですか。シルビオは忠節の騎士です。フィルバート皇子の為ならその身を投げ出す事すら厭わない。三通りあるバッドエンドの一つではフィルバート皇子を庇って死ぬというエンドもあるくらいですっ!」
「……いいよ。もう、シルビオは」
「あのチャラい性格も矢鱈と社交性が高いのもキラキラしてるのもフィルバート皇子に近付く悪い虫に誰よりも早く近付き、排除する為。主人公との出会いもフィルバート皇子が主人公に興味を持ったから。主人公の監視の名目で近付きます。そのうち、主人公の人柄に絆され、そして恋になるのです」
「ねぇ。それ、皇子から主人公寝取ってない?ちょっと待って!? 好きな人奪っってるよね、それ」
「違ぁーいますぅッ! シルビオルートでのフィルバート皇子は友情エンドなんですぅー。……シルビオルートの難しい所はフィルバート皇子の主人公への好感度を中間に抑える事。ただでさえ、フィルバート皇子の主人公への好感度は上がり易いから難しいのです」
何処が忠節の騎士だ?と、シルビオの狂気にブルリッと震え上がる。
俄然、もうシルビオから撤退したいと、グルグル眼鏡先輩の拘束から這いながら逃げ出そうとするが抜け出せない。
「シルビオルートはシルビオが主人公に絆されてからが本番ッ。糖度高めの甘々な展開に主人公の前だけではチャラくない本来の彼を見せるその姿はもう…。クッ!!この《イベント》クラッシャーさえ、居なければ今頃はッ!!」
「おち、落ち着こうッ。腕が首に回ってるよ!?きっと…、きっと、主人公の運命の相手は他に居たんだよっ!」
「その主人公の好感度がマックスなのはラニ氏なのですがッ!! 攻略者ほっといてラニ氏を構い倒してるのですがッ?」
「僕は何もしてないからね!? 出会った最初から何故か好感度マックスだったよっ…」
段々と首に回った腕に力が入る中、ギブアップだとタップしながら、なんとかこの状況を切り抜ける方法を模索する。
「あ、あれは? 皇子は? 皇子が運命の相手なんじゃ」
「……それもラニ氏の所為で最初の《イベント》が丸潰れになってる上に、フィルバート皇子をエレンは嫌がってます。エレンに嫌がられてる事でツンデレ、ちょい俺様キャラが悪い方向に発揮されてるのです」
「うっ…。じゃあ、じゃあ、リュビオ!!」
「リューたんは却下です。ネコ×ネコはわたくしの地雷だと言っているでしょうがッ」
「……リュ、リューたん!? ネコ?? なんだか分からないけど、リュビオは人間だよ。ニャンコじゃないよ」
「えぇいッ!! 腐ってないノンケの者よ。婚約者ににゃんにゃんされて、エロッエロッに開発され尽くしたリューたんが主人公を抱けると思ってるのですか!!」
「ねぇ、何の話!? ニャンコがどうしたの??……情報過多で何言ってるか分かんないよッ?!」
どうやらグルグル眼鏡先輩の地雷?を踏み抜いたのが逆に功を奏したようでグルグル眼鏡先輩はガックリと肩を落として僕から退いた。
「シルビオルートも丸潰れ…」
「眼鏡先輩はシルビオ推しなの?」
「シルビオルートのシナリオが好きなのです。あのTHE騎士様って感じで、エレンをお姫様扱いするのがいいのですよ。THE少女漫画の王道って感じで」
「……好きな人、奪うのが王道? 忠誠誓ってるのに皇子を一切立てる気ないよね」
「…………シルビオはフィルバート皇子の素質を信じてるのですよ。フィルバート皇子は立てなくても自分よりできる筈なのだと信じて期待しているのです。崇拝しているが故です」
「酷い話だ」
「確かにフィルバート皇子は何でもかんでもシルビオの方が上手く出来て、シルビオには勝てないと思ってる節があるのです。シルビオはフィルバートルートでのフィルバートのトラウマの一つですからね」
