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第二章 ローレライとロバ耳王子と陰謀と
1、ぼくは将来漁師なんだってっ!
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ゴロゴロと雷鳴が轟き、稲光が空を裂く。
荒波が渦巻き、船が海の中へと沈んでいく。
幼い日に何度も見た悪夢。
酷い嵐が夢から過ぎると情景は嵐から真っ赤に染まった床の上にへたり込む自分が映り、血に飢えた獣のような目がこちらを睨んでる。
怖くて怖くて、飛び起き、父や母に抱っこしてもらっても怖くて、でも、第一王子に頭を撫でてもらうと怖いのが無くなる。
夜な夜な飛び起きては第一王子の家に忍び込み、第一王子の布団で起きるのも度々あった。
「お父さんより伯父さんが好き?」と、あまりにも第一王子の布団に潜り込みすぎ、父に泣かれた時は幼心に申し訳ないと思ったものだ。
「そんな事もあったな…」
くわっと欠伸をして上半身を起こす。
窓の外を見るとまだ真っ暗で、朝はまだ遠い。
頭はふわふわしていて眠い。なのに例の発作を起こす夢を見て、寝ても叩き起こされる。
だが、それでも眠い。
幼い頃のようにモアナにいる第一王子のベッドに潜り込む…と、いう事も留学中なので出来ないので大人しくブランケットを被る。
でもやっぱり寂しくて枕元に放置していたジェルマンからもらったクマさんを抱き込む。
僕をイメージしてジェルマンが作った人形を抱き込むのは複雑な気持ちだが、しょうがない。寂しいんだ。
そして暫く格闘して寝たのに早朝老人よりも元気な皇子に叩き起こされるという苦行が僕には待っている。
◇
「ふわぁ…、あふっ」
「……おい、登城中だ。欠伸は我慢しろ」
「無理だよ。…眠い」
何度も欠伸をかきながら正装した皇子の服の裾を掴み、眠気と戦いながら後をついて行く。
後ろではシルビオとリュビオが固い表情で控えていて、前を歩く皇子も緊張気味。
今日は何か大事な要件があるようで授業をお休みして皇子達や僕、そして同盟国の王子達が城に集められている。
なんでもこの時期はレーヴ帝国で首脳会議が開催されているそうで留学中の王子達の他にも同盟諸国から王様達が来ている。
なら、モアナ大王も来てるかな?と、少し期待したが、来てないらしい。
なんでも、10年前から暗黙の了解で出禁になってるんだとか。
呼ばれて嬉しかったのか。大王は十年前の首脳会議で大はしゃぎ。例の如く大宴会へと変えてしまい、出席した全員が議論した会議の内容を覚えていなかった程酔い潰れたそうだ。
…うん。会議の意味がないねっ!
流石、大王だなと、苦笑を浮かべていると、ツンツンとリュビオに背中を突かれ振り返る。
「いいですか、ラニ王子。まだ貴方は参加出来ませんが、国の代表という自覚で望んでください」
真剣なリュビオの顔とその言葉に、首を傾げる。
…ん?僕は今日、何故城に呼ばれた??
いや、まさかな…と、到達した結論を切り捨て、あははっと笑い飛ばす。
「国の代表ってっ!別に僕が首脳会議に出る訳じゃないでしょ?」
「「「……………」」」
しかし、3人は僕の質問にスッと目を逸らす。
その反応にタラタラと汗がとめどなく噴き出す。
そんな、まさか…と、逃げようと踵を返そうとしたが、肩をがっしりシルビオが抑え、僕を連行する。
その笑顔は僕が知ってるシルビオの笑顔で特段いい顔で笑っていて、そのいい笑顔を前に僕の顔は引き攣った。
「ラニラニ。今日は首脳会議の段取り決めだから安心して。将来の為の見学にはもってこいぢゃん」
「いや…、ぼ、僕の将来は漁師だからね!? そ、それにモアナは暗黙の了解で出席しないんでしょ?」
「今はそうですね。……ふふん。ですが、これからラニ王子が卒業までは4年。首脳会議は一年に一回なので4回も見学が出来るっ!私はやる。やってみせる」
「僕を、僕を4回も偉い人達がいっぱい居る中にぶち込むの!?…やだッ!僕、学園に帰るっ!」
「………後、4回出るかは別にして。今日は頑張ろうね、ラニラニ」
皇帝か、サフィールさん(宰相)に呼ばれたと思って、割りかし気軽にやって来たというのにっ…。
騙したなと絶望の顔で皇子を見ると、僕の顔を見て考え込む。
絶対、「王子として後学の為に経験しておく事も大切だ」とか即答するものだと思ってたから意外だ。
だが、皇子は申し訳なさそうに目を逸らした。
いや、逸らさないで!!
