王子様の耳はロバの耳 〜 留学先はblゲームの世界でした 〜

きっせつ

文字の大きさ
20 / 119
第一章 王子とロバ耳と国際交流と

22、一方、その頃(第三者視点)

しおりを挟む
ラニが無駄な抵抗をしている頃。
春の花々が咲き乱れる公爵自慢の庭園ではもう既にお茶会が始まっていた。

庭園を彩る赤や白やピンクなどの可愛い花々はフィルバート皇子の叔母にあたる女公爵の趣味が反映されている。

可愛いもの好きの彼女の開くお茶会は可愛いに溢れていて、先に来ていた同盟国の王子達は若干居辛さを感じつつも交流を深めていた。

「紅茶の砂糖が金平糖……」

「こ、凝ってるなー。レディ達は大喜びですね」

「サンドイッチのパンがピンク…」

「ど、どうやってこんな愛らしい色出してるのでしょうか?やー、凝ってるなー」

「「「……………」」」

若干…所ではなく、途轍もなく居心地の悪い。

可愛いが溢れる会場で助けを求めるように王子達はクマさん型のチョコレートケーキをつつく、公爵子息を見た。その中には何故こんな茶会に俺たちを呼んだ!?という非難めいたものも含まれている。

しかし、公爵子息は動じない。
いや、動じないというより自身の母親の暴挙の所為で心が死んでいた。

「おいっ、ジェルマン!?ジェルマン!!?」

「ダメだ…。アイツ、心を閉ざしやがった」

「いや、閉ざすなよッ。お前の母親だろうがッ!?どうにかしろ!!」

王族の姫として箱入りで育てられ、お姫様気質が抜けきっていないラピュセル女公爵。
彼女はお茶会が好きでよく開催するが、当たり前のように自身の趣味嗜好を優先する。


その張本人は、にこにこと人好きな笑みを浮かべ、国防衛の要から《鉄血》と呼ばれている辺境伯と談笑している。
ガチムチマッチョの髭面で今年、還暦を迎える《鉄血》辺境伯が小さい可愛いうさぎさんのケーキをつつくという恐ろしい絵面を作っておきながら。

「こんな…、こんな混沌とした茶会は初めてだ…」

王子の一人が思わず本心を吐露し、ため息をつく。
その溜息は周囲に伝染し、このカオスな茶会に呼ばれた男性陣の心を一つにする。

『誰か。誰か。この状況をぶっ壊してくれ』…と。



「おい、ラニ。何時まで俺を盾にして歩いている!?」

「こ、これが闇の世界で戦場…。思ってたのと違ってファンシー…」

「緊張せずともちょっとした粗相ならこの茶会から問題にはならない」

「大丈夫だよ、ラニラニ。この茶会自体の印象が強過ぎて、どんな粗相しても一切記憶に残らないから」

そんな混沌とかした会場で、楽しげな会話を繰り広げながらやってくる一行。
こんな混沌とした茶会に招待されて何故、そんなに楽しそうなのか?
バッと同盟国の王子達は一行を見て、目を見張った。


彼らの目に映ったのは何時ものチャラさを捨て、騎士を全うするシルビオと正装に身を包んだフィルバート皇子にエスコートされるひとりの愛らしい姫君。

歩く度にモアナ伝統技法で織られたひらヴェールがひらひらと揺れ、そのヴェールの合間から覗く銀糸の髪は陽光を受け、キラキラと輝いている。
不安そうにフィルバート皇子を見上げるまだ幼さ残る深海色の瞳にはモアナ王族特有の《海の花》と呼ばれる銀の光彩が咲き誇っていた。


「モアナの姫君なんて留学してたっけ?」

思わず見惚れていた王子の一人がはたと思い出し、口を開く。

「……茶会の為に態々呼んだとか?」

「馬鹿言え。モアナが社交場クラッシャーなのを忘れたか? 幾ら、ラピュセル公爵でも呼ばんだろ」

「そうだな。一度、モアナ大王を呼んだ国の夜会が使用人達も巻き込んだ宴会と化した事件は記憶に新しい…」

「確か全員が二日酔いでダウンして一日、城の機能が停止したんだよな…」


モアナは社交場クラッシャー。
それは同盟国及び、同盟国外でも有名な話。モアナ大王を含め、モアナ王族を社交場に呼ぶと、良くも悪くも陽気な彼等に巻き込まれ、ただのお祭りと化す。

腹の探り合いも駆け引きも彼等が出てきた時点で彼等のペースに巻き込まれて出来ない。


なら、どうしてモアナの姫君が…と、考えて、王子の一人が「あっ」と、声を上げた。

「2学年でひとり、一般留学生にまぎれて留学してきたモアナの王子がいましたね」

「ああっ!!あの王子」

「平民にしれっと紛れ込んでたアレか!!」

「……2学年という事は14歳か? 14にしては幼くないか?」

眼下の少年は、喉仏も出てなければ、背も10歳と言われてもしょうがない程低く、ついでに声変わりもしていない。

本当に男か?と疑いつつも同盟国の王子達は初めて見る噂のモアナの王子に物珍しさと普段ならしない期待を向けていた。

『モアナの王族ならこのカオスな茶会をぶっ壊してくれる筈』…と…。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生して王子になったボクは、王様になるまでノラリクラリと生きるはずだった

angel
BL
つまらないことで死んでしまったボクを不憫に思った神様が1つのゲームを持ちかけてきた。 『転生先で王様になれたら元の体に戻してあげる』と。 生まれ変わったボクは美貌の第一王子で兄弟もなく、将来王様になることが約束されていた。 「イージーゲームすぎね?」とは思ったが、この好条件をありがたく受け止め 現世に戻れるまでノラリクラリと王子様生活を楽しむはずだった…。 完結しました。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

神様の手違いで死んだ俺、チート能力を授かり異世界転生してスローライフを送りたかったのに想像の斜め上をいく展開になりました。

篠崎笙
BL
保育園の調理師だった凛太郎は、ある日事故死する。しかしそれは神界のアクシデントだった。神様がお詫びに好きな加護を与えた上で異世界に転生させてくれるというので、定年後にやってみたいと憧れていたスローライフを送ることを願ったが……。 

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

処理中です...