王子様の耳はロバの耳 〜 留学先はblゲームの世界でした 〜

きっせつ

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第一章 王子とロバ耳と国際交流と

27、何か悪いものでも食べた?

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「寝る子は育つんだ、ラニ。だから、俺には昼寝が必要なんだ」

そうキメ顔で第一王子はフッと笑い、ヤシの木にもたれかかり、海で水遊びをしている王子達を眺めていた。

さんさんと眩しい陽光が降り注ぐ中、王子達が掛け合っている水飛沫がキラキラと輝き、その強い陽光から肌を守るヴェールがひらひらと揺れる。

そんな姿をまたフッと笑いながら眺めて、第一王子は服をパタパタして仰いで身体の中の熱を発散し、目を瞑る。

「元気に遊び、そしてよく寝る。今、目の前にいるお前の従兄弟おにいさん達もそうやって大きくなろうとしている。何時か結婚して未婚の王族の証であるヴェールを脱ぎ捨てる日に備えて」

「僕もこのヴェールが邪魔だから早く脱ぎたい。大王じいちゃんみたいにこんがり肌を焼きたいな」

「フッ、肌を焼く事は大人の階段を上った証。黒ければ黒い程カッコいい男の証だからな」

「でも、伯父さんは結婚してるのに何時も上着てるよね? 伯父さん以外の王子は何時も上着てないでこんがり焼いてるよ?」

暑いのにしっかり上まで着込む第一王子と、半裸で浜に転がる他の王子伯父さん達を見て首を傾げる。
すると、第一王子はフッと憂いの乗った笑みで、水平線を見た。

「ラニ。未婚の王子が何故、肌を焼かないようにヴェールを身に付けるか知ってるか?」

「なんでなの?」

「未婚の王族が外で肌を焼く程肌を晒すと海の神様に攫われちゃうからだ。海の神様はモアナの王族を愛してて、清らかで若い王族に目がない。既婚だけど、お昼寝と遊ぶ事が大好きで何時までも心は子供のように清らかだから俺はきっと攫われてしまう」

「そうなんだ」

「うん。でも、そっか…。ラニは早く結婚したいのか…」

すんっと鼻を鳴らし、第一王子が目の辺りを手で拭う。しかし、絶えず出てくる雫が頬を伝って白い砂浜に水溜りを作る。

「寂しいな。結婚したら一緒にもう遊べないもんなっ…」

「結婚しても伯父さんとずっと一緒だよ。いっぱい伯父さんと遊ぶよ?」

「でもな、ラニ。もう既に接近禁止令が俺の息子から出されちゃったんだよ。…くっ! 俺はただ仕事よりも自分の甥との時間を大切にしているだけだというのにッ」

「このボンクラ親父。それがラニに悪影響だと言ってるだろうが」

後ろで第十二王子皇子の声が聞こえて、振り返るとそこにはニッコリと笑いながら怒る第十二王子と般若顔の伯母さん(第一王子の奥さん)の姿があった。

「まーた、仕事を放り出してッ!今日はオヤツとご飯抜きですからね」

「あのな、ラニ。まだ海の神様に攫われてしまう程若いから俺もまだ十分に昼寝と遊ぶ時間が必要なんだ」

「まだ小ちゃいラニがアンタの影響を受けたらどうすんだッ!」

「けど、時間は有限だ。小さいラニと2人でこうしてお昼寝する時間だって何時かは無くなってしまう。だから、ラニ。一緒に2人を説得し…」

「「明日の朝食も抜きですからねッ」」

「ちょっと待って!! 二食も?二食も抜くの!?」

「ラニちゃん。こんなこどもオジサンに気を遣って付き合わなくっていいんだからね。ほらっ、アンタは仕事ッ」

「ほらっ、ラニ。お兄ちゃんが一緒にお昼寝するから、そんなボンクラ親父から離れて、こっちにおいで」

「くっ…!日に日に息子が母ちゃんに似ていく。これが成長ッ。子供の成長は早いッ」

「「アンタも成長しろ!!」」

伯母さんが第一王子の襟首を掴んで、雑にずるずると引き摺って帰っていく。襟首を持たれて引っ張られた服の下から見えたスンスンの泣く第一王子の腹は透き通る程の白だった。

第十二王子に抱っこされて、うとうととする中。焼いた方がカッコいいのに変なの…とぼんやりと子供ながらに思った。



…………。
………………。




「本当に…なんで焼いてなかったんだろう?」

夢の中で見た懐かしい想い出にぼんやりと浸りながら素朴な疑問がポロッと口から溢れる。

何時だって第一王子伯父さんは決して人に裸を見せる事はなかった。
ふざけて海に落とされた時でさえ、頑なに脱がなかった。

「見せたくない何かがあったのかな…」

ふわっとあくびをして、寝返りを打つ。
うとうととしながら、何か違和感を覚えて、ロバ耳が不安げにふよふよと動く。

何かがおかしい。
第一王子の肌の件は置いておいて、何かがおかしい。

「そうだ。何時もならもう既に僕は叩き起こされている…」

ハッと違和感の正体に気付き、何だか気味が悪くて、安心を求めてグルグルと毛布を身体に巻きつけ、部屋の掛け時計を見やる。

おかしい。
平日でも休日でも早朝に叩き起こしてくる皇子が、寮の朝食の時間ギリギリまで寝てても起こしに来ないなんて。

まさか、病気?…と、がばりっと起き上がると、椅子にもたれかかって本を読む皇子の翡翠の瞳と目があった。

「起きたか」

「へ?…え?え??」

「目は覚めたか?」

「え?…う、うん」

「おい、支度をしてやれ」

そう声を掛けると何時もの侍女さん達が部屋に入ってきて、僕の身支度を始める。
 
「…お前は何色が好きだ?」

「ゆ、夕陽色かな…」

「そうか。なら、リボンはこれだな」

何時もは忙しなく指示を飛ばして、勝手に決めていく皇子が僕の意見を聞いてくる。
何時もと違い、フリルやレースのないシンプルな髪型でロバ耳を目立たなくしていく。

「え?」

途轍もない違和感にコレジャナイ感を抱いてしまう。
いや、僕の意見は聞いて欲しいけど、なんだろう…。なんか何時もと違いすぎて怖い。

「お、皇子…」

「朝食はシルビオが取ってくれているからゆっくりで大丈夫だ」

「う、うん。ありがと」

きっと何か悪いものを食べて、調子が悪いんだ。
そう何時ものようなキレがない皇子への途轍もない違和感に理由をつけた。

だが、朝食もこんな調子でマナー講座は無し。昼休み以外の休み時間は姿すら現さなかった。

昼休みも一緒に食べるもののマナー講座はなく、代わりに質疑応答。
好きな色や食べ物、趣味など、淡々と聞き、メモしていく。

内容は世間話っぽいが実態は世間話とかそういうレベルじゃない。
仏頂面で真剣にメモを取る姿はまるで面接官のようだった。


「い、一体何が起きて…」

一日目は体調不良かな?…で、僕も済ました。
しかし、二日目も朝からそんな感じだったので僕は違和感も恐怖を通り越して戦慄した。
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