「…至急の呼び出しだったんだ。モアナの王子が留学していると知った同盟国の王達がどうしてもお前に会いたいと言ってきたそうだ」
「な、なんで…」
「俺達の父上や王を務める同盟国の王達はお前の伯父であるモアナ第一王子の学友だそうでな。お前から第一王子の話を聞きたいそうだ。それに…」
まさかの第一王子絡み。
面倒な事に巻き込まれたと思っていると、皇子か何かを言い掛け、その表情に陰を落とす。
何を言い掛けたのか、聞こうと口を開くが、ガチャリッと目の前の大きな扉が開き、中の大勢の偉い人達と目が合い、固まった。
会場の人全員の目が僕に集まり、ビビって、すかさず皇子の後ろに隠れる。
気になってチラリと皇子の後ろから顔を出すが、偉い人達は僕を凝視している。…ねぇ、第一王子。伯父さんは留学中に何かやらかしたの?みんな、僕を見てるよ!?
「ラニ。お前は俺の隣の席だ」
「分かった。じゃ、僕、皇子の後ろの席ね」
「………。ついでに俺の席は主催国の王族だから中央だ」
「成程。分かった。バイバイ、皇子。…で、リュビオとシルビオの席はどこ?僕、2人の後ろに座るよ」
「ごめんねー、ラニラニ。俺達は臣下席だから王子のラニラニは座れないぢゃん」
「王族なんですから、最初から後ろには座れないに決まってるでしょう。大人しくフィルの横に座ってなさい」
そんな!!それじゃあ、視線から隠れる事も居眠りも出来ないじゃないか。
ギュッと皇子の服を握り、不安で皇子を見上げると、皇子は我慢するように口を結び、一瞬僕の頭を撫でようとした手を下げる。
「……大人しく俺の横に居れば大丈夫だ。もし何か振られても俺が答える。これが終われば暫くはマナーの勉強も休みにしてやるから少し頑張れ」
「じゃあ。じゃあっ! マナー講習が休みって事は休みの日にエリオット達と街に遊びに行っても良いっ? 今度の休みに街でお祭りがあるから遊ぼうってエリオットに誘われてるんだ!」
「分かった。行っていいから本当に頼むから大人しく俺の隣から動くな」
「それでね。お祭りにいっぱい露店が出るって聞いたから学園でのアルバイトを再かi…」
「小遣いは出してやるから止めろ。露店で好きなだけ買ってきていいから止めろ」
「…なんでさ!?」
「お前が一国の王子だからと言ってるだろうがっ! 今日、会議に出席した褒美として全額出すから黙って大人しくしていろっ!」
「二人とも随分仲が良いのだな」
「「違うっ!良くないっ!!」」
ふと、会話に誰かが割って入って反射で2人して食い気味に否定する。
しかし、割って入ったのが同盟国の王の1人と気付き、たらりと冷や汗をかく。
「えっ、…と」
「も、申し訳ない。とんだ失礼を」
「いや、気にせんでくれ。君達の会話が面白くて、つい、茶々を入れたくなってな」
くすくすと楽しそうに笑う同盟国の王達。
皇子と僕は恥ずかしさに顔を真っ赤にして俯いて、黙って自身の席へと座った。
帝国サイドの席に座ると皇子は隣の皇子に似た皇子のお兄さんに苦笑されつつ、肩を叩かれていた。
皇子に大人の色香と落ち着きを足したこのお兄さんは、この国の第二皇子で時期皇帝なんだってさ。僕の後ろに座ったリュビオからそう耳打ちされたんだ。
ん?でも、なんで第一皇子じゃなくて第二皇子が次期皇帝なの?
