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第一章 王子とロバ耳と国際交流と
34、背景ローレライ様②(エレン視点)
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水飛沫が宙を舞う。
気付けば銀糸の髪の少年を中心に水の掛け合いっこが始まっていた。
銀糸の髪の少年以外は皆んな貴族の筈なのに裸足になって、幼い子供に戻ったかのように濡れるのも厭わず、夢中で遊んでいた。
その輪の中にはケニーも居て、「お前に負けるか」と銀糸の髪の少年に突っ掛かりつつも結局は銀糸の髪の少年の笑顔につられて笑っている。
跳ねるように踊るように自由気ままに。
歌ってないのにまるで笑い声が水飛沫の音が一つの歌を奏でているように感じて、自然とそのリズムに合わせて歌を口ずさむ。
王族貴族平民と学園内でも無くならない階級のしがらみの中でも、身分が低いからといじめられても、曇らない大輪の笑顔。
荒波の中でも大風の中でも歌い続ける顔も知らないローレライの姿が彼と重なる。
自由に気ままに。
跳ねるように踊るように響く優しい歌声。
その歌声は何時だって楽しそうで、歌う楽しさを教えてくれる。
歌う彼女はきっと彼みたいに大輪の笑顔を咲かせて歌う事を楽しんでいたんだろう。
トクンッと跳ねた胸に手を当てる。
今の俺はどんな顔をして歌っているだろう。
◇
「あら、良くなったじゃない」
ソロパートに向けて個人レッスンをつけてくれたライモンド先生が微笑む。
ピアノの鍵盤から手を離し、その美しく整えられた綺麗な手が肩に優しく乗せられる。
「前は硬かったのに随分と柔らかくなったわ。ただ美しかった歌声に血が通い始めて、聞いてるこっちも気分が乗るわ」
「はいっ!最近、歌うのが楽しいです」
「そうでしょうね」と、ライモンド先生は苦笑を浮かべた。
絶唱して息を切らして、バクバクと脈を打つ胸に手を当てると、満足感と高揚感で自然と笑みが溢れる。
別に学園の生活そのものが変わった訳ではない。
やっぱり、この学園内でも階級というしがらみがあり、基本、俺は一人。
それでも心は充実していて、歌う以外にもある日課が出来た事で毎日が楽しい。
「そろそろ《ラニちゃん》が来る時間ですよね」
「ええ、そうね。よくこの時間はあの子はここに遊びに来るわね」
「ですよねっ! 食堂でのアルバイトを終えて、賄いを食べた後はここで甘いモノを食べに来てるんですよね」
「え、えぇ、そうね…」
壁に掛かっている時計を見て、興奮気味に話しかけると、ライモンド先生の甘い笑みが引き攣る。
分かってる。
分かってますよ、ライモンド先生。
俺が先生のお気に入りの生徒《ラニちゃん》のスケジュールを把握している事に不安を覚えているんですよね。
「大丈夫です。俺はラニちゃんを見守ってるだけです」
「エレン。それは世間一般的にはストーカーというものでね?」
「可愛いラニちゃんをただ遠くから愛でているだけです。危害を加える気は一切ありません。……確かに抱っこして思う存分頭をなでなでしたい衝動には駆られますが、抑え切ってますよ!」
「エレン…。今日こそラニちゃんに貴方を紹介するからここで待ちなさい。いっそ、友達になってくれた方が先生はとても安心よ」
「そ、それはとても嬉しいですけど…。や、やっぱり、遠くで愛でているだけで今は幸せなんですぅっ!」
「こらっ!? 待ちなさい、エレンッ」
脱兎の如く、ライモンド先生の研究室から逃げ出すと入れ違いで銀糸の髪の少年ラニちゃんが入っていくのが見えた。
銀糸の髪の少年ラニちゃん。
美しい銀の髪と深海のように深く青い瞳を持つ童顔の入った可愛い顔のミューズ学園の1年。
