王子様の耳はロバの耳 〜 留学先はblゲームの世界でした 〜

きっせつ

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第二章 ローレライとロバ耳王子と陰謀と

24、王子様は肉食系(尚、僕と皇子は除く)

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ホーホーとフクロウが鳴いている。

街から少し離れ、湖と森に囲まれた別館の夜は真っ暗で何か出そうで怖い。

「今年は何が出っかな?」

わくわくと期待に満ちた目で僕の前に立つエリオットに何も出ない事が一番だよと心の中で返答して、これから起こるであろう《イベント》にガクブルッと震える。

去年は本当に出たんだよね、お化け。
何人か取り憑かれたし、誰かが正気を失ってエレンに襲い掛かっていた記憶もある。
他人事だったので、さっさと建物の中に避難したからその後どうやって解決したのかも知らない。何度も言うけど、他人事だったからね…。

だが、今年はおそらく違う。


チラリっと隣を見ると当たり前のように皇子が左隣に居る。右隣にはシルビオが、背後には僕に抱きつく主人公エレンが陣取っている。

四面楚歌。
完全に逃げ道を塞がれ、確実にこれから起こる《イベント》の巻き込み事故に合いそうな配置。
せめてもの救いは肝試しのペアが全学年生徒によるくじ引きで決まる事だった。

事前に引いたクジの紙には番号と記号が書かれている。
番号は出発の順番。記号は5種類ある肝試しのルートを示したもの。

5種類もルートがあるのだから1人くらい被らないだろうと僕はたかを括っていた。
だが、現状はだだ被りだ。地獄へと旅立って行ったリュビオを除いて。


ー 番号順に…、並びたくないな…

ルート別に生徒が全員集まり、そろそろ番号順に並ぶ時間なのだけど、僕は正直並びたくない。
並んだ瞬間に僕のペアが分かってしまう。

何となく、もう《イベント》から逃げられないような気がしなくもないが、叶うならば、ワンチャン、エリオットか、見ず知らずの他人あって欲しい。
何となく、もう手遅れな気がしなくもないけど。


嫌だな。今年は一体、何が起こるんだとガクブルッ震えているとシルビオがソッと肩に手を置き、僕の顔を覗き込んでくる。

「どしたの、ラニラニ。体調でも悪いのカナ?」

「え? …じゃっ、じゃあ、そう言う事で!!」

「阿呆っ! 食い気味に仮病を使うんじゃないっ。シルビオっ。ソイツは単純に肝試しが怖いだけだ。……いち王子として仮病は許さん。きちんと学園行事は参加しろッ」

「そっか。ラニラニはお化けが怖いのか。…大丈夫大丈夫。怖かったらオニーサンが守ってあげるから」

「ほらっ、さっさと並べ!! お前は一体、何番目だ」

「ああっ!! 僕のくじ引きの紙が!?」

生真面目でお節介な皇子がひょいっと僕のくじ引きの紙を取り上げる。
ぴょんぴょんと皇子が取った紙を取り返そうとジャンプするが頭を押さえてそれを阻止する。地味に酷いっ!

「さっさとお前をペアの相手に預けないと、俺の心が休まらない。…さてと」

「返してよぅっ! 返して。皇子のいじめっ子!!」

「だ、誰がいじめっ子だ!!」

「いじめ反対ですっ! ラニちゃんをいじめないでください!!」

「エ、エレン…。クッ! いや、これは世話役としての使命だ。悲しくなんか…。悲しくなんかないっ…」

エレンの追撃により心からダメージを負う皇子。
少し涙目になりながらも意地で、僕を恐ろしい《イベント》へと誘う。

「23番っ!! 今すぐこのアホを引き取りに来い!!!」

「僕のっ、僕の心の準備の時間がぁあああっ!!」

カクンッと地面に膝をつき、項垂れる。
エリオットに「そこまでの事か?」と苦笑されたが、そこまでの事である。

去年が超常現象(心霊体験)なら今年は本当に何なのか?

スンッと鼻を鳴らすと、スッと綺麗に折り畳まれたシルクのハンカチが目の前に差し出される。


「どうも」と受け取ると、今度は手を差し伸べられる。
ありがたく好意を受け取り、その手を掴むとグイッと引き上げられて、ポスンッと強靭な胸板に抱き留められた。

「……大丈夫か?」

何故、自分は抱き留められているのか?
口数少なく掛けられた言葉とその声に聞き覚えを感じて、首が痛くなる程、声の主を見上げる。

すると、皇子と同じ翡翠の瞳と視線がかち合い、思わず叫びそうになった。


「ジェルマン・ラピュセル…さん?」

名前を呼ぶと無表情だが、少し柔らかい目つきになる。
ジェルマンは名残惜しそうに僕の腰に回していた腕を離す。しかし、掴まれた手は離される事はなく、動揺する僕と目線を合わせるように屈むとその手の甲に口づけを落とした。

「ひにゃッ!?」

「…俺が23番だ。よろしく頼む」

表情筋は死んでるんじゃないかってくらい動かないのにその王子様然とした行動に僕の頭が追い付かないし、あのシルビオでさえも固まってる。

「……にじゅう、23番!?」

やっと動いた頭でジェルマンの言葉を反復して、後退る。
まさかの僕のペアはジェルマン。
今一番、僕が関わってはいけないであろう相手。

ー ジェルマンルート!?

僕の頭の中でグルグル眼鏡先輩が僕を睨んでる。
もしや僕は本当に主人公(エレン)を差し置いて、入ってしまったのでしょうか、グルグル眼鏡先輩…。


そんな、馬鹿な。絶対、違うとブルブルと頭を振って、チラッと皇子を見た。

ー 僕を…、僕を助けて!?

懇願の乗った瞳でじっと皇子を見つめる。

だが、皇子は自身のクジの紙とエレンのクジの紙を見て、何時ものツンデレをかなぐり捨てて無茶苦茶嬉しそうな顔をしてる。
エレンはエレンで自身のクジの紙と皇子の紙を見比べて、残念そうに溜息をついた。

ー …エレンと、…ペアだったんだ

あっちは駄目だと、エリオットに助けを求めて、目を向けるがエリオットは虚な目で虚空を眺めていて、そもそも目が合わない。

そんなエリオットの肩をポンっとシルビオの手が掴んで…。

「さー。護衛の段取りを決めようか。…スタートは俺達が最後尾だからね。スタート地点から全速力でラニラニ達を追いかけて……」

ー あっ…。あっちも駄目だ…

嫌だ。遊びたいっ!と、絶望するエリオットがずるずるとシルビオに引き摺られていった。

みんながみんな、それぞれの順番に並んで、残ったのは現実を受け止めきれなくて固まる僕とおとなしそうに見えて結構肉食系なジェルマンと2人だけ。


「…ラニ王子。貴方とペアになれて、幸運だ」

「さい…、さいですか」

無表情なのに紡がれる言葉は情熱的で、まるで壊れ物を扱うように未だ離してくれない僕の手をソッと撫で、絡め取るような手を繋いだ。

ー こい、恋人繋ぎ…

繋がれた手といつの間にかに詰められた距離に僕はひたすら冷や汗をかくしかなかった。
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