そう聞き返せば、リュビオは途端に表情が死に、シルビオと皇子は聞くなと言わんばかりにスッと目を逸らした。
「……まぁ、大人には色々事情ってものがあるんだよ」
第二皇子もあはははと誤魔化し笑いを浮かべて、やんわりと事情は聞くなと訴えかけて来るので、僕は第一皇子をなかった事にした。
面倒事はこのロバ耳だけで充分なんだ。
荒波が渦巻き、船が海の中へと沈んでいく。
幼い日に何度も見た悪夢。
酷い嵐が夢から過ぎると情景は嵐から真っ赤に染まった床の上にへたり込む自分が映り、血に飢えた獣のような目がこちらを睨んでる。
怖くて怖くて、飛び起き、父や母に抱っこしてもらっても怖くて、でも、第一王子に頭を撫でてもらうと怖いのが無くなる。
夜な夜な飛び起きては第一王子の家に忍び込み、第一王子の布団で起きるのも度々あった。
「お父さんより伯父さんが好き?」と、あまりにも第一王子の布団に潜り込みすぎ、父に泣かれた時は幼心に申し訳ないと思ったものだ。
「そんな事もあったな…」
くわっと欠伸をして上半身を起こす。
窓の外を見るとまだ真っ暗で、朝はまだ遠い。
頭はふわふわしていて眠い。なのに例の発作を起こす夢を見て、寝ても叩き起こされる。
だが、それでも眠い。
幼い頃のようにモアナにいる第一王子のベッドに潜り込む…と、いう事も留学中なので出来ないので大人しくブランケットを被る。
でもやっぱり寂しくて枕元に放置していたジェルマンからもらったクマさんを抱き込む。
僕をイメージしてジェルマンが作った人形を抱き込むのは複雑な気持ちだが、しょうがない。寂しいんだ。
そして暫く格闘して寝たのに早朝老人よりも元気な皇子に叩き起こされるという苦行が僕には待っている。
◇
「ふわぁ…、あふっ」
「……おい、登城中だ。欠伸は我慢しろ」
「無理だよ。…眠い」
何度も欠伸をかきながら正装した皇子の服の裾を掴み、眠気と戦いながら後をついて行く。
後ろではシルビオとリュビオが固い表情で控えていて、前を歩く皇子も緊張気味。
今日は何か大事な要件があるようで授業をお休みして皇子達や僕、そして同盟国の王子達が城に集められている。
なんでもこの時期はレーヴ帝国で首脳会議が開催されているそうで留学中の王子達の他にも同盟諸国から王様達が来ている。
なら、モアナ大王も来てるかな?と、少し期待したが、来てないらしい。
なんでも、10年前から暗黙の了解で出禁になってるんだとか。
呼ばれて嬉しかったのか。大王は十年前の首脳会議で大はしゃぎ。例の如く大宴会へと変えてしまい、出席した全員が議論した会議の内容を覚えていなかった程酔い潰れたそうだ。
…うん。会議の意味がないねっ!
流石、大王だなと、苦笑を浮かべていると、ツンツンとリュビオに背中を突かれ振り返る。
「いいですか、ラニ王子。まだ貴方は参加出来ませんが、国の代表という自覚で望んでください」
真剣なリュビオの顔とその言葉に、首を傾げる。
…ん?僕は今日、何故城に呼ばれた??
いや、まさかな…と、到達した結論を切り捨て、あははっと笑い飛ばす。
「国の代表ってっ!別に僕が首脳会議に出る訳じゃないでしょ?」
「「「……………」」」
しかし、3人は僕の質問にスッと目を逸らす。
その反応にタラタラと汗がとめどなく噴き出す。
そんな、まさか…と、逃げようと踵を返そうとしたが、肩をがっしりシルビオが抑え、僕を連行する。
その笑顔は僕が知ってるシルビオの笑顔で特段いい顔で笑っていて、そのいい笑顔を前に僕の顔は引き攣った。
「ラニラニ。今日は首脳会議の段取り決めだから安心して。将来の為の見学にはもってこいぢゃん」
「いや…、ぼ、僕の将来は漁師だからね!? そ、それにモアナは暗黙の了解で出席しないんでしょ?」
「今はそうですね。……ふふん。ですが、これからラニ王子が卒業までは4年。首脳会議は一年に一回なので4回も見学が出来るっ!私はやる。やってみせる」
「僕を、僕を4回も偉い人達がいっぱい居る中にぶち込むの!?…やだッ!僕、学園に帰るっ!」
「………後、4回出るかは別にして。今日は頑張ろうね、ラニラニ」
皇帝か、サフィールさん(宰相)に呼ばれたと思って、割りかし気軽にやって来たというのにっ…。
騙したなと絶望の顔で皇子を見ると、僕の顔を見て考え込む。
絶対、「王子として後学の為に経験しておく事も大切だ」とか即答するものだと思ってたから意外だ。
だが、皇子は申し訳なさそうに目を逸らした。
いや、逸らさないで!!