遠い国からの留学生で、お金がなく学園内の食堂と寮母さんのお手伝いで食い繋いでいる苦学生。
そんな苦労を感じさせない程明るく、平民貴族分け隔てなく友達の多いラニちゃんの好物はお魚と甘いもので背は140センチで体重は33キロ。足のサイズは22センチ。誕生日は4月で歳は13歳。
最近のマイブームは友人のエリオットに教えてもらった棒倒し。嬉しいと鼻歌を歌う癖があり、この前は寮母さんに褒められて鼻歌を歌っていた。
可愛くて美人さんなのに異様に周囲に溶け込むのが上手く、その他大勢の中に埋もれてしまう。あんなに可愛くて美人なのにッ。
「ホント、可愛いッ。あー、もうっ、存在が可愛い」
可愛いは正義。
可愛いは癒し。
あの噴水の一件から完全にラニちゃんという存在にどハマりしてしまい、心を掴まれてしまった俺は悪いと思いつつもラニちゃんの生活を見守るのをやめられない。
かと言って、友達になって合法的に隣に居る勇気がない。幸せ過ぎて死んでしまうかもしれない。
見てるだけで楽しくて幸せで、生活に彩りを与えてくれる天真爛漫なラニちゃん。
この学園の唯一の癒しでモチベーション。
楽しい歌も恋歌も悲恋の歌も全てラニちゃんを眺めて想ってるだけで歌が自然と生まれてくる。
ラニちゃんを見守るのは最早俺の生活の一部。俺の学園生活唯一の癒しの時間ッ!!
フィルバート皇子やリュビオ様などがちょくちょくその時間を邪魔してくるのが難点だけど、それを差し引いても幸せ。
でも、それも最近間違いである事を知った。
「エレン。僕、もう14歳なんだよ? 14歳はお膝に抱っこされないんだよ?」
そう深海の瞳が俺を見上げる。
間近で見た深海の瞳の中には銀の花が咲いていて、居心地悪そうに俺の膝の上で小さなお膝がモジモジと動き、頰は羞恥で桃色に染まる。
抗議しつつも頭を撫でられると気持ちよさそう。その柔らかそうな白い頰に頬擦りしたい衝動を抑えて、まだ線の細い腰に腕を回す。
「もう…、もう、30分だけ…」
「それ、さっきも聞いたよ…」
ただでさえ可愛いのに最近フィルバート皇子にお世話され始めて、磨きのかかったラニちゃんはとてもオシャレであざとい。
リボンや髪飾りで結われた髪はラニちゃんの可愛さを最大限に活かしていて最高なのに、そこに付け耳という名の可愛いの暴力。
この前の学園のケモミミ騒動で見たあのロバ耳が常に装備されてるのだ。
図書館で見掛けた際は鼻血が出そうになるのを我慢したあの銀色のケモミミが。フィルバート皇子に恫喝されて目に焼き付けられなかったあのロバ耳がッ、常にッ、装備されているッ!
とあるハプニングから勢いで友達になってしまったものの。
やっぱり、1年間憧れ続けたラニちゃんは想像していたよりも小さくて柔らかくて超絶に可愛い。
「ラニちゃん」
「何?」
「ラニちゃん。ラニちゃんっ!」
「え? だから何?! 僕、ちょっとこの状況が怖いんだけど。僕は一体何故こんなにも懐かれているの!?」
「ラニ王子。エレンが可愛い笑顔で笑ってるのでちょっと静かに捕まっててください」
「リュビオ…。僕を、僕を売ったね? エレンに媚を売るために僕を売ったよね!?」
可愛い可愛いラニちゃんを合法で愛でられる日々はとても充実している。
「ラニちゃん、大好きっ!」
「「…………」」
「僕を羨ましげに睨んでる暇があるなら頑張って主人公を堕としてよ、攻略対象っ!!」
もうラニちゃんを知らず、灰色の学園生活を送っていた頃には戻れない。
もうラニちゃんに憧れ過ぎて、ストーk……ゴホンッ、見守っていた頃には戻れない。
学業に夢に恋に友情に。
拝啓、憧れのローレライ様。
俺の学園生活は今、充実しています。
貴方にこの幸せな歌声は届いていますか?
