王子様の耳はロバの耳 〜 留学先はblゲームの世界でした 〜

きっせつ

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第二章 ローレライとロバ耳王子と陰謀と

13、それを僕に言われても

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「…えっと、ルトゥフ?」

「この世にはっ、この世には死んだ方がいい人間が居るっ」

「待って!? 介抱で何がどう転がって、そんな壮大な話になったの? 僕には理解が追いつかないんだけど…」

「ハっ!偽善者には分からないだろうな…」

「僕の話を聞いて!? 後、重いよっ! 内臓が口から出ちゃうっ…」

ルトゥフの嘲る笑みに少し悲しげな雰囲気が滲み始めたが、そんな事はどうでもいい。
ルトゥフが跨っているのは僕のお腹辺り。しかも手までご丁寧に足で抑えてる。

そういえば、グルグル眼鏡先輩が敵国ルートもあるって言ってたな。ルトゥフはファルハの王子だから敵国ルートの攻略対象だったのかと今際に思いもしたが、それもどうでもいい。

ー ぐるしい"


生理的な涙で少し滲む視界の中、ルトゥフが嗤う。

「それとも俺を救ってくれるっていうのか? あの兄を救った憎きローレライのように…」

ー 限っ…界ッ!


このままじゃ、本当に内臓が出ちゃう。
その一心で身体を無理やり起こす。
火事場の馬鹿力で勢いよく上がり過ぎた頭は鈍い音を立ててルトゥフの頭と衝突した。

「ゔぁ"っ!?」

「い"っ、にゃあっ!?」

激しく痛み、ぐわんぐわん揺れる思考で切に思う。
何故、僕は時々猫みたいな叫び声を上げてしまうのだろう…と。恥ずかしっ!

羞恥に顔を真っ赤にして、ついでに真っ赤に腫れあがったおでこをさする。
同じく真っ赤に腫れあがったおでこをさするルトゥフは涙目でポカンッとしていたが…。

「もうっ、もう嫌だッ! なんで俺ばっかりっ!!」

不満を大声で叫ぶとなりふり構わず泣き始めた。
その姿には首脳会議前の段取り決めで見せた余裕っぷりも、裏ありありで何故か僕に取り入ろうとした初対面の狡猾っぷりもなく。
ただただ駄々を捏ねるお子様のように泣きじゃくる。

「え…。えっ…と」

「うわぁあんっ。俺だって頑張ったもん。証拠を出すタイミングなんて指定されなかったもん。遅刻するし、堂々と不遜な態度を取るしぃっ」

「え? なんの話してるの??」

「ただでさえ敵国の間者疑いで待遇悪いのにっ…。なんでいきなり刃傷沙汰起こすの? ねえ、なんで!!」

「いや、なんでと言われましても…」

火のついたように泣き不平不満をぶち撒けるルトゥフが僕の肩を掴んで「何故、何で」とガグガクと僕を揺らす。
だが、何でと言われても誰に怒ってて、何があったのか知らないので、僕にはどうしようも出来ない。

いや、「何故」も「なんで」も僕の台詞だよ。ルトゥフ。


「……た、大変だったんだね」

「大変なんてもんじゃないっ! 命からがら亡命してきたのにっ…。全っ然っ、逃げられてないっ! 亡命の意味がないっっ」

「……へ、へぇ。ル、ルトゥフは頑張ったんだね」

何が何だか分からないが、取り敢えず相槌を打つ。
えぐっえぐっと鳶色の瞳から絶えず涙を零すルトゥフだが、文句も止まらない。ルトゥフはどうやら我慢して我慢して、爆発するタイプのよう…。


「大体、なんでモアナの王子が丁度よく俺と同じ時期に留学してんだ!?」

「なんでって言われましても、大王じいちゃん達が行けって言うし…」

「君がいる所為で俺は関わりたくない周囲のガードが硬いモアナの王子である君を誑し込んで、情報を引きd……」

「な、なんて?」

「……………」

僕に完全に八つ当たりで、何かとても重要な事をポロッと口から溢したルトゥフ。
割りかし曝露うたってしまっているような気がしなくもないが、「あっ…、まず」と言わんばかりの顔で唐突に緩かった口を結ぶ。