「…至急の呼び出しだったんだ。モアナの王子が留学していると知った同盟国の王達がどうしてもお前に会いたいと言ってきたそうだ」
「な、なんで…」
「俺達の父上や王を務める同盟国の王達はお前の伯父であるモアナ第一王子の学友だそうでな。お前から第一王子の話を聞きたいそうだ。それに…」
まさかの第一王子絡み。
面倒な事に巻き込まれたと思っていると、皇子か何かを言い掛け、その表情に陰を落とす。
何を言い掛けたのか、聞こうと口を開くが、ガチャリッと目の前の大きな扉が開き、中の大勢の偉い人達と目が合い、固まった。
会場の人全員の目が僕に集まり、ビビって、すかさず皇子の後ろに隠れる。
気になってチラリと皇子の後ろから顔を出すが、偉い人達は僕を凝視している。…ねぇ、第一王子。伯父さんは留学中に何かやらかしたの?みんな、僕を見てるよ!?
「ラニ。お前は俺の隣の席だ」
「分かった。じゃ、僕、皇子の後ろの席ね」
「………。ついでに俺の席は主催国の王族だから中央だ」
「成程。分かった。バイバイ、皇子。…で、リュビオとシルビオの席はどこ?僕、2人の後ろに座るよ」
「ごめんねー、ラニラニ。俺達は臣下席だから王子のラニラニは座れないぢゃん」
「王族なんですから、最初から後ろには座れないに決まってるでしょう。大人しくフィルの横に座ってなさい」
そんな!!それじゃあ、視線から隠れる事も居眠りも出来ないじゃないか。
ギュッと皇子の服を握り、不安で皇子を見上げると、皇子は我慢するように口を結び、一瞬僕の頭を撫でようとした手を下げる。
「……大人しく俺の横に居れば大丈夫だ。もし何か振られても俺が答える。これが終われば暫くはマナーの勉強も休みにしてやるから少し頑張れ」
「じゃあ。じゃあっ! マナー講習が休みって事は休みの日にエリオット達と街に遊びに行っても良いっ? 今度の休みに街でお祭りがあるから遊ぼうってエリオットに誘われてるんだ!」
「分かった。行っていいから本当に頼むから大人しく俺の隣から動くな」
「それでね。お祭りにいっぱい露店が出るって聞いたから学園でのアルバイトを再かi…」
「小遣いは出してやるから止めろ。露店で好きなだけ買ってきていいから止めろ」
「…なんでさ!?」
「お前が一国の王子だからと言ってるだろうがっ! 今日、会議に出席した褒美として全額出すから黙って大人しくしていろっ!」
「二人とも随分仲が良いのだな」
「「違うっ!良くないっ!!」」
ふと、会話に誰かが割って入って反射で2人して食い気味に否定する。
しかし、割って入ったのが同盟国の王の1人と気付き、たらりと冷や汗をかく。
「えっ、…と」
「も、申し訳ない。とんだ失礼を」
「いや、気にせんでくれ。君達の会話が面白くて、つい、茶々を入れたくなってな」
くすくすと楽しそうに笑う同盟国の王達。
皇子と僕は恥ずかしさに顔を真っ赤にして俯いて、黙って自身の席へと座った。
帝国サイドの席に座ると皇子は隣の皇子に似た皇子のお兄さんに苦笑されつつ、肩を叩かれていた。
皇子に大人の色香と落ち着きを足したこのお兄さんは、この国の第二皇子で時期皇帝なんだってさ。僕の後ろに座ったリュビオからそう耳打ちされたんだ。
ん?でも、なんで第一皇子じゃなくて第二皇子が次期皇帝なの?
そう聞き返せば、リュビオは途端に表情が死に、シルビオと皇子は聞くなと言わんばかりにスッと目を逸らした。
「……まぁ、大人には色々事情ってものがあるんだよ」
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