気付けば銀糸の髪の少年を中心に水の掛け合いっこが始まっていた。
銀糸の髪の少年以外は皆んな貴族の筈なのに裸足になって、幼い子供に戻ったかのように濡れるのも厭わず、夢中で遊んでいた。
その輪の中にはケニーも居て、「お前に負けるか」と銀糸の髪の少年に突っ掛かりつつも結局は銀糸の髪の少年の笑顔につられて笑っている。
跳ねるように踊るように自由気ままに。
歌ってないのにまるで笑い声が水飛沫の音が一つの歌を奏でているように感じて、自然とそのリズムに合わせて歌を口ずさむ。
王族貴族平民と学園内でも無くならない階級のしがらみの中でも、身分が低いからといじめられても、曇らない大輪の笑顔。
荒波の中でも大風の中でも歌い続ける顔も知らないローレライの姿が彼と重なる。
自由に気ままに。
跳ねるように踊るように響く優しい歌声。
その歌声は何時だって楽しそうで、歌う楽しさを教えてくれる。
歌う彼女はきっと彼みたいに大輪の笑顔を咲かせて歌う事を楽しんでいたんだろう。
トクンッと跳ねた胸に手を当てる。
今の俺はどんな顔をして歌っているだろう。
◇
「あら、良くなったじゃない」
ソロパートに向けて個人レッスンをつけてくれたライモンド先生が微笑む。
ピアノの鍵盤から手を離し、その美しく整えられた綺麗な手が肩に優しく乗せられる。
「前は硬かったのに随分と柔らかくなったわ。ただ美しかった歌声に血が通い始めて、聞いてるこっちも気分が乗るわ」
「はいっ!最近、歌うのが楽しいです」
「そうでしょうね」と、ライモンド先生は苦笑を浮かべた。
絶唱して息を切らして、バクバクと脈を打つ胸に手を当てると、満足感と高揚感で自然と笑みが溢れる。
別に学園の生活そのものが変わった訳ではない。
やっぱり、この学園内でも階級というしがらみがあり、基本、俺は一人。
それでも心は充実していて、歌う以外にもある日課が出来た事で毎日が楽しい。
「そろそろ《ラニちゃん》が来る時間ですよね」
「ええ、そうね。よくこの時間はあの子はここに遊びに来るわね」
「ですよねっ! 食堂でのアルバイトを終えて、賄いを食べた後はここで甘いモノを食べに来てるんですよね」
「え、えぇ、そうね…」
壁に掛かっている時計を見て、興奮気味に話しかけると、ライモンド先生の甘い笑みが引き攣る。
分かってる。
分かってますよ、ライモンド先生。
俺が先生のお気に入りの生徒《ラニちゃん》のスケジュールを把握している事に不安を覚えているんですよね。
「大丈夫です。俺はラニちゃんを見守ってるだけです」
「エレン。それは世間一般的にはストーカーというものでね?」
「可愛いラニちゃんをただ遠くから愛でているだけです。危害を加える気は一切ありません。……確かに抱っこして思う存分頭をなでなでしたい衝動には駆られますが、抑え切ってますよ!」
「エレン…。今日こそラニちゃんに貴方を紹介するからここで待ちなさい。いっそ、友達になってくれた方が先生はとても安心よ」
「そ、それはとても嬉しいですけど…。や、やっぱり、遠くで愛でているだけで今は幸せなんですぅっ!」
「こらっ!? 待ちなさい、エレンッ」
脱兎の如く、ライモンド先生の研究室から逃げ出すと入れ違いで銀糸の髪の少年ラニちゃんが入っていくのが見えた。
銀糸の髪の少年ラニちゃん。
美しい銀の髪と深海のように深く青い瞳を持つ童顔の入った可愛い顔のミューズ学園の1年。
遠い国からの留学生で、お金がなく学園内の食堂と寮母さんのお手伝いで食い繋いでいる苦学生。
そんな苦労を感じさせない程明るく、平民貴族分け隔てなく友達の多いラニちゃんの好物はお魚と甘いもので背は140センチで体重は33キロ。足のサイズは22センチ。誕生日は4月で歳は13歳。
