王子様の耳はロバの耳 〜 留学先はblゲームの世界でした 〜

きっせつ

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第一章 王子とロバ耳と国際交流と

25、茶会。それは闇の世界

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「うぅ…。酷い」

スンスンッと泣きながら叩かれた頭を撫でる。

顔出しが成功して、テーブルマナーもオッケー。バッチリだね。折角だから交流もしてみようかなと、思った結果、何故か皇子に頭を叩かれた。

「『何故か?』だって?お前、何が悪かったか口に出して言ってみろッ」

「自分の食べていた料理をあげたことがマナー違反?」

「そうだが、そうじゃないッ」

じゃあ、一体何がいけなかったの?
ファンシーなケーキが見た目に反して、とても美味しくて。食べたらふと大王じいちゃんの事を思い出して。

『美味しいもんはみんなで食べたらもっと美味しい』って、よく食べてた料理を半分こしてくれたから僕も分かち合いたかっただけ。

たまたま、大王じいちゃんの同い年くらいのダヴィド辺境伯がウサギのケーキを持ってたから、親しみが湧いて交流しようとしただけなんだよ。


やっぱり、社交界は難しい。
美味しさの共有も許されない闇の世界なんだとスンッと鼻を鳴らして、シルビオと話しているダヴィド辺境伯を見やる。


「閣下。申し訳ありません。こちらの不手際でご迷惑をお掛けして」

「シルビオ…」

「は、はい」

「もしもの時は迷わずワシを斬れ」

「か、閣下!?」

「このままでは領地に連れて帰ってしまいそうだ。少しでもワシが不審な動きをしたら斬れ」

「落ち着いて下さい、閣下!!お気を、お気を確かに…」

なんだかあちらは盛り上がっている。
だけど、話の内容が不穏だ。何故、ダヴィド辺境伯が斬られなきゃならないのか?

首を傾げて、皇子を見上げると青い顔でソッと抱き寄せてくるので、更に状況が分からなくなった。

「シルビオ…」

「フィルバート殿下。私はダヴィド辺境伯と至急話合わなければなりません。暫し、御身から離れる事をお許しください」

「あ、ああ。頼んだ」

「…任せて、フィルっち。最悪の事態は避けてみせるから」

青い顔の皇子にウィンクを飛ばして、シルビオがダヴィド辺境伯と話し合いの為に去っていく。
しかし、チャラい何時もと変わらない表情を浮かべつつも、手は腰の剣の柄に置かれている。不穏だ。


皇子は暫く、去るシルビオの姿を僕を抱き寄せたまま見ていた。
あまりに顔色が悪いので、「大丈夫?」と、頰に触れるとハッと我に返ったように身体を離した。
だが、何かを思い出したように腕を掴んだ。

「いや、少しでも目を離してはダメか…。おい、同盟国の王子達に挨拶したら帰るからな」

「えっ、やった!」

「露骨に喜ぶなっ!」

この闇の世界から帰れると両手を上げて喜びを露わにすると、ヒクヒクと口元を痙攣させた皇子に頬を摘まれた。

今日の皇子は暴力的だ。暴力反対っ!


帰るまでは絶対に離さないからな、と険しい顔で腕を引っ張る皇子に連れられて、同盟国の王子達の集まっているテーブルに行こうとした。しかし、クイッともう片方の腕を引っ張られて、同時にバッと二人で振り向く。

