王子様の耳はロバの耳 〜 留学先はblゲームの世界でした 〜

きっせつ

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第二章 ローレライとロバ耳王子と陰謀と

9、怖いよっ!

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僕がレーヴ帝国に留学する事は、僕が4歳の頃に大王じいちゃんが決定していたらしい。

王子の中でレーヴ帝国に留学したのは親世代では第一王子、子世代では第一王子の息子の第十二王子だけ。

その感じからしてどうやら留学するのは次代の大王候補だと思われるのだが、何故か大王から一番遠い末席の僕を留学させたがった。

未だに理由は全く分からないが、なんか制服やら教科書やらもう既に揃えられていたので、勿体無いし。旅みたいでちょっと楽しそう…というとても軽い理由で留学した。


レーヴ帝国への道のりもモアナ王国に隣接する国の漁港に1人下ろされて、地図を渡されるという自分で頑張れスタイル。
途中でお金が尽きたり、路地裏で野宿する羽目になったりもしたが、初めて見る外の世界はとてもキラキラして見えて楽しかった。

そうしてやっと辿り着いたゴール(レーヴ帝国)で僕ははたと渡された地図を見て気付く。

あれ?これレーヴ帝国までの道のりは書いてあるんだけど、レーヴ帝国内からミューズ学園の場所が一切記されてないんだけど?!…と。


そこからは焦った。
明日に入学式を控えての迷子だ。
入学早々悪目立ちしたくない僕は大いに焦って、道を聞く人選を間違えた。

「そうか。君は迷子なのか」

その男は道を聞く前の優しかった目を舐めつくようなねっとりとした眼差しに変えて、僕を見やる。

ー 不味い不味いっ!!?

掴まれた手を抜こうと試みるが痛い程掴まれた手は抜けず、ズルズルと人気のない方へ引きずられていく。

「助けっ…むぐっ!?」

「静かにしろ。静かにしてれば天国見せてやるよ」

どうやら僕は、抵抗せず静かにしてても殺されるらしい。
怖くて、すんすんっと泣けば、男は舌舐めずりをして僕の胸ぐらに手を伸ばした。

殺される。
どうしようもない。その状況にただ怖くて目を瞑った瞬間、ふわりとラベンダーの香りがした。


「大丈夫よ。もう大丈夫」

肩に添えられた手は優しく、先程の男とは違う。誰かの優しい声に怖くて固く閉じた瞼を開ける。

視界に映ったのは優しい顔を浮かべるお兄さん。僕に優しい眼差しを向ける夕陽色の瞳は潤んで、今にも泣きそうだった。

「ぼ、僕は大丈夫だよ。お兄さんは大丈夫?」

このお兄さんは誰だろう?
さっきの男は?
そんな疑問より先程の恐怖よりその人の涙の方が気になって手を伸ばす。

手を伸ばせば、その手を整えられたお兄さんの綺麗な手が取り、優しく包んだ。
少し寂しそうに笑みを浮かべて、包んだ手がまるで存在を確かめるかのように僕の手を優しく撫でる。


