王子様の耳はロバの耳 〜 留学先はblゲームの世界でした 〜

きっせつ

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第二章 ローレライとロバ耳王子と陰謀と

23、早く大人になりたいな

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「エリオット…。貴方も懲りないわね」

たまたま通り掛かったライモンド先生が苦笑を浮かべて、奪った春画を持っていた楽譜とともに小脇に抱える。

「げっ! ライモンド先生」

「これで去年と合わせて、没収は6回目めだけど一応、伝えておくわ。春画は没収対象。貴方くらいの歳の子が興味を示すのは健全な事ではあるのだけど、規則なのよ」

「ろ、6回目?」

「…まさか、6回とも騎士の先輩から譲り受けたとは言わないよねー? エリオット・ルー」

「…………」

「エ、エリオット?」

ライモンド先生に春画を奪われ、シルビオに詰め寄られ、エリオットはフッと黄昏れるように遠くを見つめた。
現実逃避だ。


「まぁまぁ、そういうお年頃なのだから許してあげて頂戴」

苦笑しつつもシルビオを宥めるライモンド先生は開いている手をそっと僕の肩に置いた。

「ラニちゃんもこういうものに興味を持つお年頃なのね」

「まぁ…、人並みに」

友達とのワイワイする事への楽しみが4割。春画への興味が1割。残りの半分は大人への憧れ。

僕は早く大人になりたい。
大王じいちゃんみたいにワイルドでカッコいい大人になって、素敵なお嫁さんをもらって楽しい家庭を作るんだ。

「早く大人になりたいんだもん…」

理想の家庭を思い描きながら呟くと、「そうね」と肯定して、ライモンド先生がボソリと呟く。

「早く声変わりも来るといいわね」

「声変わり?」

「ふふっ。男の子は声が変わるのも大人の証でしょう? 今のカナリアのような愛らしい声も好きだけど、きっと、低くなったラニちゃんの声も素敵でしょうね」


成長というと体格とか髭とか肌の色。
そういう対外的な特徴しか考えた事がなかったので、声は考えた事はなかった。

流石、音楽の先生だなと素直に尊敬して、自身の未来の声に想いを馳せる。声もワイルド系がいいなー。

イカつい声も良しとふんふんっ鼻歌を歌っているとライモンド先生が顔を寄せ、そっと耳元で囁く。

「早く大人になりたいのなら、早く大人になれる方法を教えてあげる」

ふわりと息が耳に掛かり、色気のある声が鼓膜を揺らす。
くすぐったくなって肩をすくめた。

抗議しようと振り向くとライモンド先生の鼻頭がツンっと僕の小さな鼻に触れる。
ライモンド先生の夕陽色に僕の瞳の色まで混じってしまいそうで、そのあまりにも近過ぎる距離感に思わず、固まった。


「春画だけじゃ物足りなくなる刺激的な大人の体験を…ね?」

ライモンド先生の艶やかに整えられた長い指が弄ぶように僕の唇に触れる。
僕の唇に触れた指を自身の唇に付けて、妖艶な笑みを浮かべるライモンド先生に当てられて、ブワリッと体温が一気に上昇する。


「セクハラですよ、ライモンド教授」

「教師が生徒にそれはまずいだろ!?」

ライモンド先生の色気と言葉の意味に頭の処理が追い付かず、固まっているとグイッと隣にいたシルビオに引き寄せられる。

若干引き気味な皇子が僕もライモンド先生の間に割って入ると、ライモンド先生は楽しそうにカラカラと笑い、頰をかいた。

「あらあら、冗談が過ぎたかしら。2人のナイト様に止められちゃった」

「ナイト様って…。あのね、2人とも。先生は僕を揶揄ってるだけだよ。…もうっ! 本当に冗談が過ぎるよ!! 心臓に悪いッ」

「あははっ。まぁ、学内に春画を持ち込んだ罰って事にしておいて頂戴な」

「春画を持ち込んだのは僕じゃないよ!?」

賛同したけど首謀者じゃない。
共犯だけど主犯じゃない!!

そこを声を大にして、確固たる意志を持って主張したい。
ねぇ、エリオットとエリオットに振るが、「本当に抗議するのはそこでいいんか」と苦笑いで聞いてくる。

「逆に何処を主張しろと?」

「度を超えたスキンシッ………。いや、お前がそれで良いってんなら良いんだ」

そう言って、エリオットはスッと目を逸らして、何処か遠くを見やる。…何故だ。今、エリオットに見放された気がするのは。

むぅっと頰を膨らませ、ペチペチッとエリオットの手を叩く。

エリオットは気にした素振りはなく、ペチペチッと叩く僕の手にタイミングよく上から同じようにペチペチッと叩く。

騎士に就任しただけあって、動体視力が僕より高い。
しかも、途中から進化して僕のペチペチッを直前で交わしながらペチペチッしてくる。

おおっ!!すごいっ。


エリオットの動体視力に感動していると、皇子が「俺もやってやっても良いんだからなっ!」と謎のツンデレ発言をしてくる。

「フィルっち…」

「ハッ! …ご、ゴホンッ。ライモンド。ラニはこれでもいち王子でだな。度を過ぎた交友は…」

「フィルバード殿下。そういえば、先程の馬車で私、エレン達とともにオペラ見学から帰ってきた所でしてね。早くフィルバード殿下達と交流したいと言ってましたのでそろそろ来ると思いますよ?」

「……そ、そうか。エレンが」

シルビオに促され、ライモンド先生に注意しようとした皇子。しかし、ライモンド先生は皇子の言葉を遮り、するりと交わし、エレンの話へとすり替える。

そんなライモンド先生にシルビオは感情の読めないあの笑みを浮かべて、話を戻そうとする。

「ライモンド教授。話をすり替えないで頂きたい。ラニ王子は現在俺の護衛対象でもあ…」

「あら。なら、この話はお耳に入れておかなければならないわね。今夜、開催される肝試し大会の事なのだけどね。3日前に雨が降っていたそうでね。ちょっと足場が心配なのよね」

「……足場が悪いのであれば、中止では?」

「周るルート自体は3日前の雨の影響はないと報告は受けてるわ。でも、肝試しのルートは別館に隣接する湖周辺でしょ? 水捌けはあまり良くないと思うのよ」

「決まったルートは安全でもその周辺はぬかるんでたり、地盤が緩んでいる可能性があると…」

「まぁ、きちんと道から外れないように対策はしているそうだけどね。気をつけるに越した事はないと思ってね」

「みんな、気をつけて楽しんできてね」と付け加えると、何処か納得行かない顔を向けるシルビオにライモンド先生は微笑み掛け、去って行った。

ライモンド先生が去っていくとすれ違いでエレンがブンブンっと手を振って駆けてきた。

シルビオがライモンド先生が去って行った方向を見つめながら浮かない顔をしていたのが気になった。

だが、エレンが途中で椅子に引っかかり、盛大に顔から転けるもんだから。
すぐにシルビオから意識は逸れてしまったけどね。
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