最近のマイブームは友人のエリオットに教えてもらった棒倒し。嬉しいと鼻歌を歌う癖があり、この前は寮母さんに褒められて鼻歌を歌っていた。
可愛くて美人さんなのに異様に周囲に溶け込むのが上手く、その他大勢の中に埋もれてしまう。あんなに可愛くて美人なのにッ。
「ホント、可愛いッ。あー、もうっ、存在が可愛い」
可愛いは正義。
可愛いは癒し。
あの噴水の一件から完全にラニちゃんという存在にどハマりしてしまい、心を掴まれてしまった俺は悪いと思いつつもラニちゃんの生活を見守るのをやめられない。
かと言って、友達になって合法的に隣に居る勇気がない。幸せ過ぎて死んでしまうかもしれない。
見てるだけで楽しくて幸せで、生活に彩りを与えてくれる天真爛漫なラニちゃん。
この学園の唯一の癒しでモチベーション。
楽しい歌も恋歌も悲恋の歌も全てラニちゃんを眺めて想ってるだけで歌が自然と生まれてくる。
ラニちゃんを見守るのは最早俺の生活の一部。俺の学園生活唯一の癒しの時間ッ!!
フィルバート皇子やリュビオ様などがちょくちょくその時間を邪魔してくるのが難点だけど、それを差し引いても幸せ。
でも、それも最近間違いである事を知った。
「エレン。僕、もう14歳なんだよ? 14歳はお膝に抱っこされないんだよ?」
そう深海の瞳が俺を見上げる。
間近で見た深海の瞳の中には銀の花が咲いていて、居心地悪そうに俺の膝の上で小さなお膝がモジモジと動き、頰は羞恥で桃色に染まる。
抗議しつつも頭を撫でられると気持ちよさそう。その柔らかそうな白い頰に頬擦りしたい衝動を抑えて、まだ線の細い腰に腕を回す。
「もう…、もう、30分だけ…」
「それ、さっきも聞いたよ…」
ただでさえ可愛いのに最近フィルバート皇子にお世話され始めて、磨きのかかったラニちゃんはとてもオシャレであざとい。
リボンや髪飾りで結われた髪はラニちゃんの可愛さを最大限に活かしていて最高なのに、そこに付け耳という名の可愛いの暴力。
この前の学園のケモミミ騒動で見たあのロバ耳が常に装備されてるのだ。
図書館で見掛けた際は鼻血が出そうになるのを我慢したあの銀色のケモミミが。フィルバート皇子に恫喝されて目に焼き付けられなかったあのロバ耳がッ、常にッ、装備されているッ!
とあるハプニングから勢いで友達になってしまったものの。
やっぱり、1年間憧れ続けたラニちゃんは想像していたよりも小さくて柔らかくて超絶に可愛い。
「ラニちゃん」
「何?」
「ラニちゃん。ラニちゃんっ!」
「え? だから何?! 僕、ちょっとこの状況が怖いんだけど。僕は一体何故こんなにも懐かれているの!?」
「ラニ王子。エレンが可愛い笑顔で笑ってるのでちょっと静かに捕まっててください」
「リュビオ…。僕を、僕を売ったね? エレンに媚を売るために僕を売ったよね!?」
可愛い可愛いラニちゃんを合法で愛でられる日々はとても充実している。
「ラニちゃん、大好きっ!」
「「…………」」
「僕を羨ましげに睨んでる暇があるなら頑張って主人公を堕としてよ、攻略対象っ!!」
もうラニちゃんを知らず、灰色の学園生活を送っていた頃には戻れない。
もうラニちゃんに憧れ過ぎて、ストーk……ゴホンッ、見守っていた頃には戻れない。
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貴方にこの幸せな歌声は届いていますか?
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