「えーと、その…」

「怪我はないかしら? さっきの男は警備隊に連れていかれたから大丈夫。もう怖い事は起きないわ」

そのお兄さんは僕は目を瞑っていた、たった数秒で全て片付いたのだと言うのだから不思議。

「貴方、その真新しい制服。うちの入学生さんでしょ?」

「え? お兄さんはミューズ学園の人なの?」

「私はミューズ学園の教師の1人、ライモンド・クェーバ。良ければ、学園まで一緒にどうかしら?」

「うんっ! 丁度、学園まで道のりが分からなくて困ってたんだ。僕の名前はラニ。…さっきもお兄さんがおじさんから助けてくれてたんだよね。ありがとう」

「ふふ。私は警備隊を呼んだだけよ」

行きましょうと手を繋ぎ、ライモンド先生は僕を明るい方へと導く。

オネェで優しくて、居るだけ心がホッとするライモンド先生という不思議な先生。
あの時、繋いだ手の暖かさは今だって覚えている。



そして、そのライモンド先生の出会いとはじめての誘拐未遂の話を掻い摘んでシルビオに曝露しうたった結果……。



「むぅ……」

「むぅ…じゃないですよ」

トントンッとリュビオが問題集を整え、赤ペンで重要なポイントに解説を付けていく。

「良いですか? ここは ∫ を使うんです」

「…………」

「私が教えるからには次のテストは100点いえ、150点は固い」

自信満々にそうかなり無茶な事を言いのけるリュビオの顔は何時もの疲れ顔ではなく、化粧が施されて美しく整えられている。

白を基調としたローブのようなドレスのようなヒラヒラとした服の裾が揺れ、まるで白百合の花のよう。

丁度居る場所が温室なので「花の精…」とメイドさんが見惚れてもしょうがないくらい綺麗なのに、その言動が全てをダメにしている。

僕は現在、そんなリュビオと共に王城の奥の奥にある温室付きの離宮に軟禁状態である。

僕の誘拐未遂事件を受けて、目の届かない所に置きたくないという理由でシルビオと皇子から首脳会議が終わるまで学園に帰るなと言い渡されてしまった…のだが…。


「綺麗…。じゃなくて、リュビオ様っ!そろそろご用意の準備を」

「い、嫌ですよ。私には次代のモアナの代表を育てるという使命があるんです」

……まぁ、厳密にいえば、僕が軟禁状態で、そこに今日王城で開催される夜会に参加するリュビオが逃げてきたというものだけれど。

「リュビオ…」

「なんですかっ、その目は!! 絶対、嫌です」

「ぼ、僕はまだ何も言ってない」

困り顔のメイドを無視し、私は絶対行きませんと鬼気迫る顔で問題集を握るそのリュビオの姿に僕は諦めて、まだ習ってもいない ∫ なる謎の記号を理解しようと頭を動かす。


正直、リュビオが来るまで離宮に軟禁はやり過ぎだと憤慨していた。

だけど、僕の所に逃げ込んできたリュビオのその様相があまりにも鬼気迫るものがあり過ぎて、そっちのが気になって憤慨する暇がない。

ー もしかして、夜会ってそんな恐ろしいものなのかな?

お茶会は闇の世界だったけど、夜会はその上をいくのだろうか。
貴族であるリュビオが逃げ出す程の闇よりも深い闇の世界なのだろうか?

ブルリッと震える身体を摩り、∫ という計算方法が全く分からない記号に思考を逃す。

「ふふふっ。ふふふふ…。私はこの王子を立派に育て上げて時期宰相の地位に返り咲くんです。ふははっ!! 見てろよ、第一皇子」

段々と壊れてきたリュビオがなんかブツブツと何かを呟いているのなんて僕には聞こえない。
きっと全部夜会が悪いんだ…。


「リュビちゃん。ラニラニに積分は早いって」

壊れ始めたリュビオを憐れに思い、スンッと鼻を鳴らして、∫ と格闘していると、ヒョイっと横から問題集を奪われた。

見上げると感情の見えない笑顔を浮かべるシルビオが何処からともなく現れてリュビオの首根っこを掴んでた。

「シ、シルビオ…」

「ほーら。夜会までのラニラニのお守りは俺の役目だから取らないでねー。……リュビちゃんはあの人が血眼で探してたから早く戻った方がいいぢゃん」

「い、嫌ですよッ!! 私は今日の夜会には絶対に出ないっ。絶対にッ!! ラニ王子からも言ってください。ラニ王子の教育が忙しいから出れないって!」

「ねぇ…。夜会って…、夜会ってそんなに怖いとこなの!?」

「……ラニラニが変な誤解を植え付ける前にさっさと腹を括ろうか。リュビちゃん」

やれやれとシルビオが肩をすくめて見せたその瞬間、僕は見た。

シルビオが目にも止まらぬ速さで、逃げようと暴れるリュビオの首にトンッと手刀を入れたのを。

カクンッと糸が切れたかのように意識を手放したリュビオをメイド達に引き渡す姿は妙に手慣れていた。
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