「やっぱり、狂気だ…」
ついにシルビオを庇いきれなくなったグルグル眼鏡先輩がスッと目を逸らす。
何が忠誠だ。
トラウマになってるじゃないか。
ドン引きしているとグルグル眼鏡先輩は明後日の方向を向きながら切なげにフッと笑う。
「フィルバート皇子は過度な期待の中で生きてきたんです。優秀なお兄さん達のように皇子として常に完璧を求められてきた」
「…ねぇ。なんで目を合わそうとしないの?」
「フィルバート皇子は皇子として過度な期待で息が詰まりそうな中。誰かの期待の為ではなく、自分の夢を純粋に追いかけて生きるエレンの姿に惹かれるのです」
「あれ? 眼鏡先輩…。シルビオを無かった事にしようとしてる?」
「さて、貴方が《イベント》の邪魔をしないように他の攻略対象の事を教えておくのです」
てらっとシルビオを見捨てたグルグル眼鏡先輩は本当に昼休みになるまで他の攻略対象について語り明かした。
だけど、話を聞きながら考えていたのは矢鱈と僕に王子としてを求めてくる皇子の事。
期待も責任もないのは少し寂しい。
だけど、期待も責任もあり過ぎるのはとても辛い。
全て程々が一番だと僕は思うんだ。
◇
キラキラと喜色に輝く翡翠色の瞳。
この皇子は第一王子と違い、その期待と責任全てに応えるべきだと信じて疑ってない。
きっとそれが当たり前の世界で生きてきたから。
でも、それって僕の世界じゃ当たり前じゃないんだ。だからかな?
そんな中で生き続けてるこの人を単純に凄いなって思うのは。
皇子のピンクゴールドの髪に触れる。
手入れが行き届いた髪はサラサラとしていて、撫でていると気持ちいい。
「お、おい。何故、俺の頭を撫でている!?」
「何時も頑張ってて偉いなって思って」
「はぁ!? お、俺は当たり前の事をやってるだけで。褒められるような事は何も…」
「当たり前の事を当たり前に出来るって凄い事なんだよ。偉い人は偉いねって頭を撫でて褒めてもらうべきだよっ。僕の居たモアナではそうだったよ?」
「……ぬるい世界だな」
「うん。なんたって、南国だからね!」
撫でられ慣れてないのか。
皇子の表情は硬いけど、でもなんかちょっと嬉しそう。
それがなんだか面白くて笑うと頰に皇子の手が触れた。
なんだろう。と首を傾げると、ハッと我に返ったように皇子が手を引っ込めて時計を見て、次に出番はまだかとこちらを見ている侍女と目を合わせた。
目があった瞬間。
微笑ましそうな顔をする侍女と目に見えて、きょどる皇子。
このコンマ数秒で彼らの間に一体何があったのかは分からない。
ひとつだけ分かる事は僕はこのまま寝させてはもらえないって事。
侍女達が僕の今日着る服を持ってる時点でわかってしまうんだ…。
「分かったよ…。分かったって…」
「な、な、何が分かったんだ!?」
「起きるよ…。大人しく起きて茶会に出れば良いんだよね?」
「……そ、そうだな! よしっ!! 後は任せたぞ」
「「「仰せのままに」」」
諦めてベットからピョンッと降りた僕の背をバシバシと叩きながら「よしっ! その粋だ!!」と謎のエールを送り、妙なテンションで出て行く皇子。
「なんだったの…」
訳が分からない。
首を傾げ続ける僕の頭とついでにロバ耳もこれでもかと侍女達は嬉しそうに撫でてから仕事に取り掛かった。
何がそんなに嬉しいのか?
皇子は一体、何をキョドッてたのか。
幾ら聞いても、ふふふっと嬉しそうに笑うだけで答えてくれない。変なの。
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