振り向くとそこにはにっこりと笑みを浮かべながら僕の腕を掴むラピュセル公爵の姿があった。


「えー。もう少し、居てもいいんじゃないかしら」

「叔母上!?ラニはこういった場は初めてですので、これ以上は荷が重過ぎます」

「大丈夫よ、フィル。私は気にしないわ!」

「いえ、そういう問題では…」

「ズルいわ。そんな可愛い子を独り占めなんてっ! 私、ラニ王子の事、気に入ったの。…ねぇ、ラニ王子は婚約されている方はいるのかしら?」

「叔母上っ!!」

「い、居ないですが…」

頭が痛そうに抱えながら自身の叔母を睨む皇子。
一切、威嚇する皇子を気にせずグイグイとくるラピュセル公爵。

何やら嫌な予感がする。
何か面倒な事に巻き込まれそうな予感が…。

「こんな可愛いのに居ないの?」

「叔母上…。私の話を聞いてください」

「なら、うちの子にならない? 丁度、うちの次男坊のジェルマンはまだ婚約者が居ないの。きっと、お似合いよ。ねぇ、そうしましょう!」


ラピュセル公爵の言葉に、バッと困惑の表情で一人の令息が立ち上がる。おそらく、ジェルマンと呼ばれていたラピュセル公爵の息子さん。
皇子はざわりと騒つく周囲を見回し、冷や汗を流している。

ラピュセル公爵はとても無邪気な笑みで周りの事なんか気にせず、その翡翠の瞳は僕だけを映している。

「叔母上ッ! このような公の場で…。相手は他国の王子ですよ」

「あら。だって、絶対欲しいのだもの。折角、手がつけられてないのよ? 取られたら困るじゃない?」

「母上…。俺はっ……」

「お断りしますっ!」

「お前はっ、お前はもう少しオブラートに包めんのか!?」

何故、勝手に発言すると、皇子の非難めいた視線をサラッと無視して、ちらりと困惑を深めるジェルマンを見る。

公爵子息ジェルマン・ラピュセル。
グルグル眼鏡先輩の話では彼も攻略対象の一人。
無口で口が重い、ミステリアス担当だとか鼻息荒く熱弁され、「へー。そうなんだー」と話を聞き流した攻略者の一人。


攻略内容は知らないけど、要は関わらなければいいだけ。
関わってしまったのなら、出来たフラグはへし折ればいいッ!
下手に事が拗れないようにさっさと軌道修正あるのみ。


「ジェルマンさんの意志も大切です。ジェルマンさんはジェルマンさんが好きだと思える人と婚約するべきだと思います」

だから、僕を巻き込むな。
そう内心、思いつつ、「ね?」と、ジェルマンに同意を求める。
ジェルマンは皇子と同じ翡翠色の瞳を瞬かせて、こちらを見つめてる。いや、見つめてないで僕の援護をして。


「可愛い上に性格まで健気で可愛いっ…」

婚約を断固としてお断りしているのにラピュセル公爵は頬を紅潮させて、僕の腕を離さない。
なんでこうなったんだと、目で皇子に訴えると皇子は皇子で「お前は叔母上に一体何をした!?」と、目で訴え返してくる。

何もしてないよっ!


「大丈夫よ。ラニ王子。ジェルマンは私が好きなものは好きなの。だから、ラニ王子の事も好きよ。問題解決ね」

「いやいやいやいや!? ジェルマンさんにもジェルマンさんの趣味嗜好がありますってッ」

「叔母上っ! 我儘が過ぎますよ」

「何故、フィルはそんなに必死なの? まさか、二人は恋人同士…」

「「違うッ!!」」

「あら、ならいいじゃない」

皇子と恋人と言われて二人して否定した勢いでブンッと腕を離す。
よく考えたら皇子の腕は今の僕の生命線だったと二人してすぐ様、我に帰ったが遅かった。

グイッと腕をラピュセル公爵に引っ張られて、吸い込まれるようにラピュセル公爵の胸に身体が傾く。

最初に言っておくけど。
僕は普通の男の子だから女の人の胸は好きだ。だが、この時は豊満なその胸さえにも恐怖を感じた。

何故、こうなった…。
ロバ耳が生えてから目に見えて、僕の人生が変な方向に爆走し始めた気がする。

頭の中ではイリイリと歯軋りをするグルグル眼鏡先輩が僕を睨んでいる。

グルグル眼鏡先輩ッ。
僕は主人公を差し置いて、ジェルマンルートに転がり込んでしまったのでしょうか?


スンッと鼻を鳴らして、きっとこの胸に落ちたらジェルマンルート確定なんだろうなと目をつぶった。
咄嗟に足を前に出して、転けるのを回避出来るほどの運動能力を僕は持ち合わせてない。

もう手の打ちようがない。
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