あはははっと下手な誤魔化し笑いを浮かべて、絶賛疑心暗鬼中な僕を探るように爪先から頭の先まで見て、目を見開いた。


「えーと、だね。そうっ! そーいえば、その獣の耳の髪飾り、金具が見当たらないが、まさか頭に生えてるなんて言わないよな?」

「……ま、まっさかぁ~」

スッとルトゥフから目を逸らし、今日も元気ににょんっと頭から天に向かって生えるロバ耳を手で隠す。だが、もう色々と手遅れな気がする。

「「………………」」

「「あははは……」」

僕達は薔薇の咲き誇る夜の庭園で、2人で顔を見合わせて、楽しくないのに笑い合う。
タラタラと冷や汗を掻き、顔を合わせているのに目を合わさず、笑い続けた。

「あははっ。……とにかく、もう夜遅いし帰ろうか。で、僕遭難中なんだ。ついでに人がいる所まで送って欲しいな」

「はははっ。…そうだな。もう、帰ろう。で、ここはどこ? 城で遭難中なんて冗談だよな。帰るついでに俺も連れてって欲しい」

「「…………今の冗談だよ!?」」

タラタラと冷や汗が止まらない。
ついでにおかしくもないのに笑いも止まらない。

互いに引き攣った笑顔で頷きあい…。


「「誰かっ、誰か居ませんかーッ!? 助けてくださぁああーーっい!!!」」

…僕達は力の限り叫んだ。
それは暑い国(南国の国モアナの王子&砂漠の国ファルハの王子)に住む僕達には正真正銘命懸けの魂の叫びだった。



それから発見されたのは2時間後。
たまたま通りかかったメイドに寒さの前で思惑も疑いも意地も全てかなぐり捨てヒシッと抱き締めあった状態で僕達は発見された。

そして、僕は見事に風邪を引き……。




「ごほっ、ごめんなさい…」

ベッドの上でグスグスと泣きながらシルビオに謝る。

まだ首脳会議中だが、付き添うシルビオは僕を見て、「大丈夫」だと微笑むが、その笑みの中に怒気を感じる。

さっきからシルビオは寝込む僕の頭を優しく撫でるが、その一方で利き手はずっと『飛び級申請書』という書類を記入し続けている。

「大丈夫。ラニラニの俺へのラブコールは充分伝わったぢゃん」

「え"っ!?ラブコール??別に僕は何も…」

「ラニラニは城で遭難してしまう程、俺と一分一秒も離れたくなかったと。気付かずに昨日はひとりにしてごめんね」

「ゔぅ…。違います。ごめんなさい。僕の事は気にせず、皇子護衛の職務を全うしてください」

「あははっ、大丈夫。フィルっちは一人でも遭難しないし、俺が付いてなくても警備から離れないからね」

「ゔぐっ!!こほっ、あはっ、あははっ…。でも、流石にずっと一緒にいる事なんて出来ないよね。ほら、学年も2年も違うから?」

「大丈夫大丈夫。うちの学園は飛び級制度があるからね。リュビちゃんを上手く使えば3週間後には同じ学年で同じクラスで隣の席だから。お望み通り一分一秒も離れないから」

「ちょっと、ごほっ…、ちょっと待って…。それは3週間で僕に約2年間の勉強分を詰め込むって事!?」

「大丈夫大丈夫。リュビちゃんは普段は抜けてるけど、仕事と勉強は出来る人だからねー。よかったね」

「本当に御免なさい。頼むから今の学年で卒業させてっ…!!」

ニッコニッコと笑顔でブチギレるシルビオを前に僕は泣きながら謝り続けた。

それでもシルビオは止まらず、飛び級申請書を書き上げるとクラス指定届に寮部屋変更届と、おはようからおやすみまで四六時中一緒(監視)の恐ろしい未来図を完成させていく。


風邪っぴきなのに枕を涙で濡らす僕を憐れに思った皇子の「流石に飛び級は勘弁してやれ」という一言が掛かるまでシルビオは止まらなかったんだ……。
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